こちらあみ子

著者 :
  • 筑摩書房
3.57
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感想 : 333
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  • Amazon.co.jp ・本 (199ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480804303

感想・レビュー・書評

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  • な、なんだろう、この不思議な迫力は。
    ストーリーの力で読ませる小説ではない。心にまっすぐはいってくる文章そのものに、たじろがされ、時に泣きたいような気もちにさせられる。暴力的なまでに心ゆさぶられる、不穏な小説なのだ。
     あみ子には、いろんなことが理解できない。子どもの死産を、なんとか乗り越えようとしていた母の気持ちも、妹という重荷をぶんなげて荒れた兄の気持ちも、じっと耐えていた父の気もちも。大好きな「のりくん」が、なぜ、チョコレートをなめとったあとのクッキーを食べさせられて激怒したのかも。いわゆる「アスペルガー症候群」ということになるのかもしれないが、この小説がじっと視線をそそぐのは、ただ自分を中心に生きている、あみ子の内面なのである。おもしろいから笑う。気になるから聞く。そんなあみ子の容赦ない言動は、周囲の人々を容赦なく傷つけ、怒らせ、あみ子自身の前歯2本を失わせることになる。しかし、あみ子の世界の外で意味を共有するひとたちの言葉やふりあげられた拳は、あみ子の世界では力をもたない。強烈な破壊力を放つのは、あみ子の言葉だけなのだ。
    たとえば、「弟の墓」を作って母に見せたあみ子に届く言葉を兄はもたない。

    「あみ子」
    「なに」
    「あみ子」
    「なんなん」

    そして、

    「殺す」は全然だめだった。どこにも命中しなかった。破壊力をもつのはあみ子の言葉だけだった。あみ子の言葉がのり君をうち、同じようにあみ子の言葉だけがあみ子をうった。

    ほかにも、「田中先輩」になった兄があみ子を救いに現れる場面、あみ子の気持ち悪いところを「俺だけの秘密じゃ」とひきしまった顔でいう同級生との場面など、いくつもの忘れがたい断片がある。
    ことばが通じていても同じ世界に暮らしていないようなあみ子、その言葉が放つ暴力的な力は、同時に、なぜこれほど私たちの根源をゆるがすのか。そこに文学の意味をひらいてみせたこの作家もまた、底知れぬ力を秘めていそうな気がする。


    ところで表紙デザインが「人質の朗読会」とクリソツなのは、いただけませんね。作風もぜんぜん違うのに。

  • 今村夏子さんの作風が好き。
    いつも、ちょっと不思議。でも自分の日常で出会ったことがありそう。いい線を突いている。

  • 面白かった。奇妙で。
    だらだら読むばかりだった読書が、久しぶりに一気読みをしたなあ。

    あみ子は、人との会話で普通の人が無意識に感じ取れる文脈を理解することができず、学校にも馴染めない少女。

    継母の死産をきっかけに、産まれてこなかった「弟」のために木の棒に弟のお墓と、好きな男の子ののり君に書いてもらってから、母は心を病みあみ子を見ることをやめ、兄は不良になった。

    あみ子は中学生になって同級生からはキモイと言われ、授業にもろくに参加せず、謎の物音に支配され生活もままならず、ある日保健室で出会った大好きなのり君に好きだと伝えて、殴られた日。

    兄の不良になった不器用さと、こちらあみ子と投げかけに応答してくれた優しさ。
    あみ子の話に付き合ってくれたクラスメイトの男子の素朴さ。

    他短編のピクニックも面白かったー。
    ローラースケートでウエイトレスをするお店の従業員の女の子たちと年上の七瀬さんの妄想癖劇場。

    あみ子みたいな子は、どこにでもいるわけで。
    一瞬村田さやかさんかと思ったけど、今村さんの本だった。
    妙な違和感を書けるなんて、すごいなあ。

  • 人によっては読めない内容かも知れない。でも、あみ子のようなタイプの同級生を持った人がいるとしたら、あみ子を読んだ時に彼女の思いを少し知ることができるかも知れない。私は星4つ。でも、一般受けする内容ではないかも知れないと星3つにした。

  • あみこは学習障害だったと思う。お母さんの流産を機に、崩れてしまう家族をあみこ目線で書かれた小説。何故おばあちゃん

  • こちらあみ子
    ピクニック
    の2本立てですー!!

    こちらあみ子、好きな作品でした。
    なんかぶっ飛んでる、あみ子ちゃん。
    人の話も聞かず自分のことばかり話したり、
    チョコが付いたクッキーのチョコだけ舐め取って
    クッキーだけ好きな男の子に食べさせたり、
    気になることがあると風呂に入らなかったり…
    ヤバいね、ぶっ飛んでる、あみ子ちゃんー笑
    全然あみ子ちゃんに感情移入できないんだけど、
    だけど、気になる存在。
    いやー、おもしろかったー!!

    ピクニックでは、有名お笑い芸人と付き合ってる
    七瀬さんの話だった。
    遠距離恋愛してるとのことだけど、読んでるこっちとしては
    ウソなんだろうなーと思っていたけど、
    でも、七瀬さんの仕事仲間が信じている感じが
    なんか怖かったー。
    それ、信じちゃうの?って感じで。

    とにかくどっちの話もおもしろかったよー!!

  • あっという間に一気読み。
    でも軽い作品だからじゃない、読みやすい文と約150Pだから。
    あと理解力が足りてない。と思う笑
    特にピクニックはもう一度読む。

    文章は割と好き。

    ※こちらあみ子※
    半日たっても心が重たくて、理由を考えてみたのだけれど、
    多分「自分の中にある差別的な心を引きずりだされるから。」
    あみ子のことを応援したい、とか書いてる人は優しい人なんだろうな。
    私は残念ながらそう思えない。
    どうしても周りの人の辛さに共感してしまう。

    私は冒頭部分を読んで小学生の子の話かと思った。
    引越し前の「名前も覚えていない子」との会話を読んで希望がもてる(あみ子が変わる)かとも思ったけれど、
    引越し後である冒頭部分のあみ子はあまり変わっていないように思える。

    確かに無垢な子だし悪気は無い。
    だからこそ周りも諦めてしまったんだろうし、その気持ちがわかってしまう。。

    あみ子に共感のできない私だけれど、
    おばあちゃんが亡くなったらどうなっちゃうんだろう……。
    小さい頃から諦められて、隔離された子が社会に出れるわけがない。ある意味被害者だ。
    でもなんの被害者なんだろう。
    傷つけられたら距離置くたくなるのは当然だし。
    周りは悪くないよ…。とか色々考えてしまう。
    難しすぎる。

    ただ、余韻がすごく残るのは作品として正解なのでは。

    ※ピクニック※
    ずーーっとなんだか気味が悪い。
    女子世界ってこういうとこある。わかる。

    新人ちゃんは毒されず自分を持ってていい。
    って思ってたら最後七瀬さんの代わりにちゃっかり?しっかり?グループに収まってるし!

    どこからどこまで嘘だったんだろう…
    「芸能人の彼女がこんなにベラベラ喋るか?」って違和感はあったし最初からなのかな。

    本人がいないとこでも味方な風な行動を続けるルミたちが恐い。
    (訴えるか考えて見たり会えるようにハガキ送ったり)

    まぁ壮大なからかいなんだろうな。
    計画年表はまだわかるけど、
    ハガキ代かけるところがすごくない?笑

    本当に信じてて応援してたら掃除手伝うよね、
    ピーナッツは投げないで口にそのままいれてあげるよね。
    犬みたいって書いてある部分なかったっけ?
    そういうこと。だよね?こわ。

    でも大人だからこそ下手に嘘でしょ、って指摘するほどのことでもないしこれが1番なのか?
    いやでもやっぱ面白がってるよね。
    七瀬さんは悪意に気づいてたのかな。
    そんなことどうでもいいのかな。
    やっぱりもう一回読もう。

  • 『こちらあみ子』
    発達障害だと思われるあみ子。小中学生のころの記憶。
    本人に悪気は全くないのだけれど、結果的に苛立たせ、不快にさせてしまうあみ子。実の親ではないがあみ子を愛した母は鬱のような状態になってしまった。兄はグレてしまった。
    父も悲しい想いをしているが、あみ子には理解できない。

    『ピクニック』
    自分は人気の若手芸人と交際している、と話す七瀬さん。彼女の言うことを信じて”あげている”仕事仲間たち。
    彼が落とした携帯電話を見つけるため、川の泥をさらって捜索する七瀬さん。それを応援する仕事仲間たち。七瀬さんを小馬鹿にする新人。
    芸人の結婚報道が流れた後、七瀬さんは職場に姿を見せなくなった。もちろん芸人の結婚相手は七瀬さんではない。実家に戻った、と支配人は言ったが七瀬さんの部屋からは芸人が出演するテレビのテーマソングが聴こえた。

    ---------------------------------------

    どちらの話も読んでいて複雑な気分になった。感情が動かされることを感動と呼ぶのなら、これは間違いなく感動だ。でも、これはポジティブな感動じゃない。辛くて悲しい、ネガティブな方向への感動だった。ただただやるせない。

    『こちらあみ子』のトラウマになりそうな場面について

    チョコクッキーのチョコだけを食べて、クッキー部分だけを残すあみ子。
    悪気も無く、そのクッキーをのり君に食べさせたあみ子。
    数年越しにその行為に気づき、あみ子の顔面を殴ったのり君。前歯を失うあみ子。

    悲しすぎる。
    あみ子のような、集団生活が難しい生徒は特別支援学校に行くべきだったのかな。字もまともに読めないまま、義務教育を終えるあみ子が不憫だった。
    家族の不幸がすべてあみ子のせいというわけではないけど、何かもっといい方向に向かう手段があったんじゃないかな、と思う。

  • こう、読み手側にはどうしようもない破滅みたいな小説は、本当に読みながらドキドキはらはらしてしまう。
    クライマックスには号泣してしまった。
    私にも歳が近い兄がいるから。

    サキちゃんは、亡くなった妹なのだろうか。
    「ミサキ信仰」が思い浮かんだ。
    あみ子の元に辿りついたとき、彼女はあみ子を連れて行くような気がしてならない。

  • 太宰治&三島由紀夫賞、受賞作品。

    あみ子は発達障害なのだと思う。本人にまるで自覚がなくても、その言葉や行動で周りの人たちを深く傷つけてしまう。
    あみ子の両親や兄、のり君…。皆、いい人達なのだが、あみ子は無意識に感じたままの素直な心で、深く深く相手の心を抉ってしまうのだ。それ故、邪険にされても理由が分からず、あみ子と周囲の人々のズレはどんどん大きくなって、大好きな人々と離れて暮らさざるをえなくなる。
    あみ子とのり君の、「好きじゃ」「殺す」で、胸がつまった。分かり合えることはないんだ…と。
    なんというか、読んでいて苦しくなる話だった。

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著者プロフィール

1980年広島県生まれ。2010年『あたらしい娘』で「太宰治賞」を受賞。『こちらあみ子』と改題し、同作と新作中短編「ピクニック」を収めた『こちらあみ子』で、11年に「三島由紀夫賞」受賞する。17年『あひる』で「河合隼雄物語賞」、『星の子』で「野間文芸新人賞」、19年『むらさきのスカートの女』で「芥川賞」を受賞する。

今村夏子の作品

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