- Amazon.co.jp ・本 (426ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488013523
感想・レビュー・書評
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「薔薇の名前」ウンベルト・エーコ読了。
訳者の河島英昭氏の巻末解説にも有る通り、重層化された物語は、色々な書物を知れば知るほど、この作品はまた意味を増すのだろう。
取り敢えず、そんなに書痴と言うほどでもない自分の物語の概要と感想としては以下。
物語は7日間の出来事で構成されている。教皇派の極北とも言える、古今東西の宗教に纏わる書を翻訳する為の中世イタリアの僧院にて起こるヨハネの黙示録にも似た殺人を追うことになる、皇帝派が派遣したウィリアムと、この物語の語り部となる若き修道士アドソが主人公となる。
殺人の謎を追うミステリとして読むも良し。然し物語は中盤からピュアリズムを持つ教皇派とそれに反する皇帝派に異端派も加わり、宗教論争として何が神学の真理で有るのかを問う物語となっていく。
物語は並行して進行するとある書を巡る神学的価値がキーポイントとなって行く。前記した僧院が象牙の塔と化するのは、とある書がその存在を隠されているから、それを隠す者とその意図を追うのが、この作品のホームズとワトソンとも言えるウィリアムとアドソとココがミステリの体。
最終的にそれはピューリタントの価値観を崩壊させるとある哲学書がキーとなって来る。
僕としては最終的に出て来る以下の言葉を持ってこの書の意義としたい(七日間のうちにある若き迷えるアドソの経験(女性、宗教論争、etc..)も語り部として大きなキーとなってくるのだけど)。
「ホルヘがアリストテーレスの『第二部』を恐れたのは、そのなかで、たぶん、わたしたちがおのれの幻想の虜にならないようにするためには、真理と名のつく相貌を一つ一つ歪めてみるように、真剣に説かれていたからであろう。おそらく、人びとを愛する者の務めは、真理を笑わせることによって、真理が笑うようにさせることであろう。なぜなら、真理に対する不健全な情熱からわたしたちを自由にさせる方法を学ぶこと、それこそが唯一の真理であるから」
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名にしおう、なかなか読みでがある小説。正直読むのがメンドクサイ本。メイン?の推理小説的な部分はまあそれほどではないが、記号論といわれてもちょっと面倒。中世神学とか異端とかキリスト教関係にはそれなりの知識が必要。興味深かったのは最後の「神トハタダ無ナノダ」というところ。
ま、それはそれとしてあまり語られていない(と思うのだが)点では中世からルネサンスに移ろうとしている時代がうまく描かれているのではないかと思う。教皇とか皇帝とか異端審問とか問題がありすぎて、このままではどうしようもない様子がわかる。もちろん小説であって歴史書ではないので基本フィクションではあるが、そんな状況だったのだろうなあと思わせる書きぶりである。
一応読み終わったのだが、関連書などを読んだうえでもう一度チャレンジしなければならない本かもしれない。
(なお、評価は暫定) -
推理小説風の仕立てになっているが、登場人物の科白を借りた哲学や政治思想の入門書、と言ってよいだろう。
主人公のウィリアム(≒ホームズ)はイギリス人の設定なので慎重かつ中庸で曖昧な「経験主義」に信を置き、一見スマートだが実質は頭でっかちで思慮が足りず、物事を性急に進めては取り返しのつかない大失敗を繰り返す、サヨクが大好きな「理想主義」を疑う。
民(平信徒)は啓蒙すべきだが、食うや食わずの生活に追われる短慮な者に生半可な知識を与えて重大な結果を引き起こすリスクも考慮せねばならず、かといって学問の機会を生まれによって得ただけのエリート(修道僧)が現在の秩序を固定するために知識を封印する姿勢には断固として対決する。
物語で現実として勝利を収めたのは、正義も大義もなく、目的を遂行するために手段を選ばない異端審問官と、神の権威を脅かす知恵の源を結果的に葬り去った真犯人であり、中庸の理想は宿命的に敗北する。
それでも、知識の破片を拾い集め、師の理想を文書として後世に伝える弟子アドソ(≒ワトソン)の存在が、人間の未来に対する希望なのかもしれない。 -
上下巻各400頁超、随所に散りばめられた宗教、哲学モティーフ。難解、にも関わらず、するすると、ぐいぐいと読み進めてしまう。
世界は言葉によって作られているので。
言葉に対する圧倒的信頼と懐疑と。
あまりにも有名なラスト、〈過ギニシ薔薇ハタダ名前ノミ、虚シキソノ名ガ今ニ残レリ〉。
シェイクスピアが、「薔薇という花を違う名前で呼んでみても、美しい香りはそのまま」と綴ったように。砂上の楼閣。うつつはまぼろし、偏に風の前の塵に同じ。
作中では名前を明かされなかった「昇り切った梯子は投げ棄てねばならない」と論述したのは、人生に最も影響を受けたヴィトゲンシュタインで、そういった記憶の扉をコンコンと叩いてくれるアイテムがたくさんあって、とても楽しい。 -
読了するのが惜しいと思えた。もう一度最初から読み直したくなるほど。修道士たちの聞き慣れない言葉遣いに行きつ戻りつし、言語という記号に翻弄される自分に気づく。歴史として外から眺めるのではなく、中世の内側から(作者の生きた時代の中から)描かれた物語である。
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上巻よりも展開が気になり、するする読めた。
犯人の動機がまったく理解出来なかったが、これはキリスト教に詳しいもしくはキリスト教徒だったら賛同はしなくてもわかるものなのだろうか。現代の感覚で読んではいけないのだろうが、笑いをここまで否定することがわからない。現代で置き換えたらどういう感覚なんだろう??
知識不足ゆえ真の面白さの1割程度しか楽しめていないんだろうな。それでも面白く読めたので、映画も機会があれば観てみたい。
各章の小見出しがネタバレになってしまっているのちょっと残念。 -
久々にすごい本読んだ。
ハリーポッターが読みたくなった。 -
とんでもない本だった。非キリスト教文化圏の人間には到底理解しきれそうにないことがわかっただけでも収穫。訳者による解説も読みごたえあり。
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2020/09/30
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とても難しかった。中世イタリアの政治、宗教の知識がないと簡単に読み進めない。
読後、ショーン、コネリーの映画を見たので何となくイメージが湧いた。
しかし、最後の最後でまた、どういうこと?と。
これは、笑うとこなのかもしれないが。深い深い推理小説でした。