父と私の桜尾通り商店街 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 122
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041118962

作品紹介・あらすじ

店を畳む決意をしたパン屋の父と私。引退後の計画も立てていたのに、最後の営業が予想外の評判を呼んでしまい――。日常から外れていく不穏とユーモア。今村ワールド全開の作品集!

感想・レビュー・書評

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  • かっちゃん、
    ゲップしてごらん…


    結局、ナミちゃんとナミちゃんのお母さんは何だったのだろうか。

    最後、「ゲフゥッ」とかっちゃんではなく、お母さんがゲップした時、私は
    え?かっちゃんじゃないの?お母さんが?
    と思った。
    そして、
    そのとき、
    あることに気がついた。
     私はかっちゃんにゲップして欲しかったんだ…
     かっちゃんのゲップを待っていたんだ…

    鳥肌がたった。



    この本は短編集で、上の文章は「冬の夜」という話。
    「冬の夜」はこの文庫にしか載っていない。
    そして、この本には今村夏子のインタビューも載っていた。

    今村夏子のインタビューでは、
    短編一つ一つの作品について
    話しているのだが、なぜか
    「冬の夜」だけ載っていない。

    今村夏子はいつも、
    あのような少し切ない物語を
    書きたいわけではない。
    書いているうちに
    段々あのようになってしまう
    と話していた。


    「せとのママの誕生日」には、
    あんな思いがこめられていたなんて…
    彼女達は、ママのことをあんな風に
    思っていたんだ…
    面白すぎる…



    かっちゃん、
    ゲップしてごらん…

    • ういさん
      やっぱり、みどりのハイソックスさんの感想は心に響きます。
      尊敬です!
      やっぱり、みどりのハイソックスさんの感想は心に響きます。
      尊敬です!
      2023/04/08
    • みどりのハイソックスさん
      本当ですか!?笑
      ありがとうございます!
      本当ですか!?笑
      ありがとうございます!
      2023/04/12
  • 些細なことから思わずエスカレートしすぎる、危うい女性たちを描いた短編集。
    どのお話も現実にありそうなシチュエーションで始まるのですが、話は思わぬ方向に進んでいきます。
    出てくる人たちの言動に意表を突かれ、笑いを誘われ、そしてその純粋さに切なくもなります。

    「スナックせと」で働いていた女の子たちが、ママの誕生日に集まる話「せとのママの誕生日」は、「こちらあみ子」に収められていた「ピクニック」を思い出させてくれます。

    「モグラハウスの扉」や、「父と私の桜尾通り商店街」は小学生の子どもたちが出てくるせいか、無邪気さが一段と増して、異様な雰囲気も漂っています。

    「冬の夜」では、産婦人科の病室でカーテン一枚を隔てた、顔も見えず会話だけが聞こえる隣同士で、お互い勝手に想像をめぐらしているという場面があって、今村さんらしい視点だなと思いました。

    今村さんの作品を読むのは3作目なのですが、読めば読むほど愛着が湧いてくるのです。
    本当に不思議な作家さんです。

  • 少し不器用であっても、ひたすら一生懸命な人に感じる魅力って、人を惹きつけるんだと思うとやっぱり少しホッとする自分がいる…

    7つの短編集。
    表題作の、焼きたてのコッペパンで作るサンドウィッチが美味しそう。

  • 一般常識とされている感覚からずれた主人公たちの純粋な行動が、危うい均衡を失って、世間から残酷な仕打ちを受ける一瞬が書かれている作品集という印象。
    どの作品も、じわじわと鈍い痛みを与えてくる。
    けど、主人公たちのちょっと歪んだ世界観では、どの作品もハッピーエンドともいえるのかな、せめてそうであってほしい。

    主人公の行動と周りの反応の落差が大きくて、ショックが大きかったのは「白いセーター」「父と私の桜尾通り商店街」。
    登場全員の気持ちが一方通行な「ルルちゃん」のぼんやり不気味な感じが好き。
    「ひょうたんの精」のコメディと切なさが紙一重な感じも好き(「ピクニック」に似た構造なのかな?)。

  • 痛いとこ突くし、野暮でクドいし。意識の中で処理する恥ずいとこ、わざわざ集めてる。スマートな時代に鈍臭い哀愁?みたいなの漂ってる。でもこれってシンパシーかな。自分も生き辛さ感じてるし、結構怯えてるし。

  • 「父と私の桜尾通り商店街」というタイトルと表紙からほのぼの系を想像したけど、良い意味で裏切られる。

    短編集で全て、ぞわっとするようなムム?みたいな感じがあるのだけれど、個人的にはひょうたんの精が一番好きかな。良い話になるかと思いきやぐぐっと方向転換しちゃう感じがいい。

    せとのママの誕生日も、書き方によってはかなり事件性のある話なのに淡々と綴られてるからか、やり過ぎーって思いながらも何かこわ面白くなってしまう。

    解説も含め、今村さんだなぁって本だった。

  • ヒィーっと心の声を上げつつ、もう一回読んでみたくなるほどに、謎スパイスが効いている。

    「父と私の桜尾通り商店街」
    商店街というコミュニティにいて、そこから外れたパン屋さん親子。
    小さい頃から店にネズミが出るといじめられ続けた「私」は、父が店をようやく閉め、故郷に帰ろうとすることに、確かに安堵したはずだった。
    その最後に、出会ってしまったお客さん。
    彼女が「誰」であっても、「美味しい」と〝分かってくれた〟そのことが「私」を変えた。
    実は敵だったとか、ライバルだったとか、そんな概念よりも強固な〝お客さん〟という聖域に向けて、ひたすら新種のサンドイッチを作り続ける「私」が奇異に映るのは何故なんだろうか。

    誰かのために、一生懸命何かを生み出すこと。
    それによって、廃れたお店が復活を遂げること。
    素敵なドラマだ。
    その誰かが「ライバルのパン屋の店主」であり、「単に商店街にあるもう一つのパン屋に偵察に来ただけ」であるという、強烈なディスコミュニケーションが生じていること以外は。

    この果てしないズレをしっかりと匂わせながら、どの作品の主人公も、そのズレを増幅させる方向に意識を集中させていく。

    よく考えてみたら、何かに惜し気もなくハマる姿って、誰しもどこか奇異なのだろう。
    そして、そんな世界に浸っている人間を、「見ている側」はどこか自分が主流ぶったような、呆れや笑いを浮かべている。
    気持ちの悪い合わせ鏡のように。

    「白いセーター」「ルルちゃん」
    「ひょうたんの精」「せとのままの誕生日」
    「冬の夜」「モグラハウスの扉」

  •  少々不器用でかなりズレた女性たちを描いた短編集。
     ホラーあり、ファンタジーあり、そして不条理あり。今村夏子ワールドを堪能できる7話を収録。

          * * * * *

     気に入ったのは第3話「ひょうたんの精」。こんな話は大好きです。それにしても、七福神ってみんな神様じゃなかったの? なんか怖いよ。

     それから、ほのぼのした展開で進む6話目の「モグラハウスの扉」。珍しくハッピーエンドかと思いきや……。みっこ先生の目には本当にモグラハウスが映っていたのか!? 気になります。
     
     そして表題作となる最終話。
     商店街組合の中で村八分の状態に置かれたパン屋父娘の話で、娘の視点で描かれます。

     パン屋父娘といえば最近読んだばかりの『じゃない方の渡辺』を思い出し、斜陽傾向の商店街にある小さなパン屋を、娘さんが父親を盛り立てつつ繁盛させていく話かなと(半ば希望的な)予想を立てて読んでいきました。

     まったく違いました。娘さんのパン屋魂に火がつきはするのですが……。
     そこはやはり今村夏子さんでした。

     思えば、7つの話すべてが予想外の展開になり、呆気にとられているうちに締めくくられているのです。(いや、そもそも物語に収拾をつけようとしているフシすら感じられないのだけれど……。)

     ああもやもやする。この気持ちをどうしてくれるのかと、今村さんの作品を読むたびにいつも思います。
     けれど、しばらく時間が空くと今村ワールドを覗いて見たくなるのが不思議です。
     ある意味、期待通りの作品でした。

  • 今村夏子「父と私の桜尾通り商店街」書評 切なく輝く 悪意に傷ついた心|好書好日
    https://book.asahi.com/article/12326558

    今村さんにきいたこと――今村夏子『父と私の桜尾通り商店街』文庫巻末解説【解説:瀧井朝世】 | カドブン
    https://kadobun.jp/reviews/entry-45242.html

    「父と私の桜尾通り商店街」 今村 夏子[角川文庫] - KADOKAWA
    https://www.kadokawa.co.jp/product/322106000367/

  • 何かやらかしそうな人がいっぱい出て来て不穏‥‥を通り越して薄気味悪い(褒め言葉)。

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著者プロフィール

1980年広島県生まれ。2010年『あたらしい娘』で「太宰治賞」を受賞。『こちらあみ子』と改題し、同作と新作中短編「ピクニック」を収めた『こちらあみ子』で、11年に「三島由紀夫賞」受賞する。17年『あひる』で「河合隼雄物語賞」、『星の子』で「野間文芸新人賞」、19年『むらさきのスカートの女』で「芥川賞」を受賞する。

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