秋の花 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M き 3-3)

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  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488413033

感想・レビュー・書評

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  • トリックは読み解けてもそこにカタルシスはない。むしろ残るのは、息苦しさ…。

    幼なじみのふたりは、なぜこのような「事件」に巻き込まれなければならなかったのか? ふたりの出会い、なにげない会話や思い出…… そうしたエピソードがていねいに描かれ、それによって読者はそれが起こるべくして起こったこと、「偶然」のひとことでは片付けることのできない出来事だったことを思い知らされる。それはまた、主人公である「私」にも、そして読者にも、いつ起こっても不思議ではないということでもある。その厳然たる事実が、読むものを不安にし息苦しくさせるのだろう。

    「私と円紫さん」シリーズ第3弾であるこの『秋の花』は、いわゆる「事件らしい事件」が起こる点、そして長編であるという点で明らかに前2作とはちがっている。物語の「軸」はますます「私」の日常へとシフトし、終盤近くなって登場する「円紫さん」もトリックを解明しはするが解決はしない。とはいえ、推理小説の体裁をとりながら、人間の感情の深い部分に触れようという著者の意志は第3作であるここでも一貫している。

  • 2023年10月12日購入。

  • 円紫がなかなか登場しないため長編。謎解きよりも生活感に重きを置いたお話。

  • 円紫さんと私シリーズ三作目。日常の謎を扱った連作短編の過去二作品と違い、転落事件を扱った長編作品になります。

    幼馴染みで仲の良かった二人の女子高生。その一人が転落死し、もう一人は心ここにあらず、といった状態になってしまう。
    そんな二人を子どもの頃からよく知っていた語り手の「私」。私の元に奇妙な教科書のコピーが届いたことから、話は展開していく。

    北村作品特有の静謐さが、この作品の味わいを深くしているように思います。
    ミステリとしてみるなら意外性や劇的な展開、というものではないです。しかし真相が明らかになるにつれ見えてくる、事件の当事者の孤独や痛み。
    これを想像させる余白や行間といったものが絶妙だったと思います。

    今回は円紫師匠の出番は終盤の推理のみになるけれど、その存在感はやっぱり大きい。ヒーロー的な名探偵のような圧倒的存在感ではなく、事件に惑う「私」に、そして事件の関係者たちにそっと心を寄せて、先へ導くような優しさが印象的。
    個人的にちょっとホタルっぽく感じます。事件や暗闇に惑う人たちをそっと照らし導くような存在です。

    あとは今を生きる人たちに対しての視線の優しさも印象的。
    円紫さんから「私」へ送る未来への希望。
    円紫さんが語る未来へ残るもの。

    北村さん作品だと『鷺と雪』のラスト近くの言葉も印象的だったけど、そうした未来を創る人たちへの希望や優しい視点が、北村作品に一種の暖かさを与えてくれているのかもしれないとも思います。

    事件自体はシリアスな雰囲気が漂っていたけど、「私」とその友人の女子大生たちのやりとりや日常が、ところどころではさまれることで、重くなりすぎず作品を読み終えることができたように思います。

    悲しさと温かさが、重苦しくさと軽やかさが静謐な空気感の中で同居する、北村薫さんのそして「私」の作品らしい味わいの一冊でした。

  • 人が死ぬなんて北村先生らしくないな…っていうのが読み始めた当初の感想。
    けど読み進めていき、北村先生らしさがたっぷり含まれた優しい語り口に安心した。
    運命で定められた悲劇に向かって、2人の少女は出会い互いを心の片割れだと縋ったのなら、あまりにも悲しい。

  • 本が好き。言葉が好き。そんな人たちの為の物語。

  • 円紫さんシリーズ初の長編かつ人が死ぬミステリ。
    再読したくなる作品。

  • 円紫さんシリーズ#3。シリーズ1、2の短編集がおもしろかったので楽しみに積んであった。寝る前に少しだけ読むつもりが、そのまま読み切ってしまった。やはり、このシリーズ好きだわー。

    短編の、落語を聞いたあとに円紫さんと喋る場面が好きなのだけれど、今回は全然落語に行かず、円紫さんもなかなか登場しない。にもかかわらず、次々にページが進む。うまいわー。

    表紙絵で主人公が少しずつ変化しているように、1冊につき1年ずつ時が進んでいる。次作はいよいよ大学4年生。「私」、正ちゃん、江美ちゃんの今後が楽しみ。

  • 円紫さんシリーズ 好きです。
    おだやかで あたたかくて まなざしがすき。

  • 昔、「月刊オーパス」という本の雑誌があったのだけど、この前、本棚の発掘作業をしていて、20年ぐらい前のオーパスの切り抜きが何枚か出てきた。

    その中に、文庫になる前の「秋の花」の紹介記事が出ていたんだけどね。
    なんと北村さん、その時はまだ覆面作家だったんですねぇ。
    「覆面作家の素顔が気になる!」みたいなことが書かれていて面白かったです。

    そんなこともあり、今日はこれ。
    ちょっと走りすぎてしんどいなぁとか、停滞してるなぁとかいうときに、心をニュートラルにしてくれる、大好きなこのシリーズ。


    『秋の花』 北村薫 (創元推理文庫)


    「空飛ぶ馬」「夜の蝉」に続く、“私と円紫さんシリーズ”の第三弾である。

    この三作目は、シリーズで初めて人が死ぬ。
    これはある意味、「盤上の敵」よりショッキングなことかもしれない。
    人が死ぬ、というミステリー小説の性格上当たり前のことが、こんなに重く感じるのは、この人の小説以外ないんじゃないだろうか。
    すべての人々、物語の隅々にまで行き渡る作者の眼差しがそう感じさせるのかもしれない。

    今回は、主人公である「私」の高校の後輩である、「津田さん」と「和泉さん」の物語である。

    文化祭の前夜、生徒会役員であった津田さんが、校舎の屋上から落ちて死んだ。
    文化祭は中止になり、津田さんの親友の和泉さんは、痛々しいほどにふさぎ込む。

    ある日、「私」の家のポストに、津田さんの教科書のコピーが投げ込まれる。
    そして、「ツダマリコ ハ コロサレタ」という手紙…。

    いるはずのない五人分の法被。
    捨てられた二本の鉄パイプ。
    謎は謎のまま、新たな事実が次々と塗り重ねられていく。
    津田さんは殺されたのか?
    和泉さんは何を知っているのか?

    いつもと違って、円紫さんがなかなか登場しないのでやきもきした。
    今までは、短編だったからだろうけど、割とすぐに円紫さんが出てきて、鮮やかに涼やかに、魔法のように謎を解いてくれてたんだよね。
    でも今回は、“謎解き”がメインじゃなかったのだということが、最後まで読むと分かる。

    犯人捜しよりも、もっと大切なこと。
    亡くなった津田さんが、本当に望んでいるだろうこと。
    それは、円紫さんが解決できることではなく、「私」や、高校の先生や生徒たち、そして津田さんのお母さんにしかできないことだったのだと思う。

    津田さんのお母さんの、凛とした姿に感動した。

    「許すことはできないけれども救うことはできる」

    自分の子供が死んだという事実は変えられないし、許すことはきっと一生できないけれども、今、目の前にいる傷ついた少女を救わなくちゃいけないという気持ち。
    同じく子を持つ親として、同じ思いを持ったであろう円紫さんが、少しだけ後押ししてくれる。
    同じように和泉さんにも。
    そして同じように「私」にも。

    いつも「私」に対して、ですます調の丁寧な言葉遣いをする円紫さんが、和泉さんに、「津田さんはいつもこちら側にいるんだよ」と呼びかけるところが好きだ。
    かっこいい大人だなぁ。
    揺るがない考えと常識を持っていて、いつも正しい方向へ導いてくれて、安心感や安らぎをくれる人。

    私は、男の人に包容力は求めない方だけど、円紫さんに、「お昼でもご一緒にいかがですか」と誘われたら、きっとホイホイついて行くに違いない(笑)


    明日輝くような何かをしようと思った、その明日が消えてしまったら、その人の“生きた”ということはどこに残るのか、と「私」が円紫さんに問うくだりがある。
    意志が残ると思います、と円紫さんは答える。

    ミステリー作家なのに、こんなに生と死を大切に扱う北村さんが、私はすごく好きなのだ。

    最後の一行、津田さんのお母さんのセリフ

    「眠りました」

    がすごい。

    これを最後に持ってくる作者!
    ほんまにすごい!
    余韻の波が襲ってきて、飲み込まれて、動けなくなります。

    主人公の「私」は、派手なことを好まず、本が好きで、友達と文学散歩に出かけたりする。
    こんな女子大生いるんかい、と思ったりもするけれど、こういうのっていいな。

    作者は元国語教師なので、文学のいろいろな蘊蓄が、あちこちに散りばめられているのも楽しかった。

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著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。母校埼玉県立春日部高校で国語を教えるかたわら、89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。著作に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)などがある。読書家として知られ、評論やエッセイ、アンソロジーなど幅広い分野で活躍を続けている。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。

「2021年 『盤上の敵 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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