それでも、日本人は「戦争」を選んだ (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101204963

感想・レビュー・書評

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  • 佐藤優子「本のフルコース」で取り上げられていて、手に取った一冊。日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、満州事変から日中戦争、太平洋戦争を順番にとりあげて、日本人の考え方、政治、国力、軍事、経済などがどのように変わっていったか、それをとりまく世界の情勢はどうだったのか、どのような外交が繰り広げられ、あらたな文書や研究からどんなことがわかるのか、といったことを、進学校の私立高校の歴史研究部のメンバーに、東大教授が5日間にわたって講義する、という形で語られる一書。高校生も著者の問いをがっぷり受けてたち、ときには著者の想定を上回る回答をみちびきだし。教科書で通り一遍の通説的な理解しかしていなかった身に、こういう状況、こういう史料からこんな見方もできるんだよ、と視界を広げてくれる。圧巻は最終章の、日本はなぜ国力が劣勢ななか太平洋戦争を開戦したのか、そしてどうやって戦争を終わらせるつもりだったのか、という問い。後者は、初戦に大勝して、それが助けとなりドイツが勝ち進んで、さっと有利な講和をむすぶという楽観に楽観を重ねた無責任なもの。前者は、耐えに耐えてジリ貧になるより、少しでも勝ち目がありそうな賭けにのってしまった、といったところか。そこに至るまでの日清戦争からの積み重ね、紆余曲折を経て。パリ講和会議での顧維鈞、胡適「日本切腹、中国解釈論」あたりはもう少し調べてみたい。またパリ講和会議についてももう一冊ぐらい読みたい。以下備忘録。◆「国民の正統な要求を実現しうるシステムが機能不全に陥ると、国民に、本来見てはならない夢を擬似的に見せることで国民の支持を獲得しようとする政治勢力が現れないとも限らないとの危惧であり教訓」(p.7)は、戦前の陸軍に対して述べられた箇所だけれど、今の日本の政治状況にも通じそう。◆「日中戦争期の日本が、これは戦争ではないとして、戦いの相手を認めない感覚を持っていたこと」(p.27)は、今のロシアのウクライナに対する姿勢にも通じそう。◆(リンカーンのゲティスバーグでの演説と同じで)巨大な数の人が死んだ後には、国家には新たな社会契約、すなわち広い意味での憲法が必要になるという真理(p.43)◆E.H.カー「敵国であるドイツが悪いのではなく、そもそも国際連盟がまちがっていたのだ、と。敗戦国ドイツに対する連盟の処し方がまちがっていたのだ」(p.65)…日本でよく読まれる理由はこういったところに◆(日本は)第一次世界大戦の始まりから(連合国同士なのに)イギリス、アメリカへの反感が芽生えていた。(p.263)◆パリ講和会議での、自分はがんばってプロパガンダしたが、他の人だって強盗をしているから自分が咎められる筋合いはないという弁明は、人を納得させることはできない、と真摯に悩むこの時点での松岡洋右の姿が。のちには連盟脱退演説、三国同盟と極端な外交をするイメージはあるが◆天皇を含めて当時の内閣や軍の指導者の責任を問いたいと思う姿勢と、自分が当時生きていたとしたら、助成金欲しさに分村移民を送りだそうと動くような県の役人、あるいは村長、あるいは村人の側にまわっていたのではないかと想像してみる姿勢、この二つの姿勢をともに持ち続けること、これがいちばん大切なことだと思います。(p.474)◆NHK取材班編「理念なき外交「パリ講和会議」」角川文庫、1995年

  • ウクライナとロシアの戦争、また、娘が中学受験のため歴史の勉強をしている最中、息子の塾のオススメ図書だったので図書館で借りて読んだ。
    なかなか時間もかかるし読み応えのある本。
    さまざまな国の思惑、政治家の本音、時代の流れ、誰も止められなかった戦争の悲劇。世界の国々と共存することはいつの時代も一番大切なテーマで、どんな時もそれを支えて均衡を保っている人たちの努力の上に平和がありつつも、とても不安定なものなのかなと。

  • 読めるって人と読めない人に分かれると思います.高校が日本史だったので、あーなんか聞いたことあるわーって感じで読めました。
    歴史研究会の高校生との集中講義を元に作られた本で、その講義を受けた生徒は2021年暮れ現在30歳。彼らはどんな自分史を歩んでいるのかなぁ!
    あの戦争の裏側を外交の面から学ぶことができて面白かった。

  • 友人の勧めで借りて読んだ。

    序章の「歴史の見方」、4章「満州事変・日中戦争」、5章「太平洋戦争」がとてもおもしろかった。

    特に、今まで正確な資料としては知らなかった、当時の一般人の戦争に対する感覚、敵国、特に中国側の考えが興味深かった。

    中国の胡適、王兆銘の言葉には唸り、陸軍の暴走に溜息し、水野廣徳の言葉に少し安堵した。

    歴史に想いを馳せた後、これからの日本はどういう国になっていくのか、なってほしいのかを考えた。

  • 近代日本はなぜ戦争を選んできたのか、教科書だけでは到底理解し得ないその背景を、まるで当時にいるかのように、登場人物の心境に立って解説してくれる。(日清〜太平洋戦争まで)
    冒頭の「国民の正当な要求を実現しうるシステムが機能不全に陥ると、国民に、本来見てはならない夢を疑似的に見せることで国民の支持を獲得しようとする政治勢力が現れないとも限らない」でグイッと引き込まれてしまった。歴史好きなら読み止まらないこと間違いなし。それにしてもこんな面白い講義を、生で聴けた生徒たちは羨ましいな。

  •  中高生に向けた講義ということで、日清戦争から太平洋戦争まで優しい内容で幅広く概要が知れるのかと思っていたら、超進学校の賢い中高生たちで自分より遥かにレベルが上だった。概要はもちろん詳細まで頭に入っている前提で、その時々の首相や陸海軍部の人間、市井の人々まで戦争についてどのように感じていたか、などが紹介されている。
     歴史に学んで二度と同じ過ちを繰り返さないように、とはよく言われるが、真剣に考え抜いても引用する歴史を間違え、失敗してしまった施政者もいたらしい。
     もう一度勉強し直して再読すれば面白みも増しそう。

  • 歴史年表として平面的に理解していたそれぞれの事件が、連続的かつ立体的に見えてきます。

    太平洋戦争に至るタイミングでの各国の軍事力評価とその後の展開には、ちょっと気が遠くなるような感覚を覚えました。
    物事を一つの視点・タイミングのみで評価する危うさには敏感でありたいものです。

  • ルソーの述べた真理にこういうのがある。
    戦争は国家と国家の関係において、主権や社会契約に対する攻撃、つまり、敵対する国家の憲法に対する攻撃という形をとる。
    戦争というのは、ある国の常備兵が三割ぐらい殺傷された時点で都合良く終わってくれるものでもない。また、相手国の王様が降参したからおわるものではない。戦争の最終的な目的というのは、相手国の土地を奪ったり、相手国の兵隊を自らの軍隊に編入したりする次元のものではない。相手国が最も大切だと思っている社会の基本秩序、これに変容を迫るものこそが戦争だ、といっている。相手国の社会の基本を成り立たせる秩序=憲法にまで手を突っ込んでそれを書き換えるのが戦争だと。第二次世界大戦の終結にあたっては、敗北したドイツや日本などの憲法に英米流の議会民主主義の方向に書き換えられることになった。日本国憲法は別にアメリカが、理想主義に燃えていたから作ったのではない。結局、どの国が勝利者としてやってきても、勝利した国が、敗れた国の憲法を書き換えるという事態が起こったはずなのだ。
    私たちにはいつも全ての情報が与えられているわけではない。けれども、与えられた情報のなかで必死に過去の事例を広い範囲で思い出して最も適切な事例を探し出し、歴史を選択して用いることができるようにしたい。歴史を学ぶこと、考えてゆくことは、私たちがこれからどのように生きて、何を選択してゆくのか、その最も大きな力となるのではないか。
    はじめはわかりやすかったが、段々と大学の教授って感じの講義になってしまったのが残念。序章から、日清日露までがいい。あとは、退屈だった。

  • 高校生(優秀すぎて驚く)との対話で書かれており、問題点を一つ一つ掘り下げていく形式なのでとても読みやすい。何故そのような判断に至ったのか、ゆっくり考えることが出来る。とてもよい現代史の教科書と言える。

  • すごく考えさせられた。戦争はよくないものというだけではなく、様々な状況により生じている結果なのだということ。

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著者プロフィール

東京大学大学院人文社会系研究科教授

「2023年 『「戦前歴史学」のアリーナ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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