新装版 テロルの決算 (文春文庫) (文春文庫 さ 2-14)
- 文藝春秋 (2008年11月7日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (373ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167209148
感想・レビュー・書評
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(2016.1.28)
(373P)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
160105〜
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1960年10月、社会党の浅沼稲次郎氏が刺殺されたテロ事件を、関係者への詳細な取材をもとに再現したもの。
犯人の山口二矢の生い立ちと、浅沼氏の生い立ち及び政治的思想の背景を綿密に調べ、殺された浅沼氏のそのときの状況と、殺した17歳の山口の焦燥などが詳しく語られ、非常に詳しくこの事件を再現している。
浅沼氏が殺されたときの各関係者の状況描写は、まるで映画を見ているかのような書き方で、自分もその場にいたかのように錯覚してしまう。 -
若きテロリストの儚い閃き。
老政治家を大衆の見守る中刺し殺した17歳の少年。両者がいかに交差することになったかを解き明かす、ノンフィクションの傑作。 -
社会党委員長浅沼稲次郎刺殺事件について、犯人山口二矢と浅沼稲次郎の両面から描く。随分、山口二矢をヒロイックに持ち上げてるけど、ありがちな思想にかぶれて視野が狭まり突っ走る若者のように見えてしまう。一方の浅沼は思想や理想があるように見えないものの地道に組織運営にあたってきたという共感したいような政治家としてはどうかと思うような、とは思うが、しかしやはり山口を持ち上げる気にはまったくなれん。そして、沢木耕太郎はほぼ同年代でこれを書いた。なんとまあ。
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著者がまだ若いときに出版されたもので、著者が真実に迫ろうとする、真摯でまじめな姿勢がうかがえる。
まず、取材先の数が膨大である。
自分のなかの疑問を少しでも解き明かすため、著者はあらゆる関係者の声を聞きたかったのだろう。そのころはまだ大作家ではなく、おそらく自分でアポをとり、自分で取材趣旨を説明し、自分で話を1件1件聞き、自分でルポにまとめていたのだろう。全体の完成度からみれば後の作品のほうが良いだろうが、著者が構成力を、取材を丁寧かつ時間をかけて積み上げることによってカバーし、結果として読者がよりよく真実を見極められる材料を提供している。
さらに、山口二矢の関係者と、浅沼稲次郎の関係者と、二極からの取材による手法も、著者の真実に対する貪欲な姿勢を感じさせる。
あくまでルポルタージュなので、著者の視点は本来入るべきではない。しかし全体を通しての真摯な姿勢が、読者に「では著者はどう感じたのか、最後に知りたい」と思わせる。傑作。
(2006/1/24) -
本作を書き終えた沢木耕太郎は、当時20代後半。これだけ精緻なルポをその若さで書き上げたことに驚く。
山口二矢を凶行へと駆り立てた、青年特有のパトスは誰もが持ちうるものだ。しかし、それは浅い人間観に基づいた極端なユートピア思想であって、たとえばそれは日本赤軍のそれと根っこでは繋がっているように思える。
チェ・ゲバラを無批判に支持する風潮がいまだに世界中にあるように、政治の季節に激しく命を燃やして散っていく若者をヒロイックに持ち上げるのは日本だけではない。ただ、彼らは死んでおしまい。多くは終わりなき日常に絶望しながら生き続ける。
そういう意味で、沢木耕太郎が浅沼稲次郎のもう一人の主人公に据えた意義は大きい。ヒロイズム礼賛では世の中は変わらない……と思うのも自分が年を食ったからか? -
浅沼稲次郎暗殺事件が起きたのが昭和35年だから、既に55年が経った。半世紀以上前の事件であり、既に歴史となった事件であるが、犯人の山口二矢の心情については、現代でも共通するものはあるだろう。
現代でも思いつめた末に事件を起こす少年はいるが、この時代は政治の季節だったということかもしれない。 -
良書。再読必須
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著者にとって初めての長編ノンフィクション作品。初版は1978年である。社会党委員長浅沼稲次郎の演説会での暗殺をテーマに犯人である17歳の山口二矢(おとや)と浅沼のその日に至るまでの人生、経緯を緻密な取材を元にノンフィクションに仕上げている。暗殺の瞬間の写真はピュリッツァー賞を受賞、実際の事件を知らない私でも一度は見たことがある衝撃的写真である。
日本が敗戦を経て、民主主義国家を歩み始めた時期、資本主義、社会主義、共産主義が実際の世界に存在し、日本はいったいどのような国にしていくべきか、日米安保の論議がなされていた時期の出来事である。この時期の日本の政治体制の一端を知ることも出来る。
しかし小難しい政治論議を抜きにしても、当事者ふたりの人生を対比して描きながら、暗殺当日のピークまで進んでいくストーリーはまるで映画を見ているようにドラマティックで、これが沢木耕太郎の真骨頂だと感じさせる。
すでに出版されて30年以上がたっても全く色あせない作品だ。