意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論

  • 亜紀書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750514505

感想・レビュー・書評

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  • 脳 意識 生死

  • 意識がなぜ発生するのかについては以前から興味があったので、たいへん面白かった。
    哲学的な考察ではなくあくまで実験結果あるいは事実に基づいての研究である。
    何しろ人間の脳は勝手に実験はできないのでその手段は限られる。実験の手法は電磁波を利用して脳を刺激してその脳波を検出するものである。
    実験の対象は通常の人の起きている場合、寝ている場合の他に、事故で脳に障害を負った人に対しての実験などが行われている。
    情報統合理論というのが意識の発生についての重要な理論であり、脳のそれぞれの部分の独自の反応が会話をするように影響することによって意識は発生しているようなのだが、まだまだわかっていないことが多すぎる。意識発生のメカニズムについてわかるまでにはまだまだ時間がかかるだろうが興味が尽きない問題だ。

  • 意識の存在について科学的にアプローチした作品。
    誰でも一度くらいは、緊張で頭が真っ白になってしまったり、前触れもなく恋人から別れを告げられたり、意識を失いそうになった経験はあるハズだ。でも本作はそんなメンタルな意味ではなく、もっと生理学的な意味合いでの「意識」がテーマである。

    不幸にも大きな事故に遭い昏睡状態となってしまう人がいるが、実のところ本当に意識がないのか、それとも外部からの刺激に反応出来ないために、意識がないと診断されてしまうのか、そもそも意識があるというのはどのような状態を示すのか、という疑問にも迫っている。

    本作では「統合情報理論」という、意識の謎を解くカギとなる理論に関して、TMS脳波計という新しい測定装置を使用した、今まで不明瞭だった意識レベルの研究成果が紹介されている。今まで脳科学がテーマの書籍はわりとよく読んだが、ここまで生物の意識という事象に特化している作品は、意外と少ないのかもしれない。

    人間の意識を解明するという行為は、人類が今まで歩んできた道を再び辿るような、気が遠くなるほど地道な営みであると思う。このような研究が、回復の見込みがなかった重篤な患者たちを、再び社会に復帰させるための大きな一歩につながることを期待したい。

  • 「意識経験を支える基盤は、統合され、なおかつ均質ではないシステムである」を合言葉に、探索を進めていこう。

    意識が生まれるのは、電気信号が閾値を超えるからである、と私はこの本を読んでそう結論づけた。小脳は、均一のものが集まりできているので、それをバラバラにしても原理上機能する。しかし、大脳はそうではない。各部分がそれぞれ違った働きをしており、それら間の活動が意識を生み出す。しかし、ここで面白いのが、左脳と右脳内にあるそれらの役割が広く被っている点である。だから、脳梁を切っても意識は生まれている。

    結論はでていない。意識を持つのは人間だけなのかすらわからない。物体に意識はあるのか。最近の研究では、植物状態だと診断された患者にも意識がある場合があると示された。”意識”とはなにか。デカルトのいう”我思う、ゆえに我思う”なのか。それとも、意識があると対外的に表現できなければ意識はないのか。

  • 意識や自由意思とは一体なんなのだろうか。こういった脳科学系の本は好きで色々読むが研究や実験が進めば進むほどに答えが近くなるというより遠ざかるような気さえする。それでも非常に惹かれる分野である。睡眠時の意識についても詳しく書かれているが興味深い。そもそもなぜ人間は寝なくてはいけないのだろうか。なんとなく読みながらレインボーマンのヨガの眠りを思い出した(レインボーマンは力を使い果たすと身体が石化して5時間仮死状態になる)。面白い本でした。

  •  シナプスの量からいえば小脳のほうに多いのに、なぜ意識は大脳にしか生じないのか。重要なのはたんなる複雑さではなく「システムが抱え持つ潜在的なレパートリーの大きさ」なのだと説く。人間が部屋を「暗い」と言うとき、そこには「明るくない」だけではなく「赤くない」「星空ではない」「音がしない」といったあらゆる「ではない」が含まれている。意識とは、こうしたありとあらゆる情報が統合されたものでありるのだという主張だ。

     大脳は左右の半球に分かれていて、その間で対話をすることで複雑性が高められている。あらゆる情報からひとつのものを取り出すことと平行して、わずかな情報から多様な可能性を引き出すことが、「意識」の条件であり、結果でもあるということだろうか。

     視聴覚器官からの情報が脳みそをぐるっとまわって、いろんな可能性のなかからひとつを取り出してくるには、0.3~0.5秒ほどかかるそうだ。「自由意志」仮説への疑いとして、「手を伸ばしてアレをとろう」と考える0.3秒前にはすでに手には信号が発せられているというものがあるが、最初のピン!という信号から「意識」のほうが遅れて形成されるとすれば、頷ける話だと思う。

  • 分割脳に芽生える二つの意識、小脳よりも少ない細胞数で意識を生じさせている大脳の謎、それらの事実から導かれる結論に納得させられた。

  • 意識を説明する理論として、統合情報理論というものが提唱される。
    「ある身体システムは、情報を統合する能力があれば、意識がある」というもので、これ自体は目新しいものではなく、前半はやや退屈。
    後半はとたんに面白くなってくる。
    この理論の一つ、重要な点は定量化を可能にしている点で、系の複雑さがΦ(ファイ)として測られる。Φの具体的な計算法は「難しすぎるから」ということで説明されていないが、経路の情報を含んだ組み合わせの數のようだ。なので、小脳のようにニューロンの数こそ多いが、小脳皮質間の連絡線維というものはなく、独立したモジュールが集まったような系では低くなる。また、モジュール間の連結が多ければいいというものではなく、全てのモジュールが同じように繋がった系では、結局はどのモジュールが興奮しても全てのモジュールにそれが伝播するだけなのでやはりΦは小さくなる。ある程度のランダムさをもった結合の系でΦは大きくなるようで、脳のように層化していたり半球にわかれている方が値が大きくなる。

    もう一つは、実際に理論を確かめているところで、TMSによる刺激後の脳波をとり、意識がある場合はその棘波が脳全体に複雑な形で広がるのに対し、意識がない(睡眠、昏睡)の場合は同じ波形が広がっていくだけであることを確認している。これもΦの値が小さい系(睡眠・昏睡)では同じ波形が伝播するだけで、理論とよく合っている。

    また、われわれがコンピューターに意識がないと考える根拠は、われわれ自身がそれを組み立てたから、ということにすぎない。その動作の秘密を知り尽くしているからだ、というのもナルホド、という感じ。やはり意識は何らかの創発性によって生み出されるもので、そのためにはよく分からない部分が残っていないとダメなんだろう

  •  「意識」とは何か。何が「意識」をつくるのか。「意識」と「無意識」の違いは何か。世界的な脳科学者が「意識」の正体を解き明かすサイエンス・ノンフィクション。

     著者が提唱する「統合情報理論」によると、「意識」とは、主に大脳において、高度に専門化したニューロンが相互作用により無数の選択肢を組み合わせたり排除したりして、最終的には統合された情報として認識することをいう。例えば暗闇にいる人は、「明るい」だけでなく、「赤い」「星空」「音」など、膨大な数の「闇ではないもの」を情報処理している。逆に小脳のニューロンは連携せず、単独で特定の処理のみを行う。これにより、例えば瞬きなどの習慣化された「無意識の行動」が可能となる。

      200億個のニューロンによる「多様な相互作用と統合」の「奇跡的なバランス」がもたらす「選択肢の広さ」を「φ(ファイ)」という情報量の単位であらわし、この値が大きければ、たとえ「植物状態」で身体反応がない人であっても、「意識がある」可能性が高いことが実証されている。専門書ではなく、一般読者向けに平易に書かれており、読み物として純粋に楽しめる。何より、脳というシステムが、極めて優れた組織行動によって機能していることに驚かされる。知的好奇心が刺激される一冊。

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著者プロフィール

精神科医、神経科学者。ウィスコンシン大学精神医学科教授。睡眠と意識についての世界的権威。著書に、Phi: A Voyage from the Brain to the Soul.(Random House LLC, 2012)、A Universe of Consciousness: How Matter Becomes Imagination.(ジェラルド・エーデルマンとの共著、Basic Books,2000)などがある。

「2015年 『意識はいつ生まれるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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