慈雨 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
3.62
  • (226)
  • (594)
  • (559)
  • (90)
  • (20)
本棚登録 : 5305
感想 : 456
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087458589

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 過去の苦しみと向き合いながら四国遍路の旅に出た神場元刑事が、物悲しくて辛い過去に悩む一方で、一緒に遍路を巡る香代子夫人をはじめ元部下元上司との信頼関係が温かい話でした。事件自体は恐ろしく現実にも起きていそうなものでしたが、神場元刑事のその後も気になります。

  • 県警を定年退職した神場は妻香代子と四国巡礼に出ている。過去に関わった事件が冤罪であったかもしれないという悔恨から。神場ひとりが導いたことではないのに、何もそこまで思いつめなくてもと、こちらまで苦しくなった。
    個人の倫理と組織の倫理の違いを、どうすり合わせて切り抜けていくか、ということではないだろうか。
    16年前の事件と、今現在起きている類似した事件がなにか関連しているのではと推測する神場。
    四国巡礼の場面と、県警本部との連絡でストーリーが進む。神場が巡礼で出会った人からヒントを得、推理がはたらく。それで一斉に捜査が始まる。え、そんなに人が(まわりが)動くんだ、電話一本で。(とは思った。)
    神場の正義を貫く姿は立派だが、そんなに自分で抱え込まなくても。償いのために私財投げうるってなに(?)。神場を大きく支えたのは妻の香代子さんでもあるのに。
    犯人は、という興味で読み進めたが、予想通りの展開だった。個人的にはすっきりしない感もあるが、この話は人が抱く後悔や、思い出したくない過去とどう向き合うか、ということと捉えた。
    なにかと後悔しがちな私には、刺さった。
    読書家の大先輩一押しの柚月裕子さん。違うのも挑戦してゆきたい。

  • 定年退職した刑事が妻とお遍路の旅に出る。その途中で幼女殺害事件の発生を知り、16年前、自らも捜査に加った事件である消せない過去と向き合い始める。
    組織、上司、同僚、家族との絆、そして刑事たちの心情が詳細に描かれていましたね。

  • 非常に興味深く楽しめた。
    本作は、警察ミステリー小説というよりも警察官を定年退職した元刑事の生き様を描いた人間ドラマと言った方が良いだろう。

    僕は、柚月裕子氏の小説を読むのは『盤上の向日葵』に続いて2作目なのだが、著者の描く中年男の渋みというか、その格好良さは、実際に中年男の僕から見てもほれぼれする。女性作家でありながら、よくもまあここまで中年男の心情をつまびらかにできるなぁと。

      「無骨で朴訥。必要最低限のことしか話さない。そして人生にくたびれながらも、その根底に秘める正義への情熱は消えることがない」

    こんな渋くて格好いい中年刑事を描かせたら日本一なのではないだろうか。

    本作は、群馬県警を警部補で定年退職し、四国八十八ヶ所霊場をめぐる巡礼の旅に出る神場智則を主人公としている。交番勤務や駐在所勤務、そして長年勤めた刑事としての人生を振り返りながら、妻の香代子と共に一つ一つ寺院を回る。

    そんな旅の途中で、神場は幼女殺害事件の発生を知る。その事件は16年前、自らも捜査に加わり、犯人逮捕した事件に酷似していた。
    16年前の事件の犯人は現在も刑に服しているはずである。しかし、この16年前の事件には群馬県警が明らかにしていなかった秘密があった。絶対に明らかにできない秘密が・・・。

    刑事を退職した神場の警察人生が、本小説を紐解くにつれ、少しずつ明らかになっていく、振り出しの交番勤務から、警察に協力的でない非常に閉鎖的な土地での妻と二人での住み込みの駐在所勤務。そして、刑事に取り立てられてからの神場の刑事人生。決して順風満帆ではない警察人生であったが、何とか定年まで勤め上げられたのは、本人の努力もさることながら、妻を始めとした周りの人たちのお陰であった。

    そんな悔いのない警察人生であったが、一つだけ、そしてとてつもなく大きく、彼の警察官としての存在価値を覆してしまうような、妻にも言えない秘密を神場は抱えていた。それが16年前の幼女殺人事件。

    退職した自分には、当然捜査はできない。
    半年前までは県警捜査一課のベテラン刑事として活躍し、数多くの事件を解決してきた。そして今、16年前の幼女殺人事件に酷似した事件が発生した。

    ひりつくような焦りを感じる。
    しかし、もはや警察官でない自分は何もできない。
    もし、自分が今刑事なら当時と同じ轍は踏まない。必ず真犯人を逮捕することができるのだが・・・。
    自分にできることは、捜査一課の刑事である後輩の刑事から現在の捜査状況を聞くことぐらいだ。

    捜査状況は芳しくない。ジリジリとした焦燥感を感じる。
    神場は焦りと後悔とふがいなさを感じながら八十八ヶ所の霊場を巡る。
    そのようななか、他のお遍路達との出会いや、妻との会話、そして自分の内面との対話を通じて、神場は自分の人生とは何だったのかを悟っていく。

    柚月裕子氏が描く、退職刑事の悲哀と人生における喪失と再生の物語。
    傑作である。

  • 誇りと使命感を持って職務にあたる警察官。
    極悪非道な事件を犯した者と、その犯人によって大切なものを奪われた被害者やその家族。無事平穏に暮らしていれば繋がることのなかったその運命の結び目に、彼ら警察官はいつも立ち会うことになる。なんて重たいものを彼らは背負っているのだろう。たとえ職務を退くときが来ても、彼らは寿命が尽きる瞬間までその重荷を下ろすことはないのかもしれない。ましてや、信じる正義を全う出来ずに許されざる罪の意識を持つものにとっては。定年退職した元刑事である神場にとって、その悔恨と恐れは姿を変え悪夢となって彼を離さない。
    四国遍路の旅の途中、悪夢が次の悪夢を連てきたことで彼はもう一度罪と向かい合う覚悟を決める。遍路の旅は、彼を過去から現在、そして未来へと連れていく。と、同時に彼が今までに手に入れたもの、手放せないもの、信じようとしていたもの、ひとつひとつを彼の背からそっと下ろしていく。旅の終わり、晴れた空から、慈しみの雨が降り注ぐ。その白く光る景色の向こうに希望がうっすらと輝いている。
    ともに歩んでくれるものがいること、今度こそ、信じる正義の道を引き継いでくれるものがいることに、彼はどれだけの救いを得たのだろう。

  • 定年退職後、妻と四国八十八ヶ所お遍路巡りの旅に出た刑事の話。

    犯人が割れてからの後半の展開は面白かったのですが、それまでが長い。
    四国八十八ヶ所お遍路巡りも2ヶ月程かかる道程らしいですが、事件の捜査も進展せずただ妻や他のお遍路さんとのやり取りが続くだけで、途中飽きてしまいました。
    結局16年前の事件が冤罪だったのかどうかも曖昧なまま終わってしまい、残念です。

    罪悪感と責任感、刑事としての職務を全うしようとする気持ちは分かりますが、守るべき家族がいるのに、私財を全て投げ打つ必要はあるのでしょうか。
    そこまで一人で思い詰めなくても、と思ってしまいました。

  • たくさんの方の本棚に

    〈 様々な思いの狭間で葛藤する元警察官が真実を追う、日本推理作家協会賞受賞作家渾身の長編ミステリー〉

    ミステリーは苦手なんだけど
    (というか殺人が苦手なんですう)

    これは四国遍路と平行してゆっくりと時間が流れる
    寺、宿、山、町
    それぞれの描写
    家族、刑事、加害者と被害者
    丁寧に描かれていた
     
    遍路の果て、結願寺に向かう
    優しい慈雨 

    ≪ 悔恨が またよみがえる 悪夢消せ ≫

  • いろんな意味で とてつもなくツライ話ばかりが続く。
    それがまた現実味があるから尚こわい。
    特に冤罪の疑いがありながら 再捜査されず 長い懲役生活を強いられるくだり。ただ全くの無実ではなく 他にも罪があり
    しかし懲役20年を課された罪は冤罪ってところがビミョーだもん。
    また結婚してすぐの赴任地で出会った義父殺し。
    なんとも言えない後味の悪さ。
    全編通して暗い空を思わせる内容のなかで 香代子と幸知の明るさに救われる。

    解説がまたすごいね。
    特に最期の ある時を境に から始まる部分。
    本文の内容と相まって しみじみと人生に思いをはせる気になります。

  • 私のブクログ本棚で一番長く、積読になっていた作品。
    ナツイチ、ミステリーよまにゃのキャンペーンで手に取った記憶が有ります。でも、ミステリーではないよね。
    当時の帯にもありますが、「落涙の人間ドラマ!」ですよ。
    犯人に近づく後半は一気に読んでしまいました。
    10章以降は周りに人が居なくて良かった。
    本当に落涙してしまいました。
    久しぶりの柚月裕子さん、堪能出来ました。

  • 慈雨 柚月裕子著

    2021に出会えた作家のお一人が柚月さん。あしたの君へ、盤上の向日葵と読み進めてきました。
    三冊とも共通していることがありました。
    それは、主人公そしてその周りの人々の性格、行動、さらにその裏にある生い立ちが丁寧に描かれていることです。
    だからでしょうか?読み終えたとき、三冊ともに頬を濡らしてしまうこととなりました。

    ------------
    1.主人公の生き方
    駐在所勤務での働きぶりが認められて、晴れて刑事に。
    書けばシンプルですが、駐在所時代の村で起きた盗難事件を解決するために、身体を酷使し、夜な夜な見回るわけです。
    何のためか?人口1,000人未満の村落が互いが犯人では?と分裂していく様子を残念に、寂しく思うからでした。
    ------------
    2.主人公を支える奥様の生き方
    過去、ミステリーはそれなりの量を読みこなしてきました。
    今回の作品で初めて、刑事の奥様の描写そして人となりに出会いました。
    主人公は、定年までに多くの事件に出会い、人間そして警察組織に対して思う葛藤を抱きます。
    それを支える奥様の覚悟、それは「わたしは、刑事の妻なのだから。」
    定年後、主人公と奥様が遍路を巡るなかで、少しずつ語らい、距離をさらに縮めていく様子は、ただただ優しい気持ちになるのでした。
    ------------
    3.読み終えて
    刑事、刑事の妻、そして長女。さらに長女の恋人であり、刑事の部下。
    この4名それぞれの生き方と考え方が丁寧に表現されています。
    他の方のレビューにあるとおり、ヒューマンドラマ、人となりが見える、心に説いてくる作品です。


全456件中 11 - 20件を表示

著者プロフィール

1968年岩手県生まれ。2008年「臨床真理」で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、デビュー。13年『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞、16年『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。同作は白石和彌監督により、18年に役所広司主演で映画化された。18年『盤上の向日葵』で〈2018年本屋大賞〉2位となる。他の著作に『検事の信義』『月下のサクラ』『ミカエルの鼓動』『チョウセンアサガオ咲く夏』など。近著は『教誨』。

「2023年 『合理的にあり得ない2 上水流涼子の究明』 で使われていた紹介文から引用しています。」

柚月裕子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×