平気でうそをつく人たち: 虚偽と邪悪の心理学

  • 草思社
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  • Amazon.co.jp ・本 (334ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794207418

感想・レビュー・書評

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  • 8/24読了

  • "変だね、お父さん。悪(evil)っていう字のつづりは、生きてる(live)っていうつづりと逆になってるんだね

  • 私が邪悪と呼んでいる人たちの最も特徴的な行動としてあげられるのが、他人をスケープゴートにする、つまり、他人に罪を転嫁することである。彼らは、完全性という自己像を守るために、他人を犠牲にするのである。

    ーー

    自己嫌悪の欠如、自分自身に対する不快感の欠如が、私が邪悪と呼んでいるもの、すなわち他人をスケープゴートにする行動の根源にある中核的罪であると考えられる。

    ーー

    完全性という自己像を守ることに執心する彼らは、道徳的清廉性という外見を維持しようと絶えず努める。

    ーー

    彼らは、自身の邪悪性を自覚していると同時に、そうした自覚から逃れようと必死の努力をする。精神病質者のように心楽しく道徳意識を欠いているのではなく、彼ら特有の良心の陰にある自身の邪悪性の証拠となるものを消し去ることに絶えず専念しているのである。われわれが邪悪になるのは、自分自身にたいして隠し事をすることによってである。邪悪なひとたちの悪行は直接的に行われるものではなく、この隠し事をする過程の一部として間接的に行われるものである。邪悪性とは良心の罪の意識の欠如から生じるものではなく、罪の意識から逃れようとうする気持ちから生じるものである。

    ーー

    彼らに耐えることのできない特殊な苦痛はただひとつ、自分自身の良心の苦痛、自分自身の罪の深さや不完全性を認識することの苦痛である。

    邪悪な人たちは、光ーー自分の正体を明らかにする善の光、自分自身をさらけ出す精察の光、彼らの欺瞞を見抜く真実の光ーーを嫌うものである。

    ーー

    そのうそは、あからさまなものではない。訴えられて裁判にかけられるような種類のうそではない。しかし、そのうそはいたるところに見られるのである。そもそも彼らが、私に会いに来たことが、一つのうそだったのである。

    それが彼らの、うわべをとりつくろうやり方のひとつだったからである。彼らはロージャーを救おうとしているかのように見せかけていた。

    邪悪な人間が選ぶ見せかけの態度に最も共通してみられるのが、愛を装うことである。

    ーー

    自分は心理的に完全な人間の見本だと信じるというのが、邪悪な人間の特性である。

    邪悪な人たちが自分に障害のあることを認識できないという事実自体が、彼らの病状の本質的要素となっている。

    情動的病の根底にあるのが、通常は、情動的苦痛の回避である。憂鬱、疑い、混乱、失望といったものを完全に経験する人間が、安定、満足、自己充足した人間よりはるかに健全だということもありうる。

    ーー

    邪悪な人間は、自責の念ーーつまり、自分の罪、不当性、欠陥に対する苦痛を伴った認識ーーに苦しむことを拒否し、投影や罪の転嫁によって自分の苦痛を他人に負わせる。自分自身が苦しむかわりに、他人を苦しめるのである。

    ーー

    彼女自身にとっては、彼女は「人々の光」であり、彼女の行くところ、いたるところに喜びと幸せを発散させていることになっている。しかし私をはじめ他人が彼女との関係において経験していることは、彼女が行く先々にきまって残していく、いらいらさせられる混乱と困惑だけである。

    私はこの難攻不落の無神経な壁に頭を打ちつけることに疲れ果てていた。彼女にとっては、私の感情など存在しないも同然なのである。

    ーー

    精神病理学的観点からすれば彼女は病気ではあったが、しかし、彼女が「不安定」であったとは言い難い。それどころか、彼女は驚くほど安定していた。

    ーー

    患者の精神病理が「圧倒的」だという言い方がよくされる。これは、文字通りの意味である。心理療法の親密な関係においてこうした患者に働きかけようとした場合、膨大なうそや、ゆがめられた動機、ねじくれたコミュニケーションの迷路に施療者のほうがひきずりこまれ、文字通り圧倒されてしまうのである。こうした患者を病の泥沼から救い出そうというわれわれの試みが失敗するというだけでなく、われわれ自身がその泥沼にひきずりこまれかねない。

    ーーー
    ーー

    他人を判断するときはつねに充分な配慮をもって判断しなければならないし、また、そうした配慮は自己批判から出発するものだ。

    われわれが他人を悪と決めつけるときには、われわれ自身が別の悪を犯しているかもしれない、ということを充分意識する必要がある。「裁くなかれ、なんじ裁かれざらんがために」というキリストの言葉は、無神論者や不可知論者ですら知っているものである。

    まず、自己浄化が必要であると説いたのである。これが邪悪な人間に欠けているものである。彼らが避けるのは自己批判だからである。

    ーー

    自己浄化こそ、つねにわれわれの最大の武器になるものである。

    ーー

    善は生命と生気を促進するものである。

    ーー

    ストレスとは善の試金石ともいうべきものである。真の意味で善良な人とは、ストレス下にあっても自分の高潔さ、成熟性、感受性、思いやりを捨て去ることのない人のことである。高潔さとは状況の悪化に反応して退行することなく、苦痛に直面して感覚を鈍らせることなく、苦痛に耐え、しかもそれによって影響を受けることのない能力である。

    人間の偉大さを計る尺度のひとつがーーそしておそらくは最良の尺度と思われるのがーー苦しみに耐える能力である。

    ーー

    本書は、いつの日かあらゆる子供たちが、悪の性格とその防止のための基本原理を学校で注意深く教えられるようになる、との期待のもとに書かれた本である。

  • 精神科医の著者が実際に出会った「邪悪」な患者(とその家族)から、「邪悪」とはなにかを書いた本。

    「あるものに対して適切な名称を与えることで、それに対する力を相当程度に得ることができる」とあるが、これは不安の正体を見極めて克服すべき明確な目標とすることで不安を乗り越えるとする精神療法に近い。というより精神科医なら当たり前か。

    最も興味深かったのは「集団の悪」でベトナム戦争時のソンミの虐殺についての言及だった。著者は陸軍に医官として9年勤務しており、軍にシンパシーや教育上の効用があると認めたうえで、軍の構造自体が「邪悪」を生むものになっているとする。そして軍を健全に保つ唯一の道が、完全徴兵制度つまり志願制の否定であり国民皆兵であるとしている。その意図は、常に軍を素人集団にしておく必要があるからということだった。

    また軍人は平和時には心理的にも経済的にも生き抜くためには情動的持続力を必要とするので、ごく普通の職業軍人が意識的にしていも無意識にしても戦争を望み待ち焦がれるのは当然であるとしている。これについては、自己実現欲求の強いアメリカ人ならそうだとは思う。

    悪について興味深い本だった。

  • 2003年度経営者育成塾 テキスト・推薦図書

  • 子どもには環境の影響のほうが大きく、親から子への影響はゼロに等しいという研究結果もあった気がしますが、本書を読むとそうとは一概にいえないと思いました。

    問題児だと連れてこられた子どもより、連れてきた親に原因があり治療も必要なことが、ほとんどだということに大きく頷きました。

    大変興味深い本ですが、冒頭に著者からの注意書きがある通り、読者側にも覚悟がいる本です。

  • 著者自らのカウンセリング経験をもとに、「evil(=邪悪)」を科学的に研究するよう説く著作。

    邪悪な人間とは、自らの欠陥を認めることが出来ず、自己と他者に嘘をつくことで自らの保身を図る者のこと。
    つまり著者の言う“邪悪”とは、字面から浮かぶイメージとは裏腹に、ごく普通の人間にこそ潜むものである。
    またその要因といえる「怠惰とナルシシズム」は、人間の形成する“集団”には付き物であり、邪悪が国家レベルで顕現したとき いかに凶悪な結果を招くのか、ベトナム戦争時の殺戮事件を例として挙げている。

    面白かったが、最終的な結論は胡散臭い。

  • もっと三流紙的な内容かと思ったけれど、これはちゃんとした心理学の本であった。
    「PEOPLE OF THE LIE」が正しい題名=虚偽の人々、なのだが、それでは本の売り上げに影響するからこんなゴシップもどきな題名に翻訳させられたのだろう、気の毒なことだ。

    もっとも感じ入ったのは邪悪な人々が、特別な場所にいるのではない、どこにも普遍的に存在するその事実の怖さ・・・だろうか。
    個人のケースを最後には国家、国民レベルでの話にまで引き上げていく作者の腕は、作家的でさえある。
    翻訳も正確に思えるので、つくづくこんな人寄せ題名にされたことは気の毒である。
    しかしこの題名でなければ、私も本書を読みたくは成らなかっただろう。

    文庫化されたらしいのでいずれ、古本屋ででも買いたい。
    身近に置き、たまに読み返して自己批判、反省を促すためには大変良い書物と存ずる。

  • 悪(evil)の反対は生(live)で、生気を奪うものが悪。
    邪悪の原因はナルシストと怠惰。
    自分の邪悪さを隠すために、スケープゴートを作ってしまう。
    集団の場合は、それぞれが専門に分化するので、責任の所在が不明となる。
    リーダーになるよりも従う方を選び、自ら考えることを放棄するという怠惰。
    自己反省を絶えず促し、自らを変えていくのはとても力がいる。
    その力がないので、悪を隠そうとしてしまう。

  • 怖い本です。胸が張り裂けそうな気持を味わいます。今の世の中、邪悪があふれていると実感しました。

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