ボタニカ

著者 :
  • 祥伝社
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  • Amazon.co.jp ・本 (494ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396636173

感想・レビュー・書評

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  • 牧野富太郎…ダメンズだ。
    なのに、なんだこの吸引力は。
    みんな巻き込まれていく。

    子供の頃から植物のことしか頭にない。
    打算も出世欲もないから
    研究に対しては一心不乱で正直な人。
    どうも空気が読めないタイプで
    フツーの人づきあいは期待できない。
    けど、情がないわけではないから
    家族を幸せにしたいとも考えている。
    (行動がともなってないけど)

    妾から正妻になったスエも
    名ばかりの正妻だった猶も
    金銭感覚ズレた富太郎に苦労したのに
    研究を「やめろ」とは言わなかったんだよねぇ。
    そんな女ふたりの関係性もすごいです。

    私は植物学に関するこまかい部分を
    はしょって読みましたが
    そっちに興味ある人にとっても
    きっとおもしろいと思います。

  • 立派で高潔な学者さんのイメージがあったので、呑気すぎる能天気さや、身勝手さ行き当たりばったりさに腹が立って、少し痛い目にあったほうがいいのではとさえ思ってしまう、富太郎の明るく無邪気な不羈奔放な不遜傲岸さ。
    それでも。身上を潰せる境遇に生まれ育って、引き立て支えてくれる人たちとの出会いがあって、何より人並みならぬ才能と情熱と意志があって。植物学に奉じる人生、すべてこれは天命で、彼は楽しく幸せにその義務を全うしたのだと思えた。
    老いても自然への情熱と愛情を失わない富太郎が自宅の庭に立ち、空想する景色の描写がとても美しくて何度も読み返した。

  • 連続まかてさん、男性主人公。もしや男性描くの苦手???かと思うくらい。小説を読んでいるというより、wiki読んでいる気になった。

  • 山道でアマアマやバイカなどと呼びかけながらそれぞれの草花の細かな様子や成長を観察していく主人公。

    “梅樹の花に似ているが、梅花よりも勢いがある開き方なので、得心ができていない。これはなにか、もっと違うものに似ているとしばし目をあげ、すると山々の向こうに広がる青が目に映る。そうだ。鳥の翼のごとく開いて、このまま空をめざして飛び立ちそうな形だ。”
    名前を知ると、その草はその草として詳しくみなくなる。これは〇〇だよ、と子どもに伝えるのを少し躊躇う瞬間だ。名前を知らず、なんだろうとよく見る時間が、伝わってきて、好きな場面だ。

    曼珠沙華について、”伝承には、幾重もの理がくるまれている。”とつづる場面も印象深い。

    長編に一貫して流れる草花への愛や好奇心、桜の風景、どんだけーとあっけにとられる金銭感覚のなさ、でも妻も元妻も子も本当によくできている!
    これだけの研究熱心さと向学心をもってしても何十年も不遇あり、貧乏夜逃げあり、研究者の出世や認知は難しいものだ。まだまだ私も疲れたとか忙しいとか言っている場合でない、スエさん猶さんを拝んで向上心をもとう。

  • 書店で目にしてからというもの、なぜか読みたくてたまらない。ところが困ったことに植物学には興味がない。花や植物を愛でるのは嫌いではないけれど、この本を読み切れるかどうか不安ではあった。何度目に顔を合わせた時だったか、「なんとかなるろう」という本に巻かれた帯の土佐弁に背中を押されるかのようにこの本を手にレジへ向かっていた。

    事前情報はゼロ。時折調べながらへぇと思いつつ先に進む。これが面白い。
    牧野富太郎の植物への溢れんばかりの愛情に比例するように、こちらは本に対する愛情が湧いてくる。愛おしくてたまらなくなる。

    この時代を振り返ってみると、人が、そして社会が、とても窮屈になりつつある時代なのだなと思う。その渦中にある富太郎からしてみれば「なぜだ!」と声を荒げたくなることもあるだろう。

    富太郎がつぶさに植物を観察しているが如く、ひと文字ひと文字を取りこぼさないように丁寧に読み進めなくては時折意味がわからなくなるため、とても時間がかかった。
    それでも、明治から昭和まで、日本中の野山を駆けずり回った富太郎とともに生き、一生をそばで見守ったことで、小旅行にでも行ったような楽しい気分を味わわせてもらった。


    これはもう、朝の連ドラで取り上げるべきものではないか!と思っていたら、2023年に牧野富太郎を主人公としたものを放映することが決まっているらしい。そちらも楽しみだ。

  • 愛すべきダメ人間。はて、朝ドラではどうなるのだろうか。

  • やばい人やー。
    まさに学者、ザ学者。
    でも、熱いなぁ。
    命を燃やしている感じがビシビシと伝わる。
    何で昔の人ってこんな熱いのかと
    またしても思わされました。

    朝ドラではどんな感じになるのやら。
    楽しみ。

  • ようやく読み終えてやったった、ちくしょー!
    一冊の本に一週間以上要したのは久しぶりだ。それくらい苦々しい本だった。何が不味いってまず自分は植物に興味がない。それに加えて主人公が大っ嫌い。反吐が出そうなほどに腹立たしい。好きなことをやって周りを巻き込んで迷惑千万、自己満足、ありとあらゆる罵詈雑言を進言したいがそれっ位主人公に県を抱いたのが致命的だ。読むほどにイライラするから先に進まん。なんなんだ、こいつは、と。
    それもそのはず、主人公の生き方が趣味を持つ人間からしたら至極羨ましい生き方をしているからだ。好きなことを好きなように好きなだけ精進する。これどほ没頭するには凄まじいエネルギーが必要だと思うから万人が出来るものではないし、それゆえ主人公は天分があったのだなあと感服もする。
    そう、イライラの原因は妬ましいのである。植物界での偉人と言われてもさっぱりわからないが成し得てきたことの積み重ねは誰も追随できるものではないだろうと畏怖すら思う。昔の偉人は偉大だ。現代人では足元にも及ばないだろう。
    とりあえず、ようやく読み終えた自分を褒めたい、おめでとう!

  • ★富さん、私のことも見つけてよ。/一緒に遊ぼうよ。(p.494)

     つい先を読みたくなるというようなタイプの作品ではないだろうと思います。読んだ充実感は強いですが。

     なんにせよ、コトをなせる人というのは厄介やなあと思います。周囲はしんどそう。あるいはおもろそう。牧野富太郎さんは金銭面もまったく頓着しないし。これくらいでないと新しい道は切り拓けないんやろうなあと。わりと最近読んだ『銀河鉄道の父』という本の宮澤賢治と似ていると感じたけどあっちは行方が定まらないタイプで何ものにもなれそうになかったけど、こっちはひとつのことにまっしぐらでそれにしかなれない、ならないというタイプで全然違うかもしれません。いや、やっぱりおなじかな?

     今のイメージでは牧野富太郎さんこそが日本の植物学の先達という感じですが当然ながら彼にとっても先達とであり仲間と呼べる人は大勢いたんやなあと知りました。

    【一行目】杉の落葉や枯草のふりつもった背戸山の道を、はなをすすりながら登っていく。

    ▼富さんについての簡単なメモ

    【赤玉ポートワイン】下戸の富太郎でも呑める酒。
    【朝日新聞】海外に流出する可能性が強かった富太郎の標本が朝日新聞の記事によって救われた。なんやかんや言いつつもこの新聞社、けっこう頼りになるんやなあ。
    【池長孟/いけなが・はじめ】京都帝大の学生にして富豪の息子ですでに当主。富太郎の標本を買い借金をチャラにしたうえ標本はすべて富太郎に寄付するという。結局富太郎のパトロンのような立場になった。コレクションを展示する美術館もつくった。その建物は現存するようだ。富太郎の実家よりさらにはるかに裕福なようだ。
    【池野】東大の教官。
    【市川延次郎/いちかわ・のぶじろう】→延次郎
    【伊藤圭介】大家。いつも小石川植物園にいる。
    【伊藤塾】伊藤蘭林(いとう・らんりん)という漢学の大家がひらいた塾。富太郎が通っていた。
    【伊藤篤太郎/いとう・とくたろう】伊藤圭介の孫。祖父の手伝いをしつつ自身の研究もおこなう。イギリスに留学する。
    【いまむら】スエが始めた待合茶屋。繁盛していたが大学でいろいろ文句を言われ結局手放した。
    【宇井縫蔵/うい・ぬいぞう】和歌山の植物研究家。富太郎と南方熊楠をつなぐ人物。
    【内山】富太郎とともに台湾に行き植物採取した。
    【大泉】この地で富太郎はついに自分の家をもつことになった。スエがすべて進めた。
    【教える】《教えることは、自らで何かに辿り着く瞬間を辛抱強く待つことでもある。》p.45
    【科学】《人間が踏み込んではならぬ閾を弁えるために、科学があるのでもしれない。》p.353
    【学問】《学問は学問することそのものに意義があるのではないか。》p.41
    【一浡/かずおき】鶴代の孫。
    【克禮/かつひろ】富太郎の五歳下の友人。父は医師の堀見久庵。
    【勝代/かつよ】富太郎とスエの四男。十三歳で赤痢のため没した。
    【香代/かよ】富太郎とスエの二人目の娘。
    【岸屋】牧野家の屋号。造り酒屋を生業とし現在は小間物も扱っている。
    【関東大震災】牧野家は奇跡的に全員無事だった。
    【群芳軒/ぐんぽうけん】富太郎が自分で考えた号。
    【午王様/ごおうさま】富太郎の産土神社。毎日のようにおとずれた。《境内は森の中になんとなく開けたような原っぱで》p.7
    【コレラ】富太郎もコレラはかなり怖がった。
    【産地】《植物は思いも寄らぬところで生きている。》p.147
    【時代】最近読んだ山田風太郎『ラスプーチンが来た』と重なる。森有礼が暗殺され聖ニコライ堂が建設されている。
    【植学/しょくがく】植物学のこと。
    【スエ】花乃家という芸妓屋で出会った少女。あっけらかんとしてどこかお気楽な性格。後に富太郎の子を産む。
    【園/その】富太郎とスエの娘。
    【祖母】浪(なみ)。木に近い匂いがする。祖父の後添えで実は富太郎と血はつながっていない。ひとかどの人物と思われる。
    【染谷徳五郎/そめや・とくごろう】友人。東大植物学教室の学生。
    【竹蔵/たけぞう】岸屋の番頭。
    【田中延次郎/たなか・のぶじろう】→延次郎
    【田中芳男】男爵。伊藤圭介とは師弟。なにかと富太郎を立ててくれた。
    【蝶ネクタイ】富太郎のトレードマークらしい。
    【チョウノスキー】ダニイル・チョウノスキー。マクシモーヴィチの弟子のような存在。じつは日本人の須川長之助(すがわ・ちょうのすけ)。
    【珍奇】《珍妙、奇妙が大好きなもんでね。なんかこう、血が騒ぐ》p.342
    【鶴代/つるよ】富太郎とスエの三女。
    【テーブル・ボタニー】山野などでの植物収集はあまりせず資料等により研究すること。そちら派からすると本草学は時代遅れだが富太郎はテーブルボタニーには反対だった。
    【登美代/とみよ】富太郎とスエの五女。一年も生きられなかった。
    【富世/とみよ】富太郎とスエの六男だが三ヶ月に満たず亡くなった。
    【永沼小一郎/ながぬま・こいちろう】高知中学校に奉職している。出会い方はよくなかったが富太郎はその知識の広範さに感服し始終訪れた。
    【猶/なお】富太郎の従妹。両親を失い富太郎の祖母が引き取った。後に富太郎の妻になる。
    【ニコライ主教】ニコライ堂をつくった。
    【日本植物名彙/にほんしょくぶつめいい】日本人の手になる最初の日本植物総覧。
    【額賀次郎/ぬかが・じろう】東京帝大法科の学生だった。優秀で学生のうちに弁護士資格を取るだろうと思われている。富太郎の家に出入りしているうちに鶴代を見初めたようだ。
    【延世/のぶよ】富太郎とスエの四番目の子ども(三人目は生後すぐに亡くなった)。長男。四歳で死去。
    【延次郎/のぶじろう】市川延次郎、後に田中延次郎。友人。彼が東大植物学教室の学生だった頃に知り合う。能筆家でもある。菌類の研究に傾注する。
    【長谷川萬次郎/はせがわ・まんじろう】大阪朝日新聞の記者。長谷川如是閑のこと。池長邸へ行くのにつきあってくれ、その後もつきあいがあったようだ。生家は浅草花屋敷の経営者。
    【春】《そう、春は山をあたらしくする。》p.6
    【春世/はるよ】次男。延世が亡くなった翌年に生まれた。
    【平瀬】東大で画工あがりの助手。
    【細川正也/ほそかわ・まさや】香代の結婚相手。実業家。石川県出身。
    【ボタニカ】植物学のこと。他に種子のことでもあるらしい。ラテン語が起源らしい。
    【堀見久庵/ほりみ・きゅうあん】医師。克禮の父。美男子。植学の書物をたくさん持っている。元は土佐勤王党メンバー。
    【本草綱目】明の李時珍(りじちん)が著した。日本の本草学のもととなった。
    【本草図譜】『本草綱目』で取り上げられている植物を岩崎灌園がことごとく図化しようとしたもの。
    【牧野富太郎/まきの・とみたろう】主人公。実在の人物。日本の現代の植物研究の祖とも言える。基本的には植物の分類学が専門と言える。
    【マクシモーヴィチ】ロシアの植物研究家。植物の同定をしてくれる。かれが認めれば学名もつき新種として登録できる。
    【益世/ますよ】富太郎とスエの五男。三歳で亡くなる。
    【松村任三/まつむら・じんぞう】東大の教官。矢田部の助手。『日本植物名彙』の編者のひとり。
    【南方熊楠/みなかた・くまぐす】標本の同定を富太郎に依頼してきた。へーえ、牧野富太郎と南方熊楠に交流があったのか? あってもおかしくはないと思うけど。牧野富太郎にとっては粘菌等は専門外かもしれないし南方熊楠の奔走さに嫉妬するかもしれないけど嫌がらせはせんやろうと思うけど?
    【明教義塾/めいこうぎじゅく】伊藤蘭林の勧めで富太郎が通うことになった。元は郷校の明教館。
    【森林太郎/もり・りんたろう】森鷗外。大学の植物園で富太郎が見かけた。後に帝室博物館の館長となる。富太郎とはいくばくかの交流はあったようだ。また富太郎と同じ歳だったらしい。
    【屋久杉】《森であるのに海の中にいる。そんな気がした。》p.353
    【矢田部良吉/やたべ・りょうきち】東京大学の教官。『日本植物名彙』の編者のひとり。中浜万次郎に英語を習う。標本を重視するとは言いつつも自分の手は汚さない。ほぼ松村に任せきり。あだなはユーシー。「ユーシー、ユーノー?」と念を押すのがクセなので。ちょっと西洋かぶれなところはある。柳田國男と縁つづきらしい。
    【利尻山】336ページから利尻での採取の話がある。個人的には登ったこともあるので思い入れのある場所です。その年最初の登山者になれたかなと思ってたら数日前に女性が一人で登ってたと聞いてちょっとガッカリ。
    【渡辺忠吾】東京朝日新聞記者。
    【和之助/わのすけ】岸屋の番頭。竹蔵の次。

  • これまた,父の影響で手に取ることになった一冊.
    #牧野富太郎 が小説になってる!
    まぁ言ってみれば変人…最後まで変人,愛すべき変人.後半1/4,畳み掛けるように面白くなっていく!
    良質な映画を見るような気分で読み進めた.

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著者プロフィール

作家

「2023年 『朝星夜星』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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