自由と民主主義をもうやめる (幻冬舎新書 さ 6-1)

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  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344980976

感想・レビュー・書評

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  • 右翼と左翼、それぞれが何を意味しているのか、根本からわかりたければすごくよい本。


    20100808

  • <民主主義ではきれいごとを言うほうがどうしても勝ってしまう、、しかし、本当に大事なこととは人前で大声では言えないものです。>という指摘は深い。民主主義といえば「討論」ということになるが、ようするに、人間の暗黒面をどうとらえるのか、への考察がないと、国会も学級会もおんなじになってしまう、という実例を我々は何度もみている。

  • 戦後の日本人にとって絶対的な善であった「自由」と「民主主義」。本書はこれら自体の否定ではなく、その名の下に行われた経済、文化のグローバル化に対する警鐘であるように思う。我々日本人がその文化や伝統に誇りを持って生きていく事の大切さを訴えている。

    ・冷戦後の「保守」と「革新(左翼)」とは
    日本では保守政党が変革、改憲を、革新政党が現状維持、護憲を唱えるという逆転現象が起こっている。
    そもそも戦後体制そのものが軍国主義に対してリベラル=左翼的であったためか。その後ソ連の台頭によって反共の必要性からアメリカはより右傾化したにもかかわらず日本の体制が置き去りにされた
    事が現在の歪みを生んでいるように思う。

    ・「左翼」は人間の万能の理性を信じている。人間の理性能力によって、この社会を合理的に、人々が自由になるように作り直してゆくことができる、しかも歴史はその方向に進歩している、と考える。
    ・「保守」とは人間の理性能力には限界があると考える。人間は過度に合理的であろうとすると、むしろ予期できない誤りを犯すものである。したがって、過去の経験や非合理的なものの中にある知恵を大切にし、急激な社会変化を避けよう、と考える。

    ・その意味でアメリカほど進歩主義的な国はない。

    ・一般的にいえば自由、平等、民主主義、人権などの「目に見える価値」をそのまま信奉し、正義とするのが左翼進歩主義。一方、「目に見えない価値」の持つ歴史的で非合理的、慣習的なものを重視するのが保守。左翼進歩主義は普遍的な正義を唱え、保守は具体的な局面でその国独自の歴史や価値観に目を向ける。

    ・進歩主義は、個人の自由を重視し、個人の欲望を解放し、個人個人が幸福を追求する事を重視する。
    それを突き詰めれば人間が自分の行動を律する規範や道徳を見失う。内面の葛藤や精神の苦闘を見失った幸福の追求は、いづれその場しのぎの快楽主義に陥ることになる。社会の共通の規範が崩壊し、確かな価値が見失われる社会は「ニヒリズム」であり、これと戦う事が保守主義の役割である。価値、規範よりそれを打ち壊す自由や欲望の解放を重視し、技術に体現された合理主義に限りなく期待する進歩主義では、「ニヒリズム」を生み出しこそすれこれを押しとどめる事はできない。

    ・民主主義の限界
    民主主義では、きれいごとを言う方が勝つ。いかにももっともらしい事を言うものが有利になる。一見反対しづらい形だけの正論がまかり通る。あるいは声の大きいものの意見が通る。しかし本当に大切な事は人前で大声では言えない事もある。

    ・世の中には「非合理的なもの」「あいまいなもの」の効用もある。

    ・ヨーロッパ社会の近代への警戒感
    一方では民主主義や人権を非常に大切にする反面、他方ではそれを警戒する。「伝統」「革新」との間のバランスをとろうとするのが「保守」。

    ・「ローマ人のつくった町が一番うまくできている」左翼系の学者でさえ、どっしりとした伝統の上で議論をする。

    ・イギリス(ヨーロッパ)の保守主義
    エドマンド・バーク(18世紀後半・イギリス)は、フランス革命を批判し、イギリスの名誉革命を高く評価した。政治体制や社会秩序の「継続」こそが重要で、安易に合理主義的精神でもって、社会を根本的に変革できると考えてはならない。大きな「革命的変革」を回避したところにこそ、名誉革命の意義がある。
    「概して革新の精神は、利己的な精神と狭歪な視野の産物である。自分の先祖を振り返ってみようとしない徒輩は、決して自分の子孫にも目を向けないだろう。」
    「さらにイギリス国民は、相続という観念が、保存と継承という二つの確実な原理を与えると同時に、他面で決して改良の原理を排除しないということを知っている。」

    オークショット(1901~1990・イギリス)
    「保守的であるということは、単に変化を嫌うということだけではなく、変化への適応というすべての人間に課せられた活動を行うひとつの方法である。」
    「保守的であるとは、見知らぬものより慣れ親しんだものを好むことであり、試みられたことのないものよりも試みられたものを、神秘より事実を、遠いものよりも近くにあるものを、あり余るものよりも足るだけのものを、完璧なものよりも重宝なものを、理想郷における至福よりも現在の笑いを好むことである。」

    ・アメリカの保守主義
    アメリカ建国の精神は個人の自由な活動や平等。
    イギリスでピューリタンは革命派であり反体制派であった。
    イギリスの保守主義とは全く対立するものであり、その建国の精神に立ち戻ることが「保守」であるため、イギリス、ヨーロッパから見れば極めて進歩主義的で急進的な近代主義思想である。


    ・ニーチェはこれからくるべき200年のことを述べよう。それはニヒリズム(最高の諸価値の崩壊)である。と予言して1900年に没した。
    能動的ニヒリズム:すべては無価値である。だから一見価値があるように見えるものの無価値性、無根拠性をあばき、その上で本当の価値を創造することで、真に優れた者「超人」にしかなし得ない。
    消極的ニヒリズム:従来の価値を破壊したのち、次の新しい価値は出てこない。「超人」など登場しない。道徳観念も規律も、人々が共通して信じることができるものが何もない状態。

    ・ヨーロッパにおいて19世紀の圧政下で生まれた自由、平等、民主主義という概念は、20世紀初頭にはほぼ達成されてしまった。民衆が豊かになるとそれらに強い価値を感じなくなり、個人の快楽や欲望しか追求しなくなった。生き甲斐や使命感を失い、刹那的な快楽を求める「ロスト・ジェネレーション」が登場。オルテガ、ベンヤミン、ハイデガー、ベルグソンなど文明が高度化した段階で人間がいかに使命感を持って生きるかを思索した。

    ・その後、二つの大戦と冷戦を通じて、自由と民主主義を守ることが文明の使命である、という考え方に回帰してしまった。

    ・ヨーロッパ人は自由や民主主義が大切だといいながら、同時に懐疑的でもある。それがいかに立派な価値であってもそれを本当に理解できるのはヨーロッパの知識層くらいであって、他の非西欧社会ではほとんど通用しないと思っているのではないか。それらはすべてギリシアのポリスに由来した価値であり、その歴史を知らずして民主主義の本当の意味が分かるはずがない。

    ・アラブにはアラブの、中国には中国の、日本には日本のそれぞれ独特な価値観がある。

    ・日本的な価値観とは何か
    京都学派(西田幾多郎など)「世界史の哲学」西洋の「力」による覇権主義に対抗するのは日本が「道義」を掲げることである。また、西洋においてニヒリズムがはあらゆる価値に対して「無根拠性」を根拠に攻撃するが、東洋の思想においては「無」であり、そもそもすべては無意味であるという価値観が強くあるため、ニヒリズムに陥ることはない。としたが受け入れられなかった。

    ・本来の日本精神とは、自分を極端に主張しない。自然権としての平等や人権ということも声高に主張しない。競争も節度を持った枠内でしか認めない。調和を求め、自己を抑制することを知り、他人に配慮する。ということ。

    ・グローバリズムはアメリカの国内事情の産物。
    レーガン政権下で、北部製造業経済 (民主党)に対して 南部独立自営農民型経済(共和党)に加え、西部IT産業、東部金融業が政府の規制を嫌い、グローバル化を推し進めた。

    ・日本人の勤労観
    山本七平:日本的精神の中には、世俗的な労働をそのまま肯定するプロテスタンティズムの倫理に通じるものがある。
    石田梅岩:一人一人が与えられた職分を全うすることによって社会の良き秩序が保たれる。武士は士の、農民は農の、商人は商の役割を全うして、正直に、誠実に商いをする。邪心や虚栄心や貪欲な心を排して、それぞれの「道」を極める。

    ・「自由」や「民主主義」がそれ自体無条件でいいものだと考えない方がいい。「自由」はすぐに「放縦」に流れ、「民主主義」はいつも「民意」が正しいとは限らない。「自由」を得て何をするか、「民主主義」を支える国民の良識はどうなのか。
    この国が歴史の中で育んできた価値を見つめ直し、大事にしていこうというのが保守の精神である。

  • 著者の言に必ずしも同意するものではないが、民主主義の危うさは以前から感じていた。ある意味、真実を突いている。

  • <a href="http://bbs4.sekkaku.net/bbs/?id=msbook&log=2">本の部屋でのご紹介です。</a>

  • 戦後からずっと続いてきた価値観が変化し、変化しなくてはいけないということを表現した本。
    10年後に読むとすごい面白いかも

  • (200901)

  • あなたを苦しませ悩ませる、こんな社会は間違っている。こんな内容のことを言ってくれるから、この著者の本は好きだ。心を慰めてくれる。

     この本もそんな内容。簡単に言うと、ただ自由と民主主義があればいいってものじゃなくて、その方法で何を実現するのかって方が大切なんだと。そもそもアメリカから植えつけられた考え方なんだから、もしかすると日本の良い部分を殺してしまうかもしれないんだよってこと。
     日本にはロシアのような資源も中国のような労働力もアメリカのような資本もないけど、唯一あったのは効率的な組織力で、その組織力のおかけでこんなちっぽけな島国でも、何とかやってこれた。いまその組織力がアメリカの梃入れのおかげで崩れている。さぁどうするんだ?

  • ネタ本なの?
    著者は法学者ではないのだが、外からの自由や民主主義に対する批判を聞いてみたいと思って読んでみたものの、原理的な自由と民主主義の批判に終始していて、民主主義がとうに修正されたことを無視しているように思った。もう少し法学をやってほしいと思うが…
    それはともかく、民主主義が限界があるのはわかっている話だからいいとして、それに対する代替案がないから困っているのに、著者は「日本的な何か」みたいなものを大事にすべきだと言うばかりで、なんら中身のあることを言っていない。確かに現状の世論と言うか空気的な何か(理由もなく妙に他人に批判的)が妥当でないと言うのは同感ですが、だからどうすべきなのかというのは何も言っていない。それでは所詮親父の「今時の若者は…」というソクラテスの昔から繰り広げられてきた非生産的なたわごとにすぎない。
    この程度で賞が取れるのもいかがなものかと思う。

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著者プロフィール

経済学者、京都大学大学院教授

「2011年 『大澤真幸THINKING「O」第9号』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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