ラピスラズリ (ちくま文庫 や 43-1)

著者 :
  • 筑摩書房
3.65
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本棚登録 : 1625
感想 : 112
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  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480429018

感想・レビュー・書評

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  •  2003年刊。
     初めて読む作家の、連作短編集だが、とても不思議な作家・不思議な作品だった。非常に寡作な作家であるらしく、知る人ぞ知る作家、といった存在なのであろうか。3つの賞を同時に受賞した『飛ぶ孔雀』なる2018年の作品があるようだ。本作自体、20年の沈黙を破って、と書いてあり、本当にもの凄く寡作だ。それにしても本書は評価が難しい。
     幻想小説ということで、ファンタジックな設定に基づいているのだが、一般的なファンタジー小説のような、当たり前のわかりやすさは全然無い。全改行を乱発しカギ括弧の会話でストーリーを進めていくこんにちのエンタメ小説の流儀とは真逆のやり方で、8割ほどは地の文だし、会話らしいと思ったカギ括弧の連続の部分もよく読めば一人の人物が延々と喋っているだけだったりする。
     地の文は驚くほど文学的である。影響を受けているかどうかは知らないが、何と、古井由吉氏の文体を想起させる箇所もあった。文学的に高度な表現で詩的イメージを喚起させてゆくスタイルで、恐らくその面がこの作者の真骨頂であり、作品の価値を高めていると思われる。が、一応ストーリーは進行していく。特に長い「竈の秋」ではどんどん物語が進むのだが、これが非常に読みにくく、次々に視点となる人物が移り変わってゆく書き方も、妙に混乱させられる。この長い一編では登場人物が次々にたくさん登場するのだが、人物の大体の年齢に関して記述が無いため、イメージが掴めない。
     ストーリーテリングに関して、この作家はちょっと能力が低いのか、いや、そもそも、そのストーリー自体も、あまり意味のあるものでもないかもしれない。要するにこの作品が目指しているのはドビュッシー風なイメージの連鎖なのだろう。その意味では、巧みな部分が見られるものの、それならこんなに長く書く必要は無いような気がする。
     およそエンタメ界隈の読者には全く受けなさそうな小説で、むしろ芸術として理解するべきものと思うが、それにしてはメルヘンチックな設定が邪魔をしてそっち系の読者の注意を惹かなそうだ。ジャンルの面でのこうした曖昧さは、まるで私のワガママな音楽創作のようで、どっちつかずの領域にくすぶって結局ごく一部の受け手にしか評価されない、孤独な創作として閉じこもってしまうのである。
     この作品の評価は、私には難しく、読み始めて間もなく「これは凄くいいかも」と思ったものの、「竈の秋」の長さや分かりづらいストーリーテリングなどに接して、やはりどうもつまらないような気もした。

  • 冬眠者と人形のものがたり。

  • 「冬」と「眠り」に引きずられるような幻想小説短編集。
    それぞれの話には関わりがあるようでないようで。
    片手間で読んでいたのであんまりよくわからなかった。
    けど、緻密な文章と薄暗い雰囲気ははよかった。

    今度ちゃんと読む。

  • ああ・・・
    なんて幻想的・・・
    いや、幻惑的?
    5篇の中短篇の物語からなるこのラピスラズリ・・・
    読み終えた後も、何度かチョコチョコと読み返してみても、この本の全体像がボヤけてしか見えない・・・
    物語のピースをこういうことだろうか?と組み立てていっても・・・
    ハッキリした形にならない・・・
    『正解』に近づこうとも近づけない・・・
    ああ・・・
    でもでも、それはそれで良い気がする・・・
    そして、そのせいなのか?読み終えた後のこの余韻たるや・・・
    こんな不思議な余韻はなかなか感じられない・・・
    何だか美しいモノを見た(読んだ)ような・・・
    ああ・・・
    こ・と・ば・に・で・き・な・い!

    眠い眠いとなりながら、列車の到着を待つ時間つぶしに深夜営業の画廊に入ると・・・
    三枚組の小さな古い銅版画に目が留まった・・・
    タイトルは左から順に、<人形狂いの奥方への使い>、<冬寝室>、<使用人の反乱>となっております・・・
    そう言う画廊の店主とその三枚の銅版画について話していると・・・
    それにしても眠い・・・
    それに、何だか遠い昔にもこんな話をしたような・・・
    右から順に、<痘瘡神>、<冬の花火>、<幼いラウダーテと姉>というのですよ・・・
    と物語が始まる・・・
    この導入の、最初の1篇に続く2篇3篇の物語はどうやら、その銅版画の物語・・・
    冬になると眠り続けて春を待つ、『冬眠者』の物語・・・
    同じ登場人物と思われる人も現われたりするので、ああ、繋がっているんだな、となる・・・
    銅版画が語っている物語と、銅版画には語られていない物語を楽しめる・・・
    さて、次の篇は当然、この続きと思いきや・・・
    いきなりぶっ飛ぶ・・・
    いつの時代か・・・
    おそらく未来の物語・・・
    輝かしい未来ではなく・・・
    薄暗く、廃れた未来・・・
    日本のどこかの廃市での物語・・・
    この篇で気づく・・・
    ああ、この本は・・・
    銅版画に描かれている物語の本ではなく・・・
    この本を通して脈々と連なる『冬眠者』たちの物語なんだ、と・・・
    最後の篇は・・・
    一気に遡って1226年になり・・・
    ほのかな温かさを感じさせて終わる・・・
    いや、終わるのではなく、始まるのか・・・
    いくつかの夢を見て、まどろみから目が覚めたような感じになる・・・

    こんな貴重な読書体験を味わえるなんて・・・
    この本はオススメ・・・
    冬にこそ・・・

  • 「ラピスラズリ」山尾悠子◆冬眠する『 冬眠者』、ゴースト、春の目覚めー。導入部分は引き込まれるのですが、それ以降はなんだかふわふわつらつらとした詩を読まされるようで、冬眠者たちと一緒に何度も寝てしまった。絶賛するレビューも多く見られるので、たぶん自分に合わなかったのだろうと思う。

  • 繊細かつ緻密な幻想世界という印象だった。しかし、文章があまりに独特なので読みづらく、完全には理解できなかった。機会があったら腰を据えてゆっくり読み直してみたい。

  • 本屋さんで偶然に見つけて、タイトルに魅かれて購入。 この作家独自の空間もそうだが、何よりも時間感覚が難解。小説全体の構造把握もまた難渋。初めて読んだ作品だが、よほどじっくりと向きあわないと作品世界には入っていくのは困難。

  • なんかすごいものを読んでしまった。

    連作短編のようなそうでないような。一貫しているのは「冬眠者」がキーになっているということ。
    だけど話がきちんとつながっているかというとそうでもない。だけどやっぱりつながっている、そんな不思議な一冊。
    なんというか、豪奢で、なのにどこか腐臭が漂っているような、読みながら胸の中がざわざわして落ち着かないような幻想小説。
    味わいはまったく違うのにブラッドベリを思い出したのは、ブラッドベリが私の幻想小説の原体験だからかな。
    私にとっての幻想小説ど真ん中なお話。

    それにしても、すごいものを読んでしまった。

  • みなさん高く評価されていてびっくりした。ま、人それぞれだしな。
    ゴシックホラー小説ととらえればいいのか。
    じつはとても大きな期待とともに読み始めた。
    本書ではなく初期自薦傑作選みたいなのをパラ見、文庫売り場に平積みされていた比較的新しい本書なら、入門編としてうってつけだろうと思った。読了後の感想は「うーん………」

    残念ながら私には、この作家の表現や描写がことさら美しいとは思えなかった。
    この連作集の中で唯一楽しめたのは『トビアス』くらいで、それもあえて上げるならでしかない。
    そして、自分的に『竈の秋』がもっともつまらなかったと言わざるを得ない。

    舞台設定も投入アイテムもありがち:ゴーストが住む館、冬眠はまぁ置いておいて、“彼”と接触する娘は雇い主側で感受性が鋭い(?)、凍てつく冬、冬眠するものたちが住む閉じられた世界=館の敷地、鉄門、腐葉土、外にはゾンビまで用意されている。
    おびただしい数の人形(顔面に細かいひびが入っているビスクドールもまたありがち)、ウォッチャー的立ち位置の召使い、実は悪事を働いていた美形の召使い、病に冒されて変質する召使い、庭師と子ども、双子の老婆、重々しいカーテン、渡り廊下、地震、そしてこれらはすべて竈が見せた……

    盛り過ぎじゃね?(笑)
    登場人物にしろ投入アイテムにしろ、描きたい物語のために用意されたに過ぎないため、基本的に「動いていない」。何のためにそこに在るのかまったく伝わってこない。これに尽きる。

    この一冊で決めてしまうのは早計かもしれないが、ほかの作品へ食指が動くかどうかは今のところ微妙。

  • 甘美でいてその自然さに思わずため息が出てしまうような文章。何度も読み返したくなる魔力が確かに存在する。
    最近の小説はストーリー性ばかりを重視させ、その作品が本である必要性を感じないものが多い。それはそれで良いのだが、こういった活字の素晴らしさで表現されている作品は非常に減ってきているように感じ、同時に少し寂しくもある。間違いなく私の人生の本ベストテンに入る。

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著者プロフィール

山尾悠子(やまお・ゆうこ)
1955年、岡山県生まれ。75年に「仮面舞踏会」(『SFマガジン』早川書房)でデビュー。2018年『飛ぶ孔雀』で泉鏡花賞受賞・芸術選奨文部科学大臣・日本SF大賞を受賞。

「2021年 『須永朝彦小説選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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