小さいおうち (文春文庫 な 68-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167849016

感想・レビュー・書評

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  • 以前、映画を見てとても良かったので原作を。
    映画はものすごく原作に忠実に作られていたようだった。
    キャストもぴったりで、黒木華と松たか子と吉岡秀隆で脳内再生される様々なシーン。

    カテゴリは迷ったが、昭和初期を描いた小説というのは、もう“時代小説”に分類して差し支えないだろう。
    時代小説というとどうも江戸時代のイメージがあるが、過去のある時期の、歴史の教科書に載るような大きな出来事ではなく、日々の生活を描いたものを時代小説と呼ぶのであれば、これは時代小説に値する。

    戦前の話というとやはり暗いイメージがつきまとうが、本当に終戦間近になるまで人々の生活は小さな楽しみもありつつ続いていたんだな、と感じることができた。

    主人公?のタキおばあちゃんが泣くほど後悔することとは一体何だろうか。
    封を開けないまま残された手紙。
    タキは、板倉さんにあの手紙を渡さなかったらしい。
    しかし、板倉さんはやってきた。
    もしかすると、甥の健史に「嘘じゃない」と言い続けたあの手記の中で、唯一あの日に板倉さんがやってきたことだけが、「こうなれば良かった」というタキの願いが書かれていたのだろうか。
    タキの後悔は、あの手紙を渡せばよかった、ということなのだろうか。

  • 昭和初期の東京の様子が細かく描かれていて楽しかった。
    タキちゃんが健気。

  • 最終章ですべてが昇華する。とてつもないカタルシス。
    岡目八目、という言葉を思い出した。きっと睦子さんも、板倉さんも、タキちゃんにはみえないものが見えていたんだろうな。
    タキちゃんの苦しみの正体を誰かが言い当ててしまえば、タキちゃんは楽になれたのだろうか。

  • 2017.2月。
    戦争ってこんな風に近づいてきていつのまにか入り込んで侵食してくるのかと怖くなった。特に子どもが戦争を美化して目を輝かせていることにゾッとした。私たちはもう知っている。私たちがちゃんと声をあげて止めないといけないんだ。タキちゃんのまっすぐさが眩しい。

  • 今、読んでおくべき本はこの本だと思います。美しい日常に忍び寄る戦争のリアル。私達は戦前を知らないのだが、豊かだったのです。それらを奪い取る戦争。生活が変わらないから政治に関心が無くて良いと言えますか?

  • 穏やかな平井家の暮らしは、
    二つの事でさざ波が立ち始める。
    板倉さんの登場と戦争への歩み。
    秘め事も戦いもいつかは終わり・・・
    それを見続けてきた女中のタキも・・・。
    その記憶は現代に甦り、終焉を迎える。
    タキさんの冥福を祈りたくなる、そんな佳品。

  • 物語は女中たきちゃんの手記の様な、日記の様な回想録の形で進んでいく。
    女中として、平井家で奉公し、旦那様、奥様、ぼっちゃんと過ごした日々。赤い三角屋根のモダンなお家。戦争へ向かっていく混乱していた時代、しかし忘れられないキラキラした東京での生活の中に、忘れられないもう一つの想いがあった。

    最後の種明かし(?)の部分、もう少し丁寧に描写されててもよかったかなぁ。多分、少なすぎても多すぎてもダメなんだろうけど。
    けど、たきちゃんの思いを考えると、どこまでも切ない物語でした。

  • 美しい時子奥様と女中タキの物語。
    教科書にも載っていない、昭和初期の美しき良き時代が生き生きと綴られている。
    タキちゃんの作る、工夫を凝らした料理が美味しそうで、一口でも良いから食べたかった。
    赤い三角屋根の洋館「小さいおうち」は恐らく現代に造ることは無理だろう。
    一度で良いから入って見てみたい。
    そしてラストで明かされた謎。
    何故タキちゃんは……?
    読後、不思議な余韻が残る、品のある美しき物語だった。

  • 原作は未読のまま、試写会で観た『小さいおうち』。原作を読んでみてたまげました。たまげたというのは大げさですけれども、山田洋次監督はやっぱり凄い人だなぁって。

    最近は原作を読んでから映画を観ることのほうが多いですが、そうでもなかった数年前、『その日のまえに』(2008)のことが思い出されます。大林宣彦監督の作品はもともと得手ではなく、『その日のまえに』も映画版は「なんだかなぁ」と感じたのに、原作を読んでぶっ飛び、それをあんなふうに映画化した大林監督は凄い人だと思い直しました。

    『小さいおうち』に関しては、映画版も好きでしたから、『その日のまえに』の原作を読んだときとは入り方がそもそも違いますが、これをこういうふうに映画化するのかとタマゲタ度は同じくらい、そして山田監督は素晴らしいとあらためて思ったのでした。

    話の大筋は変わりません。『北のカナリアたち』(2012)のような、原作ではなく原案と言うに留まるわけでもなく、どこからどう見ても、まちがいなく原作そのままです。しかし、少しずつ変えられた状況に非常に興味を惹かれます。

    たとえば、タキ(黒木華)が最初に奉公した作家の小中先生(橋爪功)宅での話。小中先生がタキに聞かせる「気配りのできる女中」についての例。原作と映画とどちらが良いということではなく、映画の例はとてもわかりやすい。

    タキが小児麻痺にかかった幼い恭一(秋山聡)をおぶって、来る日も来る日も整形外科へかよったのはうだるような暑さの夏のこと。その苦労と努力を認めた治療師(林家林蔵)が、タキにマッサージ法を伝授して、これからは君が坊ちゃんにやってあげなさいと言います。それが原作では年の暮れのこと、病院も正月休みに入るため、やむをえずタキが医者の代わりにマッサージすることになります。

    平成のタキ(倍賞千恵子)の様子をしょっちゅう見にくる優しい健史(妻夫木聡)が、原作ではもっと辛辣にタキを嘘つき呼ばわりする甥の次男だったり、初婚同士以外だとは思ってもみなかった時子(松たか子)と雅樹(片岡孝太郎)夫婦が、原作ではそうではなくて、しかもそんなワケありだったのかと驚いたり。

    雅樹がタキの見合い相手に選んだ和夫(笹野高史)には、映画・原作共に大笑い。悲しむタキの気持ちを汲んで、時子は「ずうずうしいにもほどがある」と。若い男性は兵隊に取られるかもしれないからと言い訳する雅樹に、「(あんなジジィなら)鉄砲玉に当たらなくても死ぬかもしれない」、そりゃそうだ。そして、原作ではちょっとだけ描かれていたお見合いのシーンは、映画では笹野さんのためであろう演出がなされていて印象深い。

    原作ならではの楽しみだったのは、タキが工夫をこらした数々の料理。洋風化が進むなか、「クリームシチュウの付け合わせにはナマス」などという、わけのわからない取り合わせが雑誌に掲載されたりして、それは変だと感じたタキが、自らパンを焼きます。米の節約も強いられるご時世で、なんとかあるもので美味しくと、落花生を砕いたものに砂糖を落としてつくるピーナッツバターが実に美味しそう。こうした料理が映画にも登場すれば楽しかったでしょうけれども、それでは『武士の献立』ならぬ『タキさんの献立』になってしまう(笑)。

    映画では時子とどうかなるには色気がなさすぎると感じた正治(吉岡秀隆)。原作を読んで誰だったらイメージできたかなと考えたら、ひょっと思い浮かんだのが斎藤工。いかがでしょ?

    後日、笹野さんのエッセイが載っている新聞を読みました。黒木華を見て「この人がボクのものになるんだとつぶやいたら、山田監督に笑われました」とのこと。相変わらずワラかしてくれます、笹野さん。

    映画は観たけれども原作は読んでいないという方には、ぜひお読みになることをおすすめします。

    追記:映画の感想はこちら。→http://blog.goo.ne.jp/minoes3128/e/bfe84c50e6b6838c4cee0307d99db368

  • 自粛という言葉は日本独特だ、なんて話も聞くけど、自粛する感覚自体は意外と他の国にもあるよなぁ、と思ったりもする。ここはこうしておくべきだろう、みたいな空気とか。
    ともあれ、自粛感覚によるものなのか、一般的に戦時中の様子を語る時に、けっこう楽しい話があったとか、面白おかしく過ごしてたなんて話はあまり聞かないわけで。世の中のどこにもお調子者とかいなかったのか?っていう疑問がそう言われてみれば無きにしも非ずで。ただ一般人が、戦争って言われてもピンとこないわー、って言って暮らしてるだけの話なのに、実に新鮮なのです。
    でもって適当にばあさんの昔話だけかと思ったら、最後の余韻がね、この流れはけっこう好き。

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著者プロフィール

1964 年東京都杉並生まれ。小説家、エッセイスト。出版社勤務、フリーライターを経て、2003 年『FUTON』でデビュー。2010 年『小さいおうち』で第143 回直木三十五賞受賞。同作品は山田洋次監督により映画化。『かたづの!』で第3 回河合隼雄物語賞・第4 回歴史時代作家クラブ作品賞・第28 回柴田錬三郎賞を、『長いお別れ』で第10 回中央公論文芸賞・第5 回日本医療小説大賞を、『夢見る帝国図書館』で第30 回紫式部文学賞を受賞。

「2022年 『手塚マンガで学ぶ 憲法・環境・共生 全3巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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