- Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334768300
感想・レビュー・書評
-
木地雅映子さんの作品は現実世界の中から突然跳躍して別の世界へ飛ばされたようなインパクトを受ける作品が多い気がします。
「氷の海のガレオン/オルタ」を読んだときも似たような感覚を覚えたのですが、この作品を読んでより強く感じました。
主人公の人格の中に影があり、その影の中には木地雅映子さんの人格が宿っていて、突然物語にその影が登場し読者へ問いかけてくる、そんな印象を受けます。
読書をしてて中々味わえないような独特な世界観が気になる方に是非おすすめする一冊です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
友達と遊ぶより一人で銭湯に行くのが好きな女子校生。
優秀な妹のことしか頭にない母、存在感のない父、合コン命の姉、わがまま放題の妹。
何もぴんとくるものがない将来。
すべてを忘れて幸せになれる銭湯で出会った一人の大学生。
彼との出会いが彼女の人生を大きく変えていく。
居心地が悪いなんてものじゃない家庭環境は、読んでいてしんどくなりました。
なぜここまで押し付けられて黙っていられるのか。
黙っていることが身を守る手段ってことなのか。
家族の問題、恋愛、進路、悩みが尽きない日常で唯一の癒しというか居場所なのが銭湯。
そういう場所があるって、すごく大事。
中盤過ぎて、なんとなく先が読めた気がしましたが、予想以上の展開の早さというか、あれもこれもと詰め込まれた感についていけず。
結末もあれ?これで終わり?という感じでした。 -
大島柚子は銭湯「松の湯」を愛する高校生。ある日柚子は松の湯で医大生の福一と出会う。お湯が引き寄せる奇跡の物語。
温泉が引き寄せたぽかぽかシンデレラストーリー。なのですが、それだけに留まらないのがこの作者ならではでしょう。
柚子の家庭は問題大有り。姉は合コンに明け暮れ、その場限りの享楽のみを求める。妹は幼い頃から英才教育を詰め込まれ有名市立中学に行くものの、家では引き蘢り同然の暴君として暴れ叫ぶ。母親は妹にのみ情熱を傾け残業に追われ、他のことを放棄する。父親は我関せずと存在感を消し、全ての責任も消す。そんな中で柚子は家事一切を引き受け、家族とは衝突しないように日々を送る。
解説で「身近な人から尊重されずに生きてきた」人という言葉があり、目から鱗が落ちる思いでした。柚子の自己肯定力の低さ、そして何に対しても執着したりしない性格は、この家庭環境から生まれたものでしょう。
高校卒業後に家を出ることにのみ望みをかけていたのに、母親からは完全に拒否されてしまう。それどころか家事分担はそのままに給料も毟り取られ、一生家から出て行けないぞと脅す姉の声はあながち間違いでもなく聞こえる。
しかしこんな境遇の女性は実際にいるのではないでしょうか。家に縛られ家族に縛られ自分を無くしてしまう。
そんな危機に陥った柚子を救うのは、松の湯で一緒になっていたおばちゃんたちでした。小学生のころからひとりで銭湯に来る柚子を見守っていたおばちゃんたち。そんなおばちゃんたちに救われて柚子は福一に再会することになるのです。
骨格は確かにシンデレラストーリーです。しかしそこに恐ろしいまでの静けさで、現実と言う肉付けが為されています。
柚子は自分とは別の形で縛られている妹に「お母さんのために生きなくていい」と伝えます。それは柚子自身を縛っていたものを解き放つ魔法であり、現実にそんな目に遭っているたくさんの女性(ここでは敢えて女性と書きます)へのメッセージでしょう。
自分のために生きるために、柚子は自分の人生を歩き始めるのです。 -
「和菓子のアンソロジー」の中の作品で知った作家さん。
評価は分かれるようだが、私は好きだった。
現代版シンデレラストーリーと言えなくもない。
解説で書評家の吉田伸子さんが、友人から聞いた「身近な人から尊重されずに生きて来た人」という表現を、この主人公に当てているが、本当にその言葉がしっくりくる。
この世の中、そのように感じて生きている(来た)人は多いのではないか…そういう人に希望を与える話だと思う。2019.7.15 -
熱、あたたかさという救い。
-
毒親のお話かと思っていたら突如として幽体離脱が始まり、少女漫画もビックリなシンデレラストーリーが展開されて毒親とはどうなったかわからんまま終了。
待て待て待て待てぃ、何が主題だったんだ。
解決しようよ、小説なんだから。 -
再読。面白かった……じんわり。なによりも温泉が好きな柚子。家では居場所がないけれど、学校ではそれなりに友達もいて、なんとかやりすごして生きている。親のしたことは許されることではないけれど、とりあえずはこういう親からは「逃げ」ないとダメだろうなあと思います。もうダッシュでな!柚子が家の外で見つけて、育ててきた友人との関係や、それはダメ、と思えるこころが愛おしい。つい臆病になってしまうのもわかるけれど、そこはわかってほしい!というところがつうじてとても嬉しかった。こういう話が、届くべきところに届いてほしいなあ。
-
10代の子が生き抜くのに必要な言葉がぜんぶ入ってる。