今日のハチミツ、あしたの私 (ハルキ文庫 て 2-1)

著者 :
  • 角川春樹事務所
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  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758442404

感想・レビュー・書評

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  • 「蜂蜜をもうひと匙足せば、たぶんあなたの明日は今日より良くなるから」
    見知らぬ女性からもらった蜂蜜に救われた碧。それから16年後。30歳になった彼女は恋人の故郷で蜂蜜園の手伝いをすることになる。

    物語を流れる蜂蜜のようなやわらかな甘さと、時に鋭く刺してくる針。人間の強さだけじゃない、そのもとになる弱さを描いているからこその説得力。親の子に対する無関心さが滲み出る発言がリアルで、読んでいて胸が痛くなった。だからこそ、親子じゃなく一人の人間として巣立つ意味が際立っているように感じた。

    見知らぬ恋人の故郷で生きようとする碧と養蜂のテーマがとてもマッチしていてよかった。まさに生命の営みを目の当たりにする養蜂から、生きることへの洞察が自然と生まれてくる。あと、こんなに蜂が可愛いと愛着を持ったことはなかった(笑) 蜂蜜を使った料理もおいしそうで素敵。

    「もし明日人生が終わるとしたら─」
    冒頭に問いかけられるこの言葉が読み終わった後も胸に残る。明日人生が終わるとしても、今日という日を丁寧に味わって暮らす。その積み重ねが明日になっていくのだ。


    最後に好きな言葉を引用しておきます。

    「ずるくないから、正しいからそうする、じゃないと思う。碧がどうしたいかだと思う。碧がどこへ行きたいかが大事」

    「食べものが身体をつくるのはあたりまえだけど、それだけじゃなくて。誰かと一緒にごはん食べて楽しかったとかおいしかったとか、そういう記憶ってずっと残るから、食べてもなくならないよ。記憶が残るなら、それはごはんも残ってるってことだよ」

    「自分の居場所があらかじめ用意されてる人なんていないから。いるように見えたとしたら、それはきっとその人が自分の居場所を手に入れた経緯なり何なりを、見てないだけ」

  • 文庫本で読んだ。解説が宮下奈都さんなのもときめいた。

    人生のどん底にいた、居場所がなかった主人公が、ある女性がわけてくれた蜂蜜によって、人生を動かしていくお話。
    作中の泣いた赤鬼の挿話が、マッチしていてまた泣ける。じぶんを犠牲にしてまで誰かのことを想う人。しなやかにじぶんの居場所をひろげていく人。それぞれが何かしらのつらい背景を持ちながらも、今,ここを生きていく。

    『たとえ明日世界が滅ぶとも、それでも私はりんごの木をうえる』というルターのことばを彷彿とさせる物語であった。

  • 長年付き合ってきた恋人と結婚をする為、恋人の故郷という誰も自分のことを知らない環境に入った主人公が、さまざまな人と出会い、ゆっくりと時間をかけながら自分の居場所を作っていく話。

    自分の居場所は自然とできるものではなく、その人の持つ相手を思いやる心とか、和を大切にする心とか、そういうことがいやらしくなく、自然とできる人が得られるものなのだなと碧の行動から感じた。

    人との関係も、食べ物も、過去のことも消えてしまうんじゃない、ただ時間が過ぎてもその人の中に残っていく。それを向き合い受け入れて生きていけるはずだ。

  • 「運が良かったんじゃないよ。その人たちと会えたのは偶然かもしれないけど、会えただけで終わらせなかったのは、それは碧が」
    「碧が、行動したからだよ。碧の良いところがその人たちに伝わったからだよ。全部、あんたが自分の手で勝ち取ったんだよ」

    「明日なんて来なければいい」と思っていた中学生のころ、碧は見知らぬ女の人から小さな蜂蜜の瓶をもらった。それから十六年、三十歳になった碧は恋人の故郷で蜂蜜園の手伝いを始めることに。さまざまな人と出会う、かけがえのない日々。心ふるえる長篇小説。


    主人公が自分の居場所を見つける話。
    主人公の人との距離感に学ぶところがあり、ハッとさせられる一節も多々あった。

    いい意味で他人に期待しない、他人を変えるより自分が変わる事。その方が楽だから。

    そんなスタンスの主人公だからこそ、癖のある登場人物たちとうまくやっていけたのだろう。

    物語に登場する食べ物や養蜂の描写が美しく、読了後はハチミツを使った料理が食べたくなる。

    何かに迷った時読み返したくなる一冊だ。


    こんなひとにおすすめ.ᐟ.ᐟ
    ・自分探しをするストーリーが好きなひと
    ・アラサー、30代女性
    ・養蜂に興味があるひと
    ・美味しそうな食べ物が出てくるストーリーが好きなひと

  • 心 暖まる作品でした。
    寺地はるな 先生 初めて読み返しましたが、「大人は泣かないと思ってた」買ってしまいました♪

    「置かれた場所で咲きなさい」著:渡辺和子
    どんな時も「咲く」努力を……
    無理に咲かなくても 根を張って

    ……を 思い出しました。



  • 一つ一つの風景の描写が
    とても柔らかくて心地よいと感じました。

    蜂蜜を通じて
    新しい人生の扉を開いて突き進んでいく主人公。

    もし明日人生が終わるとしたら。
    終わったとしても、
    また新しい人生が続いていく。

    そして、必ず
    新しい居場所で新しい人たちと
    上手くやって行ける。

    そんな、背中を押してくれるような1冊でした。

  • セリフの書き方が印象的だった。
    そういえば、碧は養蜂場やスナックに通い出して胃痛が無くなったような。
    碧の居場所が少しずつ出来て、ひたむきに頑張ってる所に勇気を貰える。

  • 見知らぬ女性に貰った一瓶のハチミツに救われた碧。
    16年後、30歳になった彼女は、恋人の故郷で何故か養蜂に携わることに……

    寺地はるなさんの本を初めて読みましたが、行間から伝わってくるあたたかい空気がとても心に沁みました。
    ふんわりほっこりするような話ではないのですが、主人公の碧がさまざまなことに真摯に向き合い、行きつ戻りつしながらも着実に一歩ずつ前へ進んで行く姿は、胸にくるものがあります。
    寺地さんの別の本も読んでみたくなりました。

  • ひとりの女性が前向きに変わっていく話。
    学生の頃に、ある人にかけられた言葉があったからこそ生きていくことができた。
    でも、生きたいように生きてきたのではなく、また別のきっかけを経て、自分の居場所を見つけた。
    別と思っていたきっかけは、繋がっていた。

    どんな気持ちでどんな状況でかけられた言葉だとしても、その言葉の価値は受け取った側からしたら、変わらない。
    適当な言葉でも、嘘だとしても、その言葉が支えになったなら、大きな価値なんだなと思った。

  • (2021.11)
    「皆に嫌われているんです。」という少女?に対して
    「違うね。これからもずーーーと嫌われたまま生きていきそう。」

    と答える。
    「あなた自身が、あなたを大事にしないから。あなたがあなたを嫌っているから。だから周りの人はみんな、ますますあなたを大事にしないし、嫌いになる。こいつはそういうふうに扱ってもいいんだって思われてしまう。」

    と、最初からグッと掴まれた。
    始めましての人に、こんなに直球に伝える。でもちゃんとはちみつという優しさを「蜂蜜をもう一匙足せば、たぶんあなたの明日は今日より良くなるから。」という呪文も添えて。

    この先、どうなるかワクワク。

    中盤

    食べたらなくなるのに手をかけてご飯を作る意味が分からない、高校生の朝花に
    「なくならないよ。記憶が残るなら、それはごはんも残っているってことだよ。」

    痺れたーーー。


    後半、黄色が~水色が~という書き方に、茶目っ気があって可愛いな、と思う。
    何だか分からないけれど後半は泣けてきた。1人だったら遠慮なく泣いていただろう。青鬼の黒江さん、碧の根っこの張りっぷり、朝花の賢さも、文章の間にある優しさも、いろいろな蜂蜜を味わうように堪能できた。

    あれ?
    最初から最後まで心掴まされている!
    そして気づいたら、蜂蜜入れて紅茶飲んでる!「リバース」からのこの本なので、蜂蜜漬けになっている今日この頃。本にもどっぷり漬かって漬かりっぱなしになりたい。

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著者プロフィール

1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。他の著書に『わたしの良い子』、『大人は泣かないと思っていた』、『正しい愛と理想の息子』、『夜が暗いとはかぎらない』、『架空の犬と嘘をつく猫』などがある。

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