海と毒薬 (角川文庫)

著者 : 遠藤周作
制作 : 駒井 哲郎 
  • 角川書店 (2004年6月25日発売)
3.58
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  • Amazon.co.jp ・本 (186ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041245255

海と毒薬 (角川文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 戦時下の病院なんて、もっと爆撃とかでやられて苦しんでいる人だらけ…なイメージがあったので、まずは一般の病人が入院してたということが、単純に私にとっては発見でした。
    そして、権力抗争。
    権威をほしがる人間の欲求なんて、普遍的なものなのかも。

    とはいえ、死と隣り合わせの戦争をしていた時代。
    人の命をどう扱うのか、医者として勝呂は悩む。
    読みながら、だんだん自分も何が正しくて何が正しくないのか…わからなくなってくる。
    戦争によって傷つけられるのは、町や人の体だけじゃなく、人の心なんだということを再確認。

    それぞれの人の内面に深く深く入り込んでいく作品。
    戦争という異常なできごとだったからこそ、の部分と、いつの時代も変わらない人間の本質的な部分と。
    どちらも感じられ、読みごたえがありました。

    文体も読みやすく、遠藤周作の他の作品も読みたくなりました。

  • 恥ずかしながら遠藤周作の小説を読むのはこれが初めて。
    相川事件については詳細は知らず、あったという事実だけしか認識していない状態だったけれども、いつかは読まねばーと思い、ようやく達成できた。

    平野氏の解説にあった「罰を恐れながら罪を恐れない日本人の習性」を浮かび上がらせるために、普通の生活を送る私たちが想像しやすいよう、小説という体裁をはずれず、”派閥争い”や”恋愛”などを織り込み、結果小説としても問題提起としても成功しているところに作者の力量を感じた。

    悩み続ける勝呂に寄りそっていたはずが、いつの間にか戸田の感情に共感することもあり、読んでいる間何度も混乱に陥った。
    恐ろしいことに、たしかに戸田の言うとおり、この時代、こういう状況下に置かれたら私は罪を犯すだろうと平然と思っている時間があったからだ。

    それでも何となく、いや、多くの人がこうした場合流されて戸田や浅井のような行動を取るんじゃないか? と思ったりもした。
    しかし、果たして本当にそうだろうか、日本人が神を持っていないということも大きいんじゃないか、いや神とは何だ? とかぐるぐるし始めて、結局答え出ぬままパンクして終わってしもうた……

    今でもまだ印象に深く残っているのは、小説や詩にはからきしの勝呂がよく心に浮かばせるという「羊の雲の過ぎるとき~」詩だ。
    私も詩の教養はさっぱりだけれど、あれを読んだとき何となく救いを包含した悼みの詩だという気がして、だから勝呂はあれを心に浮かばせたとき、大きな偉大なものに抱かれ、少しでも救われるような気がしていたんじゃないかと思っていた。
    だからこそ、最後に罪を得た勝呂があの詩を呟けなかったことに私も打ちのめされ、まだ黒い海を漂っているような感じなのであったー。

  • "日本人は罰を恐れ、罪を恐れない"
    この言葉が実に的確に日本人を表している。怯える男、良心の無い男、嫌悪を抱く女。戦争中の生体解剖が行われた"相川事件"を通して描かれるのは読者に問う良心であり、愚かさだと思う。読んでいる最中、病院の薬品の匂いと黒い海を想像していた。それだけ熱中できる名作。

  • リアルだった。空気って怖いね。事実のままではなく、小説にしたよさが完璧に出ているという事なんだなぁと、解説を読みながら思えた。やはり、日本人は、こういう風になりやすいんだろうか。
    戦争のことだけについていうと、この本だけじゃなく、他の本やテレビなどからもおもったのが、一旦始まってしまうと、段々感覚が麻痺してきて、というか麻痺させないと生きていけないところに追い込まれるのが戦争なんだろうなとおもった。一旦そうなってしまうと、止めることも出来ないよな。
    文章が読みやすかった。
    「私」が、この後、医院へ通うのかが、わからないままなのがいいのかな?あなたなら、ということなんだろうか。

  • 太平洋戦争、本土への無差別的な空襲が激しくなった頃、アメリカの戦闘機B29の乗組員が捕虜として、九州にあるF病院に連行された。その病院では生きたまま解剖するという、おぞましい生体解剖が行われた。
    この作品は、実際にあった出来事を題材に、小説化したと言われている。
    本来、人の命を救うべき立場の彼等がヒトを生きたまま解剖するという不条理な罪意識を、登場人物それぞれの視点で巧みに描いている。
    元々は問題的ではない常識的な人たちが、時代背景や利害関係よってに流されていく様子は、まさしく毒薬であると言える。
    「沈黙」と並び、罪に対する意識について問いかける筆力は凄まじく、寝る前に読む本でないことは間違いない。

  • この作品からの問いかけに面と向かって大見得を切れる人がどれだけいるだろうか違和感を覚えつつも雰囲気に流されてしまう人の弱さと怖さ。本当に何か感じられるかどうか自信が持てるだろうか。そういう人の危うさを自覚させられる。ための殺人。戦争もそうだ。理由はある。そんな時、戦地から帰ってきた死んだ祖父が夜、時折、うなされていたという話を思い出す。一方、割りきれてしまう人もいるというのは恐ろしいことだとこの作品は教えてくれる。

  • 医者がどんな気持ちで患者の自分に向き合っているのか、これからそんな事を無駄に気にしながら恐る恐る診察してもらう事になりそうだ。

  • 戦時下という一種異常な状況における人命の扱われ方、その尊厳のなさ、命には優劣があり、対する疑問や憤りもやがて諦観に覆われていく、物語全体に漂うその虚無感、が印象的な作品だった。私は幸運にも今この「時代」に生きていられるから、人命第一という価値観のもと過ごしていけるが、戦時下という「時代」のもとならばどうだろうと、考えさせられた。けれど同時に、人間に時に垣間見える残酷さ、残忍さ、残虐さ、他人を陥れるときの仄暗い喜びや、他者を攻撃する際の高揚感を、「時代」のせいにしてはいけないとも思う。罪ではなく罰を恐れる自分の心を肯定してはいけない、ということを、頭ではなく心で感じるには、どうすればいいのかなあ。

  • なにもしない、できないことの罪。
    こころの闇。
    C0193

  • 登場人物を混同しそうになるけれど、なるほど、代表作とされるだけある。たんたんと進むため、意外と気持ち悪さなどはあまりないが、そのぶん、生体実験の怖ろしさを思う。

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