水を縫う

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087717129

感想・レビュー・書評

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  • どこかでどなたかが「寺地はるなは裏切らない」と言っていた。まさに、そう。
    しっかりと間違いなく寺地小説は私のツボを押してくる。ぐいぐいと、ではなく、そっと優しく、けれどど真ん中を。だからじんわりと、効く。

    祖母と母と姉と弟、そして離婚した父とその友人。
    6人が6人とも、不器用でこだわるものがあって、とても生きにくそうに世界のちょっと隅っこで肩をすぼめている。
    彼らはみんな、「らしくあること」に押しのけられているようだ。
    女だから、女らしく。男だから、男らしく。母だから、母らしく。父だから、父らしく。
    なんだよ、「らしく」って。誰だ決めたことなんだ、「らしく」って。
    でも、自分も知らず知らずに「らしく」にからめとられてはいやしないか。自分を、相手を、家族を。

    それぞれに、自分の中に違和感を持っている、外から求められる自分と、自分が感じている自分と。
    生きたいように生きていけないもどかしさ。息苦しさ。(息苦しさの極致にいる母親のとつぜんの病がまさにその象徴でもあり)
    結婚間近の姉、水青の「かわいい」との隔絶が一番悲しく一番つらかった。これは、許しがたい。
    そんな姉が結婚式で着るドレスを弟が作る、という。この弟、清澄がとてもいい。彼の周りにいる友人たちとのやりとりも、そして父親への屈託のなさを作ってくれた父の友人黒田の存在も彼の成長にとってかけがえのないもの。
    そう。成長。不器用な家族+αたちの、生きにくさからのほんの一歩の成長の物語。
    ぼきぼきと折れながらもなんとかまっすぐに生きようとする彼らが迎えたとある、朝。
    彼らの笑顔が目に浮かぶ、その朝の場面。この、すがすがしさを一緒に体感してほしい。
    寺地はるなは裏切らない。心地よい涙がにじむラストを楽しみに読むべし。

  • 「〇〇らしさ」に馴染めない家族。
    母親らしさ、父親らしさ、女らしさ、男らしさ。
    それらにとらわれなくて良い、温かい物語。

  • 何かの雑誌で全国の中高受験の題材に使われているということを知って、どんなテーマなのかと気になっていた作品。うまく集団に馴染めないけれど生きていく上での芯はある青年が、大好きな裁縫を生かして姉のウエディングドレスを縫う、というのが話のあらすじ。男女差別であったり、結婚、離婚、働き方など現代社会のテーマも散りばめられている。個人的には清澄の父親である全が好き。

  • とっても好きな本です。
    清澄の素直な清い心がとっても良かった。
    姉と弟の名前の由来がとても良くて 不器用な父親だが素敵だなぁと思った。
    愛情表現はひとそれぞれで他人と比べることはないと思った。
    水青のウエディングドレス見たいですね!

  • 家族6人を主人公にした短編集。
    大きな事件が起きるわけではないが、日常がとても素敵な言葉たちでつづられている。

    父親、全がつけた、息子、清澄の名前の由来がとてもよかった。
    「流れる水は、決して淀まない。常に動き続けている。だから清らかで澄んでいる。一度も汚れたことがないのは『清らか』とは違う。進み続けるものを、停滞しないものを、清らかと呼ぶんやと思う。これから生きていくあいだににたくさん泣いて傷つくんやろうし、悔しい思いをしたり恥をかくこともあるだろうけど、それでも動き続けてほしい。流れる水であってください」

    あと、心に残ったのが、
    「失敗する権利。雨に濡れる自由。」

    私も子どもの失敗する権利を奪っていないだろうか。
    「雨に濡れる自由」っていう表現も、とても素敵だと思う。

  • ウエディングドレスの製作を通じて、バラバラになった時間と縁が繋がっていく。それぞれの経験の中で生まれた感情は消えるわけではないが、一歩前に踏み出せたのかな。

  • 最高でした。文章は淡々と、穏やかに、静かにつづられているのに、読み手の感情を強く揺さぶる素晴らしい物語です。老若男女すべての人に一読をおすすめします。

  • 好きなものを持つっていい
    それ故に苦しいこともあるけれど、前に進む、流れる水であり続ける力になる

    清澄の素直さと芯の強さ、いいぞ〜と応援したくなる
    その友人となったくるみちゃんと宮多くんもまたいい
    子どものことはおばあちゃんに任せきりだった母親に反感を覚えたけど、それもお母さんなりの愛情だった
    70を過ぎて、また好きなことを始めたおばあちゃん

    若者が前に進み成長するのはもちろん心地良いけど、おばあちゃんだって格好いい
    私も淀まずにいつまでも楽しめるようでありたい

  • いろいろな家族の形があり、それぞれの葛藤や悩みをもち毎日を懸命に生きている。
    誰しも
    好きな事嫌いな事
    得意な事苦手な事
    多かれ少なかれ持っていると思う。
    その中でやはり好きだと思うことがあるなら誰がなんと言おうと、気が済むまでを続ける事は大切だと私は思います。
    時には、他人や家族にいろいろ言われて
    傷ついたり悲しくてなったりする事もあるけれど
    続ける事、それが励みになったり自信になったり
    自分が自分を大事にしていく土台になって
    いけると思うから。

    寺地さんの作品はいつも私の心の奥にある
    思いを拾ってくれる感じがして大好きです。

    主人公の清澄が姉のウエディングドレスに刺繍を入れていく様子が本当に目に浮かぶようで素敵でした。

  • 登場人物が囚われていることから解放され、自分自身を認めたり許せるようになり、それが連鎖していく連作短編集だと思った。
    それは、動いていた水をせき止めて淀みの原因をつくっていたものが取り除かれて、再び水が流れて動き出し、浄化され、広がっていくのと近いのかもしれない。
    そんな爽やかさを感じるとともに、完成したドレスを映像で見たくなる終わりだった。

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著者プロフィール

1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。他の著書に『わたしの良い子』、『大人は泣かないと思っていた』、『正しい愛と理想の息子』、『夜が暗いとはかぎらない』、『架空の犬と嘘をつく猫』などがある。

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