生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

  • 講談社 (2007年5月18日発売)
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本 ・本 (288ページ) / ISBN・EAN: 9784061498914

作品紹介・あらすじ

生命とは、実は流れゆく分子の淀みにすぎない!?

「生命とは何か」という生命科学最大の問いに、いま分子生物学はどう答えるのか。歴史の闇に沈んだ天才科学者たちの思考を紹介しながら、現在形の生命観を探る。ページをめくる手が止まらない極上の科学ミステリー。分子生物学がたどりついた地平を平易に明かし、目に映る景色がガラリと変える!

【怒濤の大推薦!!!】

「福岡伸一さんほど生物のことを熟知し、文章がうまい人は希有である。サイエンスと詩的な感性の幸福な結びつきが、生命の奇跡を照らし出す。」――茂木健一郎氏

「超微細な次元における生命のふるまいは、恐ろしいほどに、美しいほどに私たちの日々のふるまいに似ている。」――内田樹氏

「スリルと絶望そして夢と希望と反逆の心にあふれたどきどきする読み物です! 大推薦します。」――よしもとばなな氏

「こんなにおもしろい本を、途中でやめることなど、誰ができよう。」――幸田真音氏

「優れた科学者の書いたものは、昔から、凡百の文学者の書いたものより、遥かに、人間的叡智に満ちたものだった。つまり、文学だった。そのことを、ぼくは、あらためて確認させられたのだった。」――高橋源一郎氏


【第29回サントリー学芸賞<社会・風俗部門>受賞】
【第1回新書大賞受賞(2008年)】

感想・レビュー・書評

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  • シェーンハイマー(1898-1941)の発見した生命の動的な状態という概念を拡張して動的平衡という言葉を提唱している著者の代表作。サントリー学術賞(2007)。理解出来ない箇所も多くあったが、生命科学の発展における熾烈な競争、人間ドラマと著者の主張に触れることができた。「生命とは動的平衡にある流れである」
    動的平衡の動画を観て興味が湧きました。絶え間ないアミノ酸の流入と体タンパク質の合成・分解が生命現象の中心にあること、また、この瞬間にも私の身体の中で行われていることに感嘆するしかなかったです。

  • 先日読んだ「最後の講義」がとても面白かったので、2007年に出てしかもよく読まれたという当書を読みたくて♪
    生物学にとんと疎い私にも分かり易くて、挿話されている小さな逸話も興味深いものばかりでした。
    とりわけ野口英世の評価が日米で天と地の差があるのにはびっくりでした。
    なんとも奥深い生物学の世界ではあるけど、ここまで噛み砕いて貰えるととても面白く楽しく読むことが出来ますね。
    そして人類よ謙虚であれ!との著者からのメッセージも伝わってきました。

  • 私たちは生命の神秘に惹かれることがよくあるだろう。桜前線の来訪と共に一斉に咲き誇る姿や、生まれたての赤ちゃんが産声を上げる時などだ。その生命の神秘とはなんだろうか。あまりにも抽象的だから、まず生物に対して、無生物はどうだろうか。生物と無生物を隔てるものは一体なんなのだろうか。私は、読むに従い、生物に含まれる天文学的な細胞達や分子、原子、それらが一期一会で儚い生命を作っていくのだと感動させられた。また、それを解き明かそうと、暗い象牙の塔の中に必死に求め続けた人達の熱いエピソードもまた心に沁みた。

  • いやぁ、面白かった。
    科学に関する本とか、普段あまり読まないほうですが、面白かった。

    これは単なる学習テキストではなくて、
    「生命とは何か」をテーマにした科学者たちの物語。まさに“物語”。
    読んでいるうちに、その物語にひきこまれていく。
    科学者の目線を疑似体験できたような、そして共に謎を解明しているような、そんな気にさせてくれる。
    “動的平衡”という考え方に至ったときは感動した。
    月並みですが、「人間って、生き物って、すごいなぁ」と感じた。
    一体どうやってこんな構造ができたのか、一体だれがこんな仕組みを作れるというのか。
    神という存在を信じてしまいたくなるほど、あまりにも神秘的である。


    それにしても――。
    DNAとかタンパク質とか、おそらく高校の時に化学で勉強したのだろうけど、何も覚えていないことを痛感。
    正直、終盤はちょっと難しいなぁと思ったけど、そういう箇所は100%理解する必要はないと割り切って、物語の本筋を追いかければいいと思う。

  • 20世紀の科学は、生物と無生物を分けているものは何か?という問いへの答えの一つとして「自己複製を行うシステムである」というものを与えた。この定義の下では、ウイルスも生命と分類される。しかしながら、ウイルスは一切の代謝を行わず、たくさん集めれば結晶化することさえできる。これは一般の細胞とは明らかに異なる特徴である。ならば、生物と無生物を分ける定義は、他にどのようなものがあるだろうか?

    この問いに対して、DNAの二重らせん構造の発見とその後の生命現象へのさらなる理解の経緯、はたまた著者の経験したアカデミックな世界の裏話などを交えながら考察していくという内容だった。もっとお堅い内容かと思っていたが、とても読みやすかった。

    著者の通っていたロックフェラー大学には野口英世のブロンズ像があるが、米国での彼の評価は伝記や教科書に載っているような偉人的なものとは異なる(このあたりを詳しく書いてあるという『遠き落日』も読んでみたい)ということや、研究室の技術員とバンドの二足の草鞋を履く同僚の話、最近話題のPCR法の原理や、それを発明した化学者のエピソードなどの小話が非常に読んでいて面白かった。「死んだ鳥症候群」のくだりはアカデミックな世界だけに留まらず共感する人も多いのではなかろうか。

    専門的な内容もかみ砕いて説明してくれており、この手の話に詳しくない人でも楽しんで読むことができると思うので、「自己複製するもの」という定義以外に生物と無生物を分けるものは何かという表題への答えは、是非読んで確かめていただきたい。

  • ブルーバックスでないのは、野口英世などの挿話があるからでしょうか、でしたら、表題に沿った内容を本旨として以下にまとめます。

    生命とは何か?それは自己複製を行うシステムである。20世紀の生命科学が到達したひとつの答えがこれだった
    DNAを強い酸の中で熱すると、ネックレスの重なりが切断され、バラバラになる
    構成しているのは4つ、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)

    生命科学を研究するうえで、最も厄介な陥穽は、純度のジレンマという問題である。生物試料はどんなに努力を行って純化しても、100%純粋ではありえない。生物試料にはどのような場合であっても、常に、微量の混入物がつきまとう。これがコンタミネーションだ。

    DNAこそが遺伝情報を担う物質である

    DNAは単なる文字列ではなく、必ず、対構造をとって存在している
    その対構造は、A-T,C-G という対応ルールに従う
    DNAは2本でペアリングしながららせん状に巻かれて存在している。今重要なのは、らせん構造そのものよりも、DNAがペアリングして存在しているという事実のほうである

    PCR ポリメラーゼ・チェイン・リアクション 任意の遺伝子を試験管の中で自由自在に複製する技術。もう大腸菌の力を借りることはない。分子生物学に本当の革命がおこったのだ。
    2つの鎖を、センス鎖、アンチセンス鎖という

    ヒトのゲノムは、30億個の文字から成り立っています。1頁1000文字を印刷して、1巻1000頁としても、全3000巻を要する一大叢書となる。
    遺伝子研究では、この中から特定の文字列を探し出さなければならない。
    PCRとは、DNAの二重らせんでできていることを利用して、ソーティングとコピーを同時に実現するテクノロジーである

    DNAこそが、遺伝物質であるということがようやく広く認めるようになっていた。そうなれば、次のターゲットは、おのずと、DNA自体の構造を解くということになる。
    DNAの結晶構造は、C2空間群という。2つの構成単位が互いに逆方向をとって点対称に配置された形をいう

    摂取された脂肪のほとんどすべては燃焼され、ごくわずかだけが体内に蓄えられる、と我々は予想した。
    ところが、非常に驚くべきことに、動物は体重が減少しているときでさえ、消化・吸収された脂肪の大部分を体内に蓄積したのである

    生物が生きているかぎり、栄養学的要求とは無関係に、生体高分子も低分子代謝物質もともに変化して止まない。生命とは代謝の持続的変化であり、この変化こそが生命の真の姿である。
    新しい生命観誕生の瞬間だった。

    生命とは何か、それは自己複製するシステムである

    秩序は守られるために絶え間なく壊されなければならない

    生命とは動的平衡である流れである

    細胞生物学とは、一言でいえば、「トポロジー」の科学である。トポロジーとは、一言でいえば、「物事を立体的に考えるセンス」ということである

    細胞膜の薄さはたった7ナノメートルである

    プリオンタンパク質を完全に欠損したマウスは異常にならない。ところが、頭から3分の1を失った不完全なプリオンタンパク質、すなわち部分的な欠落をもつジグゾーパズルはマウスに致命的な異常をもたらしてしまった。
    これをドミナント・ネガティブ現象という。タンパク質分子の部分的な欠落や局所的な改変なほうが、分子全体の欠落よりも、より優位に害作用を与える

    目次
    プロローグ
    第1章 ヨークアベニュー、66丁目、ニューヨーク
    第2章 アンサング・ヒーロー
    第3章 フォー・レター・ワード
    第4章 シャルガフのパズル
    第5章 サーファー・ゲッツ・ノーベルプライズ
    第6章 ダークサイド・オブ・DNA
    第7章 チャンスは、準備された心に降り立つ
    第8章 原子が秩序を生み出すとき
    第9章 動的平衡(ダイナミック・イクイリブリアム)とは何か
    第10章 タンパク質のかすかな口づけ
    第11章 内部の内部は外部である
    第12章 細胞膜のダイナミズム
    エピローグ

    ISBN:9784061498914
    出版社:講談社
    判型:新書
    ページ数:285ページ
    定価:880円(本体)
    発行年月日:2007年05月20日第1刷発行
    発行年月日:2007年09月25日第10刷発行

  • 遺伝子の歴史

  •  つねづね不思議でならないことがある。小さいころ犬を飼っていたが、犬というのは品種によってかなり外見が異なる。シベリアンハスキーとマルチーズ、ヨークシャーテリアとセントバーナード、チワワとコッカースパニエル……枚挙にいとまがないが、大きさも形も同じ生き物とは思えないほどに違いがある。しかし、われわれはどういうわけか、それが犬であることを知っている。子供の私ですら知っていた。
     もちろんオオカミを連れてこられたら、大人でも間違える可能性はある。だが、猫やウサギと間違えることはない。犬とは何かを経験的に教えられた記憶はないし、そのような知識に基づいて犬と判断しているわけでもない。だとすれば、われわれは一体何を見てそれが犬だとわかるのか。あるいは、わかったつもりになるのか。
     福岡氏のような優れた研究者と自分ごときを並べて書くのは大変気おくれだが、著者の出発点もまさにこれと似たような疑問であった。すなわち、われわれはそれが生物であるか無生物であるか、つまり生きているか生きていないかを瞬時に見分ける。なぜそんなことができるのか。貝殻を見たとき、われわれはそこに石ころのような無機物にはない、生命の痕跡とでも呼ぶべき何物かを感じる。いったい生物とは何か。生物と無生物を隔てるものは何なのか。
     一般に何かを定義しようとするとき、われわれはまずその属性を列記する。自己複製するとか、代謝活動をするとか、そういうことである。しかし、そのような属性をいくら積み上げたところで、生き物の本質に迫ることはできない。なぜなら、プラモデルのように部品を組み立てるやり方では、生き物は作れないからである。人類はロケットを月に飛ばすことはできても、生き物はまだハエ一匹たりとも作り出せていない。生物とは何かという問いに答えるためには、何か違ったアプローチが必要なのだ。謎を追いかける若き福岡青年の研究の日々と、現代生物学の発展の歴史。二つの並行する物語が、瑞々しい文学的な筆致で描かれる。
     生物の本質──それを説明するために、著者は「動的平衡」という新たな概念を導入する。私はこれを川の流れのようなものだと理解している。「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」。言うまでもなく、『方丈記』の有名な冒頭部分である。川は流れているので、それを構成する水は一時たりとも同じではない。しかし、川はそこに厳然として存在している。もちろん川は生物ではない。しかし面白いことに、すぐあとに「世の中にある人とすみかと、またかくのごとし」と書かれている。人間も生まれてから死ぬまでつねに変わり続け、物質的な意味でも同じではない。しかし、私は依然として私なのである。鴨長明はそれを「流れ」と表現したわけだが、福岡氏は本書で「淀み」という言葉を使っている。
     この「動的平衡」という概念は、生命現象を語る上で非常に的確なモデルだと思われる。従来の生物学は時間を止めてしまうことで、その名に反して生きた生物を扱えていなかった。動的平衡は言うまでもなく、時間を含んでいる。また、生物が部品でできた機械のようなものではなく、相互関係やバランスの上に成り立っているダイナミックな存在であることをうまく捉えている。
     とはいえ、これは最初の疑問──われわれは、なぜそれが生物つまり生きているとわかるのか──の答えではない。動的平衡は先験的な概念ではないからである。結局のところ自然は連続的なもので、われわれは言葉や概念によってそれを無理矢理分節化しているに過ぎない。生物や生命というのは捉えどころのないものであり、つかもうとすれば指の隙間からこぼれ落ちてしまう。「生物と無生物」ではなく、その「あいだ」という題名がそれを示唆している。


  • 当時、タイトルからうっすら一度は自分も考えた問いについて惹かれて読んだのを覚えています。
    人間の神秘的な構造と設計について改めて理解し直せました。

  • 「生命とは何かーそれは自己複製を行うシステムである」

    著者は、これが20世紀の生命科学が到達した一つの答えだと紹介しつつ、現在のコロナ禍においてもまさに人類の宿敵であるウィルスについて、本書で次のように述べている。

    もし生命を「自己複製するもの」と定義するなら、ウィルスはまぎれもなく生命体である。ウィルスが細胞に取りついてそのシステムを乗っ取り、自らを増やす様相は、さながら寄生虫とまったくかわるところがない。しかし、ウィルス粒子単体を眺めれば、それは無機的で、硬質の機械的オブジェにすぎず、そこに生命の律動はない。

    こういうところから、本書のタイトルがウィルス研究に焦点を当てているということが分かる。

    そういう現在の状況下に関わるテーマを扱った書籍として興味深いということもあるが、それ以前に本書は、最先端の生物学者であり、作家としても並外れた資質を兼ね備えた著者による読み物として始めから終わりまで100%堪能できること疑いなしである。

    とにかく面白い。

    分子生物学というものがいかなるものかを専門的な視点から素人の読者にもイメージできるように、わかりやすいモデルなどを例示して知的好奇心を満足させてくれる。

    ある研究がどのような流れで進められていくのか、その研究現場における研究者の葛藤やジレンマ、また悪魔のささやき的な誘惑、激烈な競争の実態、実験の成果に対する落胆や失望、あるいは物事が成就したときの喜びなど、まさにスリルとサスペンスの物語のようでもある。

    研究の世界は地味で地道で、忍耐×努力×執念の世界であると思った。

    生物試料にはどのような場合であっても、常に微量の混入物が付きまとう(コンタミネーション)。研究者にとって最も厄介な陥穽だという。これを克服して純度を維持するための研究者の努力や工夫は、並大抵ではなかった。

    あるいは、仮説と実験データとの間に齟齬が生じたとき、仮説は正しいが実験が正しくないのか、そもそも仮説が正しくないのか、こういうときが、研究者の膂力が問われる局面だという。

    また、あるデータを見て見ぬふりをすれば自身の仮説の精度が高まるというような場面に出くわすことがある。その時に「なかったことにしよう」という悪魔のささやき的誘惑に打ち勝つことができるのか。

    一つのテーマは、世界では複数のチームが同時に研究を進めていることがある。そういった場合に、第一発見者のみが歴史に名を残せるのであって、二位、三位は何の意味ももたないという。そういう熾烈な戦いの現実もある。

    世界中がコロナ禍にあって、このワクチンの開発競争の現場においても、恐らく壮絶な戦いが展開されてきたのだと想像できる。

    それにしても、本書を読んで、そもそも我々人間を含む生物の存在そのものの不思議を感じざるを得ない。人間の細胞に備わっている遺伝子や、細胞の機能、その仕組み自体が不思議であり、その不思議を一つひとつ科学が解明しつつあるようにも思える。自然に人類の知恵が挑んでいるというようなイメージだ。

    そしてその人類の知恵にもまた感動を覚えてしまうのである。

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著者プロフィール

福岡伸一 (ふくおか・しんいち)
生物学者。1959年東京生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部博士研究員、京都大学助教授などを経て、青山学院大学教授。2013年4月よりロックフェラー大学客員教授としてNYに赴任。サントリー学芸賞を受賞し、ベストセラーとなった『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)、『動的平衡』(木楽舎)ほか、「生命とは何か」をわかりやすく解説した著書多数。ほかに『できそこないの男たち』(光文社新書)、『生命と食』(岩波ブックレット)、『フェルメール 光の王国』(木楽舎)、『せいめいのはなし』(新潮社)、『ルリボシカミキリの青 福岡ハカセができるまで』(文藝春秋)、『福岡ハカセの本棚』(メディアファクトリー)、『生命の逆襲』(朝日新聞出版)など。

「2019年 『フェルメール 隠された次元』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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