- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087202168
作品紹介・あらすじ
それは、英仏間の戦争でも、百年の戦争でもなかった。イングランド王、フランス王と、頭に載せる王冠の色や形は違えども、戦う二大勢力ともに「フランス人」だった。また、この時期の戦争は、むしろそれ以前の抗争の延長線上に位置づけられる。それがなぜ、後世「英仏百年戦争」と命名され、黒太子エドワードやジャンヌ・ダルクといった国民的英雄が創出されるにいたったのか。直木賞作家にして西洋歴史小説の第一人者の筆は、一三三七年から一四五三年にかけての錯綜する出来事をやさしく解きほぐし、より深いヨーロッパ理解へと読者をいざなってくれる。
感想・レビュー・書評
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14世紀の中頃、イギリスという国家が存在しなかった時代のイングランド王家は、フランスの政治文化圏に組み込まれていた・・・。フランスの王位継承権と大陸の領土覇権争いが発端となった「百年戦争(1337-1453)」は、イングランドVS.フランスのみならず中世ヨーロッパ諸国を巻き込む泥沼戦争となり、黒騎士の奮闘、ペスト(黒死病)の蔓延、農民の反乱、ジャンヌ・ダルクの栄光と悲劇を生んだ・・・。戦後、ド-ヴァ-海峡を挟んで、領土と国民を明確にした主権国家の形成が進むきっかけとなった西洋史最大の事件への入門手引き書。
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フランスを舞台にした歴史小説を得意とする佐藤賢一氏による百年戦争の概説書である。
百年戦争は、現代の主権国家体制に馴染んだ我々からすると、つい安直にフランスとイングランドが戦った戦争である、と思い込みがちである。
そう思い込むと、大変分かりづらくなるのが百年戦争である。
本書は、百年戦争以前にはいわゆる国家としてのフランス・イングランドは存在しなかったという前史を確認することから始まり、この百年の争いを通じてナショナリズムが芽生えていったとの結論で終える。
元々、読みやすい文章を書く人だが、全体が上記のあらすじに支えられているため、茫漠としていた百年戦争の輪郭が読むほどに浮かび上がるようだ。
読みやすさとそれなりに踏み込んだ歴史知識を盛り込んだ一般読者層向けの概説書を書かせたら一級品である。
大変楽しく読めたし、この時代に関する理解が深まった。お勧め。 -
英仏百年戦争というが、英国も仏国もなかった。フランス人同士の長い戦いの中で英と仏という国ができた。というお話。なるほど。世界史詳しくないので一つ理解できなかったのが、王とそれ以外の公や伯との違い。イギリス王だって元々ノルマンディ公ですよね。でも、王になるとフランス王と同格になる?他の領主に封を与える権利?これはどこから来てるの?ローマ法王?日本の戦国時代の将軍や天皇と各大名の関係とも違う気もするし。ここが理解できる本があったら教えて下さい。巻末に両王家の系図があるので確認しながら読むのをお勧めします。
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いわゆる英仏百年戦争を前史・後史含めた全体を叙述した一冊。戦争を通して変容する国家観についての考察や、ジャンヌ・ダルクについての詳述など興味深い点が多い。前に読んだヴァロワ朝と記述がかぶる点も多いけれど面白かった。
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「それは、英仏間の戦争でも、百年の戦争でもなかった。イングランド王、フランス王と、頭に載せる王冠の色や形は違えども、戦う二大勢力ともに「フランス人」だった。また、この時期の戦争は、むしろそれ以前の抗争の延長線上に位置づけられる。それがなぜ、後世「英仏百年戦争」と命名され、黒太子エドワードやジャンヌ・ダルクといった国民的英雄が創出されるにいたったのか。直木賞作家にして西洋歴史小説の第一人者の筆は、一三三七年から一四五三年にかけての錯綜する出来事をやさしく解きほぐし、より深いヨーロッパ理解へと読者をいざなってくれる。」
「「百年戦争」はみなさんもよくご存じのとおり、これはイギリスの圧倒的な軍事力の前に崩壊寸前であったフランス軍が、ドンレミ村で「フランスを救え」という神のお告げを聞いたとされるジャンヌの登場によって大逆転劇を見せる、ドラマティックな戦争でした。しかし実際のところ、ここには大きな認識の誤りが存在していますーぼくたちは現代の価値観やものの考え方を空気のように身に着けてしまっています。その結果、ついつい歴史的な過去の出来事を現代のものの見方によって見てしまうことを往々にしておこなっていしまいます。これは現代の価値観を過去に投影するだけのものであり、過去の出来事のうち、現代の価値観に都合のよい部分だけを買ってに解釈して切り取ってくる行為といえるでしょう。佐藤さんのこの本は、そのような身勝手な解釈とはむしろ逆に、当時の歴史をありのままに描いています。そしてそれが現代世界とどのようにつながるのかを誠実に示してくれるのです。」
(『世界史読書案内』津野田興一著 より紹介)
目次
シェークスピア症候群
前史(それはノルマン朝の成立か;それはプランタジネット朝の成立か;第一次百年戦争)
本史(エドワード三世;プランタジネットの逆襲;王家存亡の危機 ほか)
後史(フランス王の天下統一;薔薇戦争)
かくて英仏百年戦争になる
著者等紹介
佐藤賢一[サトウケンイチ]
1968年山形県鶴岡市生まれ。93年『ジャガーになった男』で第六回小説すばる新人賞を受賞。以後、西洋史に材をとった小説を次々に発表。98年東北大学大学院文学研究科(西洋史)を満期単位取得し、作家活動に専念。99年『王妃の離婚』で第一二一回直木賞を受賞 -
とても面白かった。英仏100年戦争というとジャンヌダルクくらいしか思いつかなかったが、そもそもがどちらもフランス人であること、フランスとイギリスのナショナリズムが生まれ始めてくる時期であることなど、この戦争の見方が変わった。繰り返し出てくるアンジュー帝国の亡霊の凄まじさも実感する。
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初佐藤賢一。英エリザベス女王の国葬を見て英国の歴史に興味を抱き挑戦。
世界史には無知だったので百年戦争といってもイメージがなかったが、ゲルマン民族の大移動から始まるヨーロッパの歴史を踏まえ「英仏戦争はフランス人同士の戦争であった。」ということに納得。国王の名前などの系譜の変遷は覚えられなかったが非常に興味深い内容だった。名前だけは知っているジャンヌダルクのことも改めてよく分かった。 -
国民と国家という意識が当たり前では無いという前提から考えると納得がいくことも多く、今は当たり前だけど当時は、と何事も疑ってみることは大切だと感じた。
また、なぜ英語の中にフランス語由来の単語が多いのか、の理由の一つが分かったような気がする。 -
どちらもフランス人という所はなるほど、中世らしい話と納得。
途中は、まあそんな感じかと思うが、ジャンヌ・ダルクが農民の娘が利用されただけと切って捨てるのは、どこまでそうなのか。
うつてつけの題材と思うが、ナポレオンまで気が付かなかったのか?
最後、国民国家とナショナリズムを産んで終息したというのはわかりやすいが、その時代でそこまで言えるのか。
国民国家としても、15世紀と18世紀では同じにならないし、それ以前でも同じ国語を話す者の一体感はあったのでは?
きれいに割り切りすぎな感がある。