作品紹介・あらすじ
旅の道中、時に仲間を失いながら出会いにも恵まれるレミ。イギリス人貴族マダム・ミリガンとアーサー母子。弟のように付き従うマティア。レミを家族のように遇してくれた花づくり農家アキャンの一家。国境を超えてイギリス、スイスへと旅を続け、ついに生母の居場所をつきとめるのだが──。レミは永遠に別れることのない本当の家族と巡り会うことができるのか。涙と感動の物語、完結編。
感想・レビュー・書評
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ヴィターリスの一座は、師匠とレミだけでなく、動物たちもいて、これがまた愛らしい。猿のジョリ・クール。犬が3匹居て中でも白いプードルのカピはとても賢い。観客に向かって手を胸に掲げるお辞儀をしたり、おひねりを受け取る小皿をくわえて客の前に行ったり、財布の入った客のポッケを手で叩いてお代を催促したりする。そして、道中でレミが落ち込んだりすると励ましてくれる。レミとカピの二人には友情が芽生え、深い絆で結ばれてゆく。
徒歩でゆく長い旅路で、カピたちも一緒に歩いてゆく。なんとも健気である。
レミたちは旅芸人の暮らしを続ける。ハープの演奏やカピの芸でお代をもらうのだ。フランス各地の村から村へ、歩いて旅を続ける。時に炎暑に灼かれ、寒さに凍える。そして一切れのパンを分け合い1日を過ごすひもじい日々もある。辛い旅路である。
飢えや寒さに耐え忍ぶ過酷な旅路。哀切と哀愁を滲ませ、味わい深い。映画ならフェリーニの「 道 」や韓国映画「 風の丘を越えて( 西便制 )」に通じる。旅暮らしの哀しみである。
レミたちは徒歩でありながら、ほぼフランスの全土をゆく。巻頭にフランスの地図があるので、地名を確認しながらレミたちの旅路をたどるのが楽しい。
挿画もこれまた素晴らしい。エミール・アントワーヌ・バイヤールという画家の筆だという。
旅路を続けるレミの目を通して、フランスの人々の暮らしが描写される。それは時に最底辺の生活である。パリでは児童を虐待しながら労働させるタコ部屋の場面がある。また南仏でレミは炭鉱の町ヴァルスへ。ここでレミは期せずしてヤマの仕事を手伝うことになり、坑内の様子が詳しく描かれる。
過酷な児童労働も炭鉱の坑内も、いずれも地獄のような現場である。また、レミを保護してくれた花卉農家は気象災害でお花が全滅し、経営が破綻。生活が一変する。市場経済の発展が価値を生み出す一方で、個人事業者の暮らしの脆さが露わになるのだ。そして、ふと、レミの旅は地獄めぐりの旅ではないか、という気もしたのであった。( 蒸気機関の描写もあるので、産業革命が進展していた時代と思われる。)
などなど、近代フランスの市井の暮らしの甘くないディテールが、しっかり書き込まれている。これらはきっと、児童向けの抄訳版では味わえない部分である。この完訳版、大人こそ読むべしの深みを湛えた逸品である。
以下ネタばれ。
ヴィターリス一座は過酷な運命をたどる。一座の“仲間たち”はひとりまたひとりと斃れてゆく。その「 別離 」は哀しく切ない。
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波乱万丈、次々に押し寄せてくるアクシデント、ボロボロになりながらも強く正しく生きて行くレミの姿にほだされる。わくわく面白く、いい話だった。
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「旅の道中、時に仲間を失いながら出会いにも恵まれるレミ。イギリス人貴族マダム・ミリガンとアーサー母子。弟のように付き従うマティア。レミを家族のように遇してくれた花づくり農家アキャンの一家。国境を超えてイギリス、スイスへと旅を続け、ついに生母の居場所をつきとめるのだが──。レミは永遠に別れることのない本当の家族と巡り会うことができるのか。涙と感動の物語、完結編。」
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苦労の末に待っていたハッピーエンド。読後明るく幸せな気持ちになれました。
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マティアと親友になり、フランス国内を旅する。九死に一生を得る経験や心温まる出会いを経て、イギリスにも渡る。勇気と努力と人への思いやりがハッピーエンドにつながる。抄訳でなく全文で読む楽しさを堪能した。2020.1.1
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