作品紹介・あらすじ
大厄災により人類は1%未満まで減少、地球上のほとんどが不浄の土地となってしまった。生き残った人々は、わずかに残った土地で人工知能カーネにより生活を制御され、平和に暮らしていた。”殺人”などとは無縁の世界、のはずだったーー。
感想・レビュー・書評
絞り込み
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“奥歯を噛み締め、闇の中の瞳を睨みつける。
瞳孔が、甲虫の甲殻のようにころころと色を変え、煌めいていた。不吉な気配とは対照的な、不謹慎なほどの美しさだ。
(p.105)”
“こいつは殺人鬼だ。僕の愛する人と世界を山ほど奪った仇だ。憎くて憎くてたまらない敵だ。なのに、なぜ——。
この美しい禍々しい瞳こそが、自分の求めるものだと思ってしまった?
(p.297)”
珍しい謎をテーマにしたミステリーだった。つまり、殺人者は「何」で、世界の歪みは何処にあるのか…
疫病の流行により1%にまで減少してしまった人類。生き残った人々は、それぞれが生まれた時から与えられた役目を果たし、人工知能の統括下で穏やかな日々を享受していた。しかし、平和な“珊瑚礁の島”を襲う、起こるはずのない連続殺人事件。島の外から持ち込まれた残虐な怪物とはいったい何者なのか?
※ネタバレしてます!
差異は、確かに争いの源であるが、同時に活力を生み出すというのは真実だろう。在るはずの差異がなくなって、仕方なく導入された偽りの差異。それは一つの知恵ではあったが、熱帯の「楽園」は、人々が必死に隠し、忘れようとした、世界の歪みから手痛いしっぺ返しを喰らったのだった。
…とまとめればとても綺麗な話なのだけど、ところどころ腑に落ちない。このユートピア(あるいはディストピア)のリアリティについて。「男女」の性差は社会的なものであるからそれはいいとして、筆者は、女性同士の争いは全て男性の存在が原因であり、従って男性がいなくなればみな理性的でいられる、と言うのだろうか。
そして、男としてこれはどうしても言わせてもらいたいが、世の中の男は、決して、女を見ると見境なく襲いまくる野獣ばっかりじゃありません!笑
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楽園のアダム/周木律
初めての周木律さんです。
手触りが良い装幀と鮮やかな色彩の装画に惹かれ、
次に読みたい本の候補にしていました。
数週間待ってやっと手にした本は、
やっぱり手触りが良くて触覚で先ず満足。
落ち着いた色合いが好みに合って、
視覚的にも満足。
頁をめくると紙の質もしっとりしてて
心地よく、気持ちよく読み進めました。
舞台は人類が大厄災で絶滅の危機に瀕し、
何とか生き残った人類がそれぞれに生業を持って
役割分担をして生きてる世界。
知を生業とする島のヤブサカの死が発見された事で、姿の見えない異物が島に入り込んだことが明らかに
なる。
その後も人の死は繰り返され……。
脅威に晒されなが謎の異物が存在する意味を
突き詰めていくと、とんでも無い真実が
隠されていた。
途中、どんな結末を迎えるのか読みながら
戸惑いました。
最後まで読まないと不完全燃焼で終わる
ところでした。
読み終えれてよかった。
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回転する館のシリーズでお馴染みの作者。人類の大半が死滅したディストピア世界観の中、機械に意思決定を支配され、争いのない楽園の珊瑚礁の島で起こる連続殺人。
ディストピア、ボーイミーツガール、世界を疑う謎と言えば、「揺籠のアディポクル」みたいな話やなと思いながら、ワクワクしながら読んでいたが、しょーじき、アサッテの方向に着地するミステリだった。途中まではすっごい面白いです。
タイトルも実は伏線回収バッチリなのですが、読んだ後のやるせない感じはなんというんでしょうか?
世界の正体はまだしも、学長から託された犯人へ反撃するための作戦、とある人物が犯人を匿う理由、などなど、隠された謎がしょーもなさすぎる様な気がします。
この感覚は昔、乾くるみさんのデビュー作の「Jの神話」を読んだときにも感じた感覚。あれも途中までは凄い面白かった記憶。オチはもはや覚えていない。
エロネタがきついとやはりミステリは盛り下がりますね
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かつての地球とは異なり、人々は島ごとにコミュニティを作り平和な時代がやってきた。
そのなかの珊瑚礁の島と呼ばれる、知の研究を行う場所に生まれ育ったのは、アスム。
アスムは幼なじみのセーファと共に同じ研究室に所属している。
彼らは、亡くなった助教授が連れてきた「何か」に殺された。
その秘密を探すと共に、彼らの世界の秘密にも触れてしまう。
さて、本書の結末には私はあまり納得もできず、何かが叫ぶ言葉の意味もわからぬままで疑問が残った。
この世界の秘密についてはそうきたか、と思ったのだが。
「何か」がなぜ人々を襲うかという理由は、恐怖に震えるものと、そうでないものをはっきり分けるだろう。
私は前者である。
だから、なぜアスムがそれを納得できるのかはわからないが、研究者としての興味が恐怖に打ち勝ったのだ、と言われれば納得はできるかもしれない。
しかし一歩読み誤ると、少し違ったメッセージにとらえかねない。
楽園はこれからもつづくのだろうか。
世界の真実が明らかになってたとしても、この造られた楽園の常識は、何も珍しいことではない。
哺乳類の研究では珍しいかもしれないが、生物の中にはそれでもうまくやっているものもある。
男女を区分することは、楽園を継続させるのか、それとも……。
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人類にとってどんな未来が一番ベターなのかは、人によって違っていて当然です。1000年後なんて自分には関係ないから人類なんて滅亡してもいいや。という事も思えたりするのですが、実際今まで綿々と続いてきたこの人間界が終了してしまうのは、やはり悲しいと感じます。
どんな形でも続いてほしいとは思うけれど、そもそも人間が世界であるという傲慢さから、地球の汚染を招いているのも事実。この数十年で生物が絶滅する数は15分に1種らしいですよ。僕の生まれた1974年ころは1年で1,000種。これでも多いですが、今は年間40,000種です。この中で人間が増加を続けているわけなので、実際異常ですよね。
閑話休題
この本は800年後生き残った人類の平和なコミュニティで起こった殺人をテーマにしていますが、びっくり仰天の展開もあります。それがスポンと胸にはまった人には名作。そうでない人にとっては迷作になる作品か。意識の高いSF小説。
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男性側にたっても女性側にたっても、なんだか差別されているような気持になる不思議な作品。
最後まで真相わからず、モヤモヤと引っ張り続け本当に熊の仕業だったらあまりにもつまらないと思いながら読み進めるとあっと驚く真実。最初は、SFっぽくもありファンタジーっぽくもあり、あまり好みじゃなかったけど、思いもよらないラストで中盤以降はノンストップで読みました。
そして、タイトルが秀逸。あぁ。なるほどねぇ~。
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大災厄後、生き延びた人類は、生まれた島での生業に携わることで、互恵関係を保っていた。知の探究を生業とする「珊瑚礁の島」に住むアスムは、禁忌とされている哺乳類の研究を密かに目指していたが、尊敬するヤブサト助教授が殺害されてしまう。暴力的な争いのない世界に、いったい何が入りこんだのか。
世界の真実と「犯人」の個性、そして「彼女」たちの選択、いずれも短絡的な気がする。
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作者に完全に騙されました。
平和に過ごすには、エコ贔屓のない機械に判断を任せるというのもありなのかもしれませんが、自分はいやだなと思いました。
楽園に欠けているのは「人間らしさ」なのかもしれないと思いました。
現代の社会を全く別の方法で投影した本かもしれないとも思いました。
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「禁断の小説」と書かれた帯に惹かれて読みましたが、圧巻でした。帯の通り、人間が生活する上での「禁忌」に触れたような禁断の小説だと思います。
なんといっても独自のストーリー性、世界観が常人離れしています。ミステリーとファンタジーを織り交ぜたような作品でしたが、話の落とし所をもう凄さを言葉で表すことができません。ミステリーならミステリーなりのオチがあるんだろうなと予想しながら読んでいましたが、最後に裏切られました。
そして、作品名がすでにその結末を示していたんだと知って鳥肌が立ちました。色々と考える部分が多いです。
こういう作品は大好きです。
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既視感?序章からラストまでなんとなく読めてしまうような既視感があって、最後の一頁まで驚きはしなかった。
小説に真面目に寄り添うとしたら、うーん...これは男性が書いたからこういう結末になるのかな?という思いは生まれるな。
暴力が世界を滅ぼした。その特性を強く持つのは男性だった。厄災の影響で世界が失った男性性。
その後社会は平和を取り戻し穏やかな一生を享受する。
男性の方が女性より暴力性が高いうんぬん説は置いといて。まあ、この世界設定ではこれが真実として。
実際それで平和が訪れたのならそれが新しい進化の形として、なんか問題あるかなぁ??
さらに、厄災後の新人類が見つけた初めての男性(亜人?)を、教授がめちゃくちゃ擁護してますけど、待って待って。腹が満たされたら巷に繰り出して誰彼構わずレイプする知性を感じられない生き物ですよ??
何言ってるのかちょっと分からない
著者プロフィール
某国立大学建築学科卒業。『眼球堂の殺人』で第47回メフィスト賞を受賞しデビュー。本格ミステリの系譜を継ぐ書き手として絶賛を浴びる。他の著書にデビュー作を含む「堂」シリーズ、『猫又お双と消えた令嬢』にはじまる「猫又お双」シリーズ、『災厄』『暴走』『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』『アールダーの方舟』『不死症』『幻屍症』『LOST 失覚探偵』『死者の雨‐モヘンジョダロの墓標‐』『土葬症 ザ・グレイヴ』『小説 Fukushima 50』『あしたの官僚』『ネメシス3』『楽園のアダム』がある。
「2023年 『WALL』 で使われていた紹介文から引用しています。」
周木律の作品
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