困ってるひと

著者 :
  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591124765

感想・レビュー・書評

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  • この本が売れると彼女の生計が立つ~福島の山奥ムーミン谷で屈折しつつ育った更紗は日本一の合唱部を抱える女子校で規律に反発し,一浪の後,上智大学でフランス語を学ぶが,樋口陽一の著作でビルマ研究者の道を目指す。卒論を書いて大学院進学が決まり,ビルマ国境に近い難民キャンプで体調の異変が尋常でないことを知る。全身が腫れ,どこもかしこも触れられただけで針で刺されたような激痛が走り,手足は潰瘍だらけ,脂肪織炎だらけ,すべての関節がブリキになったように強烈に痛み軋み動かない,目は乾き腫れ,口の中は炎症で真っ赤,髪の毛も抜け,38度以降の熱が下がらない。2009年5月からの4ヶ月,福島の大病院で皮膚科・耳鼻咽喉科・消化器内科で検査を重ね,膠原病内科の医師に自信がないと云われて,インターネットで元ハーバード自己免疫疾患の専門家である大学付属病院に電話を掛け,これでだめだったら死のうと決意した。気軽に応対した宇宙プロフェッサーは,とんがりメガネのハイパー説教大臣「パパ先生」の手で入院の手続きを進める。一度福島に帰って2009年9月28日から,オアシス619号室に入院。主治医は優しいクマ先生と決まり,幸福な出会いに感謝する。検査・検査で一月が経ち,東京郊外の特殊病院で入院患者の壮絶な状態に個室に隔離されキテレツ先生の診断を受けるが,皮膚筋炎と筋膜炎脂肪織炎症候群と名付けられた。勿論,原因は不明で治療方法も確立されていない難病だ。住民票のある小平市から書類を取り寄せて東京都の医療券を申請し,オアシスに戻ってステロイド一日合計60mg(健常者は副腎から5mg)投与が開始されたが,危篤となった。12月は衝撃の退院,零下15度の福島の掘り炬燵生活,ムーミン谷に福祉政策は届かない。悪化して再入院すると,鬱状態に陥り「難」の「当事者」となって死にたいと考え始める。身体障害者の認定は2級。難病の先達に訊くと,区役所なんかには行かないと云うが,行政からの援助を受けるために外出も儘ならない難病患者が居住地から書類を取り寄せるのも一苦労。2010年3月,大学に休学の延長を届けて帰ってくると,左のおしりが腫れ,やがて決壊。脂肪が流れ出た跡には大きな洞窟が出現。滅菌ガーゼとおむつを買うのも一苦労。電車に乗れない難病のお兄さんと交流している内に,恋心が芽生え,デートしたいという気持ちが生きたいという意志を形作っていく。いつまでも入院はしていられず,小平から通ったり,福島から5時間掛けて通院することもできない。病院の近くに部屋を見つけて,区からの支援を受けながら生活をするため,秘密の引っ越し作戦,小平の部屋の整理を秘密裏に進めていく~東京医科歯科大学付属病院かな? 8月22日と24日に車で前を通ったぞ。なるほど,評判になる筈で,今も生存中だが,本が売れて生計も立つだろう。311の震災で母親の実家はなくなったも同然。難病のこと,フクシマのことであちこち呼び出されている。この後,動ける間は講演で喰っていけるというもので,良かったねえ

  • twitterで紹介され話題の一冊です。25歳の女子大学院生が突然の難病。苦しい検査等々がユーモラスに描かれた闘病記。難病で苦しまれてる方は、沢山おられますが、そんな方達にもエールとなる そんな一冊です。まだまだ、続きが読みたくなる本でした。

  • 一気に読んでしまった。
    かつて研究対象とされていた「難民」と、自身がおかれた難民的状況を重ねる視点など、とても上手。基本的に時系列の日記みたいな感じなのですごく感情移入させられる。読みながら退院までの日々を共にするにあたって抜き出して書かれている事件、ポイントが絶妙。
    クマ先生の話をこっそり聞いてしまった時の絶望感…こちらも大きな穴に落ちたような気分で泣けてきた。
    すごく前向きで、賢くて努力家な方なんだろう。
    自分だったらこんな風になれないだろう、、、

  • おしりの話は衝撃を受けた。そんなことがあるのか。
    手帳の制度や手続きについて考えたことがなかったけれど、知っておくべきだと思った。

  • 社会の制度がいかに不条理かをライトに読み込める優良書籍。ちきゅうじんなら読むべし。

  • 壮絶な、闘病記。
    とてつもない難病をかかえながらも、ユーモア溢れる口調で、決して重く伝えようとはしない。ただ、真実を、自分の置かれている状況を、おかしな世の中を、ただただ、伝えようとしている。本のあるべき姿を、見た気がした。

    本自体もすごく面白くて、ぐいぐい読んでしまう。大学の図書館で一昨年?去年?たまたま手にとって、読まずに返しちゃったんだけど、今年、授業ですすめられて。あ、あの本。と思って読んだ。またもやナイスタイミング。読むべき時に、本は、やってくる。

    こんなに難病でも、考えて、考えて、考えて、戦っている。生きている。わたしが考えないで生きて、どうするんだ。健康なカラダを駆使して、思いっきり賢く遊んで生きるのだ!

  • 「なにがあっても。悲観も、楽観もしない。ただ、絶望は、しない。」

    もともと、ビルマの難民支援に全力で携わっていた女子学生が、突然、謎の難病に襲われてしまう。

    支援者から、当事者へ。
    ビルマの奥地から、訳の分からない、難病支援のジャングルへ。

    自分の体に何が起こっているのかも分からないのに、更に日本の社会福祉制度が襲いかかってくる。

    そんな状況にもめげず、担当医師や福祉制度、そして、自分の体に奮闘する、大野さんは、ただただ凄いと感じる。ユニークな文体の向こう側には、大変な苦労があったんだと思う。

    医療難民として、生きることの難しさ、それでも生きようとする人の素晴らしさが詰まった本だと感じる。

    「なにがあっても。悲観も、楽観もしない。ただ、絶望は、しない。」

  •  ビルマ難民の救済活動に尽力していた大学院生が突然難病に襲われる。その闘病生活を綴ったエッセー。

     それまで支援する立場だったのが、急に支援される側になって初めて分かること。健康な日常の奇跡。制度や社会の問題点。頼る頼られる関係の難しさ。。。
     日本という国が一見ちゃんとしてるように見えていかに制度がむちゃくちゃか。医療や行政はそういうことをちゃんと理解していなければいけないと痛感。闘病のエッセーでありながら、社会の抱える問題をしっかり指摘している。

     軽快な文章で中学生から読める。
     誰にもこういうことは起こりえる。全ての日本人に読んでほしい一冊。

  • 今更という感じですが読みました。
    こんなにすばらしい本を読んだのは久しぶりな気がします。

    著者の大野さんはあのソフィアの四ッ谷キャンパスをいかにもあるいていそうなリア充のキラッキラした女の子って感じで、難民問題への取り組みもビルマ軍事政権への義憤も、きっとそのありあまるエネルギー故だったのでしょう。
    「援助の限界」とか「搾取しているんじゃないか」っていう悩みはたしかにそういう研究にはつきもので、発病前の著者のビルマ女子時代はエネルギッシュだけど、どこか無邪気で、純粋で、世間知らずなところも感じさせます。
    それが、すべて自分自身が難民の当事者となってしまったことである意味すばらしいオチを得られてしまっているという、なんという運命の皮肉というか、物語としての素晴らしい伏線の回収を感じられずにはいられない、というか、この著者が自分の人生をそういうふうに解釈できる知性を持った人だということ、その強さに深く胸を打たれました。

    そしてビルマ研究時代には決して持つことがなかった揺るぎない「当事者性」を得た彼女の日本社会に対する批判はものすごい説得力を伴って読者に伝わるのでした。

    どう考えても大変すぎる状況を、過剰にポップに描写するユーモアたっぷりの文章は、この難病を語る上では書かせないスタイルだと感じました。彼女は難の当事者でありながら、その難に心まで食い殺されることなく、難を難としてみる観察者であり、それをあたかもコメディーのように表現できる表現者である。そのバランス感覚に、まさに著者のキレキレの知性をみた気がしました。

    ほかにもいろいろ感じたことあるけどこのへんで。

    著者の大野さんを心から応援したいです。

  • BGMはベートーベンの弦楽四重奏第15番でした。絶妙なマッチングに運命さえ感じた。まあ、こんな雰囲気の文体で、とてつもない(主観)ことを書き上げる。三ヶ月前に読んだカズオ・イシグロ並のヒット作でした。(再・主観)
    ほんとに今更読んだ感が満載なほど、有名な本になった。「ただ、絶望はしない」というたった一言にたどり着くための葛藤っぷりに胸が打たれた。
    何も見ないわけにはいかないでしょう。きっと。人は生きてくのは大変なんです。ほんとに、ほんと、と。

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