思い出トランプ (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (225ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101294025

感想・レビュー・書評

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  • 嘘、嫉妬、軽蔑、憎悪。他人に見られたくないが "善き人" という仮面だけではやり過ごせない人生の通過点を可笑しみを携えた言葉で物語る。怒りでは決して解決しない残酷な悲喜劇。意地悪な共犯へと読者を誘う。さすが。

  • 13篇の短編小説。
    タイトルの「トランプ」は13という数に由来してつけたものとのこと。
    向田邦子は、本作に収められている3篇で直木賞を受賞し、その僅か一年後に飛行機事故で帰らぬ人となったのでした。

    不思議だったのは、初めて読んだ小説のはずなのに、部分的に既視感を抱いたこと。
    具体的には「だらだら坂」。
    この話は、設定とストーリー全体に覚えがあった。
    それと「男眉」の一部分。
    主人公の女性が、妹がお手洗いに行き水を流す音が聞こえた時、入れ替わるように手洗いに立った夫を「嫌だな」と思ったという一場面。
    よその女が入った直後に手洗いに入らなくてもいいのではないか、という心情を切り取った箇所。
    この「思い出トランプ」もテレビドラマ化されているようなので、もしかしたらそれを観て印象に残っていたのかもしれません。

    それにしても、上記したお手洗いの一見に代表されるような、心理描写の繊細さというか的確さは本当に素晴らしい。
    一篇一篇は文庫本にして20頁足らずの分量でありながら、それぞれに味わい深く、家族の、夫婦の、人間の「業」とも表わすべき物語を印象的に紡いでいきます。
    やはり向田邦子は凄い。

  • 疲れた初老の人の話ばかりで、面白いとは思えなかった。

  • 13の短編で構成されている。中年の夫婦を描いた作品が多い。どれも短いんだけど、でも濃厚。浮気、夫婦・親子の確執、など、ハッピーエンドで終わる作品は少ない。
    向田邦子さんの本を読むのは初めて。直木賞作家だけあって、さすが巧い。知識も豊富。でも、やはり圧倒的に暗い。読みながら気分が暗くなってしまった。自分には合わないかもしれない。すみません。

  • 日常生活を文学にできるのは作家。ただその作品が普遍でありうるかは、時間が決めるのだろう。

  • NHKラジオアーカイブスで「酸っぱい家族」を朗読する録音が流れ、誠実な向田邦子に興味を持って、短篇集思い出トランプから、「酸っぱい家族」、直木賞受賞作の「花の名前」「犬小屋」「かわうそ」を読んでみた。
    鸚鵡の死体、花の名のある女、犬を可愛がる男、かうそのような妻、それぞれの人生に裏があり、別の生き方がある。短編でいずれもあっけなく終わる。
    (アマゾンで購入)

  • 感想を書くのが難しい。
    結局のところ☆5、☆1と評価する本は感情丸出しのレビューをする他はないのだけれど。僕の場合。

    読書中はだいたい「ゲロ吐いちゃいたい」ぐらいに思っていた。
    まるでセックス・浮気・離婚だけが人生の中心にあって、我々人類はそのまわりをぐるぐる回るしかないような書き方。人間ってもっと崇高なもんじゃないんスかね?と言いたくなる。
    だからある時ポッと頭に浮かんだ「典型的な腐れおま○こ」という言葉がいつまでも頭を去らない。我ながらどうかしてると思う。

    これはつまるところ、「シルバニアファミリーなんだな」と考えることにした。
    そう考えるとすとんと納得がいく点がいくらもある。

    まず人の名前を「リス」とか「クマ」としても何ら弊害がないという点。特に登場人物が4人以上になるとかえってこちらのほうが読みやすい。

    五十過ぎて出世コースを外れる、煙草を買ってから愛人に会いにいく、妻がマンションを建てろとうるさい。……これらはテレビドラマの書割、大舞台のようなものだ。本物である必要はない。だって絵なんだから。けど「本物っぽさ」は要求される。だからありきたりであればあるほど効果的だ。これが「赤い屋根のおうち」。

    これで準備が整った。読者はただくつろいで、いい歳こいた大人のままごと遊びをただ眺めていればいい。

    文章が過不足ないというのは、それがシルバニアファミリーを「本物っぽく」見せるうえで過不足ないだけだ。
    本当の人間を相手にしたらこうはいかない。脳卒中で倒れた男は、「頭のなかの地虫がじじ、じじ、」などでは済まないだろう。
    汗が噴き出すだろうし小便ちびっちゃうかもしれないし、急に神様のことなんか考えだしちゃうかもしれない。

    人間の汗…本当の臭い…が、この文章から漂ってくる必要はないのだ。だってシルバニアファミリーだから。

    逆説的になってしまうけれど、でもだからこそこの作者は唯一無二なのだろうとも思う。何故なら、紙一重なんだ。あと半歩でも踏み出せばもはや「文章ですらない」ものになりかねない。「本物っぽい」というのは、実はすごく淡い境界なのだろうとも思う。
    だからいくらこの人の文章を写生したって、絶対にこの人のようには書けないだろう。

    そういう意味で、「ゲロ吐いちゃいたい」とは思いつつも、すこし離れて眺めてみると、「だからすごいのかな?」とも思う。

    まあどちらにせよ手放しで感動できる本も、ゲロ吐いちゃいたい本も、どちらも同じくらい珍しいことは確かだ。

  • もう何度読んだかわからないけど、cakes連載のfinalvent氏の向田邦子の没後明らかになった人生を作品の中に読み込んだ書評にふれて、あらためて読み直してみようかと。やはり感じるのは、時代背景の道具立ては違えど、物語仕立てで描かれる、ふとした生活のなかに浮かび上がる、普通の人々が抱く悪意、あるいは自覚がないだけたちのわるいずるい思い。底に流れているものは古くなっていないんだろうな、と。

  • 自分は今、38歳なのですが、まだ人生経験が不十分で、十分読み楽しめない気がしました。

  • 2012/08/01読了

    なんか、リアルすぎて胸に重圧を感じるような作品ばかりだった感じ。救いがもっとほしい。あと、一話あたりの登場人物がやたら多いので混乱してしまう。
    脚本家というだけあり、心情よりも情景が分かりやすいんだよね。個人的に好きなストーリーは「犬小屋」
    まあなんとシュールなことよ。
    授業で扱ったしレジュメ効果もあるかもだけど。他はどれも愛憎の「憎」が強い感じで、どうもね。

  • 日常の1コマを描いた短編集。読み易かったが、あまり内容を覚えてないかな。

  • どんと構えなくても文庫本で短編集なので、とても読みやすいです。
    普通に暮らしている人々の怖さや弱さなどが小気味よく描かれ、人間の本質や男と女の二面性などに迫る小品ばかり。

    【鹿児島大学】ペンネーム:Min Min
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    鹿大図書館に所蔵がある本です。
    〔所蔵情報〕⇒ http://kusv2.lib.kagoshima-u.ac.jp/cgi-bin/opc/opaclinki.cgi?fword=11111039328
            ⇒ http://kusv2.lib.kagoshima-u.ac.jp/cgi-bin/opc/opaclinki.cgi?fword=11111038861
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  • 上手なのかもしれないけれど、とりあえず今の自分が読みたい種類の本ではないことがわかった。聞きたくない親戚のもめごとの話を、延々聞かされるような気持に。

    裏表紙の紹介に「誰もがひとつやふたつは持っている弱さや、狡さ、うしろめたさを、人間の愛しさとして捉えた」とあるのだけれど、登場人物たちを「うっとおしいな」と思いこそすれ、愛しさを感じることはできなかった。10年くらいしたら再挑戦するかも。

  • 平凡だけれど小さな幸せを積み重ねていった人間への嫉妬心、年齢を重ねることで開いてくる男性と女性の「ものさし」の大きさの差、猜疑心と静かな裏切り、怒りをぶつけるか迷う心、穏やかさの裏の残酷さ。そんな感情をふっと切り取る感性が凄いと思った。

    昭和独特の男女間や生活感ゆえ、といえる心理描写もあるだろうが、現代に通じる部分も多いだろうなぁ。だって男女と家族を描いてるんだもん。

    いつか、この小説に共感するようになるんだろうか。なりたくないな…

  • 向田邦子のエッセイが面白くて、借りたが、こちらは男女の恋愛モノばかり。それもちょっと毒気があり。あまり楽しめなかった

  • 再読。短編集なので、読みやすい。淡々としているけど、奥深い作品。

  • 10/10/20読了 かなり古い短編集。心を突くようなものが多かった。読んだ後で13編もあったかなと思わせるほどあっさり。

  • 名作です!

    それぞれの人間模様やその情景が目に浮かびます。


    大人の女性には必読ですね。

  • 向田邦子を師とあおぐ諸田 玲子の「思い出コロッケ」を読まなければ見過ごしてしまうところだった 30年の時間差はまったくなくて さすが奥深く読み応え充分 読み終わった後も気持ちいい 

  • 中年の夫婦って今まで気にしたことがなかったから、新鮮だった。しみじみ泣ける話もあって、さすがだと思った。

  • 好きな作家の一人、向田邦子。
    いや、この人は素敵です、ほんとに。
    料理が得意で、美しくて、行動派で、文才ももちろんあって、と憧れの女性です。
    惜しくも若くして飛行機事故で亡くなってしまいましたが。
    (だからこその輝き、もありますね)

    いわゆる昭和のホームドラマワールド。
    初めて「あ・うん」を読んだときは衝撃を受けました。
    ホームドラマというと山田太一などもいますが、似ているようで全然違う。
    日常の中に潜む影というか毒、があるんです。向田作品には。
    肌馴染みのよい木綿の生地を指先でなでていて、
    裏に刺し込んであるまち針にちくりと指先を刺されるような。そんな感覚。
    人生ってきれいごとじゃないし、人間は愚かしい。だからこそ愛しくもある、という世界。

    今回読んだのは13編の短編集で、夫婦や家族、大人の男と女の、
    ささいな行き違いや、頭から離れない疑念、突然よみがえる過去の思い出、
    などなどが描かれています。
    庶民の、普通の人々の生活を丹念に描いていて、
    ちょっとした生活小道具や人物像の描写が、
    物語のしっかりとした味付けになっています。

  • 2006.12.27~29読了

  • 2010.9.5

    友達にすすめられた本。
    中年の男女・過程を描く作品が中心。

    今他人事で読んでも面白いんだから、中年になって読んだらもっと共感するだんろう。

  • 思った以上に面白かった。人間って一口には語れない。

  • 美しい日本語で描かれる人間の狡さと暗さ。しかしどの話も読後に爽やかさが残る、味わい深い短編集

  • いろんな夫婦の形がでてて
    どれも最初の方読んでると短編なのに
    ほんとうに、あと10ページぐらいで話おわっちゃうの?みたいな感じに奥深さを感じました。

  • 夫婦、男女仲の話、13篇。
    「夫婦」なんてのは、夫婦を営んでいるにすぎないのだ、そんなふうに言われてるようで、私はどきりとしてしまう。

    それだけ、夫はいつまでも男で、妻はいつまでも女なのでは…と。

    心理描写と、主人公の思考が過去と今をいったりきたりしながらも最後にはしゅっとまとまる書き方とか、全てが丁寧で巧いなあと思う。

    向田ファンが多いのも納得の一冊。

  • お風呂読書。
    淡々としてるけど、上手だなあと感じる。ほんと確かに構図や色彩のうまい絵を見ている感じ。
    特にかわうそと花の名前がよかった。

  • 直木賞を受賞した短編を収めた本。
    だが、それらの作品よりも冒頭の「かわうそ」が素晴らしく良い。
    女の怖さが出ていて、思わずぞっとする。

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著者プロフィール

向田邦子(むこうだ・くにこ)
1929年、東京生まれ。脚本家、エッセイスト、小説家。実践女子専門学校国語科卒業後、記者を経て脚本の世界へ。代表作に「七人の孫」「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」。1980年、「花の名前」などで第83回直木賞受賞。おもな著書に『父の詫び状』『思い出トランプ』『あ・うん』。1981年、飛行機事故で急逝。

「2021年 『向田邦子シナリオ集 昭和の人間ドラマ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

向田邦子の作品

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