ピダハン―― 「言語本能」を超える文化と世界観

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622076537

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  • ピダハン ダニエルエヴェレスト みすず書房

    アマゾンの奥深くに住む300人ほどの民族
    独特の文化と言語で貫く自身に満ちた人々
    彼らの言語の調査と聖書の翻訳を兼ねて
    言語学者でありプロテスタントの宣教師でもある著者が
    一石二鳥を引っさげて村に住み込んだ体験談

    それにしてもピダハンは心の広い人々である
    「蛇がいるから寝るなよ」と
    ユーモアとも忠告とも言えるお休みの挨拶
    事実仮眠しかしないしお互いを認めて
    赤ん坊すら対等に付き合い
    個々の自律を大事にして自由自在に暮らし
    よそ者も歓迎するし毛嫌いはしないけれど
    距離をわきまえず指図されたりすることを嫌う

    五感による体験と発見を信頼し
    寓話や神話や創世記などには見向きもしないから
    遠い過去や未来にも関心がなく
    つまり今現在に生き
    必要以上の物欲もないから争うことも少ない
    所有欲がないということは当然ながら
    若干の栽培もするが殆どは狩猟採集である
    死は当然のこととして受け入れているし
    悲壮感も恐怖感も少ない
    よく働きよく遊びよく笑い冗談も大好きで
    全てを愉しみとして受け入れる

    すべてが違うものだと認識しているから
    数の概念があまり無く
    左右という自分を中心とする方向概念もなく
    河の上流と下流という全体感で方向を把握している
    目に見えない絶対神は認めないけれど
    精霊は動植物と同じように見えるし
    話もできるらしく認めていると言う

    ダニエルはミイラ取りがミイラになって
    ついには無神論者となることで離婚もすることになり
    学者一本で生きることに成るという最後の章が
    私には最高に面白かった

    狩猟民族は所有意識が低く自律心が高いとして
    最後に残る疑問は
    生き甲斐ややり甲斐が有るのか無いのか?
    有るとすれば何に対してなのか?
    無いとすれば生きる意欲をどこに求めるのか?

    ダニエル曰く:
    「認知とは学習されるもの
    私達は世界を2つの観点から見聞きして感じ取る
    理論家としての視点と宇宙の住人としての視点と
    それも私達の経験と予測に照らし合わせているのであって
    あるがままの姿で見て取ることは無いと言っても良い」

  • 面白い。
    信仰とは不幸せな文明人のみに必要なものなのか?
    著者はピダハンと関わりを持つ中で信仰の必要性に疑問を持ち、結果捨ててしまう。著書ではそちらにはフォーカスが、あたっていないがそこが興味深かった。日本人には信仰を持つものが少ないが、それとは全く異なるステージにピダハンはいるようだ。ピダハンは400人程度しかおらず、その後の研究も出来ているか分からないが、追跡調査をして欲しい。これまで秘境に住む少数民族は文明の波にさらわれ、そのほとんど、いや全てが悲しい結末に至っている。ピダハンだけが例外となっているのは何によるものか。

  • ・再帰(リカージョン)がない。英語や日本語なら「ダンが買ってきた針を持ってきてくれ」というところ、ピダハン語では「針を持ってきてくれ。ダンがその針を買った。同じ針だ。」と言う。文章が入れ子構造にならないのだ。
    ・認知→文法 人間は生まれつき文法能力を持っている。文法は遺伝的なものである。(チョムスキー)
    文法→認知 文法が認知に影響を与える。言語はその言語の使用者の世界観に影響する。(サピアとウォーフ)
    文化→文法 文化が文法に影響を与える。ピダハン語にその因果関係が見られる(ダニエル・エヴェレット)
    ・生命や死、病に対するピダハンの考え方は、わたしのような西洋人とは根本的に違うのだ。~ピダハンは赤ん坊が間違いなく死ぬとわかっていた。痛ましいほどに苦しんでいると感じていた。私が素晴らしい思い付きだと考えたミルクチューブは赤ん坊を傷つけ、苦しみを引き延ばしていると確信していた。だから赤ん坊を安楽死させた。
    ・ピダハンは文字通り、頭で精霊を見ている。掛値なしに精霊と話している。ピダハン以外の者たちがなんと思おうと、ピダハンは全員、自分たちは精霊をじかに体験しているというだろう。だからピダハンの精霊は、直接体験の法則の一例なのである。

  • 時間かかってしまったけど面白かった。ピダハンの考え方、特に他人を助けることに対しての自分にできること/できないことの割りきり方は心が救われる。それと、昔受けたチョムスキー大好き先生の言語学の授業を全然楽しめなかったモヤモヤがすっっきりした…
    知らない人・会えない人に会う読書、という点で最高だった。

  • 今や400人程度しかいないと言われる、アマゾンの少数民族ピダハン。数や色、左右の概念もなく、多くの民族にある創世神話すらない。原始時代と大差ないようなアマゾンでの生活は、我々から見ると過酷にも思えるが、周囲との会話をた絶やさず、笑いがひときわ多いという。
    ひたすら現実に生き、毎日を愚直に過ごすピダハンの人びと。日々あくせくし、進歩を是とすることが、何とも疎ましく思えてくる。
    伝道師である著者に、最も大切な信仰心すら失わせたという。本書の結末もまた衝撃的であった。

  • 言語と文化が密接に繋がっていることがよくわかる。言語を理解することは、その国や民族の文化を理解することだ。
    伝道師の勧誘は人の悩みに訴えるので、悩みがなく、自分の目で見たものしか信じないピダハンには全く通用しないが、そもそも未来という概念がなければ悩みも存在しない。

  • 宣教師に棄教させる!
    遠藤周作ならどう読むのだろう?
    棄教した宣教師の記述するピダハンの世界。

    そして、そのピダハンの世界はアルコールと生活習慣病で破壊されようとしているらしい。

    神は居ないのか?
    偏狭な神が支配しているのか?

  • 言語は、コミュニケーションにおける一つの手段でしかない。コミュニケーションには、相手の文化に対する知識が必要不可欠。

  • アマゾンの奥地で狩猟採集生活を営む少数民族ピダハンの生活と言語の記録。ピダハンの文化には左右の概念も数の概念も色の名前も存在せず、したがって、それらを表す言葉もないということに興味を覚えて読んでみたが、むしろ、ピダハンの人々との生活が著者に及ぼした影響の方が興味深かった。福音派の伝道師だった著者がピダハン語の研究を始めたのは、聖書をピダハン語に翻訳するためだったということにまず感心。その後、30年にわたってピダハンの人々と暮らすうちに無神論に転向したのは、まあそういうこともあるだろうと思っただけだが、それが原因で家族(妻と3人の子供)と別れる結果になったことには驚いた。宗教にそれほど重きを置くのがどうにも理解できない。

  • 伝道のために少数民族ピダハンの村を訪れ、そこで暮らし
    ながら彼らの言語を習得していった著者によるフィールド
    ワークのルポルタージュ。そこにはチョムスキーの生成文法
    に疑問を投げかけるほど重大な発見が含まれているという
    言語学的興味からこの本を手にしたのだが、どちらかと
    言えば、ピダハンの暮らしやアマゾン奥地の現実を知ること
    ができるルポとして読む方が楽しい読書となると思う。
    もちろん著者の言うように文化と言語は切り離して考える
    ことはできないとは思うのだが、言語学的内容と人類学的
    内容を分けて二冊にした方が良かったのではないかと思う。
    どちらから見てもやや中途半端な印象が拭えないのだ。

    読み始めた当初、「伝道」という点がどうにも鼻につくのは
    否定できないのだが、結末へのネタ振りだと思って読むのが
    良いと思われます(笑)。

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