社会心理学講義:〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉 (筑摩選書)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480015761

感想・レビュー・書評

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  • 先に残念なところから。第2講はアイヒマン実験,監獄実験,傍観者実験に触れていますが,今ではこれらは「胡散臭い実験」と考えられます。著者が行動を左右するのは個人内の要素よりも「状況」だと言うならば,「実験に参加する」という状況を加味して,実験データを考えていくべきです。それがすっ飛ばされているのが残念なところ。いくら同様の結果が他国でも認められているとしても,「実験」という状況の影響込みのデータなので,アイヒマンの状況のシミュレートにはなっていないわけです。この著書が出版された当時よりも今は社会心理学の知見にはかなり疑義が呈されていますから,第2講の内容は,社会心理学の実験を持ち出すのはナンセンスで,アレントなどの哲学者や社会学者の説で十分だと思われます。

    些細な残念箇所もあるにはある。例えば,「仮に今,太陽が消失したとしても八分以上,地球はその事実を知らず,同じ軌道を回り続けます。(p.96)」は嘘です。太陽がなくなっても8分は太陽の光を浴びるでしょうが,太陽がないのであれば,太陽からの引力はなくなるので,公転軌道は維持されません。

    とはいえ。


    *****
     私の本を手にとって下さる読者の中には,私の発想を学際的だと評したり,引き出しをたくさん持っていると言う人がいます。しかし哲学とか心理学とか社会学とか分けて考えるから,学際的という表現が発明されるのであり,哲学・社会学・心理学・文化人類学・経済学・大脳生理学・進化論など,実はどれもつながっている。私は自分のテーマに必要な本や論文を読むだけであり,学問領域なんて考えたことがありません。(pp.17-18)

    そんな方法論は社会心理学ではない,そのようなテーマは社会学の領域だ,思弁的考察は哲学に任せろと反論する人もいるでしょう。でも,そんな制度上の区別は私にとってどうでもよいことです。人間を知るためには心理と社会を同時に考慮する必要がある。というよりも,社会と心理とを分ける発想がすでに誤りです。問いの建て方や答えの見つけ方,特に矛盾の解き方について私が格闘した軌跡をなぞり,読者と一緒に考えたい。人間をどう捉えるか。願いはそれだけです。(p.19)

     社会心理学の学術誌を見ると引用文献が満載です。文献をたくさん挙げると偉くなったような気がしますが,それは錯覚です。出典が多ければ多いほど,よく勉強したことにはなるので,学校の先生には褒められるかも知れない。しかし,今までに私が上梓した本への反省も込めて言うのですが,出典が多いのは創造性がない証拠ですから,実は恥ずかしいことなのです。(p.39)

  • 好きだけど闇がえぐい

  • たくさんのことかけないけれど、絶対に読むべき本。

  • 同一性と変化という観点を通して人間とは何かという問いについて考察される書とのこと。いくつかの書籍で引用されており、前から気になっていた本。
    社会、人間についての理解を深め、今後の人生に活かすべく読書。

    メモ
    ・客観性の追求は主観性の絶え間ない相対化の努力に支えられる。

    ・自分がしなくても他の人がやるだろうと安心すると責任感が希薄になり、犯罪阻止したり、救助の手を差し伸べる気持ちが鈍る。

  • 人間社会を生きる全ての人に是非読んでほしい!!
    後書きまで含めて最高すぎた。
    未来は誰にもわからない。だから希望を持ち続けられる。多くの絶望や虚無の先に見えたのは、原始から続く当たり前であった。陽はまた昇るのだ。

    アイアムアヒーローは、そういう話だったんじゃないかと思う。批判の多いエンディングだけど、希望に満ちていた。

  • • 新しい価値やアイディアはなぜ生まれるのか(297)
    -少数派が行使する影響は盲目的な追従や模倣ではない。常識を見直すきっかけを少数派が与え、そこで新しい発見や創造が生まれる(298)
    -閉鎖系として影響を把握する機能主義的発想を脱し、自己言及的な相互作用を通してシステムが変遷する可能性を見据える必要がある。少数派に影響されるとき、主張内容を超えて、背景にあるイデオロギーや人間像も問い直される。多様な見解が衝突する中で、暗黙の前提を新しい角度から見直す契機が与えられる。こうして多数派の見解にも少数派の立場にも収斂されない新しい着想が現れる。社会という開放システムは異端者を生み続けるおかげで停滞に陥らず、歴史の運動が可能になる。
    -イデオロギー・宗教・科学・迷信・芸術・言語・価値・道徳・常識などの精神的産物は、多くの人々のコミュニケーションによって生成される。
    -人間が複数集まって集団を作ると、そこに規範が生まれる。市民全員が同じ考えに染まる完全な全体主義社会でない限り、多数派に従わない逸脱者が必ず現れる。少数派と多数派との対立を通して新しい価値や思考が誕生する(299)

    • 非連続性は連続性の懐から滲み出てくる。知識は開かれた系をなすから。新発見の源は、過去の遺産の周辺部にすでに潜んでいる(300)

    • 国語が人工的に発展させられる事実:日本、フランスにおける標準語化政策、トルコ語のラテン文字採用、イスラエルのヘブライ語(312)
    -初等義務教育制度、戦争中の兵士動員を通して言語の均一化が進む

    • 太古から続く伝統などというものは、たいていが後の時代になって脚色された虚構である。実際に生じた変化、そして共存する多様性が忘却されるおかげで、民族同一性の連続が錯覚される(e.g.スコットランド「伝統文化」)(314)

    • 血縁の連続性も虚構:文化も血縁も実際には断絶がある(314)
    同一性維持の錯覚(317)
    -同一性と変化をめぐる謎:<部分>の変化にもかかわらず、<全体>はそのまま維持される:テセウスの舟
    -形相の連続性を根拠に同一性は保証できない。それ以外の何かが必要になるが、その何かは舟自体にはない。同一性の根拠は当該対象の外部に隠されている。
    -変化が極めて小さければ、同一性が維持されると我々は認識する。もし人間の感覚に探知されない程度の変化が徐々に生じるならば、同一性が中断された事実に我々は「気づかない」(319)
    -対象の異なる状態を観察者が不断に同一化する。これが同一性の正体。時間の経過を超越して継続する本質が対象の同一性を保証するのではなく、対象の不変を信じる外部の観察者が対象の同一性錯視を生む。同一性の根拠は対象の内在的状態にではなく、同一「化」という運動に求めなければならない(320)

  • 全ては人間の相互作用、関係性の中にある。

  • 図書館で借りて一読し、すぐに買った!
    人とは、社会とは、そんな多くのこと自分で考える入口になる本でした。

  • 難しかった。P138で挫折。再挑戦したい

  • 2020.8.22 読了
    社会心理学のテーマに興味があったので読んでみることに。
    非常に濃く、そしてヘビーな内容だった。
    社会心理学の存在意義と分類から定義を行い、やや哲学的な考察を交えて話を進めていく構造。
    自分には哲学的解釈の部分が非常に難解で、一読で理解できるような内容ではなかった。
    深い洞察が多く、自分の読書の力量のなさを痛感することに。
    また機会があれば再読したい一冊。

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著者プロフィール

小坂井敏晶(こざかい・としあき):1956年愛知県生まれ。1994年フランス国立社会科学高等研究院修了。現在、パリ第八大学心理学部准教授。著者に『増補 民族という虚構』『増補 責任という虚構』(ちくま学芸文庫)、『人が人を裁くということ』(岩波新書)、『社会心理学講義』(筑摩選書)、『答えのない世界を生きる』(祥伝社)、『神の亡霊』(東京大学出版会)など。

「2021年 『格差という虚構』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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