吾輩は猫である (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (624ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101010014

感想・レビュー・書評

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  • 新潮文庫版を購入したのは、注釈や解説の豊富さから。
    主人を中心とした人間社会を、悠々自適で妙に鋭い猫の視点から面白おかしく批判する。そんなエピソードを連ねた物語。

    この時代から既に、夫婦は相容れないことや人間はゆくゆくは自殺に行き着くようになることを言っていて、頭の良い人というのは100年200年先の未来が見えるのだなと感心した。現代になっても社会は同じような問題を抱え、明治に予見されていた問題の根っこがただ深くなっただけのような気がする。

  • 昔はかならず教科書に載った有名な1章。「我輩」とのたまう猫の生い立ち、寄宿先が決まって、そこの主人のことやら、ご近所に猫とのお付き合いをユーモラスに簡潔に描いている。登場人物のすべてに名前がついていない。構成といい、展開といい立派に完結している1話。

    解説の伊藤整が書いているように「この第一回が独立した作品であった」(雑誌「ホトトギス」発表)ここが強く印象に残っているので内容的にはこれきりかなと思ってしまっていた。

    とんでもない、1章が人気を博したので連載が始り、これに続く2~11章。脱線、蛇足気味のだらだらとした饒舌的文章が面白い。故事熟語が難しく、解説に頼らなければならないのが面倒くさいと言えばいえるけど。

    登場人物も変化に富んでいる。ざっと上げてみると、

    「猫」の次の主人公珍野苦沙弥先生(臥竜窟(書斎)を出たがらない中学教師、「我輩」の寄宿先主人)に妻君

    越智東風、水島寒月、八木独仙、迷亭先生、多々良三平の苦沙弥先生の友人やら、弟子やら。

    成金一家金田、金田鼻子、金田富子の親子に加担する鈴木藤十郎(この金田夫妻が水島寒月を娘富子の婿にしたく、寒月の博士号取得を気にしている。)

    面白いのは10章。苦沙弥先生の幼い3人の娘「とん子」「すん子」「坊ば」登場。

    三姉妹の朝食風景のハチャメチャぶりもものすごくて笑うけど、主人の姪「雪江」さんが遊びに来て、「あらいやだ。よくってよ。知らないわ。」などと当時女学生の流行語が活き活きしている。

    また、雪江さんと叔母さん(主人の妻君)が結婚について弁論していると、幼い3人の娘たちが
    「招魂社にお嫁に行きたいんだけれども、水道橋を渡るのがいやだから、どうしょうかと思っているの」
    「御ねえさまも招魂社すき?わたしも大すき。一所に招魂社へ御嫁に行きましょう」
    「坊ばも行くの」
    と、三姉妹とんでもない望みを持っている。

    こんなところで靖国神社が出てくるとは…。しかも、「斯様に三人が顔を揃えて招魂社へ嫁に行けたら、主人もさぞ楽であろう」だとさ!なにやらすごい人気。複雑。(P428)

    11章の現代社会への予言も的中にはびっくり。つまり、人間が個性中心になって男女が結婚が不可能になるというのである。明治時代にこの予言だ!(P523)

    「猫」があちらこちらと徘徊しながらの人間観察。皮肉たっぷり、愉快愉快。「猫」が最後にどうなったか?それも意外。

  • 夏目漱石は天才だね。とりあえず物知りすぎて知ってる単語を書き並べるもんだから顛末の語句説明のページだけでもすごい量。好きな人にはたまらないだろうけど、この手のごり押しは苦手、故に読み終わるのにどれだけ日を費やしたことか...眠くなる目をこじ開けて、もう小説を読むというよりは活字を追いかけて無理やり読み切った感。
    ところどころ言葉遊びやくだらなすぎるやり取りにクスっと笑ってしまうところもあるが、とにかく理屈へ理屈のオンパレードの挙句猫の結末もおいおいおい!って!
    広辞苑好きにおすすめの小説です!

  • 初めて最後まで読み通した。意外と長い。そしてドライで明るい。後期の暗いトーンと比べると、結構笑い多めで落語的。しかし日本人の近代化した精神性に対する批判はめちゃくちゃ切れ味鋭い。現代人の肥大化した自我に対する批判なんて、SNSの承認欲求の話か?と思うくらい100年以上経った現在でも成立していて驚愕した。

  • 明治の時代をいろいろな方面から知ることができる作品。「臥薪嘗胆」の言葉や烏帽子の表記など、細かなところからもリアルに読み取れる。当時の世の中を、漱石が猫という立場で冷静に見ているところがこの作品の面白いところであり、また登場人物たちの会話が哲学的に書かれている場面なども醍醐味と言えるのではないだろうか。個人的な意見としては、最後の最後、切なくもなり、それと同時にこの本の重みというものを感じ取ることができた。

  • 登場人物がみんな個性的で楽しい!
    適当やけど物知りな迷亭、真面目にふざけてる寒月くん、芸術肌の東風くん、我を貫き通す独仙、それから頑固で胃弱で少年のような苦沙弥先生。
    奥さんもおさんも子供達もかわいいし、車屋の黒も三毛子もかわいい。
    吾輩の物言いももちろん面白い。
    前半は気軽に読めるけど、後半になってくると段々小難しくなってくる。
    けどまあさらっと読むのが良い。

    解説にも書いてあったけど
    「面白い場面をつなぎ合わせるものとしてのみ筋はある」から、何回でも楽しめると思う。
    また気が向いた時に読みたい。

  • やっとちゃんと読み切ることができた。
    夏目漱石の文体が、読み進めるうちにどんどん変化していって、まるで生き物みたいだなと思った。
    最初と最後では文体がまるで違う。
    中盤からサクサク読めないのはちょっと辛かった。

    猫の視点から見る人間の世界は時々面白く、寂しく、退屈で、平和だ。
    人間がああでもないこうでもないと議論している光景が目に浮かぶ。
    それをなんでもない光景として片付けてしまっても良いのだが、掘り下げると当時の状況がちらちら見えたりする。
    だらだら読むのが丁度良いのかもしれない。

    名前のない猫の意外な末路はうっすら知っていたものの、愛着が湧いた頃にそうなってしまうのだから、寂しさと喪失感が半端無かった。
    呆気なさはとても堪える。
    寂しい。

    また時間を空けて読み直したい。

  • 衝撃のラスト。
    ショックだった。泣く、とかではなく文字通り呆然とした。
    中学校の国語の授業で一部分だけ習ったのはよく覚えているが、通読は初めて。
    明治時代の日本の世相がごく自然に織り込まれているのだが、全く厭味というか作為を感じさせない。リアルとフィクションが溶け合っている、といおうか。
    そして、端々に滲む、「病み/闇」。
    最も如実に表れていたのはやはり最後だが、全編通して神経衰弱が脈打っていた。著者の漱石の、というよりは漱石の生きた明治という時代の、近代化に対する疲弊なのかなと思う。それは漱石没後100年を経た今も大きくは変わらないのだろう。この本が受け入れられる限り。
    好きなのは迷亭。自称・美学者という胡散臭さ100%の嫌味大魔王の傍若無人っぷり、序盤は「なんだコイツ。ヤな奴」と思っていたが、実はとても気が利くし頭の回転は速いしで、どんどん彼の株価上昇、終盤に至って当社比200%。ほんとに。

  • これだけ有名な作品なのに、もう忘れてるって、どういうこと。

  • 猫の目から見た人間の観察録。日露戦争当時の知識層に属する人々の言動が面白く、一気に読める。長編小説というよりも連作社会風刺小説。ただ、エピソードのそれぞれにきちんとオチがある。ラストはすべてのエピソードを締めくくる壮大なオチと考えても良いかもしれない。やや厭世的。明治人の話し方が心地良い。

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著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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