女の一生〈1部〉キクの場合 (新潮文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784101123233

感想・レビュー・書評

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  •  遠藤周作『沈黙』の初版本を半世紀前に読んで以来、遠藤周作のテーマにはずっと寄り添ってきたつもりでいたが、数年前、念願かなって、二泊三日ではあったが、長崎を訪れる機会に巡り合った時、私は、彼の地の切支丹の歴史はもちろん、「長崎」というものの本質的な姿、実体などもろもろ何も分かってはいなかったことを思い知らされた。唖然とするばかりだ。
     この『女の一生』一部、キクの場合を熟読した後の今も、頭の中の混迷はますます深まるばかり。

     とりあえず今、言えるのは、二部の「サチ子の場合」は、これを読んだ戦前戦中を生きた人々が物語の中に「あっ、サチ子は私自身だ」と感銘をもって共感できる典型を創造していったことだ。
     そして一部は、二部と真逆で、読者である「私の場合」とは全く別人の「キクの場合」を、物語を通して追体験させてくれた。ただ物語に登場してこない数多の人々の一人ひとりの"場合"が隠されていることを強く強く感じさせてくれる。何も、隠れキリシタンだけが長崎の歴史の悲劇を、ひとり背負っていたわけではない。それはキクがキリスト教徒ではなかったことからも推察できる。

    かなり言葉足らずの読後感で、誤解を招かなければと心配だ。
     が、私が大好きな戯曲『マリアの首』(田中千禾夫)の終末と、この一部キクの場合の終わりごろ、聖母マリア様がキクに話しかけるシーンが、降りしきる雪のイメージとも重なってとても印象的、詩的だ。
     やはり私は、未信者だが、母性的なマリア信仰にどうしても惹かれてしまうのだ。

  • 2018.05.29再読しました。

    前回この作品を読ませていただいた時は、お借りしていた本にもかかわらず、泪が止まらなくてページをぬらしてしまいました。まさに自分にとって人生の教科書になる作品だったので、今回は泣かないように再読を試みましたが…
    ムリでした(TT)

    浦上四番崩れ。
    今からわずか145年前までこんなにも酷い事が行われてたんですね。

    何回読んでもキクの美しい愛と心に感動します!
    そして、「女の一生」、「沈黙」を読んだ時にも深く考えさせられる神の存在。
    神は存在するのか?カタチはあるのか?と言う事。

    わたくしの勝手な考えなのですが、神ってその人の人生なのではないか?と思うんです。その人がどうやって生きてきたか、によって神の存在を知る人、知らない人がいて、カタチを創る人創らない人もいて。
    たぶん、その存在を信仰できる方たちはとてもステキな人生の持ち主なんだと思います。

    キクもきっと人生という神様に出会えたのではないでしょうか。
    決して汚れのない美しい人生だったと思います。

  • 美しいが、哀しい

  • 意外なほど簡潔な物語の構造が、著者のキリスト教への強い思いを表している。

  •  遠藤周作の本を読むといつもキリスト教の惨さを思う。どんなに祈ろうと、どんなに善行を積もうと、神は報いてくれない。それでもキリスト教信者は、神を信じ神に祈る。
     多神教徒なら都合のいい時に都合のいい神様に神頼みをするのに…
    でもだからこそ、心に滲みるのが遠藤周作の小説である。キクのような生き方こそ神様だよね。私は伊藤だ、熊蔵だよなぁって思いました。
     女の一生2部はないのかなぁ

  • 女性の尊厳を描くことで男性の尊厳を浮かび上がらせ、総じて人間の尊厳とは何か、を考えさせる。
    長崎が舞台でとても読みやすい。ただ、やはり遠藤周作は重すぎて、1冊読むと食傷してしまう。

  • 幕末から明治維新に向かう日本で、禁教のキリスト教を隠れて信仰してきたキリシタンが、迫害され流刑される浦上四番崩れを描いた作品。
    これは宗教の自由や信仰の自由を認める上で歴史上重大な出来事を、キリシタンの青年、清吉を想うキクの一生とともに書ききった名作と言える。
    キリスト教を禁止にするには、日本古来の公序良俗が乱れるという恐怖感に始まるが、当時はそれを許容する度量は日本にはなかった。だから鎖国したのだが、その間200年にも渡って受け継がれた。逆に言えばそこまで続けば、棄教する方が難しいのか。
    日本では今、性的少数者の権利を法的に認めるかどうかの議論をする土壌ができつつある。ほんの100数十年前にキリスト教が認められた時と似た状況でもある。なぜなら性的少数者を認めると日本の家族観が損なわれたり、男性と女性が結婚できるのは子ども作る権利を持つというデリカシーのないことを言う人もいるからだ。それは違うだろう。結婚という行為は、契約論だから。倫理観を保つことにはつながるし、人間の尊厳に関わる。
    折しもキクは、汚れなき身体を、愛する清吉を助けるために、伊藤に捧げた。あの時にキクは清吉の妻にはなれないと覚悟し、白い泪を流した。これこそ人の愛であり、愛する気持ちがあれば性的少数者も関係ないはずだ。
    そういう大義をキクの死ぬまで清らかな心が教えてくれる。

  • 何回読んでも色褪せない感動があります。

    これほどまでに見返りを求めない愛はすごい。
    初めて泣きすぎて胸がつまりました。

  • ボイシーにて感想レビューしています
    https://r.voicy.jp/5P9aZr4oVeQ

  • 明治維新の長崎で、隠れキリシタンの清吉に恋するキク
    時代に翻弄され引き裂かれた

  • 長崎に隣接する浦上村馬込郷に生まれたキクは、中野郷の青年である清吉に恋心をいだきます。しかしキクの兄の市次郎は、中野郷の者は「クロ」であるという理由で、キクが清吉とかかわりをもつことを反対します。やがて「クロ」とは、かくれキリシタンのことであったことが判明します。

    一方、日本にやってきたフランス人の神父であるプチジャンは、厳しい禁教令が敷かれていた日本で、役人たちの監視からのがれてひそかにキリスト教の信仰を守りつづけてきた人びとが存在していると聞き、彼らを見つけ出すことに情熱を燃やします。そしてついに清吉たちがプチジャンに接触を図り、プチジャンは彼らを正しい信仰へみちびこうと行動を起こします。しかし彼らの活動を知った奉行所に、清吉たちは捕らわれることになります。

    やがて江戸幕府の体制は崩壊しますが、そのあとの明治政府も禁教政策を引き継ぎ、清吉たちは厳しい弾圧を受けます。奉行所の役人である伊藤清左衛門は、清吉の身を案じるキクの弱みにつけ込みますが、彼女はみずからの身を削って清吉への愛をつらぬきます。

    「浦上四番崩れ」の史実をもとにした小説です。クリスチャン作家としてこれまで著者が手掛けてきたテーマが随所に示されますが、基本的にはキクの悲劇的な恋を中心にしたストーリーとなっています。

  • 幕末來到長崎的法國神父プチジャン,極力想尋找是否有躲藏多年的切支丹。神父每日偽裝散步,最終終於發現當地居民所敬遠的クロ(切支丹)代代躲在中野鄉等地。從浦上的馬込到長崎奉公的キク,喜歡上隔壁中野鄉的クロ清吉,每天等待他挑扁擔經過叫賣。但清吉與神父從大浦教會進行連繫以來,神父夜晚悄悄前往中野進行洗禮塗油等儀式,終於被長崎奉行所盯上。幕府只准教會為駐當地的外國人服務,不准日本人靠近,然而幕府因為改革頗為親近法國,神父與清吉雖想說要低調一點改以風箏為信號聯繫,後來又漸漸認為奉行所應該不敢貿然行事也怕國外干涉就越來越大膽,甚至聯名要求葬禮不再需要當地的寺廟,終於招致奉行所一起取締,抓到桜町牢(後來又移動),進行慘絕人寰的拷問逼迫改宗。キク從奉公處出奔,跑到天主堂來工作就是為了希望神父可以拯救清吉。由於拷問太過嚴格只剩仙右衛門沒改宗,其他人懷著愧疚改宗被釋放但發現回去被村八分,就去跟庄屋要求回復,而後來適逢幕府最終期的混亂因此村民沒有被處理鬆了一口氣。

    然而新政府上任之後,宗教方針是圍繞著神道去建立,長崎縣知事又是前尊攘派公卿澤宣嘉,原本誤以為就此可以不用再遮遮掩掩地信教,明治政府應該也不敢得罪外國,但沒想到浦上的基督徒還是被一起逮捕,流放到津和野、荻與福山。許多外國使節抗議,新政府則認為這是內政,毫不理睬。清吉等人來到津和野光琳寺,該藩歷來主張要以理說服人,一開始的說服與厚遇完全無法使教徒改變心意之後,開始給最低限度的食物與居住環境,並且用三尺牢等殘酷的酷刑逼迫改宗,津和野的冬天也讓沒有禦寒衣物的囚犯們極度痛苦。キク從天主堂出奔跑到丸山去當女中,前奉行所、現在在役所工作的伊藤定期前往津和野,キク為了知道清吉的消息,只好委身伊藤,並且把信與錢等都交給伊藤,希望清吉可以過好一點,伊藤卻把錢財著服己有,繼續染指キク,キク為了向老闆娘借錢也終至賣身。明治政府條約改正的團出訪,原本在長崎奉行所當通詞並且華麗轉身的本藤則成為外務省官員及同行人員之一,相較之下當時同事伊藤感到很忌妒,對自己的不遇只能用殘酷虐待基督徒與欺騙キク、狂飲等行為暫時忘卻自己的悲慘,然而他的脆弱又讓他自己更自慚形穢更加自虐地進行惡事。明治政府團外遊之後才發現國外高度重視這個問題,不改變則很難繼續談條約問題,因此只好著手調查是否有虐待等情事。五年多後,清吉等人終於被放回浦上,然而田園荒廢一行人過著更加貧困交織的生活。而キク早在清吉被釋放的兩年前在聖母像前喀血而逝。老後的清吉與伊藤再遊津和野,伊藤才很羞恥地告白了過去對キク所有的惡事。

    「浦上四番崩れ」這段真實事件是讀這本書之後才知道的。長崎的四季,祭典(風箏大戰!划龍舟),町內風情寫得很出色,是我很喜歡的部分。這本書也是跟之前遠藤的各部作品同樣的主題,沉默,神對災難袖手旁觀,神父也無法做出一個合理的解釋。在殘酷的各種逼迫改宗的肉體與心理折磨之前,終究是有人堅定地拒絕而不斷受虐,也有人終究殉教,更有人受不了改宗之後只能一直活在對堅持下來的人的負疚與忌妒之中。讀這種作品令人不寒而慄,也令人深思。每個時代都有極其殘酷的愚行,我們永遠無法得到合理的解釋及答案,其中有著無比脆弱可悲的靈魂(如伊藤),然而也見證了就算沒有答案依然泰然就義,傲然不屈的高潔,不管現實多麼地狼狽不堪,全身糞尿。神父說,本藤由於很順利與堅強不需要神,然而伊藤反而是神憐憫的,這句話實在令人很不平,但惡人正機論畢竟還是有很多人因此得救,這才是神的大愛。這與邏輯與理性無關,畢竟神的意旨不是人智可以了解,在災難與牢獄的不測與殘酷之中,共同受害的教徒們之間才會有那麼強大而強固的愛與意志。

  • 旧カバーデザイン
    [初版(第1刷)]昭和61年3月25日

  • 幕末の浦上四番崩れの一人を愛した「キク」の物語。

    「畜生ォー」。流刑地で主人公の怒鳴り声が響く。何に対する怒鳴り声か? 転んだ仲間に? 残酷な仕打ちをする役人に? 目に見えぬ権力に? それとも黙っている神に対してか?

    隠れキリシタンに対する投獄や拷問の小説は、読んでいてとても辛い。そして、私自身が無宗教のためか、信仰を棄てない信者の気持ちがわからない。口先だけで転ぶと言えばいいのに? なぜ?、と。

    拷問を避けるため、口先だけの”嘘”でも、キリスト教を棄てたと見做され、赦されないのか。「神」は、棄教を口走った弱者を見放すのか?本来、弱い人間こそ赦されるべきではないか?
    特に幕末の混乱の最中、そんなにも厳密・厳格なのか?と思えてしょうがない。

    エンディングで、「伊藤」が、津和野ですべてを話して、清吉に許しを乞う。「神は彼のような人を見放さなかった」という。拷問で死んだ人、獄中で亡くなった人、苦しんだ人、そして、キリスト教徒ですらない「キク」が、哀れでしかたなかった。”神”に赦されたとしても、私は、「伊藤」のような人間を、許すことができない。

  •  キクは気が強くて頑固で後先考えずに行動するタイプで、最初あまり良い印象がなかったが、“愛する者のために自分を犠牲にする強さ“に最後ウルっときた。

  • 浦上四番崩れという明治初期のキリシタン迫害のことを題材にした内容。
    様々な登場人物の心模様が描かれて、人というのは弱い者だと、そして、神様など信じたりする事で強くもなれ、相手を思いやることが出来るようにもなるのだと思う。
    苦労をすることで、人々は繋がりをより強くし、相手をおもいやり、自分も成長していくものだと。

  • 数年前に読んだ時は、キクと清吉に注目していたが、今回再読して、役人伊藤に感情移入した。自分も働くようになったからか。
    名作だ。このようなことが史実としてあったのか、信仰とは何なのか。

  • 久しぶりに本を読んで泣きました。遠藤周作が良すぎる。

  • 何度も読んで、何度も泣いた。

    この人の作品は、なぜこうもありありと情景が思い浮かぶんだろう。

  • 内容
    長崎の商家へ奉公に出てきた浦上の農家の娘キク。活発で切れながの眼の美しい少女が想いを寄せた清吉は、信仰を禁じられていた基督教の信者だった…。激動の嵐が吹きあれる幕末から明治の長崎を舞台に、切支丹弾圧の史実にそいながら、信仰のために流刑になった若者にひたむきな想いを寄せる女の短くも清らかな一生を描き、キリスト教と日本の風土とのかかわりを鋭く追求する。

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著者プロフィール

1923年東京に生まれる。母・郁は音楽家。12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶應義塾大学仏文科卒。50~53年戦後最初のフランスへの留学生となる。55年「白い人」で芥川賞を、58年『海と毒薬』で毎日出版文化賞を、66年『沈黙』で谷崎潤一郎賞受賞。『沈黙』は、海外翻訳も多数。79年『キリストの誕生』で読売文学賞を、80年『侍』で野間文芸賞を受賞。著書多数。


「2016年 『『沈黙』をめぐる短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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