失楽園の向こう側 (小学館文庫)

著者 :
  • 小学館
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感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (355ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094080742

感想・レビュー・書評

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  • 私は、人生に行き詰まったら、この本を読んでいます。
    平易なエッセーですが、日本の問題点とその本質を見事に語っているような気がします。

    この本は決して「ああしろ」「こうしろ」という指南本、マニュアルではありません。

    「いや、もう日本ってこれから先何も良い事ないよ、でも生きていこうね」
    と、さらりと言っているようです。

    しかし、氏のスタンスには、厳しさと、そして、優しさがあります。
    それらの混ざり具合が、私なんかは、絶妙というか天才的だなと感じています。

     「人それぞれ」、「あなたには関係ない」、これらの言葉が巷に溢れているような気がします。
    今の社会状態は、相当な病を抱えていると思います。

     「俺に、この本を書く理由なんてないけど、仕事って他人の需要に応えることでしょ?、
    だから、書いているの、働くってそういうことでしょ?、だから関係ないわけないじゃん」(筆者想像)

     という理由で、この本を書いているような気がします。正直、読んでも、何も解決できませんが、
    この社会と人と、そして、自分と、どのように接すればいいのか?ヒントはくれているような気がします。
    そして、毎度、毎度、橋本氏は、「後は、自分で考えてね」と、読者にボールを投げます。

     そのボールをしっかり、受け取ろうと思った瞬間、まぁ、生きていこうかなと思える、不思議な本です。
    是非、一読を!

  •  10年以上前の橋本氏の本。雑誌に連載されていたのは記憶にあったが、文庫になってたので入手。一種の哲学書のように思えてきた。人生の指針の書、というわけではないが、中年になって読むとまた心が痛むところ多し。ただ、某書評と同じく、何となく前向きになれる、という意味はわかった気がする。全体的にぼんやり感が残るが、氏独自の記述のせいかもしれない。いかに自ら咀嚼するか、が強く問われている。難しい。

  • 「貧乏は正しい!」シリーズ(全5巻、小学館文庫)の続編とも言えるような内容の本です。

    バブル後の不況を「失われた十年」と呼ぶことがあります。しかしこの言葉には、本来あるべきものが「失われた」のであり、どこかに「奪って行った」犯人がいるかのようなニュアンスがあります。著者は、そうした考え方そのものを批判します。

    これまで多くの人びとは、「カイシャ」の中で生きていくことを当たり前のように考えていました。彼らは往々にして、同僚や上司という「身内」だけしか見ておらず、「カイシャ」の外にいる「他者」に目を向けようとしません。著者は、グローバル化によって「カイシャ」の外に貧困が広がりつつあるにもかかわらず、人びとがいっこうに貧困に目を向けようとしないことの理由を、こうした「カイシャ」本位の考え方に求めています。しかし現実には、「カイシャ」の中だけで生きていくことがしだいに難しくなってきています。

    こうした状況を、あるべきものが「失われた」と考えるのではなく、「他者」と向き合い「他者」の呼びかけに答えていかなければならない、当たり前の現実として認めることで、やっと私たちは自分と他者の共存する「社会」について考えるためのスタート・ラインに立つことができるという考えが、著者の主張の根幹にあるように思います。

    どこまでも経済成長が続くという神話を超え出ていったとき、私たちはいかなるユートピア社会に到達できるわけでもなく、ただ面倒な他者と粘り強く向かい合っていかなければならないという現実がある、というだけでは希望がないようにも思えますが、「「希望がない」ということが、そのまま「希望がある」になる」と著者は言い、しかし「自分の真実を見つめる目がありさえすれば」と付け加えることを忘れません。

    著者に心酔している読者の一人としては、ほとんどページごとに「まったくその通り」と思いつつ読んでいたのですが、ただ一つ気になるのは、どうして自分を含めて多くの人はこんなにたやすくユートピア思想に絡め取られてしまうのだろう、ということです。翻って考えなおしてみると、著者の説く「失楽園の向こう側」に広がる「現実」を眺望したいと願う今現在でさえも、「失楽園」というテーマ・パークを新しいユートピアのように見ているにすぎないのかもしれません。あるいは、自分が身体知に関してはまったくのオンチというほかない人間だからではないかとも考えるのですが。

  •  著書すべてを読んだわけではないが、本書は橋本さんの思想エッセンスがすべて盛り込まれているのではないかと思えるほどの完成度。集英社新書のシリーズも良かったが、本書の守備範囲のほうがより幅広い。

     世の中、あるいは自分に何かしらの「ひっかかり」があるとき、橋本さんの考え方はとりあえずの解決を導く「とっかかり」となる。あくまでも「とっかかり」であって、そこから先は個人の選択肢が残されている。良質な思想とはそういうものなのだろう。

     橋本さんの文章は突然自分の中に入ってきて、次の瞬間に考え方のベクトルが大きく動く。それほどの威力がある言葉を持つ思想家はそれほど多くはない。各著書がすべて有益な文章で埋め尽くされているというわけではないが、1つ2つの自分が求めている言葉を探す目的をもって一冊まるごと、あるいは年代を追って読む価値が大いにある著述家であると思う。

     難しい概念を並べるでもなく、特異な経験を語るでもなく、ごく日常のごく普通の光景を描きながら発せられる鋭い考察は、自らの思考の発展に大いに役立つはずである。

  • 相変わらず目からウロコな洞察。
    「自分とは余りであり、自由とは2つの義務とセットとして存在する。友人の重要さは義務の中にある許しであり、自由の容認である。」というのを、愛のために2つか3つの丸を書いてみようとか肩の力を抜きながらもズバッと言ってのける。

    すごく共感したのは、「自己主張」についての言及。自己主張とは、他人の存在する日常の中で、相手に侵略されたり自分を埋没させないために行われる、「地道な」ものだということ。日本人は普段から自己主張することに慣れていないので、自己主張の「度合い」もわからない。ちょうどいい自己主張には「美意識」が必要で、その美意識を育てるには自己主張がノーマルに存在する社会に生きていないといけない。
     適合に価値をおく社会では、流行を追うことが目立たない自己主張となり、そういう社会は反転して「不適合」に対する不寛容を生む。いじめや日本のネット言論の本質のように思えた。

  • 09146

  • 途中まで読んだら旦那にとられた。

  • 橋本治は物事ってーのを分りやすく説いてくれる(笑)。

  • 人生や社会問題に関するエッセー。良くも悪くもエッセーらしい一冊。ただ、若干くどいところはエッセーらしくない。

  • 頷き過ぎて首が痛い。

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著者プロフィール

1948年東京生まれ。東京大学文学部国文科卒。小説、戯曲、舞台演出、評論、古典の現代語訳ほか、ジャンルを越えて活躍。著書に『桃尻娘』(小説現代新人賞佳作)、『宗教なんかこわくない!』(新潮学芸賞)、『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』(小林秀雄賞)、『蝶のゆくえ』(柴田錬三郎賞)、『双調平家物語』(毎日出版文化賞)、『窯変源氏物語』、『巡礼』、『リア家の人々』、『BAcBAHその他』『あなたの苦手な彼女について』『人はなぜ「美しい」がわかるのか』『ちゃんと話すための敬語の本』他多数。

「2019年 『思いつきで世界は進む』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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