テロリズムの罠 右巻 忍び寄るファシズムの魅力 (角川oneテーマ21 A 96)

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  • 角川学芸出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784047101784

感想・レビュー・書評

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  • この右巻では2008年に起こった事件や。グローバル資本主義のもとで帝国主義化するアメリカ、ロシア、中国などの大国各国の政権と国体の変動を解説しております。この本もまた非常に読み応えがあります。

    この本は右巻・左巻と同時刊行されたうちの右巻で、ここではロシア・グルジア戦争、アメリカの大手証券会社だったリ-マン・ブラザーズの経営破綻。形を変えた帝国主義を標榜し始めるアメリカ・ロシア・中国などの大国の政権や『国体』が以下に変貌して言ったかということを古今東西の分権を利用しながら詳細に分析されており、新書のサイズながら、ものすごく読み終えるまでに難儀しました。

    現在でも閉塞感がはびこり、彼の言うところの排外主義や、具体的に『ファシズム』という言葉は使わないものの、行動様式はファシズムそのものである行動を取る政権や政治化が出始めたことに本当に驚きを隠せない状況になってきていると思いました。僕が興味を持ったのは、第一章『ロシア情勢の変化』及び第二章の『王朝化する帝国主義と「生成するロシア」』では多少事情は違えど、ロシアにおける権力闘争や、プーチン、ペドベージェフがいかにして『二十年王朝』を構築しようとしているのかテレビを見ていても、『ああ、裏ではこういうことが動いているのか』と類推することができるようになったので、読んでよかったなと思いました。

    第八章の『雨宮処凛、あるいは「希望」の変奏』では筆者が雨宮処凛さんとの対談を通して、若者の非正規労働及びプレカリアートの問題を考察し、労働力を再生産できないまでに経済的に逼迫した層が生まれることと、ティッシュにしょうゆをかけて食べる人間の層と、100万円の年会費を払い、司法試験の勉強をする人間が同じ国家の中に存在しては「同朋意識」が育ちにくい、と看破する筆者の筆の鋭さに改めて驚嘆しました。

    このような状況になっていくと、保護主義政策や排外主義政策を国家がとるということで、今問題になっているTPPの問題もこれは形を変えた「ブロック経済」が復活したと思うと、理解が得ることができました。このようにして「時代」を読み解くことができるのは筆者の外交官時代の経験と、神学を専攻した、という経歴が根幹にあるという話を聞いたことがあります。こういう思考が形成される経緯はすごく興味がありますので、これからも僕は筆者の著作を読んでいくつもりです。

  • 江戸幕府もマルクス経済学も、労働者(農民)は生かさず殺さずを是としているが、現代の経営者は後先考えずに搾取し、殺しにかかっている。
    情報分析は得手だが学問の解説は不得手な模様。長々とした引用の合間に難解な文章で解説をされるが、わかっている人の一人語りであり、人にわからせるための言葉ではない。
    世界情勢については、アクセスできる情報が一般ニュースレベルなので、そこから何とか解釈しようとした結果、自分の中の既知の学問によって情報を膨らませざるを得ない苦しさを感じる。
    対談のくだりは面白いが、それは相手の面白さによるもの。
    現場に戻って欲しいものだが、向うにその度量は無いのだろうなあ。

  • 個別の知識はとても重要なものが多く、得るものが多い本です。大きな物語を好む、ロシア的な思考が背景にあるなどが予想に影響してる気がしますが、全体的にはいつもの流れでした。
    テロリズムを是とする流れ、については最近切に感じる危機感でした。ただし一部にそう言う思考の人が増えると言う認識で、筆者とは少し違う気がしますが。

  • 2022年7月6日読了。長らく積ん読になっていた本を読了。2009年刊行の本、本の主題は「ファシズム」なのだが、ほんの話題として当時ロシアではメドベージェフ氏が大統領就任・プーチンが首相ということでその真意・ロシアが考える「国家」のあり方についてや、資本主義と恐慌のメカニズムに関する本を引用して論じたり、内容にまとまり・統一感がなく感じる。冒頭に挙げられた問題意識、当時のオバマ大統領は「赤・青を超えた国家の統一」を訴えるが、これは政党が「ある層の利益を代表する集団」である以上、それを超えた「国家」の価値観を人々が優先することは容易にファシズムにつながる道であるという指摘と、近代国家・資本主義とファシズムは極めて相性のいいものであり(その裏に強行・不安のメカニズムが存在している)この管理し得ないものをどう管理するか、という点が現代の最大の論点である、という指摘は非常にスリリングに感じたが。「左巻」をあわせて読むともっと理解しやすいの、かも。

  • 新自由主義の反動からもたらされるかもしれない「ファシズム」の危険性をさまざまな視点から論じた本。

    社会に不安が蔓延すると暴力的なものによる変革を渇望する機運が出てくることがあります。しかし、暴力で世界は変わりません。暴力による変革は新たな暴力を生み出すだけです。

    社会の問題にしっかりと目を向けて、どんなにゆるやかであっても非暴力による変革で社会を変えていくことが大事なのです。

  • 社会

  • 新自由主義の世界からファシズムにつながる流れを示している。マルクス経済から思想、貧困の現実などすっと入ってくる。右巻の方が、難しいかも。左巻の方が、やさしい気がした。

  • 2009年の本だが、イスラーム法にのっとった統一イスラーム国家を作る動きがあり、パキスタンなどが政権崩壊した場合その空白の期間にテロリストたちがそこにつけ込むだろう。という予測は、シリア崩壊後のイスラム国でその通り実現した。


    原罪を持たない国家。
    共産主義国家は、共産主義を実現して世界中の国家を解体するための過渡期国家という位置付け。そのような目的の国家のため、国家は国民を抑圧するという原罪を持たない。
    原罪がない国家は性善説によって運用されるため、国家を監視する機関を持たず国家独裁となる。
    共産主義の実現が世界のためになるため、他国の侵略も世界の利益となる暴走国家になる。

  • 第1部は、ロシアの情勢についての考察がおこなわれています。著者は、新自由主義が猛威を振るう中で、ハーバーマスが社会民主主義的な国民国家の創生に期待していることに触れつつ、プーチンのロシアがこの2つのどちらでもない第三の道、すなわち、帝国の論理を追及していると主張しています。

    第2部は、新自由主義が引き起こした格差の拡大が引き起こす問題をめぐっての考察です。著者は、マルクス主義経済学者の宇野弘蔵の恐慌論や、それを継承した宗教哲学者の滝川克己の仕事を参照しながら、新しいファシズムの危険性に警鐘を鳴らしています。さらに、現行の資本主義体制を基本的に了承しつつ、その中で格差問題の解決に向けての努力をおこなっている雨宮処凛も取り上げられています。

    著者は、マルクス主義とキリスト教神学とナショナリズムという、互いに交じり合わないと思われる3つの立場を交差させつつ、独創的な思想を構築していることで知られています。本書で著者が注目している滝沢克己は、、カール・マルクスとカール・バルトという2人のカールを読み併せることで、現代の人間が直面している問題についての考察をおこなっています。彼はその問題を「簒奪の思想」という言葉でまとめ、それを人間にとっての原罪と考えることで、そのような問題をはっきりと見据えることの必要性を主張しました。著者は、こうした滝沢の思索を継承しつつ、贈与と相互扶助の社会という、具体的な問題の解決策に向けての議論をおこなっています。

  • 「はじめに」で、オバマの就任演説に、すべての国民を糾合して国家体制を強化するという、ファシズムへの危険性を指摘する(危機の資本主義とファシズム(資本主義への異議申し立て)の反復)。一方、新自由主義によって中間団体が解体され、国民一人一人がアトム(原子)化されている日本においても、ファシズムが有効性をもつ思想として登場する可能性を指摘する。
    資本主義の「簒奪の思想」を超克するために、商品経済ではなく、贈与と相互扶助が経済の基礎に据えられた社会が指向されている。日本の今後のシナリオとして、以下の3っつを挙げている。
    第1 新自由主義から脱却することができず、社会も国家も弱っていくシナリオ
    第2 国家がシンボル操作によって排外主義を煽り立てて、国民の活力を国家に糾合するシナリオ
    第3 国家の干渉を極力廃止、相互扶助、贈与を行うことで社会を強化していく、その結果として日本国家が強化されていくというシナリオ
    「田母神論文」が支持される世論があり、自衛隊のクーデターを暗示している。歴史認識をめぐって日本の国論を分裂させ、それに自衛隊を巻き込むなどという最も愚かなシナリオと指摘。

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著者プロフィール

1960年1月18日、東京都生まれ。1985年同志社大学大学院神学研究科修了 (神学修士)。1985年に外務省入省。英国、ロシアなどに勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―』(新潮社)、『自壊する帝国』(新潮社)、『交渉術』(文藝春秋)などの作品がある。

「2023年 『三人の女 二〇世紀の春 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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