双頭の悪魔 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M あ 2-3)
- 東京創元社 (1999年4月21日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (698ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488414030
感想・レビュー・書評
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もうほんまに「カン」で犯人を当てるなんてことは卒業しなアカンで〰️。ほやな、ミステリに対する冒涜やったって、今回はとくと反省したわ。
と、いうのも論理的推理のよるフーダニット(って言葉、初めて使いました……)が、こんなにも美しく華麗なものだったなんて!
『月光ゲーム』『孤島パズル』ときて、シリーズ三作目『双頭の悪魔』で今まで以上に興奮しちゃいました。
江神さんが一旦推理の口火を切ると、オセロゲームの盤を埋め尽くした白い石が、次々と黒い石に反転していく鮮やかさがあります。けれど彼はどんなに推理が鮮やかであろうが、それをひけらかすこともなく、直後犯人だけに告げるのです。そして最後に犯人に見せた慈悲。それは、彼の優しさという単純なものではないはずです。江神さんには何かある、彼が纏う仄暗さが何なのか……その原因となるかもしれない彼の過去が、今回わずかに窺えます。
相当なボリュームがある物語ですが、だれることなく最後まで読めました。と、いうのも奥深い山奥にマリアを探しに行ったEMCメンバーたち。ところが、大雨の影響から橋が濁流に呑まれてしまい、芸術家たちのユートピア木更村の江神、マリアチームと夏森村のアリス、織田、望月チームに分かれてしまうのです。そして、両方の村では殺人事件が。ストーリーはマリア視点とアリス視点で交互に進んでいきます。この二つの村の事件は、全く関係ないのか、それとも何か繋がりがあるのか。読者は、そう考えることが出来ますが、彼らはお互いが殺人事件に巻き込まれてるとは終盤まで知りません。うーん、考えてもわからない私は、どんどん引き込まれていきます。
江神さんの推理展開はさすがですが、面白さで言えばアリスチームの謎解きでした。三人が、こうだ、いやそれではダメだ。じゃあ、これでどうだ。いやいや……と、謎に取り組む姿は自然と応援したくなります。
そして、各々の推理を通じて彼らの人柄が伝わってくるのです。なかでも織田くんの熱いところが新鮮で、ちょっと見る目が変わりました。
また、マリアと江神さんの関係も気になるところじゃないですか。影のある男って何だか惹かれません?マリアも辛い出来事に心が逃げ場を求めていたから、江神さんへと通じるものがあるのかもしれない。マリアは江神さんなら、何とかしてくれるって憧れのような感情を抱いていますよね。そんなマリアに江神さんは、ことあるごとに「アリスが一番心配してる」とかいってるのがね~、何だかね~。マリアに一線引いてるんだろうな~とか。まさかの三角関係?なんて勝手に妄想してしまいましたよ。余計なお世話ですよね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
香りを想像しながら読むのが風靡でよかった
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古い作品だし、面白いけど読みにくい、時代の古さを感じるパターンかな?と思いつつページをめくって行ったら、そんなこと微塵も感じず、とにかくよくできてる作品だった。トリックとかロジックもなんですが、何より登場人物の心の機微が良かったなぁ。
前作も、この次も読んでみたいと思ってます
2019.6.25
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孤島パズルの最後のマリアがとても気になっていたのでこの本を読み始めて少しホッとしました。しかしこの厚さ!持っていて重いほど。なのにこれを一気に読ませてしまう筆力はさすがだと思います。マリア視点が最初読みにくかったのですが慣れてしまえばこれもなかなか。理詰めの推理も納得いくもので自分でわかった部分も多くてとても満足でき、楽しめました。でも一番心に残ったのは江神さんへの予言です。作者が長編5冊短編集2冊って決めてるのはこれも関係してくるんでしょうか…。本当に先を読むのがもったいなくなります。
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マリアが二人を連れてきたのは、芸術を愛する祖父の遺産が隠された島。
遺産の隠し場所を示した暗号をミステリ研究会の部長江神さんと、アリス、そしてマリアは過去の悲しい事故の真実のために起こった殺人事件に巻き込まれていく。
マリアのキャラクターがとてもかわいい。そしてアリスとの関係の進展も気になる。 -
作者は、推理小説に必要なのは「トリックよりロジック」と語ったという。それを具現化したのがこの本。丹念に理詰めで細かい可能性を潰していき消去法でこれしかないという結論をくだす。
その過程はふむふむなるほどとなるのだが、アクロバティックなどんでん返しがあるわけでもなく名探偵のすかっとする犯人当てがあるわけでもない。 -
『色んな人と色んな話をして、私というがら空きの本棚に一冊ずつ本が並んでいくような、そんな気がするのです。』
「舞踏家になる、という夢はどうなるんですか?」
「舞踏家という言葉には『踊る者』という意味しかありません。いつでもどこでも、私は踊れます」
『私自身の孤独。私自身の弱さ。私自身の迷い。私自身の狡猾さ。私自身の傲慢さ。そして私自身の輝き、私だけのもの。』
「犯罪者は芸術家でしょうが、探偵は批評家にすぎません」
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手にしたのは冷やかし半分もあったかもしれない。なにせ作者名は有栖川有栖(アリスガワアリス)さらに本篇に同性同名の大学生が登場してくる。
が、読み始めればエンターテイメント性の高い極上の論理的な推理小説だった。
殺人事件の推理を細かな状況情報によって解き明かしていく過程は頷いてしまい、かつその推理は一語一句紐解けば読者も可能と知らしめるところが憎い。
さらにニヤッとさせられるセンスの良い比喩文章が相まってグイグイ引き込まれて行った。
「有栖川有栖」初めて手にしたが、お気に入りに作者となりそうだ。