- Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334749699
感想・レビュー・書評
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1999年から2010年に発表された宮部みゆきさんのホラー/ファンタジー系の作品を集めた短編小説集。
このところ久生十蘭の彫琢されまくった濃密な文体を賞味してきたため、こういう現代の「ふつうの文体」は恐ろしくスカスカで、中身が無いように感じてしまう。物語としてもさして優れたものではないと思いながら読んだ。
が、最後の、やや長めの「聖痕」(2010)だけは別だ。これは良い。母親とその愛人に万引きなどを強いられ、虐待される少年の描写は、現在国内にも無数にいるだろう不幸な子どもたちの普遍的な物語として胸をかき乱すし、インターネットに巣くう愚かな群衆が群がる宗教的な妄想の波動を描いて現在の切実を呈示している。印象的な、良い小説である。宮部みゆきさんはこの種の優れた長編も書いているのだろう。著書が膨大すぎてどれなのかよく分からないが。 -
宮部みゆきの短編。いしまくら
チヨ子が良かった。聖痕は少しよく分からなくて、戸惑いが大きい。
ファンタジーながら、少し人情ものでもある物語の方が好きだと思った。 -
長編や連作短編が多い宮部みゆきの、純粋な短編集は珍しいのですが、大森望による巻末の解説にその辺りが詳しく載っています。「超常現象を題材にした」「著者自選の」「ホラー&ファンタジー小説集」だそうです。
なお、この解説と、特設サイト(文庫本に特設サイトがあるんです!)の著者インタビュー(https://www.kobunsha.com/special/miyabe/chiyoko/interviews/index.html)はいずれもとても充実していて楽しく読めます。「NOVA」とか「異形コレクション綺賓館」とか、今後本を読むときの目安になるものも教えてもらいました。
短編集としては、前記のとおり単に短編の寄せ集めではない空気を纏っていて…言葉に直すと「因果応報」(いい方にも)かなあ、なんて思いながら読みました。
他の作品との関連はさんざん解説で語られていますが、自分は「いしまくら」の公園が「パーフェクト・ブルー」のマサの散歩先に思えます。
収録作の中では「いしまくら」と表題作「チヨ子」が気に入りました。
「雪娘」は「あの花」(『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』)を思い出しました。小学校の仲良しグループ男女(うち、恋愛感情がある者も)、グループ中1名は亡くなっている――そして、「あの花」は、主人公だけがその子が見える、本作は主人公だけが見えない…。ラストは後味も正反対ながら、どちらも切ない。
「オモチャ」は寂しい話です。
ようやく見つけたと思った居場所をよってたかって奪われたおじさんのしょんぼり立ち尽くす姿。好きなものに囲まれた居場所で、他人の目からはどうあれ本人は安らいでいたのに、理不尽にそこを奪われる、というのは、孤独死確定だと思っていた自分がその頃想像していた自分の死後のようです。安らげるはずの自室は他人の手に渡り、集めたコレクションはゴミとして扱われ…。そんなことになったら、おじさんと同じようにぼんやり立ち尽くすに違いありません。本人にそのつもりはなくても、見えなくても、そんなのが近くに立ってたら嫌でしょう、そりゃ寂れるわ。
「いしまくら」はタイトルといい、ややお説教臭がするのが気になりますが、他の作品では楽しみで人を殺すような悪役がたくさん登場させつつも、「滅びたはずの「石枕」のベクトルは、罪悪感という形で、かろうじてまだ残っているのかもしれない」の台詞に著者自身の気持ちが見て取れます。せめてそういう気持ちが残っていて欲しいなあ、たまにはそういう作品にしてみようかなあ、という作者の思いには短編という形式が向いていたんでしょうね。
「チヨ子」は…( ;∀;)イイハナシダナー
鉤爪の生えた痩せた手に後ろから肩をつかまれている人たちも、きっと今からでも遅くないので、「何かを大切にした思い出」「何かを大好きになった思い出」ができるといいなあ。あと、着ぐるみを着た宮部みゆきの朗読、聞いてみたかったです。
「聖痕」は後味悪いなあ。
ネットでの捏造、エビデンスのある事実に目を瞑り、自分が信じたい紛い物だけを信じ込む人たち、そしてそれを操り扇動する人。崇められた人が破滅するところまで、現在のよくないところがすし詰めです。宮部みゆき、ネットの嫌なところをよく分かってますし、嫌な話を書かせても一流でした。
そして一通り読み終わった後の解説と特設サイトの面白いことといったら。
チヨ子 (光文社文庫) 収録作品一覧(5作)
雪娘 『雪女のキス 異形コレクション綺賓館Ⅱ』(「雪ン娘」改題)(カッパ・ノベルス 光文社 2000年12月)
オモチャ 『玩具館 異形コレクション』(光文社文庫 2001年9月)
チヨ子 『小説スバル』(集英社 2004年1月号)
いしまくら『別冊文藝春秋』(文藝春秋 1999年春号)
聖痕 『NOVA2』(河出文庫 2010年7月) -
短編集。「雪娘」と「いしまくら」がよかった。
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「聖痕」が際立って異質だけど、1番好きで1番怖い。そして割りきれない。小さな感電をしたような感じがする。まさに、神に遭ったかのように。
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ホラーにカテゴライズされているようだけれど、
怖い作品は少ないかな。
最後の「聖痕」が、怖いというか、ぞっとした。
でも、他の作品は、宮部さんらしい優しさがあると思う。
特に、表題作の「チヨ子」が好き。 -
ホラー?ミステリ?ファンタジー?
1つには括れない色々な風味の5編の短編集です。
一番好みだったのは表題作の『チヨ子』。
心温まるお話です。
私の場合は嫁入り道具にもしたクマのぬいぐるみだな(笑)
『聖痕』は短いながらもズシリとくる読後感を残します。
短編では些か勿体ないような気が。
改めて引き出しの多い作家さんなんだなと思います。
巻末の解説は著者のインタビューも併記されていて、なるほどこういうお気持ちで書かれたのかと、こちらも興味深かったです。
何より宮部さんのあんな可愛らしい姿が見れるとは(笑) -
少し不思議な話、を集めた短編集とざっくりいえばそんな感じですが、その不思議具合がファンタジックだったりホラーめいていたり、バリエーション、というか作者の方向性の向かいかたを感じる一冊でした。とくに最後の一編、聖痕については最近の作者の社会的な作品群に通じる重々しさがあって、これだけでどっしり重くあとに残る感覚がしました。この一冊だけでみると、異色の一編に感じます。だから、ほかのとは分けたほうがよかったような気もしました。