小さいおうち (文春文庫 な 68-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167849016

感想・レビュー・書評

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  • 祝文庫化!映画化されるそうですね!!

    文藝春秋のPR
    「昭和初期、ある一家の忘れがたい、秘めた恋の物語
    女中奉公の記憶を綴るタキの胸に去来する、昭和の家庭風景と奥様の面影、切ない秘密。そして物語は意外な形で現代に繋がり……

    担当編集者から一言
    昭和6年、若く美しい時子奥様との出会いが長年の奉公のなかでも特に忘れがたい日々の始まりだった。女中という職業に誇りをもち、思い出をノートに綴る老女、タキ。モダンな風物や戦争に向かう世相をよそに続く穏やかな家庭生活、そこに秘められた奥様の切ない恋。そして物語は意外な形で現代へと継がれ……。最終章で浮かび上がるタキの秘密の想いに胸を熱くせずにおれない上質の恋愛小説です。(YH)」

  • 図書館で借りた一冊
    手元に置きたい一冊だと思った
    いかようにも想像することのできる終盤
    余韻に浸っている、今

    日々を大切にしていて
    ちいさな幸せを味わうことのできる時代に憧れる
    戦前はハイカラだったんだろう
    叶うなら、そのときの銀座にぜひとも行ってみたい

  • 再読。 タキの赤い屋根の小さいおうちでの暮らしは、情勢に関わらず、美しく楽しいものだったのだと思います。 美しい奥さま、可愛らしい坊っちゃま、「お」のつくことが好きな奥さまとの時間は多感な時期のタキの身体に染み付いた大切な思い出だったのでしょう。 健史と恭一のシーンは、グッとくるものがありました。 この物語の終わり方として最高のシチュエーションだなと思ってます。 タキの本当の気持ちは闇の中。 でも私は、タキの恋と言うよりは、小さいおうちの中に不穏なことがないことを望んだ結果かなという解釈に至っています。

  • 先に映画を観てからの読書。
    タキさんの若い頃と現在の性格の違いが楽しい。
    丁寧に毎日を暮らすタキさんに惹かれるのか、読み進められる。
    タキさんは何が欲しかったのかな。全部かな、とか。

  • 2020年6月
    東京で女中として暮らすタキの周りにはふくふくとした幸せが溢れている。
    幸せな日常に少しずつ軍国主義が入り込む。
    大局的に見れば当時の日本の状況がかなりまずいものであったことは現代を生きる人にはわかる。でもその時代で実際に生活をしていた一般庶民にはそんな大きなことは見えにくいのだと思う。
    わたしが生きているこの時代は後世から見るとどういう位置付けになるのだろうか。

  • 自分もそのおうちにいるような気分になれた。
    時代背景は厳しいはずなのに幸せな気分にさせてもらえるのは不思議だった。

    話は逸れるが、自分は現代社会の中で毎日追われるように日々を過ごしこんなに丁寧に過去を綴れないなと思う。

    丁寧な暮らし、小さなことへの感動とか驚きとか悲しみとか大切にしていることが素敵だなって思う。

    最後にたけしがつないでくれたものに感動したし、素敵なお話だった。

  • 面白かったです。直球で戦争の恐ろしさを描いた小説や、逆に淡々と冷たく戦時下を描いた小説よりも、戦時中の街や人々に思いを馳せることが多かったです。読ませる筆力、自然と何かを感じさせる筆力があると思いました。

  • 女中タキの目から見た戦中・戦後の世の中の様子が語られる。
    タキは故郷へ疎開しており、実際の戦火を体験していないので、
    戦争の悲惨さの生々しい記述はないが、
    大切な奥様を失ったことで、その惨たらしさを実感したことだろう。

    タキはいい雇い主に恵まれたので、女中を天職と思い誇りを持って働いたが、
    一般に使用人は雇い主に対して、少なからず羨望や嫉妬を抱くと思われ、
    その意味では使用人が持つ黒い感情にフォーカスした「女中譚」は
    タキとは正反対のはすっぱな女中が主人公で、時代に則したリアリティーがある。
    「小さいおうち」はのんびりしたおとぎ話のようであるが故に、
    それに不釣り合いな「秘密の恋」というスパイスがピリッと効いている。

  •  女中奉公を長年続けてきたタキが書き始めた一冊のノート。それは昭和初期から太平洋戦争終盤近くまである奥様につかえ続けた記憶だった。

     女中の記憶から語られる昭和初期の家族の姿から浮かび上がってくるのは、西洋の文化が本格的に日本に根付き始め、オリンピックや万博開催などで国民全体が活気づく様子だったように思います。

     オリンピックや万博は戦争のため中止になるのですが、その時代ころからタキが女中奉公をしていた平井家の様子も徐々に変化していきます。その変化も劇的に状況が悪くなるというわけでもなく、一歩、また一歩と知らぬ間に戦争の影が忍び寄ってくるあたりが印象的でした。戦争をことさら悲劇的に描くのではなく、あくまで日常の中での戦争を、そして気がついたらその渦中にあった、という風に書かれていたのが印象的でした。
     
     それだけ昭和初期のささやかで平凡な幸せも、平洋戦争にかけての庶民の日常がしっかりと書き込まれていたのだと思います。登場人物たちも本当にその時代にそんな人たちがいたような気持ちにさせてくれる、とても人間味あふれる人たちでした。

     最終章も綺麗に話をまとめつつも、いろいろなことを読者の想像にゆだねさせる展開となっており、深い余韻が残る読後感でした。

    第143回直木賞

  • 戦前から戦中にかけて、ちいさな赤い屋根の洋館で女中奉公をしていたタキさん。
    あまり馴染みのない「女中」というキーワード。
    徒弟制度・丁稚奉公等と同様に今は風化してしまったものですが、情のある主従関係がいいですね。

    現代と過去を少しずつ行き来しながら、次第に物語は古き良き時代へ舞台を移します。

    物語の最初でも出てくるエピソードですが、「優れた女中は、主人が心の弱さから火にくべかねているものを、何も言われなくても自分の判断で火にくべて、そして叱られたら、わたしが悪うございました、と言う女中なんだ」という先生の台詞がずしりと残ります。

    どこか遠い世界の物語を読んでいるようでいて、DNAが懐かしがっているような、不思議な不思議な読了感でした。
    お年寄りが当時の時代を偲ぶ気持ちが、すこしわかるような気がします。

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著者プロフィール

1964 年東京都杉並生まれ。小説家、エッセイスト。出版社勤務、フリーライターを経て、2003 年『FUTON』でデビュー。2010 年『小さいおうち』で第143 回直木三十五賞受賞。同作品は山田洋次監督により映画化。『かたづの!』で第3 回河合隼雄物語賞・第4 回歴史時代作家クラブ作品賞・第28 回柴田錬三郎賞を、『長いお別れ』で第10 回中央公論文芸賞・第5 回日本医療小説大賞を、『夢見る帝国図書館』で第30 回紫式部文学賞を受賞。

「2022年 『手塚マンガで学ぶ 憲法・環境・共生 全3巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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