陰謀の日本中世史 (角川新書)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784040821221

感想・レビュー・書評

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  • 様々な角度から歴史を見ている研究者を知る。

  •  ベストセラーとなった『応仁の乱』(中公新書)の著者・呉座勇一氏が、史上有名な陰謀をたどりつつ陰謀論の誤りを最新学説で徹底論破し、さらに陰謀論の法則まで明らかにするということで購入。
     呉座氏いわく、学界の研究者の多くは、陰謀の研究を素人の行う低級なものと見下している。そして、荒唐無稽と一目で分かるような間違いを証明したところで学界での研究業績にならないため、あえて陰謀論を否定しようとはしない。しかし、呉座氏はトンデモ説が溢れるこの世界で、「誰かが猫の首に鈴をつけなければならない」と考え、本書を著したという。呉座氏は、陰謀論に引っかからないためにも、何が陰謀で何が陰謀でないかを見極める論理的思考力を身につける必要があると説く。
     本書では、日本中世史における数々の陰謀、謀略について、先行研究を押さえつつ、歴史学の手法に則った客観的、実証的な分析が試みられる。具体的には、各章において次のような内容が取り上げられている。

    ◆保元の乱
     崇徳上皇と藤原頼長に謀反の意思はなかったが、信西が挙兵へと追い込んだ
    ◆平治の乱
     藤原信頼らの信西排除を目的とするもので、平清盛の熊野参詣に裏はない
    ◆平氏一門と反平氏勢力の抗争
     鹿ケ谷の陰謀は清盛によるでっち上げだ
     以仁王の挙兵には正統性に疑問があり失敗は必然だった
    ◆源義経は陰謀の犠牲者か
     「検非違使就任」ではなく「検非違使留任」こそが源頼朝の怒りを買った
     腰越状と「頼朝による義経誅殺未遂事件」は作り話だ
     頼朝が義経挙兵を仕組んだわけではない
    ◆源氏将軍断絶
     十三人の合議制は源頼家の権力を掣肘するものではなかった
    ◆北条得宗家と陰謀
     執権政治確立の過程がすべて北条氏の悪辣な陰謀の連続と見るのは正しくない
    ◆打倒鎌倉幕府の陰謀
     当初の後醍醐天皇は鎌倉幕府との協調路線を模索、正中の変は倒幕計画ではなかった
     北条氏姻戚の足利尊氏は、北条氏と共に滅びるのを避けるためにこれを裏切った
     足利尊氏は心底から後醍醐と戦う気がなかった
    ◆観応の擾乱
     足利尊氏陰謀家説は疑わしく、足利直義毒殺説も再検討の余地がある
    ◆応仁の乱と日野富子
     応仁の乱の原因は将軍家の御家騒動でなく畠山家の家督争いだった
     足利義視の将軍就任は細川勝元・山名宗全ともに支持し、反対する勢力はなかった
    ◆『応仁記』が生んだ富子悪女説
     日野富子は義視の将軍就任を容認していた
     日野富子は義視排除を企てた悪女として応仁の乱の全責任を押しつけられた
    ◆本能寺の変・単独犯行説の紹介
     怨恨説の根拠とされる事件はすべて江戸時代の俗書による創作だ
     黒幕説は明智光秀程度が単独で織田信長を滅ぼすことはできないという思考による
    ◆本能寺の変・黒幕説の紹介
     信長による自己神格化の傾向は看取されない
     朝廷はスポンサーの信長との関係強化を望んでいて、敵視していたとは考えられない
     三職推任問題は公武対立ではなく公武融和を示すものだ
    ◆黒幕説は陰謀論
     光秀が己の才覚で信長を討ったことを殊更に訝る必要はない
    ◆秀次事件
     秀次事件は豊臣秀頼誕生により秀次を邪魔と感じた秀吉の謀略だった
    ◆七将襲撃事件
     石田三成が敵である徳川家康の伏見屋敷に逃げ込んだというのは俗説だ
    ◆関ケ原への道
     三成と大谷吉継の会談がクーデターの始点というのは後世の創作だ
     西軍の大坂城占拠と『内府ちがいの条々』によって家康は絶体絶命の窮地に陥った
     家康にとって上方での大規模蜂起は想定外だった
     小山評定は江戸時代になってから創造された架空の会議だ
     三成と直江兼続の間に具体的な密約はなかった

     呉座氏は日本中世史におけるさまざまな陰謀、政変を紹介するとともに、それらの真相を解き明かしたと称するもの、すなわち陰謀論を「特定の個人ないし組織があらかじめ仕組んだ筋書き通りに歴史が進行したという考え方」と定義する。そして、その特徴として次のような点を挙げる。

    ①因果関係の単純明快すぎる説明
     ある出来事が起こったとき、実際には複数の要因があるのに一要因に単純化して説明する
    ②論理の飛躍
     状況証拠しかないのに、自分の思いだけで憶測や想像で話を作っていく
    ③結果から逆行して原因を引き出す(結果からの逆算)
     事件によって最大の利益を得た者が真犯人であるとみなす
     起点を遡ることで宿命的な対立を演出する

     呉座氏いわく、多くの陰謀論者は自説を歴史の真実と確信し、「真実の歴史」という触れ込みで人々に布教活動を行う。そして、陰謀論は単純明快で分かりやすく、歴史の真実を知っているという優越感を抱けるので人気を博すこととなり、インテリや高学歴者ほど騙されやすいという。
     歴史的事件が専門的見地から分析される各章の内容は興味深く、事実はドラマや小説よりも面白いと思うことができるものだった。しかし、本書は日本中世史をテーマとしたもののはずだが、最終章ではいきなり専門外と思われる近現代史への言及がはじまり、これがしばらく続く。この近現代史への言及は不要であり余計に感じた。
     また、呉座氏は次のように陰謀論者をきびしく批判する。
    「陰謀論者は自説が想像の積み重ねであるのを棚に上げて、他人の説を『推測にすぎない』『確実な証拠がない』と攻撃する。歴史学は『確からしさ』を競う学問なのに、彼らは自説が一〇〇%正しいと信じて疑わない。その時点で、彼らに歴史研究者を名乗る資格はないのである。」
     呉座氏は自分以外、特に歴史作家や在野の歴史研究家の推論に基づく説にはかなり手厳しい。しかし、呉座氏自身も推論に基づく説は本書においていくつも披露されていて、その辺りは少し違和感を覚えた。

  • 視点を変えれば事件の裏が見えるのかもしれません。
    本能寺の変や坂本龍馬暗殺についてはもっと色々知りたいです。

  • うーん、全て上から目線

  • 中世を中心に歴史上の陰謀論・俗説・珍説を検証。さらに陰謀論の発生の仕方、パターンまで検証していて面白い。自分も一時井沢元彦とかハマってた時期があるので耳が痛い部分も。
    まあ、本能寺の変秀吉陰謀説とか、義昭陰謀説とか、朝廷説とか、家康説とか、イエズス会説とか全部無理があると。歴史学者は普通そういうのは放って置くらしいが本書は丁寧にどう無理があるのか教えくれる。

  • 陰謀論や、脚色された小説やドラマはわかりやすくて楽しいけど、それを史実と勘違いしないようにしたい。一次史料を読み解くのが一番なんだろうけど、研究者でもない一般人にはなかなかできることではないので、複数の本を読んで知識をつけ、何が正しいのか自分で判断する力をつけるのが良いのだろうな。、

  •  日本史に興味があるなら小説家が書いたものや刺激的なキャッチフレーズ(「真実」とか「陰謀」とか「新発見」とか)のものを避けるべきである。そして、高校の日本史教科書又は高校日本史の参考書、もう少しやさしいのだと、『漫画 日本の歴史』あたりを読んだ方がよろしい。
     歴史研究書の体をなしたトンデモ本があふれていて大変危険なのである。
     司馬遼太郎みたいに「これは小説である」と書けばよいものを(作品名失念。)。

  • #麒麟がくる はそれなりに評判がよかったように思える。しかしながら専門家にとっては「光秀の動機などどうでもいい」のであって「学問的に意味がない」し「ああいううので盛り上がるのは素人」であって「時間の無駄」だから「相手にしない」らしい。
    著者はそのような風潮に警鐘をならす。放置していれば「陰謀論」が「社会的影響力」を増すと。確かに、なぜ本能寺の変が起こったのか?は現代社会にとってはハッキリ言ってどうでもいい話ではある。 しかしながら、現代社会でも陰謀論は存在する。著者の狙いは「イデオロギー対立と直接関係のない中世の陰謀を題材に陰謀論のパターンを論じれば、人々が陰謀論への耐性をつける一助になるのではないか」というものである。
    人はどうしても歴史に「因果」を求めてしまう。それは「単純」であるほどいい。その方がわかりやすいしスッキリするからである。ただしそこには「論理の飛躍」や「結果から逆行して原因を引き出す」という思考に陥りやすいという問題がある。本書は「歴史」に学ぶというよりも「歴史学」に学ぶというテイストではあるが、全く学問的な業績にはならない「研究」をあえて行う著者の誠実さは傾聴に値するように思える。本書で大河ドラマを振り返ってみるのもいいのかもしれない。

  • 梶原景時に関して、京都との関わりに触れているところが嬉しい。

  • 本能寺の変をはじめとする日本中世史における数々の陰謀・謀略(があったのではないかとされる事件)について、最新の研究成果も踏まえた先行研究を抑えつつ、歴史学の手法に則って客観的・実証的に分析し、陰謀論の誤りをただしている。
    「足利尊氏は陰謀家か」「日野富子は悪女か」「本能寺の変に黒幕はいたか」といった陰謀論の検証を軸に、日本中世史(政治史)の様々な最新学説を瞥見でき、知的な面白さがあった。20年ばかり前になる高校時代の日本史の教科書の記述も、だいぶ古びてきているんだなということを感じた。
    本書は、陰謀論に引っかからないための耐性を身につけるのに有意義な本であるといえる。当時の人々も未来が完全に見通せたはずはなく、試行錯誤の中で歴史を歩んできたのであり、現在の結果を知った状態から逆算して歴史上の因果関係を考えることには、慎重にならなければならないと感じた。

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著者プロフィール

国際日本文化研究センター助教
著書・論文:『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』(中央公論新社、2016年)、「永享九年の『大乱』 関東永享の乱の始期をめぐって」(植田真平編『足利持氏』シリーズ・中世関東武士の研究第二〇巻、戎光祥出版、2016年、初出2013年)、「足利安王・春王の日光山逃避伝説の生成過程」(倉本一宏編『説話研究を拓く 説話文学と歴史史料の間に』思文閣出版、2019年)など。

「2019年 『平和の世は来るか 太平記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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