深夜の博覧会 (昭和12年の探偵小説) (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488405168

作品紹介・あらすじ

昭和12年(1937年)5月、銀座で似顔絵描きをしながら漫画家になる夢を追いかける那珂一兵のもとを、帝国新報(のちの夕刊サン)の女性記者が訪ねてくる。開催中の名古屋汎太平洋平和博覧会の取材に同行して挿絵を描いてほしいというのだ。取材の最中、名古屋にいた女性の足だけが東京で発見されたとの知らせが届く。二都市にまたがる不可解な謎に、那珂少年はどんな推理を巡らせるのか? ミステリ界で話題となった『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』の前日譚が、待望の文庫化!

感想・レビュー・書評

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  •  この前読んだ「たかが殺人じゃないか (昭和24年の推理小説)」の前日譚になる。今作は那珂一兵が探偵役を務める<昭和ミステリー>シリーズの第1作にあたり、彼以外にも主要人物が重複して登場する。昭和12年、彼はまだ似顔絵書きの少年である。しかし以前から活躍しており、知る人ぞ知る名探偵である。

     東京と名古屋を結ぶ殺人事件を追うわけだが、当時の風景風俗が描かれており、何やら妖しい江戸川乱歩テイスト。と思っていたら、ラストのほうは、ちょっと哀しい横溝正史テイストに。
     この日中戦争から太平洋戦争に向かう時代は、作者の辻さん自身の少年時代なのだ。事件の背景が時代に密接に関わっている。今作のダークさ(エログロというか)は、エピローグ(昭和22年)の青空で少しは払われたように感じた。「たかが…」より上の評価としたい。

  • あまり好きではなかった、誇れなかった愛知が、名古屋が極彩色で描かれる。エネルギッシュで華やかで退廃的な昭和一桁の魅力あふれる人々に、不安の翳りを感じる戦争の気配。
    若干エログロ寄りミステリー何だけど、それ以上に当時の息遣いの感じられる紀行文みたいで愉快千万。
    今は亡き、祖父母に贈りたい物語。

  • 昭和12年。太平洋戦争前夜だね。不穏な気配を感じつつ、まだまだ銀座や名古屋は賑わう。そう、名古屋なんだよ、メインな場所は。
    那珂一兵は似顔絵かきだが、探偵もする。新聞記者のモガ瑠璃子。満州大富豪と纏足の妻。ケシ畑のおかげで大金持ち。愛人は日本人。その妹が銀座のマッチガール澪。一兵片思い中。満州大富豪と友人の日本人伯爵。
    伯爵がお金をかけた館と猟奇殺人。パノラマ島奇談ぽいエログロ昭和。
    澪は恋人と王道楽土満州へ渡るつもりでいたが、恋人が負傷したため、やめる。それは伯爵の策略。世界をまわった伯爵は王道楽土ではないことを知っていたから。
    あらすじをつらつら書いたが、昭和初期の雰囲気が良い。

  • 読書好きの友人から貰った探偵小説。面白く読めました。ありがとうございました。

    著者は名古屋生まれの脚本家、辻真先さん。昨年、「たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説」で年末ミステリーランキング3冠を達成。昭和7年のお生まれなので88歳というご高齢。本作は「たかが殺人じゃないか」の前日譚という位置付けになります。

    昭和12年に実際に行われた「名古屋汎太平洋平和博覧会」の最中に銀座と名古屋にまたがって発生した不可解な殺人事件。本書は正統ミステリーで、犯人探しの材料は(たぶん)全て読者に提供され、最後は探偵が関係者全員の前で推理を披露するという構成になっています。ミステリーの種類はいわゆる「不可能犯罪」もので、「こいつらがここにいるのに、こんなところで犯罪が行われるわけがない」という設定。個人的には、超大掛かりなトリックや動機がちょっと大味な気がしました。
    それでも、この本は面白いです。本書の最大の読みどころは昭和12年当時の銀座、名古屋の風俗描写と思います。アドバルーンなんて存在を忘れていたし、燐寸売りの少女の存在については知りませんでした。そして、名古屋の旧遊郭地帯で行われる怪しい余興、名古屋博覧会での悪趣味な展示物も戦前のエログロの雰囲気を生々しく表現しています。
    また、本書はボーイミーツガールの物語の要素もあります。その顛末にもひとつの謎が提供されています。その解答は最後に用意されていますので、本として非常に座りが良くなり、気持ちの良い読後感を得ることができました。

    謎解きは大味と書きましたが、戦前の探偵小説はその「大味さ」が魅力だったのかもしれません。それを考えると、本書はやはり魅力的なエンタメ本です。この本を読んだら、戦前の鬼畜系エログロ系探偵小説を読みたくなり、大昔に読んだ江戸川乱歩の「孤島の鬼」を買ってきました。こちらも面白いです。

  • パズラーとして丁寧な造りだけれど、ミステリ色はあまり強くない。事件そのものも半ば近くまで起きないし、メイントリックもこの長さの長編を支えるには、少し弱い気がする。だから昭和初期を舞台にした風俗小説を読むきでないと当てが外れるかも知れない。個人的には大佛次郎を連想した。時代を先どっていた伯爵の、乾いた絶望の淡々とした描写が胸に刺さる。

  • 【メモ】
     昭和12年頃の銀座、名古屋を舞台とするミステリ。
     主人公は、辻真先の他の作品にも登場する那珂一兵
     一兵は、銀座で似顔絵を描きながら漫画家を目指している。
     一兵は、帝国新報の記者である降籏瑠璃子とともに、名古屋汎太平洋平和博覧会の記事の挿絵を描くために、名古屋に向かう。
     名古屋では、帝国新報社の社長、樽井建哉の友人、宗像昌清伯爵に世話になる。
     宗像の助手である別宮操、女執事である一条巴の世話を受ける。
     宗像の友人である満州の大富豪、崔桑炎に出会う。崔の妻は朴潭芳であるが、愛妾の柳杏蓮、秘書兼看護婦の金白泳、護衛役の久遠チョクトがいる。
     博覧会で、降籏瑠璃子の行方が分からなくなり、万平ホテルで保護されるという事件が発生する。
     銀座では、一平があこがれている宰田澪という少女が、事件に巻き込まれる。
     博覧会の後、宗像が建てた慈王羅馬館(ジオラマ館)の構造が紹介される。
     また、崔桑炎の妻である朴が阿片中毒であるといったことが示される。
     これらの中には事件の真相につながる伏線が張られている。
     崔の愛人である柳杏蓮は、澪の姉であった。柳杏蓮の切断された足が銀座で見つかる。澪は、柳杏蓮が死ぬ前に出会う。澪は、裸にされ、髪を切られた状態で、名古屋で保護される。
     トリックの一部を構成する宗像が作成した慈王羅馬館の紹介。1階から、「ひろがる間」、「あそびの間」、「まどいの間」、「ころしの間」、「わらえぬ間」、「いこいの間」、「いのりの間」がある。
     1階の「ひろまる間」は遠近法を利用した錯覚の演出がされている。
     2階の「あそびの間」は、関しあの遊園地で流行しているゲームを発展させたジオラマがあり、いくつかの遊戯に模様替えが可能
     3階の「まどいの間」は、ルビンの壺の絵があり、真っ暗な部屋に得体の知らないものがある。
     4階は、「ころしの間」で、壮大な戦争のパノラマ
     一兵は事件の真相を推理する。杏蓮が東京に行ったのではなく、澪が名古屋に連れて来られていた。澪は名古屋で杏蓮に会っていたのであり、杏蓮は名古屋で殺害されていた。
     その証拠は雨の音とレコード。澪は傷のあるレコードの東京音頭を聞いていたが、銀座では傷のないレコードが使われていた。
     
     辻真先の作品らしく、最後にちょっとしオチがある。それは、



     慈王羅馬館


    那珂一兵(灘一兵)、降籏瑠璃子、宰田澪、崔桑炎、宗像昌清
    柳杏蓮、別宮操、
    ● 推理のポイント
    ・瑠璃子が魚雷に閉じ込めたのは宗像。耳のいい瑠璃子が録音と聞き分けられるのかをためすため。瑠璃子が耳がいいことを聞いていたのは宗像だけであるという点が、一兵が宗像を疑うきっかけとなった。

    ● 隠され事実
     宗像が事故に見せかけ、修市を傷つけたのは、大陸に行くのを阻止するため。大陸に移った日本人は、敗戦後、悲惨な目に遭っていた。

    ● 後日談(跋 名古屋の墓苑に青年は額ずく)
    別宮操→継父の跡を継ぎ住職になる。
    巴→空襲により死去
    降旗瑠璃子→夕刊サンの樽井建哉と同棲
    仙波(夜店の人物)→疎開しており生存
    甘粕→李香蘭を世に送り出したが、自嘲の落書を残し自害
    寺中少将→愛人とともに、満州軍の銃撃により死亡
    金白泳→崔桑炎と結婚。財産を中国政府に寄付。崔とともに消息不明
    澪→修市とともに生活。娘(杏)がいる。


    ● サプライズ

    ● 熱中度
     
    ● 納得度

    ● 読後感

    ● インパクト

    ● 偏愛度

  • 時代描写が長く、事件に入るまでに挫折しそうになりました。内容もグロテスクで、自分の好みには合いませんでした。

  • 探偵小説とはかくありき。というわけではないが、奇譚的な描写もありつつ、その時代背景を最大限に活かす、まさに大御所のなせる業なのでしょうかね。懐かしくもある探偵小説というか、推理小説の世界に入れます。どうやらこの主人公は、様々な作品に横断的に登場するようですね。銀座と名古屋から見るその次代の空気感を楽しみつつ、歴史の勉強的な部分もあります。新聞の立ち位置やその時事を巧みに探偵小説に洒脱な感じで描きます。関連作品も読もうと思います。

  • ゲームをするか本を読むかはどちらかしか行うことができず、7月8月はずっとゲームをやっていたため1冊も読むことができなかったけど、ようやく読むことができた。もう読めないかと思いました。
    この間も積ん読は増え続け、どれを読もうか決められなくなったのでクジを作った結果、この本を読むことに。読了したいま、歴史を否定する者が大きな顔をする現在の世の中にあってこの本が真っ先に引かれたことは、偶然でしかないけれども偶然ではないような気もする。あと、言葉の勉強になりました。

  • 昭和10年代の名古屋を舞台にしたミステリーで、岐阜出身、名古屋で働いていたことがある私にとっては、聞き慣れた固有名詞も出てきて、そこが面白かったです。
    怪人二十面相シリーズを彷彿とさせる作風でした。

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著者プロフィール

1932年、名古屋市生まれ。名古屋大学文学部卒業後、NHKに入社。テレビ初期のディレクター、プロデューサーをつとめたのち、脚本家に転身。『鉄腕アトム』、『エイトマン』、『ジャングル大帝』、『サザエさん』、『巨人の星』、『デビルマン』など、1500本超のアニメ脚本を執筆した。また、推理小説作家としても活躍しており、『仮題・中学殺人事件』、『迷犬ルパンの名推理』、『あじあ号、吼えろ!』、『完全恋愛』(牧薩次名義)など多数の著作がある。現在、デジタルハリウッド大学教授。国際アニメ研究所所長。本格ミステリ作家クラブ会長。

「2009年 『『鉄腕アトム』から『電脳コイル』へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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