- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061498075
作品紹介・あらすじ
「愚かな戦争」は「愚かな政治家」が起こす!日本軍の敗因を前著『参謀本部と陸軍大学校』で喝破した著者が、戦史から導いた「戦争回避」の原理。
感想・レビュー・書評
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6年ほど前に読んだ本だが、集団的自衛権の行使容認やイスラム国の台頭など、新しい情勢を踏まえて再読。
はじめに、「戦争学」の基礎として地政学を位置づけた上で、マッキンダー、マハン、スパイクマン、ハウスホーファーなど歴史を動かしてきた代表的地政学者を取り上げ、「ランドパワーとシーパワー」「ハートランドとリムランド」、ナチスに影響を与えた「パン・リージョン」などの概念を解説する。
また、プロシアのフリードリヒ大王に代表される常備軍による「制限戦争」と、ナポレオンに代表される国民軍による「絶対戦争」との違いが説明される。
クラウゼヴィッツは、「戦争の目的は相手に我が方の意志を強要すること」とし、そのために敵の戦闘力を撃滅しなければならない(つまりナポレオン型の絶対戦争)と主張した。これが後世の政治家・軍人たちに影響を与え、以後の戦争では各国とも甚大な被害を出すことになった。
また、クラウゼヴィッツの有名な言葉「戦争は政治におけるとは異なる手段をもってする政治の継続にほかならない」に対し、著者は「理性的・合理的な政治が前提」であるとして批判している。ただ、戦争は政治によってコントロールされなければならないというのはそのとおりだと思う。
リデルハートは、戦争の目的は短期間のうちに平和を回復することとし、敵の殲滅自体は絶対的な目標ではないと主張した。その上で、敵の指揮所・通信施設・交通・補給線を狙って敵を麻痺させられれば事足りるとする「間接アプローチ戦略」を掲げた。この戦略は、イラク戦争における米軍のハイテク戦術をもって高度に実現する、として著者は米軍のイラク戦略を評価している。
冷戦期の防衛戦略について、リデルハートは、大量報復戦略はかえって小規模な紛争を多発させるおそれがあると指摘した。
マクナマラ国防長官は核の威力をアピールすることによる抑止戦略(確証破壊戦略:1965年)を掲げたが、米ソは1972年に暫定協定を結び、相互確証破壊戦略=MAD(防衛の放棄)という逆説的な防衛戦略を採った。
レーガン大統領は、後のミサイル防衛に繋がる戦略防衛構想(SDI)を打ち出したが、MADの理念を否定するものであるとして否定された。
ゲリラとの理想的な戦い方として、フィリピンのマグサイサイの戦略が紹介される。マグサイサイは人道的援助という“善政”により農民たちの支持を獲得し、農民たちとゲリラとの分断に成功した。
著者によれば、マグサイサイの対ゲリラ戦略の成功の鍵は、ゲリラへの外国から援助を断つこととゲリラの拠点をなくすことだったという。いずれもフィリピンが島国だからこそできたことと著者は指摘している。
これはイスラム国との交渉戦術にも応用できるか?と思ったが、著者は民間支援活動が「外国人によっておこなわれた場合は効果を失う」(p185)と言い添えている。残念。
しかしこれは著者自身が後の章で対テロ戦争について言っていること(戦後の占領政策が大事)と矛盾してもいる。
テロとゲリラの違いについて。
テロは少人数グループ、ゲリラは多人数からなる組織。
テロの目的は恐怖の支配、ゲリラの目的は新政権樹立。
テロは民衆を標的にするが、ゲリラは民衆の支持を得ようとするので標的にはしない。
また、テロリスト集団は国ではないので外交交渉ができず、戦争を事前に抑止することができない。
独立したテロリスト集団が乱立しているので戦争終結の交渉もできない。
ゆえにテロとの戦いは難しく、明確な終わりがないのだという。
著者は「テロに対処するのに刑事裁判は無力」(p216)と言っているが、この点について掘り下げた議論をしていない。現実にテロリスト集団は一国の軍隊に対抗できるほどの武力を保持している、というのは理解できるが、果たしてそれだけで刑事裁判が無力と言えるのか疑問に思った。「対テロ戦争はいかにして正当化できるか」という問題に関心をもっていたので、そこが詳しく書かれていないのは少し残念だった。
最後の章では現代日本が抱える軍事的問題を明らかにし、現状の政策批判及び著者独自の政策提言を行っている。
しかし「政府が集団的自衛権の行使に踏み切らないのは、中国や韓国の……批判を恐れてのことである」(p282)というのはやや乱暴な議論ではなかろうか?普通に考えて一番大きな理由は「憲法違反」ではなかったか。「日本有事と周辺事態の区別」はまさしく憲法の要請を満たすためのものだったはずだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
地政学を根幹にして、ナポレオンから2度の大戦、現在の情勢について分かりやすく説明してあります。
前半は地政学の概論、成り立ちを実際の歴史と照らし合わせながら説明されます。
後半からは実際の戦争を地政学の観点から掘り下げ、21世紀の情勢を分析しています。
特に著者は日本で地政学が学ばれなくなった事に警鐘を鳴らしている。国際関係で優位な立場を築き、リードしていく為に地政学を学ぶ事を説いています。 -
政治家ほど「軍事」について詳しくなって欲しいと思うのは、自分だけではないはずだ。
孫子でも「敵を知り、己を知らば、百戦危うからず」というけど、戦争の事を知り、世界の大国がどのような戦略も用いているのかを把握した上で行動して欲しいもんだよ。
一応は民主主義国家の市民としては「政治」を監視するためにも国際関係の知識はしっかりと把握しておきたいものだ。 -
戦争という行為、それに至るまでのプロセス、そしてその後のプロセスを論ずる「戦争学」の入門書と言える一冊。基礎とも言うべき「地政学」の解説から始まり、事例として取り上げた戦争はナポレオン戦争からイラク戦争までと幅広い。
著者によれば、欧米の大学には戦争学あるいは軍事学の講座があり、これを持たない日本との意識の差は歴然としているとのこと。とは言え、著者は戦争を奨励しているわけではもちろんなく、「戦争を勉強し、戦争を知れば、戦わずして国益を損なわない途は必ず見つけられる」という考えで書いている。今の日本に徹底的に欠けている学問であることは間違いない。
7年前に出された本書に今 惹句をつけるとすれば「政治家必読の一冊!」ということになるんだろう。(かなり安っぽいが) -
地政学をベースにして戦争の移り変わりを見ることで、複雑な国際社会を見通しよく把握できる名著。
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戦争を防止するためには戦争を誰よりも知らなければならないと思い読んでみました。
地政学にはじめて触れました。
ゲリラ戦、テロ戦には核兵器とか武力増強してもあまり意味がないことが分かりました。 -
平易かつコンパクトであるが、いい意味で期待以上の作品。
ありきたりなクラウゼヴィツの古典理論を説明し賛美するだけの偏りはなく、多く専門家のエッセンスだけでなく、国際関係論•現代のテロリズム•イラク戦争の解説までムラなく著述されている。
論理明快な外交の提言があり、お買い得であった。 -
地政学とはなんであるかということから始まり、近現代における各国の紛争がどのような意図に基づいて行なわれていたかを検証する。その上で出版当時の状況を踏まえ、今後の世界予測まで見据えた内容。紙幅の関係上、もう少し突っ込んで知りたい部分も出てくるが、初学者が、一通り「軍事」畑出身の著者のような視点で、世界を見てみるには、丁度良い分量ではないかと思う。気になった内容は、巻末の参考書リストを手掛かりとし、より知見を深めていけばよいと思う。
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地政学という学問自体の存在が日本ではなかなか知られておらず、その点で地政学の啓蒙的な書籍は歓迎されるものと思われる。
伝統的な地政学の理屈を紹介し、それをもとに世界大戦、冷戦、テロリズムなど現代の戦争について理論の通用する部分および状況が著しく変わった点(世界大戦では戦車と航空機の登場、冷戦では核兵器の存在や、21世紀ではテロリズムという新たな敵)を詳説している。
これらをもとに、今後の日本のとるべき方策を考えてみるとよいかもしれない。