犯罪心理捜査官セバスチャン 下 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • / ISBN・EAN: 9784488199043

感想・レビュー・書評

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  • 母が死に、薄情な息子は実家の処分をするためだけに故郷に帰って来て、高校生男子が心臓を抉り取られた遺体で発見される事件に遭遇する。かつて仕事仲間だった捜査班の責任者であるハンケルに捜査に加わって欲しいと言われ、実家で見つけた手紙の主である、かつて自分が火遊びをした女子大生が自分の子供を生んでいるかもしれないので、捜査に参加し警察のコンピューターをこっそり使って現住所を何とか調べられないか、と言う、全くの私欲で捜査に参加するセバスチャン。スマトラ沖地震の津波で妻子を一度に失うと言う喪失を抱えているとは言え、同情の余地なしなくらいに身勝手でセックス依存症気味な彼を、人は「嫌な奴」と分類する。セバスチャン自身も、深い喪失を抱えナイーブな面を持ち合わせているとは思えないくらい、普段の振る舞いは傍若無人である。読んでいて、この位に嫌な奴は普通に存在しているよ、こういう人間と仕事以外では付き合いたくないと遮断しているのでしょっちゅう遭遇してない気でいるが、と思いつつ読んでいて、殺人事件の核心に迫っていく臨場感と共に、セバスチャンはどこで「心理捜査官」としての顔を煌めかせるのだろう、と言う期待感で読んでいた。
    セバスチャンは嫌な奴、卑怯とも言える程に自己中心な人間だ、最後までそうであったと言えばそうなのだが、犯人の心理を読み、一人説得に向かう様は「職業病」と言うよりは犯人の心の中が行き着くところが解ってしまうから、解ってしまう「人間」として対処したと思えた。犯人に深い同情を示すわけでもなく、職業人として自尊心を持って対峙すると言う大義名分も振りかざさず…ただ「話をしないといけない」と言う単純な方法を選択した、と言うだけで。
    作中、私はあまり女性登場人物には感情移入しないんだが、この捜査チームの中で一番真面目に仕事してるな、と思ったヴァニヤが「誰で」あるか解るラスト、これがシリーズもの第1作目である事を踏まえると、次作が楽しみで仕方ない。

  •  最後の一撃にやられた。これは予想していなかった。
     心臓をえぐり取られた被害者という設定はサイコスリラーの様相だが、実際には警察小説。スウェーデンの殺人捜査特別班の面々が地方で起きた殺人事件を捜査する。主人公のセバスチャン・ベリマンは自信過剰でセックス依存症の迷惑男。捜査に関わったのも個人的な目的がある。ユーモラスな半面、スマトラ島沖地震による津波で妻子をなくした過去にとらわれている。他のメンバーも個性豊かに描き分けられ、入り組んだ人間関係も読みどころだ。
     事件が終わった後に描かれる最後の一撃が効果的なのは終盤に立ち上がってくる家族のテーマと密接に絡んでいるから。これはうまい。訳者あとがきによれば、シリーズは現在、第4作まで続いているとのこと。続きが読みたくなる。

  • 心臓をえぐり取られた少年の死体。国家刑事警察の殺人捜査特別班に潜り込んだ心理学者セバスチャンは自信過剰で協調性ゼロのSEX中毒者だった。

    サクサク読める。面白い。
    きちんとツボをついた書かれ方をしている。
    キャラクタもそれぞれがちゃんと個性を持っている。
    泣かせどころもある。
    バランスのよいエンタメ系ミステリだと思う。
    だからこそ突出したものがなかったのが残念。
    セバスチャンが最後まで不遜でいたらまた印象も違っただろうに。
    でも、だからこそ次も読んでみたい。大化けを期待して。

  • セックス依存症で誰彼構わず口説き落とすトラブルメーカーの主人公セバスチャン。表紙や帯の印象から優秀な変人捜査官という感じでもっとユーモア色が強いのかと思っていましたが、考えていたよりも真面目な雰囲気でした。
    彼が背負うものが重く、非常識な言動にもコミカルな要素は希薄でしんみりしたりイラッとしたり。

    とはいえセバスチャンが捜査に参加するあたりからは軽快になっていきます。ごくごく個人的な理由で参加した事件にも、口ではどうでもいいと言いつつのめりこんでいき、生き生きと嫌味の言い合いをしているのは楽しい。
    他の捜査官たちも負けず劣らずの個性派揃いです。

    事件は心臓をえぐり取られた少年の死体の発見という猟奇的なものですが、人間ドラマの方が充実しており事件関係者のみならず捜査陣の方にも様々な問題が浮き上がっていき混迷を極めます。

    着実に事件が真相に向けて進展していくにも関わらず、被害者少年の人物像が最後の最後までいまいちハッキリしないというのが謎めいていておもしろかったです。
    周囲の人物にスポットを当てていき真相を覆い隠していくのも丁寧。
    最終的に少年に深く注目した時に真相に繋がるというのは心理捜査官の面目躍如でした。

    そして最後のオチにはビックリ。やりたい放題だったセバスチャンの唖然とした顔が目に浮かぶようでニヤリとしました。

    私情で捜査に影響を与えてしまう警察の面々はちょっと鬱陶しかったですが、新たな展開を迎えてセバスチャンの傍若無人ぶりや捜査チームがどうなるのか、シリーズのようなので今後も注目です。


    ネタバレ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・












    個人的事情に左右され中途半端に解決を急ぐ捜査官たちと、事件に興味がなかったにも関わらず真相を掴むセバスチャンという対比が良い。

    校長や母親など怪しい人物が前面に出ており、セバスチャンの悪癖もあって事件の要である女教師が上手く隠れていました。

    「殺人者ではない男」という書き方を最初からしているのですが、これのせいで殺人犯のサプライズが弱まったように感じます。

    無味乾燥な生活をしていたセバスチャンが、事件を通して人生の刺激を感じていき、最終的に犯人の少年に対して真摯に向き合った姿にはぐっときました。

    ハラルドソンはあれだけ引っ張ったのだから最後の最後に大活躍があるのかと期待しましたが、撃たれただけだったのにはちょっと残念。

  • もっとワンマンショーか思ってたけどチームもなかなか個性あっていい感じ。テンポもいいし。
    カバーも自分的にツボ。

  • 第一作で読むのをやめており数年経ってしまった為、続編読むついでにこちらも再読。
    記憶以上にセバスチャンが鬱陶しいんだけど?!
    本当に鬱陶しかった。けど小説としては面白い。これから4作目まで読むつもり。

  • スウェーデン作家「ミカエル・ヨート」と「ハンス・ローセンフェルト」の共著の長篇ミステリ作品『犯罪心理捜査官セバスチャン(原題:Det fordolda、英題:Sebastian Bergman、米題:Dark Secrets)』を読みました。

    「ヨナス・ヨナソン」の『国を救った数学少女』に続き、スウェーデン作家の作品です… 北欧ミステリが続いています。

    -----story-------------
    〈上〉
    「息子が帰ってこないんです」警察にかかってきた一本の電話。
    少年は心臓をえぐり取られた死体で発見された。
    センセーショナルな事件に、国家刑事警察の殺人捜査特別班に救援要請が出された。
    四人の腕利き刑事。
    そこにひとりの男が加わった。
    「セバスチャン・ベリマン」、かつてのトッププロファイラー。
    だがこの男、自信過剰で協調性ゼロ、アドレナリンとセックス中毒、捜査中でも関係者を口説いて寝てしまう、はた迷惑な奴だった。
    スウェーデンを代表する脚本家がタッグを組んだ、注目の北欧ミステリ。

    〈下〉
    殺された少年は以前に通っていた学校でいじめられ、裕福な子どもが通う高校に転校していた。
    母親、ガールフレンド、友人、担任と、証言を得るうちに変化していく少年の姿。
    一方、トラブルメーカーの「セバスチャン」が加わったことで、殺人捜査特別班には波紋が広がっていた。
    被害者も証人もそして捜査陣もみな秘密をかかえるなか、「セバスチャン」自身も実はある事情を隠して捜査に加わっていた。
    登場人物の強烈な個性が光るシリーズ開幕。
    訳者あとがき=「ヘレンハルメ美穂」

    *第3位『IN★POCKET』2014年文庫翻訳ミステリーベスト10/読者部門
    -----------------------

    2010年(平成22年)に発表された「犯罪心理捜査官セバスチャン」シリーズの第1作… スウェーデンを代表する脚本家の二人「ミカエル・ヨート」と「ハンス・ローセンフェルト」がタッグを組み、傍若無人、傲岸不遜、自信過剰で協調性ゼロ、女たらし(セックス中毒)の犯罪心理学者を主人公に据えて描かれた作品、、、

    主人公の「セバスチャン・ベリマン」だけでなく、他の登場人物も非常に魅力的だし、ストーリーも波乱に富んでいて、とても愉しめる、面白い作品でした。


    ストックホルムにほど近い静かな町ヴィステロース、「息子が帰ってこないんです」ヴェステルロース警察にかかってきた一本の電話、それがすべての始まりだった… 行方不明だった16歳の男子高校生「ローゲル・エリクソン」は心臓をえぐり取られた死体で発見された、、、

    地元ヴィステロース警察の刑事部長「シェスティン・ハンセル」要請を受けて、国家警察の殺人捜査特別班の「トルケル・ヘーグルンド」をリーダーとする、「ウルスラ・アンデション」、「ヴァニヤ・リトネル」、「ビリー・ロセーン」の4人の個性的で腕利き刑事が捜査に乗り出した… そこにひとりの男が加わった、男の名は「セバスチャン・ベリマン」、殺人捜査特別班のかつてのトッププロファイラーだが、この男、自信過剰で協調性ゼロ、アドレナリンとセックス中毒、捜査中でも関係者を口説いて寝てしまう、はた迷惑な奴だった。

    殺された「ローゲル」は家庭に恵まれず、以前の高校ではいじめに遭い、裕福な子どもたちが通うパルムレーフスカ高校に転校したという過去があったが、転校先でも友達が少なかったという… 母親の「レーナ」、ガールフレンドの「リサ・ハンソン」、友人の「ヨハン・ストランド」、校長の「ラグナル・グロート」、担任の「ベアトリス・ストランド」と、証言を得るうちに次第に浮かび上がり、変化していく少年の姿、、、

    捜査が進むにつれ、パルムレーフスカ高校には隠された問題があることが分かってきた… さらに、「ローゲル」の心理士「ペーテル・ヴェスティン」が殺害され、家が放火されるという新たな事件まで発生した。

    一方、相手かまわずトラブルを起こす嫌われ者の「セバスチャン」が加わったことにより、殺人捜査特別班には穏やかならぬ波紋が広がっていた… 被害者も証人たちも、そして捜査陣もみな、それぞれの秘密をかかえるなか、「セバスチャン」自身も実はある事情を隠して捜査に加わっていた、、、

    捜査が進むうちに少しずつ明らかになる被害者の少年「ローゲル」の姿と、ひととつひとつ暴かれていく周辺の人々が抱えるさまざまな秘密、そして意外な真相に至る事件の展開… いやぁ、面白くてラストまで集中力が途切れることなく読めましたね。

    事件捜査の主役は捜査特別班のメンバーなので、警察小説とも呼べるのでしょうが… そこに、邪な動機から捜査に加わることになった「セバスチャン」が、物語全体を引っかき回すところが、本作の特色ですかね、、、

    ねじれにねじれた人間性が影響して、「セバスチャン」は、他のメンバーからは総スカンを喰らいつつも、そんなことには一向にへこたれることなく、独自の解釈で捜査の方向性をリードして解決に導きます… 終盤、「セバスチャン」が「ヨハン」を無事に保護するシーンは印象的でしたね、、、

    そして、目的である、自身の子どもに関するプライベートな情報も入手しちゃうのも流石… でも、エンディングで明かされた事実は、「セバスチャン」にとっても、読者にとっても衝撃でしたね。

    本シリーズ… 是非とも次作以降も読みたいです!!



    以下、主な登場人物です。

    「セバスチャン・ベリマン」
     心理学者。元国家刑事警察の殺人捜査特別班のプロファイラー

    「リリー」
     セバスチャンの妻。故人

    「サビーネ」
     セバスチャンとリリーの娘。故人

    「シェスティン・ハンセル」
     ヴィステロース警察の刑事部長

    「トーマス・ハラルドソン」
     ヴィステロース警察の刑部

    「イェニ」
     トーマスの妻

    「トルケル・ヘーグルンド」
     国家刑事警察の殺人捜査特別班のリーダー

    「ウルスラ・アンデション」
     国家刑事警察の殺人捜査特別班の鑑識官

    「ヴァニヤ・リトネル」
     国家刑事警察の殺人捜査特別班の刑事

    「ビリー・ロセーン」
     国家刑事警察の殺人捜査特別班の刑事

    「ミカエル」
     ウルスラの夫

    「ヴァルデマル」
     ヴァニヤの父

    「ローゲル・エリクソン」
     十六歳の少年

    「レーナ」
     ローゲルの母

    「リサ・ハンソン」
     ローゲルのガールフレンド

    「アン=シャーロット」
     リサの母

    「ウルフ」
     リサの父

    「ヨハン・ストランド」
     ローゲルの親友

    「ウルフ」
     ヨハンの父

    「フレドリック・ハンマル」
     ローゲルの前の学校の上級生

    「レオナルド(レオ)・ルンディン」
     ローゲルの前の学校の同級生

    「クララ」
     レオの母

    「ラグナル・グロート」
     パルムレーフスカ高校の校長

    「ベアトリス・ストランド」
     ローゲルの担任。ヨハンの母

    「アクセル・ヨハンソン」
     パルムレーフスカ高校の元用務員

    「ペーテル・ヴェスティン」
     パルムレーフスカ高校と契約している心理士

    「アンナ・エリクソン」
     セバスチャンの子どもの母

  • 今まで読んだスウェーデンミステリーの大半と同様に最高点をつけてもいい。

    ごく私的な目的からリーダーのトルケルを脅迫するようにして捜査班に加わったセバスチャンが、その目的を果たしてしまうのは不正が行われるということであり、それはなんとも後味が悪い。かといって、シリーズ第2作以降もその問題が引きずられるのはうっとうしいと思っていたところ、終盤にするっと解決。ビリーの粋な計らい。そして、それが第2作以降につながりそうな結末に。
    すぐにシリーズ第2作『模倣犯』を読んでどうなっていくのかを今すぐ確かめたい。

  • なんかセバスチャンだけなく、みんながSEXに囚われてるような。まあそれにしてもええかげんな男やなー。
    最後はシリーズとして続きが読みたくなる終わり方。
    このシリーズ追いかけようと思うが新品が入手できないよー。

  • スウェーデンのベストセラーシリーズ。web本の雑誌で杉江氏が最新刊を推奨されてたので第一作を読んでみた。北欧にしては明るく読みやすい警察官の群像物。主人公は警官ではなく、心理学者の立場(プロファイラー?)で捜査協力し、過去には大きな成果を挙げた男セバスチャン。太めで独身、毒舌でセックス依存症。捜査会議での空気を読まない、人を馬鹿にする発言の破壊力は満点。ただしプーケットの津波で家族を亡くしていたり、いろいろと影の部分も興味深い。
    事件解決後に起こるサプライズな結末も破壊力あり。シリーズ自作が気になる終わり方も上手。3.9

    セバスチャンが仕留めた女性についての表現がまたいやらしい。
    ・彼女は”成長株”どころではなかった。それ以上の存在だったのだ。

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