秋の花 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M き 3-3)

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  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488413033

感想・レビュー・書評

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  • 好きなミステリは、と問われれば間違いなくこの1冊。
    「円紫さんと私」シリーズの第3巻です。

    とは言え、実に4年ぶりの再読。トリックを覚えているだけに、一層切なさが募り、苦しい思いで読み進めました。

    とにかく仕掛けが見事だと思います。謎が解き明かされた瞬間、思わずあっと声を上げそうになる鮮やかさ。パズルの最後のピースが埋まる瞬間、心がぐらりと揺り動かされました。出来上がった「画」の、なんと悲しい事か。

    初読の時も今回も、ヤマ場は通勤電車の中で読みました。4年前は唸り声を上げそうになり、今回はうっかり泣くところでした。

    結末も、もう、何と言ったらいいのか…。トリックのために人は死んだりしない。人がひとり亡くなるという重みを、静かに、だけど残酷なまでに読者に突きつけてきます。

    恐らくシリーズ中、円紫師匠の登場ページが最も少ない1冊。だけど存在感は抜群で、言葉の一つ一つが重く、あるいは優しく迫ってきます。

    「もろいです。しかし-」

    全くの蛇足ですが、文庫本裏表紙のあらすじは、少々喋りすぎかと。

  • もう亡くなってしまった少女として、会話の中や回想にしか出てこない津田真理子の、圧倒的な存在感。
    凛として、まっすぐなまなざしで未来を見つめていた彼女の命が、あっけなく絶たれてしまう哀しさ。

    円紫さんシリーズの中では異色の作品かもしれないけど、私は、この真理子の短い人生に触れられたそのことだけで、この作品が一番好きです。

    そして。。。再読したとき
    一行目に仕掛けられた、北村さんの読者への挑戦に、鳥肌がたちました。
    やっぱりすごい、北村薫!

    • kwosaさん
      まろんさん、お元気ですか?

      『秋の花』をお薦め頂いて、ほぼ三年越しでようやく読了しました。
      凛とした真理子は本当に素敵な女性で、それ...
      まろんさん、お元気ですか?

      『秋の花』をお薦め頂いて、ほぼ三年越しでようやく読了しました。
      凛とした真理子は本当に素敵な女性で、それだけにつらい物語でもありました。
      冗談めかして「娘を見守るおとうさんの気持ちで」なんていいながら読み進めたこのシリーズ。本当に娘の親になり五年。『秋の花』を単なる物語として読み流せない心持ちになっております。
      レビューもなかなか書けなくなりましたが、ブクログでまろんさんとまたお会いできればいいな、と思っています。
      2016/01/25
  • つらい。苦しい。
    きっと学生の頃、読むのと、親の立場で読むのと、捉えかたも変わると思う。
    あと、警察は何してる?

  • このシリーズはじっくり読みたくなる。
    私を取り巻く日常が瑞々しく、思わず自分の学生時代を回顧してしまう。
    日常の中にふと浮かんだ謎を掬い上げ、優しく解明してくれる円紫さんの語り口も快い。
    今回は女子高生の転落死の真相を探る初長編。
    読後は切なくも穏やかな気持ちにさせられた。

  • 私シリーズ三作目。
    初めての殺人(?)事件勃発。

    ストーリーは死という形で無二の親友を無くしてしまうという切ないミステリー。
    その中で「人は生まれるところも、どのような人間として生まれるかも選べない。自分を育てるのはある時から自分自身であろう。」
    という意味の言葉があるのだが納得。
    その自覚を持っていたなら今の自分はどのようになっていたのだろう?

    巻末解説に出てくる著者の講演での言葉
    「小説が書かれ読まれるのは人生がただ一度である事への抗議からである」
    ってのもイイなあ。

  • 日常の謎系ミステリの先駆けと言われる『空飛ぶ馬』、日本推理作家協会賞を受賞した『夜の蝉』に続く『秋の花』は、シリーズ三作目となる作品です。

    この作品はシリーズ初めての長編、そして初めて人の死を扱っています。

    平穏な日常は当たり前のものではなく、そのすぐ隣には生死に関わるような、不条理や理不尽なことがあるのだということを、改めて痛感しました。

    残酷な運命に翻弄されながらも今を生きることの大切さを、作者は作品を通して伝えようとしているのだろうと思います。
    その言葉は普遍的で、きっと年齢に関係なく読む人の心に響き、沁み渡るのではないでしょうか。

  • ミステリーの陰に人生の深遠を覗いてしまう、というのはアガサ・クリスティーの技。

    北村薫の場合は女性がさりげない日々を過ごしていくうちに遭遇する不思議、しかもかもしだす雰囲気がなんとも好ましい。

    この「秋の花」は秋、読むにふさわしい。巻頭にある「秋海棠(しゅうかいどう)」の写真をじっと見る。

    未読の時は秋らしさを、読了後は意味がこもってくる。

    葉のハート型は心、可愛らしいピンクの花が枝分かれして咲くさまは心模様、芯の黄色は心のともし火。(お手持ちの方はご覧ください 笑)

    私はもちろん知らなかったのだが、この花の別名がミステリーにかかわってくるなんて、やはり秋…。

    やっぱり外の登場人物の名前はくっきりしているのだが、ヒロイン「私」は誰でしょうというのも奥ゆかしいやら、気にかかるやら。

    *****

    「空飛ぶ馬」「夜の蝉」「秋の花」「六の宮の姫君」「朝霧」

  • 主人公が、母校の文化祭で、小学生のころを知っている女子学生が亡くなったと知り、彼女と仲の良かった子の話を聞いたことがきっかけで、真相をさぐることに…と。教師や生徒会の生徒、亡くなった生徒の母親と話を聞き、謎めいたメッセージがポストに届き、友人たちにも話して考えを進め最後は…と。わかったあとも苦い後味、謎解きなんて児戯にひとしい、これからどうするかの方が本当の難題なのだ、と語られ。誰が悪いわけではないというのは易く、当事者に響きがたし、一生背負っていくことになる、けれど押しつぶされて人生を投げ捨てるのはきっと遺志ではない、と胸に秘めて。以下備忘録。/耳で食べてはいけません。情報を食べておいしいというようなものだから/私は水を飲むように本を読む。水のない生は考えられないのだから仕方ない。/立ち向かうことは出来てもさ、世の中で<本当に逃げられること>なんて、何もないんだと思うよ/この中の登場人物のひとりが、「スキップ」の主人公だったとは。そちらも再読してみたい。

  • 短編だと思って読み始めたら長編で、一呼吸いれる暇も惜しんで、合間合間に家のことをしつつ、数時間で読み終わってしまった。
    謎を解くだけではなく、人生というものを説く、大人としての円紫さんの存在にも救われる思い。

  • シリーズ三作目で初めての長編、最大の謎を残して死ぬ人がでる。ミステリらしいミステリになっている。


    ※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。


    「私」は大学の三年になった。御馴染み正ちゃんが中性的な魅力で賑わしてくれる。

    「フロベールの鸚鵡」という本が出ましてね、その中に「紋切り型辞典」のパロディが入っています」
    「おやおや」
    「そのオ紋切り型を引用するのは俗物の証明みたいなものだけど、ルイ・ブリエというフロベールの友達は胸のない子にこういったそうよ。《心のすぐそばまで近寄ることができていいじゃないか》」
    「そいつ、人がいいか、もの凄く嫌な奴かどっちかだね」

    《えぐれ》と私に言っておいて正ちゃんはあっさりと片付ける。


    近所に中のよい二人組みがいた。私は小さいときから知っていて、今では後輩に成長した。落語の「お神酒徳利」のようにいつも一緒でニコニコして入学の挨拶に来てくれた。津田真理子と和泉利恵。
    百舌の声がするようになった頃、利恵の蹌踉とした、魂が抜けたような姿を見る。
    夏休み前、恒例の大イベントだった文化祭の行事が中止になった、生徒会が主催する行事にこの二人も参加していたのだ。私も生徒会でその慌しさを経験していた。
    だが、津田麻里子が屋上から転落して死亡。文化祭は取りやめになった。
    そのショックからか利恵は不登校になり自分の中に閉じこもってしまった。

    利恵は幼い頃、秋海棠が咲く麻里子の家の垣根のところまで三輪車できて呼びかけて友達になった。揃って高校生になったとき、二人の軌跡は断ち切れてしまった、利恵の喪失感は絶望に届くほど深い。

    ポストに教科書のコピーが投げ込まれた。麻里子の棺に入れたはずの教科書だった。

    私は円紫師匠の智恵を借りて謎を解いて利恵を救いたいと思う。

    犯人は誰か、どうして真理子は落ちたのか。

    私は思う
    「アヌイ名作集」のアンティゴーヌも「ひばり」の乙女ジャンヌも大人になる前にその生を終える。おれでは生きながらえた時、少女の純粋はどうなるのか。しょせん、純粋は現実のあやうい影に過ぎないのか
    私の誕生以前に生まれた人の生は、見えようのない部分があるだけに無限に過去に広がっているように思える、しかし津田さんにはそれがない私は生の有限を突然目の前に提示され、それに戸惑ったのだ

    卒論も運命のように《芥川》と口に出す頃になった。作家論は誰を論じても自分を語ることだと言う意識がある。
    円紫さんに悩みと疑問をぶつけてみる。

    「ずっとこちらですか」ふと円紫さんがいった。
    人は生まれるところを選ぶことは出来ない。どのような人間として生まれるかも選べない。気が付いたときには否応なしに存在する《自分》というものを育てるのはあるときからは自分自身であろう。それは大きな不安な仕事である。だからこそこの世に仮に一時でも、自分を背景ぐるみ全肯定してくれる人がいるかもしれない、という想像は、泉を見るような安らぎを与えてくれる。それは円紫さんから若い私への贈り物だろう。
    ここは、未来を絶たれた、私よりもさらに若い子の町でもある。



    珍しいことに扉に秋海棠の写真がある。文中の二人の少女が出逢った垣根の根元に咲いていた花である。淡いピンクの瑞々しい花で、薄紅色の細い茎が枝分かれして小さな花が下がり気味に咲く。昨年9月に三千院に満開の秋海棠を見に行った、私もなくなった友を偲ぶ花なので秋の初めになると落ち着かない。
    木陰や水辺を好み、ぎゅっと握り締めると 掌の中で水になって流れ出てしまいそうな花だが、文中では人を思って泣く涙が落ちてそこから生えた花だと書いている。
    北村さんは花の名前にも詳しい。昨年三千院の庭でシュウカイドウを写してきた。


    この物語は、二人の少女に関わった私の後日談だが、二人の子供を持った母親の話でもある。悲嘆にくれながらも残った少女をいたわる、娘を亡くした母親の心を象徴する花である。

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著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。母校埼玉県立春日部高校で国語を教えるかたわら、89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。著作に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)などがある。読書家として知られ、評論やエッセイ、アンソロジーなど幅広い分野で活躍を続けている。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。

「2021年 『盤上の敵 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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