- Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167849016
感想・レビュー・書評
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図書館で借りた一冊
手元に置きたい一冊だと思った
いかようにも想像することのできる終盤
余韻に浸っている、今
日々を大切にしていて
ちいさな幸せを味わうことのできる時代に憧れる
戦前はハイカラだったんだろう
叶うなら、そのときの銀座にぜひとも行ってみたい -
再読。 タキの赤い屋根の小さいおうちでの暮らしは、情勢に関わらず、美しく楽しいものだったのだと思います。 美しい奥さま、可愛らしい坊っちゃま、「お」のつくことが好きな奥さまとの時間は多感な時期のタキの身体に染み付いた大切な思い出だったのでしょう。 健史と恭一のシーンは、グッとくるものがありました。 この物語の終わり方として最高のシチュエーションだなと思ってます。 タキの本当の気持ちは闇の中。 でも私は、タキの恋と言うよりは、小さいおうちの中に不穏なことがないことを望んだ結果かなという解釈に至っています。
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先に映画を観てからの読書。
タキさんの若い頃と現在の性格の違いが楽しい。
丁寧に毎日を暮らすタキさんに惹かれるのか、読み進められる。
タキさんは何が欲しかったのかな。全部かな、とか。 -
2020年6月
東京で女中として暮らすタキの周りにはふくふくとした幸せが溢れている。
幸せな日常に少しずつ軍国主義が入り込む。
大局的に見れば当時の日本の状況がかなりまずいものであったことは現代を生きる人にはわかる。でもその時代で実際に生活をしていた一般庶民にはそんな大きなことは見えにくいのだと思う。
わたしが生きているこの時代は後世から見るとどういう位置付けになるのだろうか。 -
自分もそのおうちにいるような気分になれた。
時代背景は厳しいはずなのに幸せな気分にさせてもらえるのは不思議だった。
話は逸れるが、自分は現代社会の中で毎日追われるように日々を過ごしこんなに丁寧に過去を綴れないなと思う。
丁寧な暮らし、小さなことへの感動とか驚きとか悲しみとか大切にしていることが素敵だなって思う。
最後にたけしがつないでくれたものに感動したし、素敵なお話だった。 -
面白かったです。直球で戦争の恐ろしさを描いた小説や、逆に淡々と冷たく戦時下を描いた小説よりも、戦時中の街や人々に思いを馳せることが多かったです。読ませる筆力、自然と何かを感じさせる筆力があると思いました。
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女中タキの目から見た戦中・戦後の世の中の様子が語られる。
タキは故郷へ疎開しており、実際の戦火を体験していないので、
戦争の悲惨さの生々しい記述はないが、
大切な奥様を失ったことで、その惨たらしさを実感したことだろう。
タキはいい雇い主に恵まれたので、女中を天職と思い誇りを持って働いたが、
一般に使用人は雇い主に対して、少なからず羨望や嫉妬を抱くと思われ、
その意味では使用人が持つ黒い感情にフォーカスした「女中譚」は
タキとは正反対のはすっぱな女中が主人公で、時代に則したリアリティーがある。
「小さいおうち」はのんびりしたおとぎ話のようであるが故に、
それに不釣り合いな「秘密の恋」というスパイスがピリッと効いている。 -
女中奉公を長年続けてきたタキが書き始めた一冊のノート。それは昭和初期から太平洋戦争終盤近くまである奥様につかえ続けた記憶だった。
女中の記憶から語られる昭和初期の家族の姿から浮かび上がってくるのは、西洋の文化が本格的に日本に根付き始め、オリンピックや万博開催などで国民全体が活気づく様子だったように思います。
オリンピックや万博は戦争のため中止になるのですが、その時代ころからタキが女中奉公をしていた平井家の様子も徐々に変化していきます。その変化も劇的に状況が悪くなるというわけでもなく、一歩、また一歩と知らぬ間に戦争の影が忍び寄ってくるあたりが印象的でした。戦争をことさら悲劇的に描くのではなく、あくまで日常の中での戦争を、そして気がついたらその渦中にあった、という風に書かれていたのが印象的でした。
それだけ昭和初期のささやかで平凡な幸せも、平洋戦争にかけての庶民の日常がしっかりと書き込まれていたのだと思います。登場人物たちも本当にその時代にそんな人たちがいたような気持ちにさせてくれる、とても人間味あふれる人たちでした。
最終章も綺麗に話をまとめつつも、いろいろなことを読者の想像にゆだねさせる展開となっており、深い余韻が残る読後感でした。
第143回直木賞 -
戦前から戦中にかけて、ちいさな赤い屋根の洋館で女中奉公をしていたタキさん。
あまり馴染みのない「女中」というキーワード。
徒弟制度・丁稚奉公等と同様に今は風化してしまったものですが、情のある主従関係がいいですね。
現代と過去を少しずつ行き来しながら、次第に物語は古き良き時代へ舞台を移します。
物語の最初でも出てくるエピソードですが、「優れた女中は、主人が心の弱さから火にくべかねているものを、何も言われなくても自分の判断で火にくべて、そして叱られたら、わたしが悪うございました、と言う女中なんだ」という先生の台詞がずしりと残ります。
どこか遠い世界の物語を読んでいるようでいて、DNAが懐かしがっているような、不思議な不思議な読了感でした。
お年寄りが当時の時代を偲ぶ気持ちが、すこしわかるような気がします。