大地の子 四 (文春文庫 や 22-4)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167556044

感想・レビュー・書評

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  • ずっと気になりつつも読めていなかったが、期待を裏切らない壮大ななストーリー。首相のバックアップも得て取材をし、いいところも悪いところも包み隠しなく、この時代に書かれているのがすごい。

  • 大地の子

    同僚から読んでみたらと、勧められて重い足取りで読み始める。

    スルスルと読み、いつのまにか終わっていた。

    文化大革命をここまで克明に書けるものなのか。

    日本人が。

    知らずに今までいた自分が、情けなくなる。

    作者の作品への熱さがこの傑作を作ったのだろう。

  • とうとう最終巻。
    読み終わってしまうのが寂しいなぁ。


    『大地の子(四)』 山崎豊子 (文春文庫)


    思い返せば最初のころは、人名や地名の中国読みに辟易していたんだった。

    北京(ペイチン)←普通に「ぺきん」て読みたい!

    内蒙古(ネイモンクー)←普通に「うちもうこ」て読みたい!

    陸一心(ルーイーシン)←もう「りくいっしん」でいいやん!

    てな感じでいちいち引っかかりながら読んでいた。
    でも四冊目ともなるとさずがに慣れるね。
    今では、河北省(ホペイセン)も古城県(クーチョンシェン)も長春(ツァンツン)も范家屯(ファンチアトン)も、趙丹青(ツァオタンチン)だって馮長幸(フォンツァンシン)だってへっちゃら~♪

    でも、近所の小林さんの表札を見ると「シャオリン」と読みたくてうずうずする、という弊害も(笑)


    あつ子との再会、GIS問題、馮長幸の暗躍など、一心の周りに様々なことが起こった前回。

    今回も大変だった。
    本当にこの人はどれだけ苦労をすればいいんだろう。

    あつ子の死に始まり、実父との再会、冤罪による左遷、復帰、宝華製鉄の完工、長江の船旅。


    あつ子の死を看取った一心は、娘の消息を尋ねて来た実父・松本耕次と偶然再会する。

    本来なら喜ばしいはずの親子の再会。
    しかし、侵略戦争の贖罪の意味合いが多分にある“中日友好の精神”のもとで進められている宝華プロジェクトにおいて、中方の上層部にいる一心と、日方代表の松本との関係は非常に微妙であり、二人が実の親子であると知った時の中国側の警戒心は異常だった。

    それは一心も分かっていたはずなのに……

    日本への出張中、無断単独行動禁止という外事規律を犯して、一心は松本耕次の家へ行ってしまうのだ。
    祖父、母、あつ子、みつ子の位牌に線香をあげに。

    いつもは毅然として隙を見せない、この頑なな人の心が、ほろりとほどけてしまう瞬間に胸を打たれる。
    中国にいる時のように誰の耳目も気にせず、一心は仏壇の前で声を放って泣いた。

    もうね。もらい泣きですよ。
    ここから先はしばらく読み進むことができなかった。
    子供の頃の「カッチャン」に戻った一心を、そっとしておいてあげたかった。


    で、ここで出てくるのがあの男、馮長幸。
    度々出てきて悪さをしてくれるおかげで“フォンツァンシン”てすらすら読めるようになってしまったんだからね馮長幸!

    馮長幸は、国家機密の裏工程表を盗み出し、一心に機密文書漏洩の罪をかぶせ、一心は内蒙古の大包鋼鉄公司へ飛ばされてしまうのだ。

    しかしその後、趙丹青のおかげで冤罪は雪がれ、宝華製鉄完工までに復帰することができたのだった。


    ところで、今回私が一番感動したのは、GIS問題で、三十億円もの損害をかぶる決断をした関東電機の工場長の言葉だった。

    一台一億円のGISは、中国にとっては“国宝級”の買い物であるという意識があり、いささかの瑕瑾も許されない。いくら機能面での支障はないと争っても、今回のことは勝ち目のない闘いであり、この日中の考え方の相違、中国の技術感覚を認識していなかった自分たちの甘さが原因であったと。

    「日本で点検修復して貰いたいという中方からの要求には、或る意味で救われました」

    なんと。

    中国にここまでされて受け止められる、中国は悪くないと思える強さ。
    名前もない地味な登場人物だけれど、この工場長、かっこよかったな。


    着工から七年、さまざまなトラブルや苦労を乗り越えて、日中双方の心が一つになった高炉の火入れ、初出銑、国を越えて人々が抱き合い肩をたたき合い、喜ぶ場面が心に残った。


    そしてラストシーン。

    実父・松本耕次との船旅は、一心にとって、日本の父と暮らすか中国に残るかを決断する旅でもあった。

    「私はこの大地の子です」

    自分を育んでくれた中国の大地を、一心は選んだんだね。
    義父母のことを考えたのはもちろんだろうけど、それだけじゃない。
    中国という国に今まで自分がされてきたこと、日本人の出自を持つ中国人陸一心としてこれまで中国と向き合ってきたこと、そのすべてが自分の歴史なのだ。
    その場所でこれからも生きていくことを、一心は選んだ。


    この小説は、故・胡耀邦総書記の理解と英断がなければ完成しなかったという。
    作品中の、周恩来と稲村会長との親交もそうだが、個人レベルでは理解し合えるのに、どうして国どうしになるとギクシャクしてしまうのだろう。
    戦争の火種のほんの一点がそこから生まれる。
    恐ろしいことだと思う。


    私が一番気になっていた黄書海の消息は、結局最後まで分からないままだったな。
    この人は、日本人でも中国人でもなかった一心の背中を、正しく進むべき方向へ、力強く押してくれた人だ。
    茫洋とひろがる内蒙古の草原をしみじみと思い出した。


    解説に、作者のインタビュー記事が引用されている。

    「陸一心は戦争と文化大革命の二重の犠牲になったけれど、戦争さえなければこんなめにはあわなかった。戦争は個人を虐殺するのです」


    いろいろなことを考えさせられた小説だった。
    フィクションなんだけどそうは思えなくて、陸一心の真っすぐな生き様に出会えたことに感謝したくなった。

  • 中国の現代史を知りたくなり、見つけた大地の子。戦争残留孤児である松本勝男こと陸一心の人生を軸に、悲惨たる戦争の代償や凄惨な文革の歴史などの社会描写、産みの親と育ての親との絆、それゆえの葛藤などの心理描写が読む人のこころをうつ。不毛地帯、沈まぬ太陽と山崎豊子作品を2冊読んだことがあるが、この作品は圧巻。もちろん小説、フィクションではあるが、現実に起こった歴史を題材としており、著者自身の戦争孤児に対する責任を蔑ろにする日本国に対する怒りが垣間見える。
    勝男の妹あつこの悲惨な生涯と、勝男があつこの死を看取るシーンには大号泣。序盤のソ連軍からの逃亡中で起こる凄惨極まりない過酷な状況(ソ連軍に見つからないよう子供を殺さなければならない母親など)にも悲痛の涙。陸徳志が真空地帯で命がけで一心を守り、初めて一心に爸々(パーパ)と言われた時、一心の冤罪を晴らすために命懸けで北京に嘆願し、北京駅で親子が5年ぶりの再会を果たす時、もう涙涙。。同じアジアだけど全く違う中国。秘密主義で恐ろしい反面、日本がこれまでにしてきた負の歴史を考慮しても一概に中国を非難はできないな。だからといって今のロシアを支援していいという話にはならないが。

  • 中国残留孤児を主人公に中国の戦後、共産党社会の有様を描いた長編小説。日中友好の証として計画された製鉄所建設プロジェクトとともに、主人公の人生は一つの転機を迎え、そして"大地の子"として決断を下す。

    筆者の綿密な取材に基づき描き出された物語は、重厚かつディテールもしっかりしている。
    主人公の養父の気高さには感動するが、それ以外の筆者が描く中国の姿は正直好きになれなかった。大元は日本の戦争のためとはいえ、作中主人公は散々苦杯をなめ、また生き別れた妹の末路はあまりに哀れ。技術協力も結局は同床異夢だったのだろう。

  • 中国側のミスが発端となり、一台1億円もする精密機械を日本に送り返して検査し直しすることになってしまい、中国相手のビジネスの難しさをこれでもかというくらい思い知らされた。
    日本滞在中に長幸の策略にまんまとひっかかってしまい、僻地の工場に左遷させられた時はまた振り出しに戻ったとがっかりしたが、丹青の活躍により返り咲いてからは多少のトラブルはありつつも、ついに呪縛から解けた感じがあり、トントン拍子で進んでいった。
    全巻通して製鉄技術、政治の動き、地理状況など驚くほど細かな描写が多く圧倒される場面もあったが、その取材があってこそこれだけずっしりと重厚感のある作品を書けたのだと思うと本当に恐れ入る。

  • 最後の一冊は止まらなくなって1日で読破
    今までの積み重ねあってからの爽快感や、最後の立ち上げの瞬間は感動的
    中国のことを嫌いになりそうになるシーンも多いが、それよりも戦争と言うものの悲惨さを痛感させられる。
    作品名である『大地の子』という言葉の意味を知る最後の1ページまで決して飽きさせない紛れもない名作

  • 太平洋戦争後の中国残留孤児の話。ラストが戦争の恐ろしさを物語っている。

  • 2021.10 再読

  • 頭の中が壮大なスケールの物語でいっぱいなった。にあたりまえと思っている家族のつながり。こういった戦争に端を発した悲惨な出来事は、反省すべき日本の歴史として後世に語り継いでいかなくてはならない。

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著者プロフィール

山崎 豊子(やまざき とよこ)
1924年1月2日 - 2013年9月29日
大阪府生まれの小説家。本名、杉本豊子(すぎもと とよこ)。 旧制女専を卒業後、毎日新聞社入社、学芸部で井上靖の薫陶を受けた。入社後に小説も書き、『暖簾』を刊行し作家デビュー。映画・ドラマ化され、大人気に。そして『花のれん』で第39回直木賞受賞し、新聞社を退職し専業作家となる。代表作に『白い巨塔』『華麗なる一族』『沈まぬ太陽』など。多くの作品が映画化・ドラマ化されており、2019年5月にも『白い巨塔』が岡田准一主演で連続TVドラマ化が決まった。

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