片手の郵便配達人

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622079637

感想・レビュー・書評

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  • グールドン・パウンゼヴァングGudrun Pausewangの新作
    原題:DER WINHANDIGE BRIEFTRAGER

    ヨハン・ポルトナーは17歳。大きくてがっしりとした身体に青い眼の少年。女の子に惹かれる存在。
    彼はヴォルフェンタン地方のブリュンネルで、助産師の母に育てられた。父はわからない。
    当時の社会風潮にのっとり、教師の言葉「祖国を守るのは当然の義務。戦いに勝てば、祖国が感謝をこめて勲章を贈る。」を信じ、入隊。
    しかし1944年4月、片腕を亡くし、除隊され、村に戻ることになる。
    村に戻ったヨハンは、召集直前に就いていた郵便配達人の職に戻った。
    かれは毎日、7つの村をまわり郵便を配達し、集配した。
    その1944年8月から1945年5月までの記録。

  • 衝撃のラストシーンに、陰鬱な読後感。
    第二次世界大戦のドイツ、小さな村に住む片腕の少年郵便配達人の物語。
    手紙を配達する、村をつなぎ止め、そして自分もその中で生をつなぐ。切ないほど、誠実な少年と戦争の道化じみた社会。
    素晴らしい小説だった。
    今、日本人として背負うもの、課題を考えさせられる。
    こんなレベルの小説、最近の日本には見当たらないのはなぜだろう。

  • 「ライフ・イズ・ビューティフル」にも似た、切ないラスト。

  • ドイツの山間の片田舎を舞台とした、第2次世界大戦終盤の1年弱の物語。郵便配達員として山間の村々を毎日20キロほど歩きまわる主人公の若者ヨハンと、そのヨハンが郵便を届ける人々のお話。若い郵便配達員のヨハンは、前線に出てすぐ片腕を失って再び故郷に戻って郵便配達員をしている。ドイツの旗色が悪くなってきた終盤の人々の日常生活が舞台。戦場が舞台ではなく、この様な時期のドイツの人々の生活を描いた物語を読むのは初めてだったが、日本の終戦直前と大差ないと感じた。色んな村と、多くの人々が登場してくるんだが、やはりカタカナの名前がどうも覚えきれず、読んでて誰だったか分からなくなるのが難点。邦訳書籍には、人物リストと、村々の場所の関係を表す地図を掲載して欲しかった。あと、主人公がラストに向かえる悲劇がとても切なくてやりきれん。

  • ラスト,思わず「おいおいおいおい」と声を出しながら読んでしまった。町の風景とか会話の様子とか思い浮かべながら読むようになってたからか,まさか何で死ななあかんのと理不尽さに吠えたくなったけど,こんな理不尽なことが当たり前に累々としていたんだろうなと思う。頭を垂れるしかない。

  • 第二次大戦中のドイツの田舎、前線からは遠いが、戦争によって愛する者を奪われる人々を、郵便配達員の目を通して描いている良作。ではあるけれど、途中からフラグ立っていてラストがある程度予測できてしまうのが惜しい!
    3月8日、世界女性デー中央大会で、郵便局の労働組合の人たちは「二度と赤紙を配達しない」とおっしゃっていたけれど、ほんとうにそうでありますように。
    主人公のヨハン(愛称ハネス)は『遺失物管理所』を思わせるような感じのいい若者なのだが。ドイツ版『厳重に監視された列車』といった感じか。

  • 衝撃のラスト、と書評にあったので何の気なしに読んでみた。本当に衝撃を受け、その晩はうなされました。

  • 1941年夏のことだった。国の政策は昔ながらの図書館をめちゃくちゃにしてしまった。中身がガラリと変えられたのだ。ユダヤ色や共産主義色のある本は、アーリア、ゲルマン、原初ドイツ的な本と入れ替えられら。山のような箱が届き、新しい本が並べられた。

  • 戦場で片手を失いあっけなく故郷に帰ってきた若い郵便配達人の日常を淡々とつづる。
    悪化していく戦況とはうらはらに季節の移り変わりをキラキラと輝くような繊細な描写でつづりながら、しかしこれは、なんという、なんという結末。戦争とはこういうものだ、と現実に引きずり戻される。

  • 朝日新聞の書評欄で知る。見習い兵士として前線へ行った2日目に左手を失くし、帰郷して郵便配達の仕事に復帰した17歳のヨハン。彼が地元の7つの集落をめぐって郵便を配達し収集する日々を記した、1944年8月から1945年5月の10ヶ月間の物語。淡々とした筆致で進められる物語はドイツの物語なのにモノローグで進む仏映画のよう。衝撃的な描写(負傷兵の傷、それぞれの家庭の事情)はあるけど、あまり起伏のない物語に正直最初の2、3章は読みながら眠ってしまった。しかし読み進めるうちにいつしか自分がヨハンになったかのように7つの集落の住人たちと知り合いになり、その事情を知り、同じように黒い郵便(死亡、行方不明通知)にドキドキするようになる。ヨハンは愚直に郵便配達の仕事に従事し、手紙を受け取る人々の悲喜交々、とりわけ悲劇が重なっていく。訳者あとがきにあるが、現実の世界でも軍事郵便を待っていた人々がやがて郵便配達人が家の前を素通りすると安心するようになったという(日本でも同様の話を聞いたことがある)。戦時中だが7つの集落で戦闘はなく、ただ砲弾の音が聞こえる程度。当たり前だが戦時中でも季節は移ろいゆく。秋から厳冬、春、初夏と移る季節の描写が美しい。ところが終戦を迎えた途端にこの7つの集落の地に戦争の現実が入り込む。それまでのんびりしたテンポだったのが最後に畳み掛けるようなテンポとなり、そして衝撃の結末。正直あまりに救いのない結末に読後感が悪く、就寝前だったので悪夢を見ないよう、しばし他のことを考えたり音楽に気持ちを移してから寝た。こんな結末にする必要があっただろうか。実際この著者の作品について「いたずらに不安を煽る。」(訳者あとがき)という批判があるそうだ。しかし結末はともかく、”奇跡の兵器”(原爆?)で勝利するというプロパガンダとそれを信じる人々、”原始ドイツ的”な本が置かれるようになった図書館、ナチスを盲信する若い世代が描かれているところは現代に対する警鐘として描かれるべきことだろう。一方でこの時代にこんな発言ができたかと思うほど反ナチ的発言もが多い。秀才児に未来を予言するようなことを(「ヒトラーは自殺すると思う」など、それらはすべて現実に起こったことなのだが)次々と言わせてみたり。ヨハンが恋に落ちるイルメラは、彼の母と同じ助産婦であり、生命を導く仕事をしている人間らしく「これからはいい時代が来る。私が取り上げた男の子たちはもう決して戦争に行かなくてすむ。戦争を経験した世代がそうしなくちゃ。そのひとたちが生きている限りー」それは寓話の形でなしたこの物語のところどころにそっと挟み込まれた著者からのメッセージだと受け取った。

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