社会心理学講義:〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉 (筑摩選書)
- 筑摩書房 (2013年7月18日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480015761
感想・レビュー・書評
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出口治明(ライフネット生命代表取締役会長)「旅と書評」2013/8/29
http://blogs.itmedia.co.jp/deguchiharuaki/2013/08/post_16.html詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
出口治明著『ビジネスに効く最強の「読書」』で紹介
社会を支える「同一性と変化」の原理を軸に、人間と人間がつくる社会をラディカルに捉え直す。 -
非常にフランス的な学問観。
矛盾があった場合そのどちらかを疑うという形で解消を図るべきではない。その一見矛盾した両者を包摂する次元や、常識を超えたところに目指すべき理論がある。 -
本質という確たる存在があるのではなく、すべては関係性の中でとらえられるということが腑に落ちた。
日常でよくある、どこかに確かな真理たるものや結論、責任さがしをすることの虚しさが理解できた。
何回も読まないとなかなか理解には至らないが、人間と社会を考察するために非常に有益だった。 -
異質な生き様への包容力、世界の多様性を受け止める訓練。これが人文学の果たすべき使命。との主張から「役に立たない」が、「己を知る、少しでも納得する」ために学問する。内容的にはやや難解だが、読み応えはある。
<印象に残った箇所>
・服従者は命令者への責任転嫁により何でもできるようになる
・科学が進めば進むほど主体性は消えてゆく。心理学は主体の消滅というパラドクスに陥る
・相関関係と因果関係は区別可能か?
・個人主義者ほど強制された行為を自己正当化しやすい。したがって認知的不協和の緩和のために、意見を変える
・自信のある者、知能の高い者ほど自己決定権が高いと錯覚するので意見を簡単に変える
・異質性よりも同質性の方が差別の原因になりやすい
・同一性の変化は主体と客体の関係、そして時間によって錯覚される
・日本は「閉ざされた社会」であり「開かれた文化」(社会の閉鎖性と文化の開放性) -
良書。面白いし勉強になったが、前半の素晴らしさに比べて後半はややつまんなくなった印象。
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考え方の枠組みを意識するという点で,学ぶところは多かった。
変化はどのように生じるのか,という問い。
一般には,多数派となった意見がその勢いや人数によって伝播されていくもの,と考えられる。しかし,それは閉鎖した社会での話。変化するのは瑣末であり,パラダイムシフトは生じ得ない。
では変革と呼べるほどの根底からの変化が生じるには,どのような過程があるのか。
変革の基は,少数派の意見。「正しさ」を社会全体が幻想する場合,そこから逸脱する人間は否が応でも必ず出てくる。その逸脱に,変革の原因となる可能性が存する。逸脱者たちが自らの意見を反復主張することで,マジョリティの非意識レベルに再考の機会を植え込む。
この”内省”の影響は,上位者からの意見の伝播とは違い,表面的言動に留まらない。自ら考え直すことで,人間の”意識”そのものを変化させる可能性を秘めているのだ。
不思議に思ったのは,禅宗の場合。
禅寺は完全なるオーウェルの「1984年」状態なのに,なぜ風狂な逸脱者が出てくるんだろう。一度「私」を殺すことで,逸脱へとつながるのだろうか。
もしくは,禅僧の風狂さは,システム内の逸脱とは異なるのか(パラシステム的逸脱?)。 -
かつて同著者の『民族という虚構』(ちくま学芸文庫)を読んで非常に共鳴するところ多く、感銘を受けたので、この本を買ってみたのだった。「選書」に収まった地味なパッケージで、書名も、心理学に興味のある人以外は手に取らなさそうなものであるが、これは凄く良い本だ。できるだけ多くの方に読んで欲しい。いずれちくま学芸文庫として出版されることを期待する。
自然科学的手法だけでは解読しきれない「心理」の学を、「科学的見せかけ」にとらわれず、縦横に論を展開する本書は、心理学上の豊穣な実験データを収録すると共に、社会論であり、哲学でさえあるような、優れた知的営為の結実である。
ミルグラム『服従の心理』(ハヤカワ文庫)のあの実験も含め、たくさんの心理学実験を本書は紹介してくれるが、我々の常識をくつがえすようなものばかりで、これだけでも本書には価値がある。
そうした実験結果を受けて、西洋の近代がたいせつに育んできた「個人主義/自由/意志」といったものを、それ自体自立した閉鎖系としては、否定する。人間は常に、無意識レベルでも社会や他者とに影響されて行動する。「選好」ですら、ほんとうに自律的な個人の感覚だけに由来するものではないのではないか。
ただし、思うに、個人主義的思考を完全に廃棄してしまうことは危険だ。私は
、個人と場所/社会/他者を地続きの流動体として考えるが、モナド的「個体性」は消失するわけではなく、ただ、「静止的モデル」としてのそれの概念を批判したいと思う。
この本は他にも、実にたくさんの問題系を含有しており、思考の材料をほとんど無数に提供してくれる。
デュルケームに拠りながら、社会が正常に機能して多様化が進めば、独創的才能と同時に、個性的な「犯罪」が頻出するのも必然だ、とする指摘には驚かされた。もちろん、だから犯罪者を罰するななどということではなく、正常な社会が必然的に犯罪を生み出すという構造を明らかにしているだけだ。
とはいえ、最近の日本を見ていると、確かに「異常に猟奇的な」殺人事件など多いようだが、それらは割合に共通の傾向を持っていて、「個性」はあまり感じない。日本国内の世論は最近とみに類型化(二極化)してきていて、本当の「多様さ」とは違ってきていると思う。これでは、まだビッグな才能は出てこない。
ともあれ、他にも「異質性よりも、同質性が高まるから差別は生まれる」など、なるほどと唸らされるような指摘がたくさんあって、本書の有用性は語り尽くせない。本当に、みんなも読んでみたらいいと思う。 -
ライフネットの出口さんの書評より、読んでみたのですが、数々の"常識"を揺るがすような実験や引用、言葉が多く、思考させられる刺激的な本でした。
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140412 中央図書館
伝統的な人文系学問のカテゴリーに縛られることなく、自由に「社会哲学」を行動心理の方向からほぐしていこうとする、講義形式の本。
内容はスリリングだが、どこまで信頼できるのか客観的なシグナルがないために、戸惑う。
フランスのホメオパシー「同毒療法」の話が面白い。第一原理:有毒物質は病人が摂取する場合は症状抑制に資する(類似の法則)、第二原理:活性物質は極微量に希釈し、薄いほど効果がある、とする。基本的にはプラシーボ効果と見られるが、これは保険が効く「治療」とみなせるのか。