孤島の鬼 江戸川乱歩ベストセレクション(7) (角川ホラー文庫 え 1-7 江戸川乱歩ベストセレクション 7)
- 角川書店(角川グループパブリッシング) (2009年7月25日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041053348
作品紹介・あらすじ
初代は3歳で親に捨てられた。お守り代わりの古い系図帳だけが初代の身元の手がかりだ。そんな初代にひかれ蓑浦は婚約を決意するが、蓑浦の先輩で同性愛者の諸戸が初代に突然求婚した。諸戸はかつて蓑浦に恋していた男。蓑浦は、諸戸が嫉妬心からわざと初代に求婚したのではないかと疑う。そんなある日自宅で初代が殺された。これは恐ろしく壮大な物語の幕開けに過ぎなかった-。
感想・レビュー・書評
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怪奇も含んだサスペンスストーリーで読者にも呼びかけるような文調で淡々と読む手が止まらなかったです。最終に戦慄する様なバッドなどんでん返しも想像したけど、その裏切りは無くて前向きな終わり方でよかっだです。
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30にもなっていないにかかわらず頭髪のすべてが白髪となっている簑浦。それは彼が数年前にある奇怪な事件に巻き込まれたからであった。恋人の死、友人の死、そして事件はさらに恐ろしい方向へと転がりだしていく。
前半は正統派のミステリー。密室の殺人、衆人環視の中での殺人という謎が話の軸です。しかし中盤それが解かれたと思いきや物語は思わぬ方向にスライドしていきます。前半のミステリから後半は冒険活劇、それも乱歩の怪奇趣味が全開で描かれるので乱歩の様々なエッセンスがこれ一冊で楽しめます。
そしてこの作品を単なるエンタメ以上の作品に引き上げたのが諸戸道雄の存在。同性愛者で一度簑浦に告白したことのある彼が事件に絡むことで、怪奇ミステリのこの物語に愛憎もからんでくる切ない恋愛小説の面も見えてくるのです。乱歩作品に恋愛要素のイメージはあまりなかったのですが、こういう作品もあるのか、と乱歩の引き出しの多さに改めて驚きました。
そしてそうした恋愛要素が普通の男女ではなく(作中では簑浦の最初の被害者の初代との恋愛描写もあるのですが)、同性愛者の恋愛という観点から書くのも、なんとも乱歩らしいなあ、と思います。
乱歩作品では他にも『芋虫』や『人間椅子』など倒錯した愛情を持った人物が色々出てくる印象でしたが、諸戸がもしかすると一番乱歩作品で正常に近い人を愛する、という感情を持っていたのかもしれないですね。
今思い返すと、ものすごく内容の濃い小説ですが、ミステリ、冒険、怪奇、そして恋愛とあらゆる要素を独自の乱歩色で塗り上げたこの作品は今後も唯一無二の作品として色あせることはないように思います。 -
諸戸道雄にも幸せになって欲しかった。最後の文で彼の思いの強さを再確認し、彼こそこの物語の主人公だったのではないかというくらい心に残ったキャラクターになった。
正直、はじめての江戸川乱歩作品で想像以上の気持ち悪さと、その当時の時代背景もあると思うが、差別用語の多さから、読むのが辛いと感じる時もあった。
でも、後半の伏線が綺麗に回収されていくところは流石としかいいようがない。 -
江戸川乱歩作品の唯一の同棲愛を描いたミステリー。
書店で見つけたとき、あまりに好みな装丁で購入しました。
「若くして自分の髪が全て白い理由、妻の足の付け根に大きなアザがある理由」の全貌について、主人公ーー蓑浦くんの書いた文章を辿りながら知っていく小説。
まず、文章や内容が壮絶でありながら、実に耽美です。
ミステリー自体は重く不気味な内容ですが、そこに同棲愛描写を絡めることで絶妙な物語展開になっています。
また、心理的読みずらさが緩和されて面白く読むことができます。
内容は同棲愛ですが、あくまでミステリーですので、同棲愛が苦手な方でも苦なく読めると思います。
耽美な作品が好きな方や興味を持った方など、是非読んで見てください。
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江戸川乱歩さんの頭の中ってどうなってんだろう…。
と前から思ってた事が更に濃くなったそんな作品です。
色々と驚かされましたが、
陰険でジメジメしてる一言で言うと「気持ち悪い」話でした。
その「気持ち悪い」感じが
ただ気持ち悪いのではなく癖になる、耽美でいて気持ち悪い。
全く不快感の無い、気持ち悪い作品。
同性愛の要素も有り、
最後の最後まで主人公を愛し続けた諸戸さんが切なかったです。 -
主人公と、主人公に同性愛の感情を抱く美青年が、壮絶な事件に巻き込まれる物語です。
腐女子は読まないと損です(*´∀`*)
鬼は、孤島のヤツじゃなくて、主人公だと思う(笑) -
人生観を変えられた作品のひとつ。
差別的な言葉多様されてます。
そういうのが許せない人にはおススメできないかも。
片輪者、同性愛、奇形。
バンバンでてきます。
面白いなぁと思ったのが、
片輪者やシャム双生児(べトちゃんドクちゃんみたいな)を見ても
人として扱える・むしろ愛することが出来る主人公(初代への懸想もあっただろうが)
それなのに、どうしても、極限状態においても、道雄の同性愛だけは最終的に受け入れることが出来なかった、ってところ。
主人公にとっての鬼は彼だったんだなぁ。と。
主人公は、道雄という、誰もが羨む聡明な美青年に愛される、ということに僅かならず自尊心を持ちながら、
時には彼に甘えてみたりして、
でも、そこに道雄の「本気」が見えると、恐ろしくなり、逃げる。ひでぇwww
乱歩は短編が素晴らしいけれど、
この長編小説は、他作品に引けをとらないぐらい、世界観が異様。
おもしろいです。