薔薇の名前〈下〉

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (426ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488013523

感想・レビュー・書評

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  • "いつか辿り着きたいと思っていたミステリーの頂に、一度だけ足を踏み入れてみた"といった読書体験だった。この物語との対峙はこれで終わりではなく、「10年後にまた会おう!」と言いたくなるような物語だった。

    ミステリー小説の世界最高傑作とも言われる「薔薇の名前」。超難関な物語を覚悟して読んでみたところ、意外なほどにすんなりと読める。プロローグこそ難解な文章が続くが、本編が始まってみると文章は非常に読みやすい。
    物語の構成も突飛なところはなく、ホームズとワトソンを思わせる二人組が、ある閉鎖環境で起きた殺人事件の謎を解いていく。迷宮のような館を舞台に隠された暗号を解読しながら、黙示録に見立てられた連続殺人を解決。まさに基本で王道なミステリーのプロットだ。

    しかし、そこに圧倒的物量の情報の洪水が押し寄せている。キリスト教の様々な宗派、様々な立場の登場人物が「異端とは?正統とは?」という問いに対し、持論を語りまくる。
    メインシナリオは一行に進まず、ただただ情報が溢れる。
    似ている小説で言えば「ダ・ヴィンチ・コード」。ただ、ダ・ヴィンチ・コードをより知的で難解にしたよう。流れ混んでくる情報が「薀蓄」ではなく「思想」だから重みが違うのだ。

    最後の訳者による解説に、”『薔薇の名前』には読み解くべき物語が重層的に嵌めこまれている。読者は、豊かな読書経験を持てば持つほど、たくさんの物語をこの小説のうちに見出すであろう"とある。
    まさにこれが『薔薇の名前』の最大の特徴。聖書やキリスト教に関する知識、世界史の知識。このあたりのピースが決定的に欠けていたため、今回の読書では『薔薇の名前』の表層を撫でただけにすぎないのはいたいほど感じている。
    だからこそ、今まで以上の豊かな読書体験を積んで、もう一度この小説を読みたい。

    "犯人が捕まり事件が落着したときに、慰め(エンターテイメント)の文学が終わったところに、文学の大道が始まる”"それぞれの犯罪には、結局、別の犯人がいるか、誰も居ないことを、発見したのだった”
    と語られる本作の結末を、いつかもっと深い場所で理解できるように、これからも豊かな読書を続けていこう!

  • ほとんどのレビューが沢山の星を与えているのに、そこまでの魅力を感じることが出来なかった。

    最大の理由は、日本語が難しすぎて十分な理解が出来ない。

    原文由来の難しさなのか、訳の問題なのか、それともやはり、自分の読解力の問題なのか?

    そして、僧院内部の細かな記述がビジュアライズ出来ない。

    プロテスタントではあるけれど、普通の日本人に比べればはるかにキリストに触れている自分が、書かれている記述を頭に描けない。イタリア、フランス、イギリスの教会を経験しているのでそこそこは分かるにしても、理解出来ないで文字だけを追って行くのはつらい。

    確かに、修道士が殺され、ウイリアムとアドソによる犯人探しの推理が始まった所は、いよいよ来たか!っと感じたが、その後の展開に大きなドンデン返しがある訳でもなく、最後まで読み進めるのがどんどん辛かった。

  • キリスト教、黙示録、異端と正統。
    こういったキリスト教についての事柄が物語全編に記されている。
    キリスト教に馴染みのない日本人には読みにくいところも多いと思う。寧ろ、キリスト教徒であるわたしの方が考え考え読むため読み進めることが難しかった。

    多くの変死事件が閉ざされた空間である修道院で起きる。その事件の謎を解く探偵小説として十分愉しめる。
    信仰に生きるひとが集う修道院で、何故ひとが殺されていくのか。
    殺人事件とは縁遠いはずの場所で起きる事件の背景には、人間が人間であるがゆえの様々な欲が渦巻いている。

    謎の“アフリカの果て”とは何のことなのか。
    誰が犯人なのか。
    修道院はどうなってしまうのか。
    こういったことが名探偵ウィリアムとアドソの推理と活躍によって解き明かされる。

    修道士となるときは誰もが敬虔な信者であったはずなのに、欲に負けてしまったり信仰を歪ませてしまう。
    人間が人間である以上、誰もが罪深い。
    だからこそ、ひとは神に縋るのだ。

    言葉は記号。
    この記号の意味することを知りたいと望み、記号が正しく伝わらないと諍いが起きる。
    記号論学者であるエーコならではの作品だった。

    真の愛とは愛される者の喜びを願うものだ(p225)

    この言葉は愛を簡潔に説明している。

    神様はいつもわたしたち人間を深い愛で見守ってくださる。
    教会に行かなくちゃ。

  • 超絶有名な作品をようやく読んでみたら、もっと早く読んでおけばよかった……!と後悔するぐらい面白かったです。
    舞台は中世イタリアの修道院。そこで巻き起こる連続殺人事件を、探偵役であるフランチェスコ会修道士のウィリアムと、その弟子であるベネディクト会見習修道士のアドソが、事件解決に向けて奔走する七日間を描いた作品。年老いたアドソが、若き日に遭遇した事件を回顧しながら書き記していく体裁。
    さすが作者が専門家なだけのことはある。キリスト教世界の重厚な思想がこれでもかっ!とばかりに詰め込まれており終始圧倒されっぱなし。中世西欧の歴史文化知識がなかったとしても、残された記号から謎解きしていくミステリー仕立てのストーリーだけでも十分に引き込まれるのでどんどん読み進める事ができる。
    頭脳明晰なウィリアムはかっこよく、アドソ少年はちょっと抜けてて可愛い。ホームズとワトソン君。面白い。
    もっとキリスト教の知識を蓄えてから読むと、各登場人物の行動理念を納得出来て楽しめるんだろうなあと思った。またいつか再読したい。

  • 神の止めどもない意思によるとすれば、この世でおきるあらゆることは異教徒の行いさえ予定調和‥‥アンチ・ミステリとも読める最後。あまりにも宗教的小説の何層にも渡って挟まれた宗教的寓話が読み解けない文化圏知識層にあることを悔やまれた。しかし解説では尚も、ラテン語などふんだんに使われた言葉は原文では解せるイタリア人は少なく、文字を記号として見るという装置であり、無理に翻訳せず記号として扱うよう、翻訳に際し、記号の研究者であり記号を愛する作者から、指示さえあったという。
    それでもラテン語部を片仮名表記にしてくれた訳者の老婆心に日本語読者として感謝を表明したい。小説的にこの翻訳を行ってくれたことも、大変ありがたかった。記号でも、読みたいのだ。作者と同じようにはくみ取れなくとも。せめて、文字が読める間、翻訳ができる間だけでも。様々な本を翻訳している名も無き修道士が過去から現代に到るまで幾重に登場する舞台(増院)であるが、暗に描かれていたのはその翻訳という作業への熱意ではなかろうか。‥‥あらゆることを穿ちたくなる小説なので、こんなことを思っても許されるんじゃないかしらん。

  • 中世イタリアの僧院を舞台に次々と死者が出る。そして、最後は壮絶なクライマックスを迎える。

    あらすじ自体も複雑なうえ、背景となるキリスト教の歴史の理解もないから読むのに骨が折れた。また、セリフや描写が長いところも本書を難しくしている印象。

    ただ、内容はそれを上回る面白さだった。話が重層的に折り重なっており、推理小説やミステリーという範疇にくくれない深さを持った作品に思えた。

    主人公の一人のウィリアムが、ブリテン島出身者のステレオタイプらしく描かれたところは妙にツボにはまった。

  • おもしろかった〜!
    イタリア古典は神曲地獄編くらいしか読んだことないけど、デカメロンくらいは読んでおかないといけないなあ。勉強すればするほど楽しめるとなると果がない、、!
    薔薇の名前と彼女の名前を村上陽一郎さんが考察したというものが解説に載っていたけど、私はちょうど市民ケーンを観たばかりだったのでやはり彼女の名前すなわち愛という印象を強く受けた。
    これはそのうち読み直したいしその時こそは読み飛ばした議論のあたりも理解してみたい

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784488013523

  • 上巻の終わりから坂を転げ落ちるみたいにどんどん面白くなっていく。

    アリストテレースの詩学が読みたくなった。

  • 90年代初頭に国内外の読書界の注目を集めた話題作。 以下、あらまし。
    ※ネタばれを含むかもしれない。 

     中世、14世紀イタリア北部の僧院を舞台に殺人事件が起る。この僧院を訪れていた元異端審問官ウィリアムが、博学と鋭敏な知性で事件の謎に迫ってゆく。物語はウィリアムに付き従う見習修道士アドソが回顧した手記という形式をとっている。北イタリアの山岳部に要塞のように聳える僧院を舞台にしたゴシックな味わいのあるミステリーでもある。

     物語の背景は重層的で入り組んでいる。
    欧州全体を二分した聖俗の抗争、教皇と皇帝の確執。教皇派修道士会と皇帝派修道士会のせめぎ合い。清貧さを巡る宗教論争。正統的教義と異端とされる教義。さらに、僧院に於いては、欧州各国から参集した各会派の修道士と、地元イタリアの修道士との確執。無数の会派(セクト)の論争。男色、女色…。
     修道士が次々に惨殺されてゆく一方で、僧院に渦巻く混み入った状況が浮かび上がってゆく。同時に、中世キリスト教世界のイデオロギーと権力構造が、物語の中に“入れ子”状に描き込まれてゆく。
     
     一方、僧院はキリスト教世界最大といわれる膨大な蔵書を誇る文書館を有する。この文書館は複雑な迷宮構造で作られている。事件の真相を探求するウィリアムは、この迷宮文書館の深奥に修道士達が命を賭して追い求める禁断の書の存在を嗅ぎつける。中世キリスト教世界を震撼させると恐れられ、凄惨な事件の原因ともなる、その書物とは…。 
     
     イスラムの文化を記述したアラビア語の書物やギリシア語の書物など、中世の広範な領域から蒐集された蔵書を有する文書館(図書館)が魅惑的である。希少本や奇書に瞠目しながら迷宮を探索してゆくウィリアムの興奮が伝わってくる。

     濃密で、奥行きが深い。 細部まで丹念に読み解き味わうには、相当の教養が前提になる作品である。
             

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著者プロフィール

1932年イタリア・アレッサンドリアに生れる。小説家・記号論者。
トリノ大学で中世美学を専攻、1956年に本書の基となる『聖トマスにおける美学問題』を刊行。1962年に発表した前衛芸術論『開かれた作品』で一躍欧米の注目を集める。1980年、中世の修道院を舞台にした小説第一作『薔薇の名前』により世界的大ベストセラー作家となる。以降も多数の小説や評論を発表。2016年2月没。

「2022年 『中世の美学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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