新装版 テロルの決算 (文春文庫) (文春文庫 さ 2-14)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (373ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167209148

感想・レビュー・書評

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  • 政治家の浅沼稲次郎さんと、その浅沼さんを殺害した山口二矢の物語ですが、それぞれの心理的情景と行動、そういう行動を生み出す時代背景がとてもよくかけていると思いました。
    まだ自分が生まれる前の時代になりますが、戦争が終わり、戦後の高度成長に移る時代で、国民が政治というものをいまよりもずっと真剣に考えていた時代であると感じます。
    ソ連と米国の冷戦、それに中国という強大な国が日本をとりまくなか、国が左にいっても右にいってもおかしくない時代の雰囲気がよく伝わります。
    今の若者が読むとどう感じるのだろうか?と、思わせる本でした。

  • 1960年、左翼の運動が盛んだったころの話。17歳の少年・山口二矢(やまぐち・おとや)は、共産主義(左翼)が日本を滅ぼすものだと断定し右翼活動に没頭する。そして、社会党委員長であった浅沼稲次郎を演説中に刺殺するという前代未聞のテロ事件を引き起こす。
    この作品では、山口二矢が事件を起こすに至った心理描写や浅沼稲次郎の政治人生が克明に読み取ることができる。山口二矢という少年は、おそらくとても純粋な少年で、当時流行だった左翼の偽善や暴力性がどうしても許せなかったのだろう。また、右翼団体の腰の重さにも次第に絶望し単独での凶行に踏み切る事になる。その凄まじいまでの行動力。
    その後次第に左翼が勢力を失っていった事を考えれば、この17歳の少年が少しは歴史を動かしたと言えるかもしれない。

  • 山口二矢に焦点をあてた作品であるかのように思えたが、
    著者があとがきで記している通り、浅沼稲次郎の作品でもあった。

    60年代という時代世相がどういうものであったか、
    それを少しでも垣間見るための作品でもある。

    山口と浅沼の両者を比較した場合、どうしても山口には共感できない。
    浅沼のほうがより人間臭さが感じられてしまう・・・

  • 山口二矢の名前は聞いたことがあったけど、事件も含めた詳細は殆ど知らなかったので非常に興味深く読めた。政治家に対する命を賭したテロルに時代を感じるが、被害者浅沼稲次郎もきっちり描かれているので読んでいて切なかった。

    資料的な感じで最後まで読んだので、あまり高揚する感じでは無かった。

  • 全く異なる二人の人間の一瞬の出会いとナイフによる繋がり。
    何と哀しい出会いなのか。
    社会党委員長 浅沼稲次郎  61歳
    テロルの少年 山口ニ矢   17歳
    この傑作をものした時、沢木耕太郎 31歳。

    左翼に対する危機感と右翼に対する幻滅を持ち、
    中国との国交回復を自分の力で推し進めたいという幻想を抱いた浅沼社会党委員長。
    そのテロルを図る少年との遭遇は、運命としか言いようのない、偶然の連鎖の果てに果たされる。
    日比谷の立ち会い会場で、普通では突破出来ない筈の数々のハードルを運命の悪戯によって次々と通り抜け、浅沼にナイフごと体当たりしていくセブンティーン。
    浅沼が、日経新聞<わたしの履歴書>にも書かなかった庶子がいる。
    その庶子である麻生久は発狂している。

    沢木耕太郎は、後にロバート•キャパに関するルポを書き、それをリヨン、ブダペストで愛読した。
    ブダペストのアパートは、エンドレ•フリードマン(ロバート•キャパ)が17歳まで過ごしたアパートのすぐ近くにあった。

  • 社会党委員長の浅沼稲次郎が渋谷公会堂で行われた立会演説会の演説の最中にテロリストの若者と交錯した場面はテレビ映像で何回か見たことがあった。
    この本は17際の少年がなぜ暗殺に及んだのか、また、その時現場にいた多くの人たちが何を見て何を感じたのか克明に描いている。
    当時の政治情勢含めて詳細に描かれた秀作だと思う。

  •  社会党政治家が右翼少年に刺殺された事件がテーマとなったノンフィクション作品。二人の過去を辿りながら、社会党政治家側の視点、右翼団体の視点、そして、テロ至るまでの経緯が丁寧に描かれている。
     戦争、安保闘争、学生運動、その時々の人々の考えが伝わってくる、とても学びの多い作品だった。それぞれの転換期にどちらに世の中が傾いたか。世代間の考え方の違いは、歴史の積み重ねであることを感じた

  • 沢木の処女作で代表作。最初の単行本刊行は1978(昭和53)年のことで、それからもう45年も経った。最初の文庫化も1982(昭和57)年、やはり40年以上が過ぎた。新装版も2008(平成20)年、それから15年も経った。
    山口二矢という右翼少年による浅沼稲次郎暗殺事件は、1960(昭和35)年のことで、それからもう60年以上も経った。だが、内容は今なお、色褪せてないように思う。

  • もともとノンフィクションは好きだが、文章が上手く、緻密で広い関係者からのヒアリングに基づきストーリーが作られた秀作。戦後に個人主義が進み、今は人間関係が薄い時代になっているが、まだまだ人間の濃さが残っていたのを感じる。

  • 昨今の政治家襲撃に関連して紹介されていたので手に取った作品

    恥ずかしながら全く知らない事件であり、こうも大きな事件が知られずにいたものかと自分の無知を棚に上げておもったりなどした。

    テロに至る若者の頑なさと被害政治家の愚直さが辛かった

    起こるべきテロなんてものはないけれど、それにしたってどうしてと思わずにはいられない。

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。横浜国立大学卒業。73年『若き実力者たち』で、ルポライターとしてデビュー。79年『テロルの決算』で「大宅壮一ノンフィクション賞」、82年『一瞬の夏』で「新田次郎文学賞」、85年『バーボン・ストリート』で「講談社エッセイ賞」を受賞する。86年から刊行する『深夜特急』3部作では、93年に「JTB紀行文学賞」を受賞する。2000年、初の書き下ろし長編小説『血の味』を刊行し、06年『凍』で「講談社ノンフィクション賞」、14年『キャパの十字架』で「司馬遼太郎賞」、23年『天路の旅人』で「読売文学賞」を受賞する。

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