- Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065132241
感想・レビュー・書評
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不気味な毒
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夫婦は妥協と諦めで互いに似てしまう。
不満を持ちながらも、どこか身を任せたほうが楽だと思った結果であり、自身も不満を持たれていることがある事実に目を背けた結果でもある。
そんな誰にも起こりうる問題をファンタジーに落とし込んだ秀作。
最後の藁の夫のモラハラDV具合が怖かった。 -
読書開始日:2021年9月3日
読書終了日:2021年9月6日
所感
【異類婚姻譚】
夫婦は顔も似てくるとはよく言われる。
今まで自分が聞いて聞いてきたケースは微笑ましさまじりだったが、本作はその真逆の恐怖めいたケース。
というよりも自分があまりにも若造で、その夫婦の背景、その言葉の裏側や、発言する人の心境を正しく受け取れていなかったと思う。
サンちゃんと夫には嫌悪感を抱く。
自分の弱さをひけらかし受け入れられた途端に開き直り、全ての責任や厄介事を押し付けてくるその態度が、本当に気にくわない。
こういった人物は実生活でもしばしば出会うが、それが結婚のパートナーであるとなおさら酷だ。
しかしながらサンちゃんも、夫との生活を逃したくないという潜在意識から、夫のすべてを自分の責任とするかの如く許し続ける。
夫はそれを見越していて、さんちゃんの最後の抵抗すらもいなし、蛇ボールでいう「食べさせていたつもりが食べさせられていた」ことをさんちゃんに実感させる。
そうして夫は最終的に、同化を成功させる。
キタエもサンちゃんの弱さにつけ込み「猫を捨てる行為のすべての責任」を押し付ける。
キタエの罪の意識からの逃避にもかなりの嫌悪感を抱く。
恐らく最終的には夫は体調が戻らず死に、同化したサンちゃんは、夫の潜在的な願いを知る。
綺麗な一輪の花となり、現実の喧騒からは無縁な世界で、皆から手放しで「綺麗」とほめてもらいたかったのだ。
なんとも身勝手な野郎だと思う。
自分はこれから結婚をしていく予定ではあるのだが、もし念願叶った場合は、微笑ましい意味での似通った夫婦になりたい。
ただ間違いなく、表裏一体で、いつ恐怖の意味での似通った夫婦になるかもわからない。
責任は別個だ。
【犬たち】
井戸に落ちた瞬間に主人公の女性は死んでしまったのか。
白い犬たちはサンタクロースだったのであろうか。
恐らく後者で山小屋についた瞬間からプレゼントの準備は始まっていて、彼女が望んだ世界は死だったのだと思う。
【トモ子のバームクーヘン+藁の夫】
ランニングの時にて将来の夫婦像を夫と話していた段階から嫌な予感が漂っていた。
どうしてこのような夫が存在するのか。
まさにすかすかの藁だ。
トモ子は本書通りまさに荒野クイズの参加者だ。
「ほんの少しの弾みで自分の重苦しい層が外側に吹き出してしまいそう」という一文にも合点がいく。
そのうち夫を燃やす。
このような自分の思想とは遠く離れているような危険oを必要以上に意識することは、同意できる。
異類婚姻譚
いつのまに私は人間以外のものと結婚してしまったのだろう
蛇ボール
声は出なくとも目の奥が笑っている
犬たち
トモコのバームクーヘン
この世界が途中で消されてしまうクイズ番組
ほんの少しの弾みで自分の重苦しい層が外側に吹き出してしまいそう
藁の夫 -
余韻で胸焼け中。こじらせた女と崩れまくる男。どこまでも融け合って一つになるなんて想像しただけで吐き気がするけど、「家庭」という器の中で“個”を手放した瞬間、ずるずると溶解は始まるのです。
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これはじわじわ染みる毒。気付きたくなくて自然に目を逸らしていた夫婦の歪みに、むりやり向き合わされたような不安と恐怖を覚えた。
展開はどこか幻想的でありながら、心情はリアル。生々しい現実というよりも、乾いた真実ともいうべきか。生々しく劇的、そんなものではなく「あぁこんな風になっちゃった」という諦めにも近い、さらさらとした心になる。
私も境遇や性別が主人公たちに近いからだろうか。 -
今年28冊目。
芥川賞受賞作。
日常の風景が歪んでいく様というか、
日常に潜む、嫌な隙間を突くような話。
千と千尋の神隠しのような世界観っぽくて、
概念が妖しく描かれていて、
恐ろしくもあった。 -
芥川賞作品なのに読んでいなかった。文庫本のカバーが石黒亜矢子さんで可愛すぎると購入。そして一気読み。異化の話は大好物です。日常が私たちの知る日常とは、違って少しずれた世界を生きている人たちの物語は大好物で、この中のいちばんは『トモ子のバウムクーヘン』最高でした!
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夫婦という法律で型の決められた関係性に落ち着き、その安寧と倦怠に浸りきっているなかで、何でもないふとした瞬間に、身内も身内と思っている配偶者の全く知らない別人のような一面を垣間見た時の不安とグロテスクさ。毎日顔を合わせて食住を共にしても、相手を完璧に分かりきるということなんてあり得ないのだ。
本作は寓話だけど、誰にでも当てはまる現実を寓話にしているに過ぎないと思う。そもそも結婚というのは、生物学的に人間同士だろうが何だろうが、本質的には「異類婚姻」と言っても過言ではないのかもしれないし、そう思っているくらいの方が楽なのかもしれない。
お互いを分かりあって一心同体で一つになる二人よりも、そもそも完璧には分かりあえないということを前提として折り合いをつける別個体同士としての二人、という方がしっくりくる。