猫を抱いて象と泳ぐ (文春文庫 お 17-3)

著者 :
  • 文藝春秋
4.04
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本棚登録 : 8091
感想 : 771
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167557034

感想・レビュー・書評

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  •  小川洋子さんの物語は、読み手の心にしんしんと静かに降り積もる雪のよう‥。静謐で哀切を帯びた見事な筆致は、崇高さも同居し読み手を惹きつけ離しません。心に染みる上質の作品で、本書もまさしく傑作だと思いました。

     本書は、チェスに魅せられた一人の内向的な少年の人生を描いた物語です。閉じた世界は幻想的で、言葉一語一語が美しく滋味溢れ、ゆっくりと時間をかけて読み味わいたいと感じさせます。

     少年の才能を見出し、チェスの世界に導いたマスター。その教えが、少年にとって生涯を通して警句となり灯台となり支柱となるのでした。
     大切な人との出会いと別れ、才能が開花しても決して表舞台には現れない運命、けれども純粋に勝負や名声を超越した、チェスの宇宙を自由に旅する喜びを知った少年‥。時に残酷で切なく、慎ましく優しい少年の物語は、まるで詩か芸術のようです。
     チェスの盤上で紡がれる世界の広大さや奥深さは、そのまま言葉の世界を探索する小川洋子さんと重なり、その著者の世界観に圧倒されました。

     チェスが解らなくても十分楽しめますし、三人称で描く物語は、説明過多にならず静かに語りかけてくる感触です。
     小川洋子さん作品は、『博士の愛した数式』以来2冊目の読了でしたが、いずれも素晴らしかったです。個人的には「タイトルの秀逸さも含めて本書を〝推し〟たい」と思える、充実した読書の時間がもてました。また新たな素晴らしい本との出会いに感謝したいと思います。

  •  詩的で不思議な本のタイトルと、美しい装丁。読了後、見事に物語と調和していることに気づき、小川洋子氏の緻密に構成された世界観に感動しました。たくさん書きたいことはありますが、これから読む方に初見の感動を味わってもらいたいので、短めのレビューにします。

     私はリトル・アリョーヒンが入る「からくり人形」を、舟越桂氏の作品をイメージしながら読みました。彼の作品の憂いを帯びた切ない雰囲気が、主人公と重なります。

     主人公の祖母の言葉ひとつひとつが、主人公への愛情を感じられました。あっ、、おばあちゃんっ子の方!泣いてしまう本なので、家で1人で読むのをオススメします。

    • hiromida2さん
      Reyさん、おはようございます♪
      小川洋子さんの世界観、私もとても好きです♡
      かな〜り前に、喫茶店で手にした雑誌の中でこの本のことが取り上げ...
      Reyさん、おはようございます♪
      小川洋子さんの世界観、私もとても好きです♡
      かな〜り前に、喫茶店で手にした雑誌の中でこの本のことが取り上げられていて…
      『猫を抱いて象と泳ぐ』だなんて、不思議なタイトル
      あまりに前のことでどなたが書いた記事か
      忘れてしまいましたが…(多分、作家さん)
      “この本を読んで人生が、人生感が変わった”
      って書かれていて、題名共々興味が湧き…
      読んだことを思い出しました。
      とてもいい作品でしたよね。
      あまりに胸に痛くて、とても泣きました(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

      2022/09/17
    • Reyさん
      hiromida2さん
      こんにちは♪「かな〜り前」ってこと、発行日を見てみたら、10年ちょっと前の本だということをさっき知りました!
      本書は...
      hiromida2さん
      こんにちは♪「かな〜り前」ってこと、発行日を見てみたら、10年ちょっと前の本だということをさっき知りました!
      本書は泣きますよね。私の涙腺が緩み過ぎかと思っていましたが、hiromida2さんも泣いてしまったのこと、共感ができて嬉しいです♪

      タイトルも本文も緻密な構成で、小川洋子さんと梨木香歩さんが好きな作家さんになりました♡
      2022/09/18
  • それは切なくも心温まる美しい物語。小さくてあまりにも控えめで自らの世界に生きてきた少年は、チェス人形の「リトル・アリョーヒン」と一体となることで、「盤下の詩人」の名にふさわしい最高の輝きを棋譜に残し続ける。
    小川洋子の描く登場者はどこか風変わりで控えめだが、穏やかで人を包み込むような温かい眼差しが印象的だ。チェスを教わったバスの中の大きな大きなマスター、マスターに寄り添う猫のポーン、大きくなることでデパートの屋上から出られなくなった象のインディラ、壁に挟まれて出られなくなった少女ミイラ、リトル・アリョーヒンを育てた祖父母、そして、鳩をのせて「リトル・アリョーヒン」の棋譜を記録し続けるもう一人のミイラ。彼らにやってくる不幸は悲哀感を漂わせるが、リトル・アリョーヒンや彼らはその厳しい現実を精一杯に真正面で受け止め、全ては「リトル・アリョーヒン」の繰り出す美しい棋譜に還元されていく。リアル感のある悲哀に対し、小川の魅せるファンタジックな部分はどこか可笑みを伴うが、逆にそれが対として、心のふれあいや追い求める輝きに、はかなくも美しい生命を与えているのだ。哀愁あふれる小さな小さな世界の中で、1滴の「輝き」を描き切った小川ワールドはとても感動的で、涙なくしては読み切れません。
    何だか久しぶりに無性にチェスがしたくなりました・・・。本来、無機質なポーンやルーク、そしてビショップですが、いまや駒の動きが非常にいとおしい。
    いつまでも余韻にひたっていたい珠玉の物語です。

  • あぁ。
    チェスの海を深く深く潜っていけば、星々の煌めく宇宙に辿り着けます。
    なんて美しい世界なのでしょう。
    その世界に響くのは、駒の音が奏でるシンフォニーだけなのです。
    人間の発する言葉なんて決していらないのです。

    なんて美しい物語なのでしょう。
    彼は畏れや悲しみをその小さな身体に抱えながら、リトル・アリューヒンとなってチェスを指します。
    彼の生きる世界は、自由に羽ばたけるほど広いものではありません。
    けれど、それは決して不幸なことでも可哀想なことでもないのです。

    彼はリトル・アリューヒンとなってチェスを指すのです。
    盤下の詩人となってチェスの海を泳ぐのです。
    奇跡のような棋譜を生み出す彼自身が、奇跡のような美しい存在なのです。

  • 今まで読んだ小川洋子さんの本の中で、登場人物たちの映像がもっとも頭に浮かんだ作品。本のどこかに挿し絵がないか何度も探してしまう。

    冒頭では、大きくなりすぎてデパートの屋上から一生降りることの出来なくなった象が登場する。そして、それとは対照的に主人公リトル・アリョーヒンは、小さな身体のままチェス盤の下でチェスをさし続ける。彼の恋人は、壁の隙間に閉じ込められていた薄っぺらな少女。その少女の肩には真っ白で小さな鳩がじっととまっている。

    登場人物や動物のすべてが繊細にリアルに表現されていて、それぞれが背負った運命も丁寧に描かれている。チェスの駒が盤上を動く小さな音も聞き逃さないような、細やかな描写でイメージが浮かび上がる。

    他の作品と同じく、主人公の静かな人生の中に哀しさと愛情が漂う素晴らしい作品。

    • hiromida2さん
      小川洋子さんの描写が素晴らしすぎる作品ですね 私も好きな とても悲しくなった作品でした。
      小川洋子さんの描写が素晴らしすぎる作品ですね 私も好きな とても悲しくなった作品でした。
      2018/09/11
    • naonaosampoさん
      小川洋子さんの作品はいつも、悲しさと愛情が同居しますよね。悲しいけど愛おしいみたいな。コメントありがとうございます
      小川洋子さんの作品はいつも、悲しさと愛情が同居しますよね。悲しいけど愛おしいみたいな。コメントありがとうございます
      2018/09/11
  • この本は、前からタイトルが気になっていたのですが、やっと読むことが出来ました!
    めちゃくちゃ良かったです。
    チェスの名人リトル・アリョーヒンの生涯を描いたものです。
    チェスを知らない私が読んでも、盤上の美しさが想像出来るような詩的な表現で駒の動きを描いており、とても良かったです!
    読んで良かった一冊でした!

  • とても美しく優しい物語。
    リトル・アリョウヒンとまわりにいる友だち、インディラもミイラもポーンもマスターも、みんな優しい。
    一語も見逃さないように、物語の空気を乱さないように、大切に読んだ。
    果てしなく広くて深い海の底を泳いでいるような感じが本当に伝わってくる。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「果てしなく広くて深い海の底を」
      チェス好き(下手も横好きです)、人形好き、猫好きの私のは格別の一冊。
      そして装丁に使われた前田昌良の作品も...
      「果てしなく広くて深い海の底を」
      チェス好き(下手も横好きです)、人形好き、猫好きの私のは格別の一冊。
      そして装丁に使われた前田昌良の作品も素晴しい!
      2012/06/25
    • m.cafeさん
      題名も表紙もほんとに素敵な本ですね。
      チェスを知らなくても充分楽しめました。(^^♪
      題名も表紙もほんとに素敵な本ですね。
      チェスを知らなくても充分楽しめました。(^^♪
      2012/06/27
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「題名も表紙もほんとに素敵な本」
      小川洋子の本は、表紙に凝ってるコトが多いので、いつも新刊の話を聞くたびにソワソワしちゃいます。
      「題名も表紙もほんとに素敵な本」
      小川洋子の本は、表紙に凝ってるコトが多いので、いつも新刊の話を聞くたびにソワソワしちゃいます。
      2013/08/06
  • チェスに魅了された少年のお話。個人的には「博士の愛した数式」よりも好き。小川さんの文章は静かな時間が流れている感じがします。オススメ!

    • にゃんちびさん
      hibuさん

      フォローありがとうございます!

      私のこの本が大好きです。くちびるからすね毛…を想像するのは難しいですが、小川洋子さんの描く...
      hibuさん

      フォローありがとうございます!

      私のこの本が大好きです。くちびるからすね毛…を想像するのは難しいですが、小川洋子さんの描くちょっと影のある表現や人物がとても好きです。

      よろしくお願いします。
      2022/05/01
    • hibuさん
      にゃんちびさん

      コメントありがとうございます♪
      小川さんの文章は優しくて柔らかい感じが好きです^_^

      これからもよろしくお願いします!
      にゃんちびさん

      コメントありがとうございます♪
      小川さんの文章は優しくて柔らかい感じが好きです^_^

      これからもよろしくお願いします!
      2022/05/02
  • 静かで切なくて優しい小川さんの世界。一文一文がとても美しく、心に染みいる。
    猫を抱いて象と(ミイラと)泳ぐ。

    デパートの屋上に取り残された象のインディラ、壁と壁の狭い隙間に挟まって動けなくなったミイラ、肥えすぎて廃バスから出られなくなったマスター。仕方のない状況を仕方ないと受け入れた彼らと供に、リトルアリョーヒンは盤下に潜り、果てしないチェスの海に身を委ねながら詩を刻んだ。

  • 仕方がない、制限がある中での自由。
    ビルの屋上から動けなくなった像のインディラ。壁の間にはさまって動けなくなったミイラ。そんな彼らが、これまた自ら成長を手放して狭いからくり人形に収まることを選んだリトル・アリョーヒンの手によって、チェスの海に解き放たれていく。
    有限から生み出される自由はとてものびやかで純粋な輝きを放っていた。

    多くを望まずとも、慎ましく、健気に、好きなものを追い求める登場人物たち。
    それだけに、最期は再会をしてほしかったと願ってしまった。

著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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