すみなれたからだで

著者 :
  • 河出書房新社
3.34
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本棚登録 : 576
感想 : 77
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309025070

感想・レビュー・書評

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  • バラバラなのに、バラバラじゃない8本の短編集。

    1冊223ページという、標準的な単行本のページ数のなかに、8本もの短編が入っているなんて信じられますか?
    しかもその短編たちは、主人公も本当に老若男女だし、初出の媒体も見事にバラバラです。

    そんなバラバラな短編たちなのに、なぜかはじめから終わりまでバラバラな感じは受けません。
    なんなんでしょう、この窪美澄マジックは…!

    お話に性描写が入ることの多い窪美澄さんの小説ですが、この本の中で性描写が強めなのは「すみなれたからだで」「バイタルサイン」「朧月夜のスーヴェニア」の4本です。
    はじめの2本の短編「父を山に棄てに行く」「インフルエンザの左岸から」は、似たようなテーマですが、両者を読み比べてみると、その微細な境遇のちがいからくる現在の主人公の生き方のちがいに、妙に納得してしまいます。

    なかには10ページ足らずの短編もあるのに、どの短編も中途半端さがまったくありません。
    主人公の人生の断片でありながら、お話としてしっかり“END(終わり)”というマークが(書いてはないけれど)頭の中におりてくるので、まるで8本の短編映画を見終わったような感じでした。

    ちなみに、わたしがいちばん好きなお話は、「朧月夜のスーヴェニア」です。
    戦時中の許されぬ恋に身を焦がした主人公のお話ですが、最初の始まり方には面食らいました。
    読んでいてなんだか、「そうよね、誰にでも若いときはあるんだもんね…」という気持ちと、郷愁が入り混じったような気持ちになりました。

  • 窪美澄さんの豊かな感性が8つの物語に収斂されています。「すみなれたからだで」、2016.10発行。就職に失敗して共同生活してる男女二人に猫が参入した「猫と春」、中年夫婦のなぜか新鮮に感じられるセックスを描いた「すみなれたからだで」、生と性と死の関係がテーマだったのか?「バイタルサイン」、この3話が印象に残りました。

  • 身体性、という言葉を何度か思った。

    思春期の娘の成長を眩しく見つめる中年の母親が夫と性交する昼下がりを描いた表題作をはじめ、老若男女、誰が主人公の物語であっても「からだ」がとても大きなテーマになっている短編ばかりが収められている。

    昭和の終わりから平成のはじまりを舞台に道ならぬ恋愛を描いている『バイタルサイン』、認知症のはじまりにいる老女が戦時中の性と愛を回想する『朧月夜のスーヴェニア』など、著者らしい官能的な描写に、どうしようもなく「からだ」に心が引きずられていくままならなさ、「からだ」を持つからこその感情の動きを感じた。

  • 身を焦がすような恋愛も穏やかで落ち着いた関係も自分の選択で自分の身体で経験してきて、人生が続いていくと思う短編集。一つの忘れられない恋の描き方が濃厚。

  • 窪さんはグレイトーンで寂しさ漂う雰囲気をまとった男女を描くことが巧い。
    ちょっと湿り気のある男女の静かなやり取りに心がざわざわしてくる。

    『バイタルサイン』は切なさに胸が締め付けられた。
    「川上さんと離れてから私はずっとうわの空で」
    高校生時代、母の再婚相手と関係を持ってしまった文(ふみ)。
    母の目を盗みこっそり、けれど徐々に大胆になっていく二人。
    二人を放っておいた母も悪いんだよね。。
    母にばれて川上さんとは逢えなくなって。
    けれど忘れたことは一度もなくて。
    「無様に。だけど、私はまだ生きているのだ」
    無様でもいいから日々を生きていく文。
    あー、ほんと切ない。
    切ないけれど、一筋の光が射し込んでくる物語。

    『朧月夜のスーヴェニア』は戦時中の悲恋。
    これもかなり切ない。
    「あの日々のことだけは、自分が年老いても、ぜったいに死ぬまで忘れるものかと、生きてきた」
    亡き旦那のことは忘れても、あの人のことだけは目をつぶれば直ぐに面影が浮かぶ。
    年老いてもあの人のことを思い出すだけで体の奥深くに、ぽっ、と灯りが灯る気がする、と心の中でそっと一人呟く真智子おばあちゃん。
    女として孫娘に軽く勝ってるよ。
    何時までも忘れられない記憶のある真智子おばあちゃんが羨ましい。

  • 感想を抱きにくい短編集だった(^_^;)

    会社の方から頂いた本だが、苦手な短編集の上、なかなかの分かりにくさを感じてしまった。

    しかし、どの短編にも、こういう場面を感じたことがあったかもしれない?と思うような描写がある。

    前半の作品より、後半の方が力を感じた。

    特別な事件ではなく、どこかにありそう、どこかにあったのかもしれないような日常が詰まった一冊だった。

  • ちょっとだけ今の自分の精神衛生面では、いつも好んで読んでいる窪美澄さんの毒素が耐えられなかった。耐えられなかったと言いつつも読破。
    前に読んでいたものも性描写が多いお話だったので、しばらくはお腹いっぱいです。

  • 表紙の木彫りの女性の足の指さきが、なんとも異常な感じがしたが、気になって、手に取った本である。

    そんな大したことの無い思いからの表紙から選んだ本は、どんな内容なのか?と、思いつつも、帯にかかれた 焼夷弾が降る戦時下、・・・・なんて書かれていたので、戦中時代の話なのかと、思ってしまったのだが、、、、

    8つの物語が、描かれているのだが、、、、
    最初から「父を山に棄てに行く」から始まる。
    「すてる」が、「捨てる」でなく、「棄てる」であり、放り投げるがごとく、放棄する方であることの字が、使用されている事に、、、、読む方も、自分の親を放置 出来るのであろうか?と、怖い感じがしながら読み始めた。

    どれも、生・性・姓・・・執着があり、濃厚な話も、そして倫理的に非難されるべき話もあり、余り好きな話が、無かった。
    私には、どの話も、心に響くような話でなくて残念であった。

  • 同じ世代の作家さんなのに恥ずかしながら初読み。
    あっという間に読めるお話。
    「銀紙色のアンタレス」がきらきらして切なくて好き。
    あとは正直心に響いてくるものが自分には感じられなかった。読む人の置かれてる状況によるのかもしれない。
    ぜひ長編を読んでみようと思う。

  • いろんな時代を、背景にした短編集。

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著者プロフィール

1965年東京生まれ。2009年『ミクマリ』で、「女による女のためのR-18文学賞大賞」を受賞。11年、受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』が、「本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10」第1位、「本屋大賞」第2位に選ばれる。12年『晴天の迷いクジラ』で「山田風太郎賞」を受賞。19年『トリニティ』で「織田作之助賞」、22年『夜に星を放つ』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『アニバーサリー』『よるのふくらみ』『水やりはいつも深夜だけど』『やめるときも、すこやかなるときも』『じっと手を見る』『夜空に浮かぶ欠けた月たち』『私は女になりたい』『ははのれんあい』『朔が満ちる』等がある。

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