モーパッサン短編集(一) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102014066

作品紹介・あらすじ

つましく暮す一家の希望は、一旗あげて郷里に帰ってくるはずの父の弟、"ジュール叔父"だった。が、ある年の家族旅行中見かけた牡蛎むきの老人こそ…。裏切られてしまった唯一の希望を一種のユーモアをまじえて描いた『ジュール叔父』他、作者の郷里ノルマンディの漁夫と小市民、農夫たちの生活の中にあらわれる人間心理の内面を、作者特有の鋭い観察を通してえぐり出す傑作短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 悲しい とか 
    嬉しい とか 
    苦しい などのように

    ”一言では説明できない心情”
    が 炙り出されているから

    こんなにも  
    惹かれるのかもしれません。

    「あいつさえいてくれればなあ~!」
    貧しい一家の希望の星である叔父との
    あまりにも思いがけない再会を描いた
    『ジュール叔父』。

    たった一度だけ出席したパーティ。
    裕福な友達から借りた真珠の首飾りを
    失くしてしまった妻のその後の人生。
    衝撃のラストに思わず息を呑んだ
    『首飾り』。

    道に落ちていた紐を拾っただけの
    吝嗇な男が
    「財布を拾ってポケットに入れた」と
    虚偽の告発を受け
    ただただ 弁明に弁明を重ね
    がんじがらめになっていく姿に
    絶望を感じる
    『紐』。

    そして あるサロンのお茶会で
    「恋の話」として語り手に披露される
    『椅子直しの女』。

    家族で村から村へと放浪しながら
    椅子などを修理して生計を立てている
    貧しい少女が 生涯をかけて貫いた
    「恋の話」を読み終えた時

    いじましいと思う人もいれば
    みっともないと眉をしかめる人
    救いようがないと胸を痛める人
    様々だと思うのですが

    恋というのは
    何も美しく華やかな
    男女だけが落ちるものではないのだーと

    端的に言い表している
    このタイトルの秀逸さ。

    ほとんど全ての作品が
    あっと驚くような
    胸を打たれるような
    印象的な結末であるにも関わらず

    びっくりするほど
    淡白な表現で
    あっけなく幕を下ろします。

    ただ
    ”一言では説明できない何か”を
    読者の胸に残しつつー。

  • 初モーパッサン。

    実はあまり期待せずに購入したものの、牧歌的な雰囲気や情景の描写力に驚いた。田舎の閉鎖的な空気感と男尊女卑、農夫たちの癖が強い言葉。
    後味の悪い短編が大好きなので、「ひも」目当てでしたが、「ジュール叔父」「アマブルじいさん」「椅子なおしの女」「田園悲話」がお気に入りに。
    後味スッキリめの「田舎娘のはなし」「牧歌」「帰郷」もよかった。
    北フランス、ノルマンディーの情緒をたっぷり楽しめました。

    モーパッサン短編集(一)は田舎シリーズ、(二)は都会シリーズのようなので、(二)も読んでみたいな。

  •  再読。
     所収の作品の発表年はモーパッサンの文筆活動期間である1880年頃からの10年間ということになるだろう。個々に明記はされていない。
     この、遙か大昔に読んだ新潮文庫を本棚から出してみたのは、最近注目する永井荷風の特に晩年の作品がモーパッサン流のものだという指摘を目にしたからだ。
     どの作品も作者の人間観察に基づき、主に田舎の下層の人びとの生態を点描している。全体にその人間性を皮肉っているようでもあるが、しかし、この文学は「厭世観」とはちょっと違う。絶望のカラーは濃くない。エミール・ゾラのように自らが待望する完膚なきまでの破滅へと突き進む衝動があるわけでもない。悲嘆に落ちる手前で、身を軽やかに転回し、世事を軽妙なオチでくくってサッと飛び去っていくようなイメージがある。
     なるほど、モーパッサンの作品が明治以降の日本文学に多大な影響を及ぼしたことは明らかである。
     それにしても私の持っているこの本は活字が小さく(今は改版されているようだ)、青柳瑞穂さんといえば昔からずいぶんお世話になった訳者さんだが、本書で駆使される農夫たちの田舎言葉はちょっと分かりにくく、やや古い感じもあった。新訳文庫でもモーパッサンを読み返してみよう。

  • トワーヌ(Toine)
    酒樽(Le petit fût)
    田舎娘のはなし(Histoire d'une fille de ferme)
    ベロムとっさんのけだもの(La bête à maître Belhomme)
    紐(La ficelle)
    アンドレの災難(Le mal d'André)
    奇策(Une ruse)
    目ざめ(Réveil)
    木靴(Les sabots)
    帰郷(Le retour)
    牧歌(Idylle)
    旅路(En voyage)
    アマブルじいさん(Le père Amable)
    悲恋(Miss Harriet)
    未亡人(Une veuve)
    クロシェート(Clochette)
    幸福(Le bonheur)
    椅子なおしの女(La rempailleuse)
    ジュール叔父(Mon oncle Jules)
    洗礼(Le baptême)
    海上悲話(En mer)
    田園悲話(Aux champs)
    ピエロ(Pierrot)
    老人(Le vieux)

  • ■「牧歌」……ジェノヴァからマルセイユへ、海岸線をのんびりとひた走る汽車の車両の隅っこ。空と海の青。潮と汗の臭い。巨大でふわふわの乳房。その先端からほとばしる母乳の白さと甘さ……。
    ■「トワーヌ」……「トワーヌじいさん、でぶトワーヌ、わしが銘酒のトワーヌ、焼酎ことアントワーヌ・マシュブレ」が、寝たきりの熱っぽい体の腋の下で9個の鶏のたまごを温め、9羽のヒヨコが孵る。
    ■「ジュール叔父」……気の毒なひとにやさしい言葉を。そして幾ばくかの心づけを。
    ■「椅子なおしの女」……”ぼくも、これほど風変わりで哀切きわまる物語を聞いたことがありません――。”
    ■「クロシェート」……芳紀十七歳、紛うことなき美女、恋の殉教者、偉大な魂の持ち主であるクロシェートが、3階の窓から飛び降りて片足を3か所複雑骨折する。
    ■「未亡人」……老嬢の薬指に巻かれた色の褪せた金髪の由来とは――。傑作!
    ■「海上悲話」……トロール船の索具に腕が挟まって――。悲惨な経験をする弟の言動が超クール!
    ■「田舎娘のはなし」……身ごもったゆえに男に捨てられた哀れな田舎娘。不幸のどん底から、一転ハッピーエンドに! これも傑作!
    ■「田園悲話」……「子供を育てるために、こんな思いをするなんて!」 とびっきり悲しいお話。
    ■「ピエロ」……犬がいらなくなったら、泥炭採掘の竪穴の中にポイっ!――って、そんな無茶なぁ~。
    ■「幸福」……ひとりの老紳士が5年前のコルシカ島での経験を物語る。あまりにも単純、そして感動的な掌編。
    ■「帰郷」……「イノック・アーデン」。死んだとみなされていた漁師が12年ぶりに帰ってきた。これも単純だが非常に感動的。
    ■「木靴」……”枕を交わす”という日本語があるが、フランスの田舎では”木靴をごっちゃにする”というのだろうか?
    ■「旅路」……「たがいに氏素性をしらない男女の無言の恋」。実に感動的。
    ■「アマブルじいさん」……この短編集では自殺で決着する感動的な物語がいくつかあるが、アマブルじいさんのだけは”汚い自殺”だ。作者はこの、吝嗇、固陋なつんぼの老人をよほど嫌いだったのだろう。

  • 田舎を舞台に、シニカルと冷めたユーモアで人生の断片をあぶり出す。出来のよい作品もあれば、今一つピンとこないものもある。構成の形式化や人物をストーリーに乗せて動かしオチをつける様式は、古典的なコントと言えるんじゃないかな。こういう短編を続けて読むと、2、3話で十分と感じてしまうようになった。好きだった筒井康隆、中島らもの短編でさえそんな感じだ。読書幅は広げてきたつもりだけど、その時々における読める本の幅というのは、思っているほど広くないのだろうね。

  • 短編の名手と呼ばれるモーパッサンだが,実勤10年で360の短編に加え,中長編,戯曲なども書いたらしい.恐るべきハイペース!
    どの話も人間の業の深さを描いており,この第1集は「田舎」がテーマである.救いのない,身も蓋もない結末の話が多く,一番唖然としたは最後から2番目の「田園悲話」で,子を持つ人の親心をここまで踏みにじる話は他にない!!

  • 初読。

    お、おぉ…?
    と面食らいました、シニカルというか、
    ユーモラスなわりに救いの無い話の数々に(笑)
    「紐」なんて、オーシュコルンとっさん、そのまま死んじゃったよおい!w

    「田舎娘のはなし」もDV亭主、子供さえいりゃいいんかい!
    とかw時代とはいえ斜め上の道徳観…
    女性の扱いが酷いのも時代かつ、「田舎もの・田園編」という事だからかな~。
    「クロシュート」「椅子なおしの女」の救い様の情けといったらもうポカーンだし、
    どっこいおっさん達だって前述の「紐」「アマブルじいさん」のように死んじゃうからね!

    モーパッサンの故郷、ノルマンディーが舞台ということで、
    やはり北の人間はフランスでも朴訥かつ働き者なのかしら…
    やっぱさ、百姓っていうのはどこかいつも切ないんだよな…

    どこか軽やかで、私の好きな切なさは「ジュール叔父」。
    お金持ちで成功してる筈の一家の希望の叔父さんが船上の牡蠣剥きに。たまらんw

    「和尚さん」って訳されてるけどこれは神父さんなんだろうなー。

  • ブラックな笑いがあったり、人が生きていくとはなんだろうと考えてみたり。
    テーマがとてもシンプルだが、短いページの中に語られる話はとても深かった。
    古典、短編と侮るなかれ

  • あらすじ
    『女の一生』『脂肪の塊』などで知られる19世紀フランス文学の代表的作家モーパッサン。その360編の中短編集から65編を厳選し,そのうち田舎を舞台とした24編を収録した短篇集。

    収録されている短編小説は以下のとおり。

    1. トワーヌ
    2. 酒樽
    3. 田舎娘のはなし
    4. ベロムとっさんのけだもの
    5. 紐
    6. アンドレの非難
    7. 奇策
    8. 目ざめ
    9. 木靴
    10. 帰郷
    11. 牧歌
    12. 旅路
    13. アマブルじいさん
    14. 悲恋
    15. 未亡人
    16. クロシュート
    17. 幸福
    18. 椅子なおしの女
    19. ジュール叔父
    20. 洗礼
    21. 海上悲話
    22. 田園悲話
    23. ピエロ
    24. 老人

    感想
    私は昔から小説好きでしたが,もっぱら長編小説を好んで読んでいました。短編小説は物足りないと感じ,読むことはあまりありませんでした。しかし,今では逆に短編小説を好んで読むようになりました。そのきっかけになったのが,モーパッサンでした。

    モーパッサンが短編小説で描く,どこにでもいそうな人々の本当らしさや,余韻が残る結末などが気に入っています。一つ一つの長さも短く,ちょっとした空き時間に読むことができるところも,長編小説をじっくり時間がないのでありがたい。

    この短篇集の中では,センチメンタルな悲恋を描いた「旅路」や「椅子なおし女」,その後が気になる「帰郷」,切ない「ジュール叔父」がよかったです。

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著者プロフィール

フランス人。1850〜93年。母の友人フローベールにすすめられ文筆に転向。最初の成功作『脂肪の塊』(1880)で一躍新聞小説の寵児となる。短編約三○○、長編数作を書く。長編に『女の一生』(1883)『ベラミ』(1885)。短編小説『幻覚』や『恐怖』は戦慄させるほどの正確さで狂気や恐怖を描写し、この狂気の兆候が1892年発病となり、精神病院でなくなる。

「2004年 『モーパッサン残酷短編集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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