作品紹介・あらすじ
東京日本橋の地下鉄ストアで見つけた乾山の五枚の中皿。古道具屋で掘り出した光琳の肖像画。浜名湖畔の小川で、食器を洗っていた老婆から譲り受けた一枚の石皿。その近くの村の、農家の庭先にころがっていた平安朝の自然釉壷…。美しいものとの邂逅が、瑞々しく生々と描かれる名随筆二十六篇。読売文学賞受賞。
感想・レビュー・書評
絞り込み
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別冊太陽の『101人の古美術』で取り上げられており、興味を持って手に取った昭和のエッセイだ。
日本の仏文学者で古美術を愛した男性が、乾山の皿や光琳の肖像画といったものを何気ない店先から「掘り出し」た顛末や、美を愛する気持ちなどが語られている。
文中にさらりと友人として井伏鱒二の名前が出てきて、ああ、そんな前の時代の人なのか、とはっとするくらい、古さを感じさせない。
もちろん、現代には著者が旅したような日本の山村はもう残っていないし、戦争に関する話も出てくるのだけれど、戦前戦後の半世紀以上昔のことだ、と思わせない瑞々しさがあって、令和の今の時代に読んでいても十分に楽しかった。
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食傷する刺激味がなく、あっさりしてるけれど味わい深い文章でした。
筆者の、その眼力のみによって、とんでもない古美術を見つけていく過程、あるいは、美への姿勢もさることながら、
「田舎」や単なる「山村」という言葉とも違うが、「都市」や「街」ではない場所 ーーー
そういった、「日本の静かなる場所」、あるいは「静かなる場所に眠っているであろう未だ見ぬ美」こそ、筆者にとっての至高の美ではなかろうか。そのように感じたことを、特筆したいです。
題名、「ささやかな日本発掘」は、
「日本をささやかに発掘する」という意味と、「ささやかなる日本を発掘する」という意味の二つが、重なり合っているような気がします。
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洲之内徹が主に絵画で、青柳瑞穂は主に骨董焼物という違いはあれど、美に対する真摯かつ真っ直ぐな向き合い方がふたりは似ている。そしてふたりとも目利きである。
戦時中、洲之内徹は海老原喜之助の描いた「ポアソニエール」を見つづけ、青柳瑞穂は陶器を見つづけた。
何度か品物を見かけていて気になってどうしても欲しくなって、なんていうくだりなどふたりともそっくりなのだけれど、私は焼物はよく分からないから、やっぱり洲之内徹の方に愛着を感じてしまう(もちろん、洲之内さんだって焼物や漆塗を持っていたし、青柳さんだって絵画も持っていたけれど)。
どうにも私は焼物がよくわからない。
絵の場合は見れば好き嫌いをはっきり認識できるし、世間での価値と自分の出した評価が違っても気にしないし、自分の目に自信も持てる。
けれども、骨董の焼物の場合、絵のように見れない。
土の持っている美しさというものに自信がない。絵のように直感的に自信を持って意見を言えない。
美しいか否かということより先に骨董か否か、高いものはよくて安いものは良くない、というような先入観に侵されてしまっているような気もする。
しかし、釉薬の美しさとか、形の美しさとか、装飾の美しさとか、そういうものは絵と同じように見れる。
だから、ルーシー・リーの作品を見た時は冷水を頭からかぶったみたな衝撃を受けた。
美しい色に心臓がドキドキしてぞわぞわと身震いした。
影響も受けた。
理屈抜きで美しいと思ったし素晴しいと思った。
それから、私は蒔絵が施されたものも結構好きだ。蒔絵は淋派の絵画と同じ感じがする。
蒔絵と聞くとまず私の頭の中には尾形光琳の「燕子花図屏風」と、酒井抱一の「夏秋草図屏風」が浮かび、それから本来の蒔絵(私は漆塗りの箱がいちばん好きだから、その漆の艶やかさとか、箱の美しい丸みとか、そこに施された黒に映える金の美しさと可憐なモチーフを描き出す繊細な仕事っぷり)を思い浮かべる。
そういえば、知らなかったのだが『ささやかな日本発掘』に光琳が弟の乾山と焼物をやっていたということが書いてあった。あの頃は芸術は一括りで境界線などなかったのかも知れない。
青柳さんのこの本を読んで、美しさというのは自然の中にあるのだという考えを心に留めて忘れないようにしなければと思った。
芸術を前にした時にこうあるべきだという的確な文章があったので引用。
”私たち素人は、感動を失ったら、あとは何ものも残らない。感動のみ知ることが出来るのだ。もちろん、仏の奥には感覚を超えた、もっと深いもの、もっと神秘なものがひそんでいる筈だし、そして、すぐれた芸術は、それなしには存在しない筈だが、それとても感覚の電波による以外は探り得られるものではあるまい。”
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青柳瑞穂の作品