湖の女たち

著者 :
  • 新潮社
2.81
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104628070

作品紹介・あらすじ

『悪人』『怒り』を超える愛の衝撃! 吉田修一史上「最悪の罪」と対峙せよ。琵琶湖近くの介護療養施設で、百歳の男が殺された。捜査で出会った男と女―謎が広がり深まる中、刑事と容疑者だった二人は、離れられなくなっていく。一方、事件を取材する記者は、死亡した男の過去に興味を抱き旧満州を訪ねるが……。昭和から令和へ、日本人が心の底に堆積させた「原罪」を炙りだす、慟哭の長編ミステリ。

感想・レビュー・書評

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  • この作品のレビューは私にはとても難しく思えました。
    何を訴えているのかよくわかりませんでした。

    父と二人暮らしの独身女性の豊田佳代の勤める介護療養施設「もみじ園」で起こった、100歳になる入居者で、元京都大学の教授、市島民男が人工呼吸器の誤作動で死亡します。
    その事件を中心に、出来事が語られていきます。

    タイトルの『湖の女たち』というのは琵琶湖付近で起きたことであり、過去の人間関係を探っていくと、市島民男が若いころ、妻の松江と暮らしていた終戦前の満州の湖にたどり着きます。

    事件を追う刑事たちは「もみじ園」に勤める松本郁子を犯人にでっちあげようとします。

    そして刑事の濱中圭介は娘が生まれたばかりですが、佳代にとある執着心をいだきます。佳代の方は最初はもちろん相手にしませんが、濱中の要望に応えて二人の間にはかなり歪んだ性的関係が生まれます。

    一方、民男の妻の松江は、満州での二人の子供の湖での死亡事件を思い出しています。

    そして、物語は一転、「もみじ園」と同じ地区の老人介護施設で同じ手口の事件が起こります。

    犯人は誰か他にいる。他にいる犯人は誰なのかと思うと非常に怖い話だなとは思いました。

    小説の非常に巧な吉田修一さんの作品なので、期待して読みました。
    同じような系列の話としては、以前に読んだ『さよなら渓谷』などを思いましたが、あの話には訴えるものがありましたが、この作品の刑事の濱中と佳代との歪んだ性的関係が、一体何を意味するものなのか、よくわかりませんでした。

    狂った人間の不気味さと不穏な空気感が際立つ話ではありました。

  • 時代も場所も事件も様々出て来るのだけれど結局におわせて終わり。
    湖の畔の老人施設で起きた高齢男性の殺人から始まり、…そこで働く女性、刑事、マスコミ関係者。とりわけ異常な刑事の行動はただただ意味もなく不快。着地点を見いだせないまま読み終えた。

  • 中瀬ゆかりさんの「この秋、ぐさりと胸に刺さる作品を読みたいならば是非」というお薦めの一言で、発売当日kindle版でぽちりと。

    途中、誰がどうなるのか、どのような顛末が待っているのか、全く予想がつかず頁を捲る手が止まらない。

    一見「普通に」「真面目に」日常を送っているように見える他人が心の底に何を抱えているのか。ひょんな出来事や人との出会いによって、一線を越える狂気。

    自分でも普段は意識的にも無意識でも抑圧している根源的な欲求や怒りが、倫理や道義を越えて露呈する危うさにひりひりする。

    登場人物や場面が複数絡み合い、戦時下の満州、滋賀県警西湖署内、雑誌編集社、介護施設等の場面が行きつ戻りつする。

    それは事件なのか、事故なのか。何が想像で、事実なのかも曖昧なまま、時間が経過する。

    人間の醜さがただただ露悪的に羅列され、唾棄せんばかりの読後感かと思いきや、作品内で細やかに描写されていた夜明けの湖の光景が焼き付き、心に波紋を残す。

    吉田さんの『愛に乱暴』でも感じたが、動き出した心が暴走をする人間の描き方が、秀逸。

    私の中にも止まらない何かがうごめいているような共鳴を覚えた。
    地味で真面目な介護士 佳代の盲目的に誰かに従属したい、すべてを晒して終わりにしたいという欲求の裏側に彼女が抱えてきた重しを味わっている。

  • 療養介護施設の殺人事件をきっかけに出会う刑事と介護士が倒錯した関係に落ちて行く様と、殺人事件にまつわる過去の出来事を追う記者のストーリーが絡み合いながら進む。

    ちょっとありえないような展開から男女がインモラルな関係へ発展していく様は、自分にはリアリティに欠けるように感じた。吉田修一の作品は、善人であれ悪人であれ、その人生や生き方になにかしら共感を感じる作品が多いのだが、この作品の主人公の男女には正直共感できる部分があまりなかった。また、途中まではミステリー仕立てになっているのだが、その部分も十分に回収されず、消化不良に終わった。

    本作は作者が新しい表現方法を探そうした実験的な作品のように思う。

  • 図書館の順番を長期間待った末に手元に来たので、これがどんな本なのかさっぱりわからなくて、読み始める前にブクログのレビューを拝見した。

    私は低い評価のレビューもよく参考にさせてもらっている。
    ああこういう内容なら、自分にも合わないだろうなと思うと、借りずにすむし貴重な時間を無駄にせずにすむので感謝している。

    だからこの本も読むのやめようかと思った。
    それでも読み始めたのは、何ヶ月も待ってせっかくやっと順番がまわってきたのだから、なんとなくもったいない気がしたからだ。

    結果、低い評価を付けたみなさんのレビュー通りだった。
    私も気分的には星2つだが、他の途中で読むのをやめた本と比べたら、本書は最後まであっという間に読めた(最後の方の湖の描写だけがダラダラと書いてあるところは読み飛ばしたけれど)ということで星1つ追加。

    この後、この犯人達をちゃんと捕まえてくれるんでしょうね?

  • ラストで週刊誌記者・池田や刑事の圭介がそれぞれに事件解決までこぎつけ救われたが、ざらざらとした読後感は拭えない。
    琵琶湖近くの介護療養施設で百歳の男が殺され、事件を担当することになった圭介。そこで働く介護職員の佳代。2人の間にある被虐と嗜虐が混ざり合った関係性がエロティックに描かれ、それが事件を解決するのにどう関わっていくのかとドキドキしながら読まされてしまった。刑事に好意を抱き嘘の自白をしてしまい犯人となった冤罪事件を思いだした。犯罪は性と結びつく要素があるのだろうか。真犯人と思しき少年少女にしても思春期の性の目覚めを感じさせる。「津久井やまゆり園」事件で犯人が取り込まれた「優生思想」、薬害問題、過去に遡って713部隊なども絡められている。
    終章に数ページにわたり琵琶湖を書き込んである。湖面の水の煌めきや季節の変遷、美しい自然描写などは圧巻だが響かなかった。
    吉田修一さんの陽の次作に期待しよう。

  • 731部隊でのことと、介護施設で動けない老人の維持装置のスイッチを切ったことは結局関係がなかったのね。もっと731部隊のことが掘り下げて描かれるのかと思い、なんとか読み続けたのに断ち切られたみたい。
    津久井やまゆり園の事件と、最後に無理に繋げられているのも消化不良でなんだか不快。性描写が気持ち悪くて、ここでそれを描く必要性が理解できなかった。
    この作家さんは他の作品が結構おもしろかったので結構がっかり。

  • 私がこれまで知ってた吉田修一作品とはかなり違う、濃密に叙情的な小説だった。犯人を見つけ真相を暴くミステリとして読むと、かなりがっかりすると思います。
    時にダイレクトに、時にメタファーを通して湖面に描き出される人間(および人間社会)が抱える多種多様な闇。印象派の絵画みたいに、ぼやーんとした色彩の分厚いレイヤーが情緒の奥に溶け込んで悲しくなるような小説でした。

    湖の描写、雨の描写は素晴らしかった!

  • 読書備忘録663号。
    ★★★☆。

    なんか最近★3.5が多い。笑
    読んでて苦痛なわけではないですが、ワクワクどきどきハラハラがない。

    琵琶湖湖畔の老人施設「もみじ園」で100歳の男性が死んだ。人工呼吸器の不調か、それとも意図的に止められたのか・・・。
    警察は介護士、看護師に聞き取りを行うが決め手がない。警察の焦りは自白の強要に発展していく。

    滋賀県警の濱中圭介。聞き取りをきっかけに施設の介護士豊田佳代と関係を持つようになる。ただ、その関係は恋愛関係とは程遠い性奴隷のような関係・・・。

    雑誌記者の池田立哉は、別件取材に訪れていた琵琶湖でこの事件に興味を持つ。
    そして、被害者の市島民男は太平洋戦争時代、満州の731部隊に所属していたことが突き止める。
    そうです、人体実験をやっていた悪名高い部隊です。
    立哉は民男の妻松江から当時の話を聞き出す。松江の口から語られる当時の子供たちによる恐ろしい犯罪・・・。

    そして、同じく老人施設の「徳竹会」で92歳の老女が同じ死因で死亡した。同じく一切手がかりがない。

    2つの事件には関係性が全く見えなかったが、SNSにアップされた動画から、事件の真相と思われる恐ろしい仮説が明らかになっていく・・・。時空を超えて満州で起きた犯罪が再現されている?

    時間と場所を超えて結びつく真相とは!

    と書くと「おおおお!」という感じがしないでもないですが、実際は広げた風呂敷が全く回収されない結末。
    なんなん、これ?

    という感想です。違った!備忘録でした。笑

  • 舞台が地元なのですが、いろいろな地域がちゃんぽんにされているので、身近な知識が逆に混乱を招きました

    結局、事件の真相に近づくのは記者の方で、刑事と介護士の関係の描写は必要なのか?と思ってしまいます

    そうなった要因は語られますが、出てくる刑事たちが愚かで最低だし、最終章で浮かび上がってくる真相は最悪のもので、舞台の身近さが嫌悪感を増してしまいます

    風呂敷を広げた割にうやむやにされる部分も多く、著者の作品の中でも正直イマイチに思います
    「生産性のない人間」、この発言への怒りがすべてのはじまりのようには感じました

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著者プロフィール

1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。1997年『最後の息子』で「文學界新人賞」を受賞し、デビュー。2002年『パーク・ライフ』で「芥川賞」を受賞。07年『悪人』で「毎日出版文化賞」、10年『横道世之介』で「柴田錬三郎」、19年『国宝』で「芸術選奨文部科学大臣賞」「中央公論文芸賞」を受賞する。その他著書に、『パレード』『悪人』『さよなら渓谷』『路』『怒り』『森は知っている』『太陽は動かない』『湖の女たち』等がある。

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