八月の博物館 (角川文庫 せ 4-5)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (589ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043405060

感想・レビュー・書評

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  • 小説家志望の小学生トオルがミュージアムのミュージアムという全てのミュージアムに通じている場に踏み込んだことより始まる物語。そこに小説の意味を問う作家と、19世紀のエジプトで活躍する考古学者の物語が絡み合う。

    ミュージアムはありとあらゆるものが集まっている。しかしただ単に集めて並べているだけでなく、そこに見せ方の工夫が為されている。その見せ方によって物語が生まれる。物が語るから物語。そのことを思い知らされます。
    エジプト考古学者の話は亨の冒険に関わるものなので、それが多重的に描かれるのは判ったのですが、作家のパートでメタ・フィクション的構図を示された時、これは物語が創られることの意味合いを説明するにしてもちょっと興醒めだなと思っていました。わざわざ説明しなくても冒険を通じてそれが見えてくるだろうと。
    しかし終盤の展開に至り、なるほどこれは必要な要素だったのだと膝を打ちました。これは物語を紡ぐ人たちへの応援歌にもなる物語だし、物語を読む楽しみを再確認させてくれる物語でもあります。

    いやでもね、そんなこと全部無視して「小学生最後の夏休みの冒険」というだけでも充分面白いんですけどね。

  • ファンタジーSFの大長編。小学生の亨、エジプト考古学者のオーギュスト・マリエット、そして私。この3人の主人公が綿密に絡み合う物語は絶品である。特に亨視点での物語は純粋にファンタジーとして面白い。エジプト考古学に関する描写もかなり詳しく、相当な手間がかかっているように思える。ラストシーンはメタフィクションの応酬で内容が難しく、人によってはかなり困惑すると思う。しかし多くの読者が亨少年の大冒険を読み、彼の「小学生最後の夏休み」に共感・懐古できるのではなかろうか。

  • 自分は決して理系の人間ではない。
    だから、『パラサイト・イブ』も『BRAIN VALLEY』も中学生の頭には、ポカンの一声だった。
    だが、文庫本570ページに及ぶ長編を食事も忘れ、文字通り高一の夏休みの二日間飲まず食わずで読み切ったのは、生涯この作品が最初で最後だろう。

    その作品が『八月の博物館』である。

    終業式帰りに「ミュージアムのミュージアム」という奇妙な館を見つけた小学生・トオル。
    エジプトに魅せられた十九世紀の考古学者オーギュスト・マリエット。
    小説とは何かを問い続ける理系作家。
    三つの話がそれぞれにスタートし、やがて“物語”の名の元に“同調”する。

    不思議な少女・美宇と黒猫・ジャック。謎の紳士リチャード・ガーネットに満月博士。
    幼馴染み、啓太と鷲巣。恋人の有樹。
    ハッサン、カンピュセス、カーとバー、そしてアビス。


    メタフィクションという言葉がある。だが、あくまで“物語”を神聖視し、出会った“物語”と生み出した“物語”、そして“物語”の中に生きるということを、ここまでファンタジックに書ける作家は、瀬名秀明しかいない。

    それは理系作家としての顔ではなく、ドラえもんのSF(すこしふしぎな)感性に触れてきた、物語作家としての顔が為せた作品である。


    物語にははじまりとおわりがある。
    終わってしまえば、その後には何も続かない。

    でも、あの八月の二日間。
    『八月の博物館』に出会った時のトキメキは、ずっと忘れない。

  • 中学生の頃、初めての本格小説だったと思います。
    2つのストーリーが並行し、「早く学校の話にならないかな」と思ったのを覚えています。
    なんか壮大で瑞々しく、そのあと何回か読み返しました。
    また読もうかな。。

  • 3度目の再読。

    最初は大学生の頃。
    次は社会人になってすぐ。
    そして今。

    3つの(4つの?)物語が交わって加速する後半は毎回没頭する。

    夏休みと冒険と謎解きが合わさって「これぞ物語」って感じ。夏休み中であることがミソ。

    エジプトに行ってみたくなる。
    博物館や美術館の面白さに気づく。

    物語に入り込みたいときに読みたい本。

  • 博物館に行きたくなった

  • この『八月の博物館』にはある重大な秘密が隠されています。その秘密が、私達がこの本を開かなければいけない、そしてラストまで読み終わらなければいけない理由です。

    その秘密をこの物語の中に見つけた時、私もこの冒険の中にいること、登場人物であること、この物語に組み込まれた存在であることを知り、ぞくぞくしました。その秘密は読者になることでしかわかりえないものでした。
    この『物語』は「書かれること」「読まれること」そして「読むこと」ではじめて「物語」になります。そしてそのために、この『八月の博物館』は書かれました。

    夏の恐竜展に出かけた小説家は展示されたフーコーの振り子に強烈な既視感に襲われ、少年時代のふしぎな夏を思い出します。

    小学校6年生の夏休みを過ごす小説家を夢見る亨はある日ふしぎな博物館と出会います。ふしぎな少女美宇と今にも動き出しそうな恐竜の骨、目の前を通り過ぎる魚群、何もかもがリアルに迫る展示物を、扉から扉、博物館から博物館、美術館から美術館、そして古代の神の化身アピス像をめぐり古代エジプトを駆け巡ります。

    そんな少年時代を題材に小説を書き進める小説家は自らの書く小説に重大な秘密を発見します。物語の作為性に疑問を感じ、押し付けの感動を嫌い、現実と物語のはざまで物語を書くことに悩む小説家は物語を書くことによりこの物語の秘密に気付き、自らの役割を果たそうと筆を走らせます。

    少年の亨がなぜ博物館にくる運命に至ったのか、そしてなぜ小説家はあの夏を題材に小説を書いたのか、そして『八月の博物館』はなぜ書かれたのか、なぜ読者である私たちは今、本のページをめくり物語を読んでいるのか。『物語』とはなんなのか。

    作中小説家はアラジンの名曲になぞらえ、作者と読者は「作者→読者」へ一方通行の感動をあたえるのではなく両者は同じ地平に立ち、同じ世界を見、感じ、感動をわかちあう存在だと語りかけます。飛行機の窓からのぞむ、雲の切れ間から射す太陽。読み手である私達もまた「登場人物」であると思うと、一気に物語が私達に多くのことを語りかけてきます。

    ミュージアムは展示品を展示する場です、しかしそれだけではミュージアムは機能しません。ミュージアムは展示場であると同時に、展示品の物語の語り手であり私達はその物語を読んでいます。

    とにかく猫!何はなくても猫!ジャック!ジャックかわいいやつめ。ぬこぬこ。

  •  私としては「パラサイト・イブ」「ブレイン・ヴァレー」に続く3作目。

     予備知識ゼロで読み始めたが、とてもおもしろい。オカルト色がなく、ファンタジー色が強い本作は、主人公とは別にそれを描く作家と作者本人が入れ子になり、さらに合間合間に自らの主張やエッセイらしきものが入りとてもユニーク。

     ディック(最新映画や名作や書籍)+13F+ネバーエンディングストーリーってな筋で、きっと賛否両論あるだろうけれど、捨てずに自宅の書棚を飾る名作だと思う。
    (作中にあの古本屋が出てくるから瀬名氏も好きな映画なんだろう)

     瀬名氏の作品はいずれも完璧なCGで作られた映画のようだった。論理性に妥協がないハードな作品。でも、そこが完璧すぎるから、小説として必須である仮説がオカルトっぽく見えたり飛躍しすぎてその落差について行けなくなる。これはたぶん私自身が理科系だからだと思う。


     対して本作はきれいな宮崎アニメのような感じ。だから蘇りとかタイムパラドクスとかヴァーチャル・リアリティだとか言った大きなしかも一歩間違うとまったく興ざめな仮説(背景)もすんなり受け入れられる。

     そもそも瀬名氏と私は好みが似ている。だからこそ、前2作で感じた落差を自身も感じていたに違いない。本作でそれが克服されたとは決して思わないが、ここを突き抜ければ間違いなく傑作が生まれる気がする。

     作中にもあるが、自然界をシュレディンガーの波動方程式で表すことを知ったとき、私は「さすがに複雑なものだから複雑な式なんだ」と感動した。しかし、アインシュタインを学んだときの感動とは比較にならない。

    「イー・イコール・エムシー・ジジョー」

     これだけですべてを表すことに猛烈な感動を覚えた。アインシュタインは統一場理論を完成できなかったが、その魂は脈々とわれわれの中に息づいていると思う。

     語り尽くせないが、こういった美しさや感動は眼で感じるものではない。自然界の風景で感動するのとは別の感動だ。瀬名氏はその感動を共有したかったのだと思う。がんばってほしい。もっと感動を共有したいから。

    追伸)
     瀬名氏のblogを見つけた。同じSeesaaだった。時間を見つけて読んでみよう。

  • 2007.3.19

  • 小学校の終業式の帰り道、小さな冒険の末、足を踏み入れた洋館。

    少女・美宇と黒猫と出会ったその場所は「ミュージアムのミュージアム」という不思議な空間だった。

    少女に導かれるまま、少年・享(とおる)は「物語」の謎をひもとく壮大な冒険へと走り出した。


    小説の意味を問い続ける作家・小学校最後の夏休みを駆け抜ける少年・エジプトに魅せられた19世紀の考古学者。

    三つの物語が出口を求め、読者を巻き込んだスペクタクルを放ちだす。



    「誰も観た事のの無い「物語」の世界、堪能してください。」


    今回の紹介はこの一言に尽きます。

    余分な言葉は必要ありません。

    全ては「物語」の中にあります。


    あ、もう一言だけ( ̄∀ ̄*) 

    「パラサイト・イブなんかよりよっぽどこっちの映画が観たいですw」

  • この本を初めて読んだのは高校生の頃。
    高校の図書館で見かけて、表紙、名前を見ただけで読みたくなってかりました。
    文系で、しかも歴史が好きな自分にとってはかなり好きな本です。
    「博物館の博物館」を巡る物語がメインです。
    こんな博物館あったら行ってみたい。
    小学生に戻りたいと常に思っている自分にとって、とてもわくわくしながら読める本です。
    「夕焼けだった。夏休みが始まった頃は夕焼けなんてなかったような気がする。空は青から群青色に変わって、そのまま夜に移っていったような気がする。それなのに空はいま、うっすらと日に焼けている。もう秋の空が近づいてきていた。」という文章が強く心に残り、毎年この時期思い出します。
    歴史が好きだったり、子供に戻りたいと思ってる人には、とても楽しめる本だと思います。

  • 歴史に詳しくなれそう。

  • 夏のにおいがして好きです。

  • 面白かった。
    本当に面白かった。
    満足でした。

  • 本にはまるきっかけをくれた本。
    不思議な空間へ連れてってくれます。
    (表紙とあらすじに惚れて衝動買いしましたv)
    ちょうど買ったのは夏休みでした・・(遠い目)

  • ものをつくるひとにしか分からない面白さがあると思った。

  • わくわくしながら頁をめくる。こんな気持ちがとても懐かしくて心地よい。
    小学・中学時代、図書室へ通ったころを思い出す。
    作品中にある「めもあある美術館」という童話は、実在する作品らしい。
    なんでも小学校の教科書に掲載されていたとか。
    これで勉強した人がちょっとうらやましい。(2001.10.25)

著者プロフィール

1968年、静岡県生まれ。東北大学大学院薬学研究科(博士課程)在学中の95年『パラサイト・イヴ』で日本ホラー小説大賞を受賞し、作家デビュー。
小説の著作に、第19回日本SF大賞受賞作『BRAIN VALLEY』、『八月の博物館』『デカルトの密室』などがある。
他の著書に『大空の夢と大地の旅』、『パンデミックとたたかう』(押谷仁との共著)、『インフルエンザ21世紀』(鈴木康夫監修)など多数ある。

「2010年 『未来への周遊券』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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